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雪ノ姫  作者: 岸野 遙
第七章 『追憶 交わる』
21/40

2

 それから数分して、レグナとファリナが魔物の遺体を処理するルーマ達の元へと姿を現

した。


「あれ、ルーマさんじゃないですか……」

「よっ、れぐ……な。それとお隣さん。」

「あ、初めまして。ファリナと言います。」

「まぁまぁ、可愛らしい子達ねぇ。

 初めましてお二人さん、あたしボーグって言うの。ボーグちゃんって呼んでいいわよぉ。」

「……ま、なんでもいいや。

 とりあえず座ろうぜ、少し疲れちまったからな。」


ルーマの言葉に異を唱えるものもなく、一同はたき火の側に腰を下ろした。


「やっぱりルーマさん達、いらしてたんですね。」


ルーマから奪った焔を整備しつつ、顔を上げずにレグナが言った。

 ちなみに参式はまだ一度も使ってないとのこと。レグナの渡したフェニックスの尾が役

に立っているという意味でもあるようだ。

「まぁな。

 せっかくレグナから新しいのもらったんだし、やっぱ稼げる時に稼がないとな。」

「にしても、この量は稼ぎすぎ……」


文字通り山と積まれた魔物を眺め、ファリナが呆然といった口調で呟いた。


「あたし達だって、何も好きこのんでこんな量を相手したわけじゃないのよぉ。

 ただ、誰も増援こなくて、敵ばっかり増えて、気がついたらこんなにねぇ……ふぅ。」


レグナ以外の皆が、しばし黙って火柱を見上げた。

 ともすれば火事にさえ見える炎が、赤々と夜空を焦がしている。


「はい、焔の方はこれで大丈夫です。

 簡単なメンテナンスですけど、しないよりはいいでしょうから。」

「あぁ、さんきゅー。」

「あとは尾の方も一応貸して下さい。」


ルーマから手渡された、二の腕ぐらいの長さの射出専用の槍、フェニックスの尾。

 焔の後継、フェニックスの追加装備として射出用にとレグナが作り出したものだ。


「今更なんだけど、よく二本も作る暇あったよなー。

 小さい上に外部式だし、ちゃんとよく燃えるし。やっぱレグナは大したもんだな。」

「これの設計図は、しばらく前に作ってありましたから。

 納得いく設計図が出来上がったなら、あとは作って実戦テストをするだけです。」

「そうかそうか。今のところはかなりいい感じだぜ。

 まだ抜いて装填するのにちょいと慣れないが、それは性能とは別問題だろうしな。」

「その辺も、ある程度はぼくの方で改良できると思います。

 まぁ、最終的にはルーマさんの慣れも必要ですが……」

「いいよ、十分だ。

 これだけでもかなり気に入ってるんだ、本体のフェニックスが出来上がるのが楽しみで

しょうがないぜ。」

「そう言っていただけると、作る方も腕の振るいがいがあるってものですよ。」


機具に関する話のためか、明らかにいつもより饒舌、積極的なレグナ。ルーマもルーマで

ボーグと話す時よりもずっと生き生きとしていた。


「……あたし達、輪の外側って感じかしら、ファリナちゃぁん?」

「そうかもしれませんね、ボーグさん……

 レグナのばーか。」

「ん、呼んだ?」


すぐ真横に座ってるんだから呼んだも何もないだろうに……だけどそれを口に出すのも結

果が可哀想なので、とりあえず内心のみで呟くボーグ。


「で、機工技師のレグナくん。

 こちらのおじさんと可愛らしー女の子は、どこのどちらさまなのかしら?」

「あ、あたしはレグナちゃんとは初顔合わせよー。

 ルーマちゃんやリックちゃんから、名前は何度か聞いたことあるんだけどね。」

「ぼくもボーグさんは名前とお話でしか知りませんでした。

 まぁ……一目見れば忘れないですね、確かに。」


