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朝日の中で

明るくなるころには俺のレベルはどうにか11に上がっていた。

うん、本当にこのあたりのモンスターって弱いんだな。あの狼はなんだったんだろう?


まぁ、町に戻るとするか。とりあえずラディンのところ……、あ、シャンクに朝一で行くって約束したんだったか。


シャンクの所、ラディンの店……いや、ティティのところでも武器は売れるか? とりあえず防具をそろえてもう一度シャンクの店だな。

二度手間になるが仕方ない。約束は守るほうなんだ。


昨日初めてくぐった大門を抜け、シャンクの店へ急ぐ。プレイヤーたちがそこいらに転がってたりして鬱陶しいな。外で寝たのか?こいつら。宿というものを知らんのか。


と、大通りに二軒あるうちの大門側、ロードンの宿屋から昨日見たプレイヤーが出てきた。

ユウヒだ。


声かけれないんだよな、こっちから。彼女の目の前で急停止してみる。


「ちょ、危ないじゃな……あなた昨日のNPC!? そう、ジャック!」


おお、ヤマダと違って一度で覚えてくれたらしい。そういやヤマダ、昨日どうしたんだろうな? 放って来てしまったが、あれから8時間13分と33秒が経過している。まさかフィールドで寝てたりしないよな?


「おう、おはようさん。覚えてもらって何よりだ」


発言と同時に交友値を一点加算する。あと44点!


驚きの多少静まったらしいユウヒがそろそろと質問を始めた。


「え、NPCって本当、なのよね?」


「もちろんだとも」


「町人じゃなくて鍛冶屋って言ってたわよね?」


「ああ、気が向いたら素材を持って来い。俺はこの町で一番腕がいい」


剣の扱いのほうがうまいけどな。……しまった、ジャックのことを完全に忘れていた。二度目のシャンクの店の前に俺の店追加、と。


「お店持ってるNPCって休日以外、外に出ないって聞いたんだけど」


よく知ってるな。誰かに尋ねてみたのだろうか? これくらいなら普通に返答の中にあるし。


「そうだな」


「何で外にいるの? 休日って週に一日って、昨日と今日で外にいるのはおかしいじゃない!」


本気でよく知ってるな。だがまぁ、


「すまないが、それについちゃわからねぇんだ」


「え?」


(昨日突然にこうなってな)


音声にはできない。だがこの状態は本当によくわからないものなのだと知らせることを試みる。さらに言うならイエスノークエスチョンなら今の俺には自由会話めいたことができるのだと気づいてくれたら嬉しいのだが。


「俺の店の休みはダーンの日だ」


「えっと、私の言いたいことはわかるのよね?」


「おう」


だから俺は次に来た質問の意味も正しく理解した。


「今日は晴れてるわね?」


「あぁ、いい天気だな」


今のコンクリートワールド、ダーンタウンの空には雲一つ見受けられない。気持ちのいい日になるだろう。


「今日は雨ね」


そら来た!


「なに言ってんだ、今日のお天とさんは上機嫌じゃないか。いい日になるぞ」


「本当に会話、通じてるの?」


「おう!」


本当に気づいてくれた!やばい、すげぇ! ユウヒ、あんたは親父殿の次に天才だ! ユウヒはなおも問いを進める。


「はい、いいえの質問には答えられる、これはOK?」


「ああ」


「じゃあ、なぜ、どうしてについては答えられる?」


「ちっと難しいな」


単純な返答しかなくなってる。まずい、これじゃ俺が馬鹿みたいじゃないか。


「それは制限があるってこと? それともわからないだけってこと?」


「両方だ」


本来これらはこういう場面での台詞じゃない。


だいたいNPCは普通このような場面に陥ることがまずない。交友値が低ければ場面に応じた返答かわからないという回答しかできないからだ。はいいいえだけでも結構制限がかかるんだよ。


確認を終えたユウヒは本題らしい質問を繰り出した。


「あなたはおかしいの? ってこれは別に侮辱とかじゃなくて単にバグとかそういうのかなって意味よ」


本当にこの血の通った人間はすばらしいな。そこらのこちらをちらちら見ているだけの奴らとは大違いだ。宿屋のまん前で話し込んでいたら邪魔か。一区切りついたら移動を促そう。


「そうだ。よくわかっているじゃないか」


「それで、××××はそれを知ってるの? 知ってるのなら……一個ずつの方がいいわね」


そうそう。あせってもこっちが答えられねぇからな。


「わからねぇ。邪魔だ」


「何のこっ……ってえ、あ、―――すみません。」


ユウヒはそこいらのプレイヤーどもに頭を下げると、俺の腕を取ろうとして間一髪で止めて口頭で移動するよう言う。


俺たちはそのまま大通りを下って広場に出たところで、プレイヤーの寝台になっていなかったベンチに座る。


「えっと、それであなたはよくわからないバグに巻き込まれている、と。これからどうするつもり? じゃなくて……することはあるの?」


「もちろんだとも」


「え? 何!? あ、」


質問に困ったらしい。助け舟を出してやる。


「あんたは何がしたいんだ?」


ちなみにこれは営業時間が過ぎたのに居座っている客を追い返すための台詞集から取った。他意はない。決してシャンクの店がそろそろ開くとか気にしてるんじゃないからな!


「へ? ……決まってるじゃない! このゲームを攻略するわ!! ……え?ってまさかあなたが?!」


「おう!」


「NPCなのに? っていうかイベントじゃないのよね?」


この台詞、多少言い回しは変えるが昨日から三度目だな。まぁ何度でも、誇りを持って言おう。


「俺はジャック、自分で状況を理解、分析し、行動するAIだ」


『親父殿の~』というくだりは抜いた。自分で決めたのだと強調するために。


「……あなた本当に変なNPCね。それもバグのせい?」


「失礼な」


「……ごめんなさい。―――NPCにも心ってあるの?」


心って感情と同じでいいんだよな?


「もちろんだとも」


俺たちだって腹を立てたりわくわくしたりするんだ。


「そっか。そうよね、じゃああなたは攻略を目指す同志ってことでいいのかしら? ジャック」


同志、同じ志を持っている。この場合攻略をしたいということか。


「違うな」


「…………え?」


俺の夢はもっと壮大なんだ。世界をこの目で見て死とは何かを親父殿に問う。できるなら彼の間抜け面を拝む。攻略はその途中経過なんだぜ!


「そこは『おう』とか言いなさいよ! 空気読むってことを知らないの!?」


なるほど空気には文字が……さすがにこのボケは寒いな。ついでにここで『おう』とか言ったらもっと寒い。いや、ユウヒの怒りで熱くなるか。


そのほかにも何ぞいろいろと言いたい事があったようだが四つでどうにか矛を収め、探るようにゆっくりと聞いた。


「攻略する気は、あるのよね?」


もちろん、


「おう!」


ユウヒは目を伏せ、軽く首を振った。やれやれって感じだな。疲れさせたのは俺であるらしいが。


「だったら、いいわ。あなたはこのゲームについて私よりも詳しいわよね?」


当然だ。ここは俺の世界だからな。


「おう」


「だったらいいお店とか知ってる? まだそんなにお金は無いから安くて強い武器……ってそんなのゲームバランス崩れちゃうから無理よね……」


交友値さえあれば値引きはできるが、まだ二日目。どれだけ頑張っても22……いや、ベータテスターどもならもうちょいあっても……特定の店に通ってる奴なんていないか。


「まぁな。よかったら俺の店にも来てくれよ」


これは休日に出会ったプレイヤーへかける台詞だ。大体正しい使われ方をされている。


「あなたの店……ってどうなってるの? っていうかどこ?」


「ティグレス通りだ。何なら案内しようか?」


先にシャンクのところへ行きたいが、これはチャンスだ。ジャックが今どのような状態なのかはわからないが俺よりもプレイヤーであるユウヒのほうが会話はできそうだからな。


でも実際どうなんだろう?俺は昨日ジャックの前で話をできた。ジャックはテンプレの台詞を言った。これは何を意味するんだろう?


「……お願いするわ」


「よし、ついてこい」


俺はユウヒを連れて自分の店へと歩き出した。

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