主に、斑模様で銀紫で、しかも薄めの髪を見ながら呟くレグナ。思わずファリナも頷いた。


「まっ、あたし恥ずかしいわ。

 あたしはボーグ、一応『銀紫の土竜』とか名乗ってみたりみなかったりするわ。かっこ

恥ずかしいか・ら!」


アゴのあたりに指をあて、ウインク。思わず目線を外し、見事だと呟きたくなったのはさ

ておき。


「レグナです。ゼルデアで小さな工房を開いてます。

 一応リックさんとルーマさんは常連さん、ファリナは……なんだろ?」

「……あたしとしては、いちおー、友達のつもりなんですけどね……」


明らかに不機嫌なファリナに、少しだけ引きつった表情を浮かべるレグナ。遠慮なく手を

あわせて『南無』とか呟くボーグさんが場違いにいい味出してるよとか思いつつ―――


「以上です。よろしく。」

「はぁい、レグナちゃんよろしくねー。

 あたしはちなみに魔術師よん。」

「ルーマ。」

「ファリナ。」


ボーグの声を遮るように、二人が同時に名乗りを上げた。

 自分の名前を言い―――それっきり。


「え、えぇっと……」

「ファリナちゃんは、普段なにしてるのかしらぁ?」

「……一応、魔術師やってます。あとはレグナんとこで身の回りの世話など。」

「……ほぅ。」


小さな小さなルーマの呟きが、男二人の耳に届いた。

 引きつり笑顔のレグナが、今度はルーマに水を向ける。


「る、ルーマさんは、普段は魔物狩りしてらっしゃるんですよね?」

「たまに、な。

 暇なら買い物もするし、掃除だの手入れだのもする。」

「へぇ……買い物ねぇ?」


ぴくりと反応する、他三名。

 もっとも反応の質が、男二名と女一名で全く異なるのだが。


「家に帰ったら、同じスーツが他に十着とかあったら―――

 哀れで涙が出ちゃうわよね。ねぇ、れぐなぁ……?」


(こ、こわい……)


地の底から響くような―――声。目を合わせぬようにするレグナとボーグ。


「ほぅ……

 まさか、スカートにきゃぴきゃぴの街娘ルックで森に入るようなバカに、戦闘用スーツ

のことを話題にされるとは思いもしなかったな。

 さすがにあの服装は、バカとしか言いようがない……そう思うよなぁ、二人も?」


ぎぎぎぎ、と。壊れかけの機具じかけのおもちゃのような音を心に響かせて。

 音を立て弧を描くように、男二人の視線は互いの上空、星空に向けられた。


「きゃぴきゃぴのバカ、ね……

 スーツで魔物に挑むのがかっこいいとか、どっかのキチガイじみたのに言われるなんて。

あぁんあたしって可哀想……」


ファリナが言い、一生懸命傍観者になろう、背景になろうと頑張るレグナの左腕に抱きつ

いた。

 目一杯わざとらしく、抜群のスタイルを誇示するかのようにすりつくファリナ。

 当然のごとく―――ルーマの眉が、一段階上のランクに達した気がした。


(たっ、助けてボーグさん!)

(骨は拾ってあげるわ……)


「ポリシーも持たず、戦いの意味と戦うわけも持たずにうろつく一般人にタメ口をきかれ

るとは―――

 このあたしも舐められたもんだな。なぁ、レグナもそう思うだろう……?」


肩に手を乗せ、耳元で囁くルーマ。どこかその表情は楽しげにも見える。


「何よ、魔物が殺すのが生き甲斐の殺戮狂のくせに!」

「……

 もう一度、言ってみろ。」


ふと―――温度が下がった。ルーマの目つきから完全に笑みが消え―――

 事態に気づいたボーグが止めるより、レグナがその事態に気づくよりも早く。


「何度でも言ってやるわよ、この魔物殺しのさつり―――」


ぱんっ、と。乾いた音が響く。

 その音は炎の爆ぜる音よりなお高く、辺りに響いた。


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