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外だ! 敵だ!

大通りを抜け、町からフィールドへの唯一の出入り口である大門へ急ぐ。


「おい、待て!」


今まで何度も通ろうとしては弾かれたそれを、今のどこかおかしいらしい俺は難なく潜り抜けた。


(いよっしゃあぁぁぁ!!)


雄たけびは音声にはならなかった。周りにプレイヤーがちらほら見える。主に門の内側だが、あいつらのせいだろう。


ともあれ外だ。外だ!


内側からのぞくことしかできなかった外に俺はいるのだ。


「待ってくれ、あんたベータテスターだろ!」


バチィッ


興奮していた俺に誰かが触って弾かれたらしい。これも外でも健在っと。


本当は今すぐにでも遠目に見えるホーンラビットに斬りかかってみたいのだが、俺に話しかけてくる奇特なプレイヤーを逃すのももったいない。


テンプレートから適当な名乗りを選択する。適当っていい加減ってことじゃないぞ? ちょうどいい、ふさわしい、の意味の適当だ。


「俺はNPCだ。ジャックって言って、ディグレス通りで鍛冶屋をやってる。あんたは?」


「えぬぴーし……は?NPCってAIじゃないのか?」


「AIだとも。偉大なる親父殿の作った素晴らしいく性能のいい、な。格好いいだろ?」


あっと、自分で状況を理解、分析して、行動出来るっていうのが抜けたな。


「AI、NPC、NPCか……。おい、お前、俺に剣の扱い方を教えろ。このスキルってやつがいまいち理解できないんだ」


なんだかものすごく腹の立つプレイヤーだな。拒否の言葉はっと、


「名乗ることも出来ない馬鹿な奴に教えれることなんてないね」


これはれっきとしたテンプレートだ。繰り返す、テンプレートだ。


礼儀のなっていない相手にシステムについての説明義務はない――これは今の俺はもちろん、全てのNPCに共通だ。


「なんだとっ―――……いや、俺が悪かったな。俺はヤマダ。すまないがスキルについて教えてもらえないか?」


なんだ? いやに丁寧になった。

同時に彼への交友値が設定され、5点と出る。


「頼む、俺は死にたくないんだ。さっきは失礼な口を聞いてすまなかった。だから、この通りだ!」


そう言ってプレイヤー、ヤマダはガバっと腰を127°折り曲げた。手は体の横にピシッとそろえられている。


その切り替えに、興味がわいた。本日二人目だ。血の通った人間ってほんと面白いな。


「わかったよ。よし、ついてこい」


まだ言い募りそうだったヤマダを遮って、了承を伝える。ちなみにこれは道案内用の台詞だ。


ヤマダは折ったときと同じようにガバっと腰を戻す。そのまま勢い込んで、


「本当か! 助かる。ありがとう。えっと……」


格好のつかない奴だな。仕方がない、もう一度名乗ってやるか。


「ジャックだ。今度はちゃんと覚えろよ。あと、また何かあったら話しかけてくれ」


少々会話のつながりが不自然だがAIのミスだとでも思われるのだろう。かなり不本意だが仕方ない。付け加えておいてまた話しかけてもらえる可能性があがるなら試しておくべきだ。


「ジャック……師匠。よろしくお願いしますっ」


……師匠、デスカ。


まあいいや、ともかく俺はヤマダと連れだって草原に出る。戦闘授業の始まりだ。


「ソードスキルってのはまぁ、システムのアシストつきで威力のでかい技を使うことだ。一回使った後、同じ技を使うにはちっと時間を置かないといけないが、普通に斬るのより楽に敵を倒せるはずだ」


むしろ普通に斬るほうが楽って奴いるのか?


「発動の仕方は二通りある。ひとつはウィンドウから選択して発動するやり方だ。ちなみに五つまでならショートカットに入れられる。選択の方法にも手動と思考読み取りの二つあるけど手動をお勧めしとく」


理由は知らないがテンプレにそう言うことが盛り込まれている。ちなみに俺はウィンドウからの思考読み取りだけどな。


やったことがあるのかって? 俺は鍛冶屋だぞ?


自分とこの武器をためし振りして何が悪い。一時は毎週広場でやってみてたもんだ。切りかかる相手はいなかったけどな。


「もうひとつは発動動作を途中までやって、後をシステムに任せるってやり方だ。発動動作はウィンドウからの発動で覚えればいい」


「なるほど。後のほうが格好いいな、ですね」


正直これより思考読み取りのほうが楽なのだが。


まぁいい。実際にやってみることが肝心だ。


お手本として――ただし俺も実際に斬るのは初めてだが――群れから離れていたホーンラビットにソードスキルでもって切りかかる。


ザシュッ


赤い液体のエフェクトが散り、アイテムにホーンラビットの角が加わった。


一撃か、あっけないな。だが確かに俺は自分の剣でモンスターを倒したわけだ。


興奮がこみ上げてくる。


(いよっしゃあぁぁぁ)


音声にならないのがもどかしい。かわりにヤマダが声を上げてくれたので少しだけ落ち着く。


「おわぁっ、すげぇ! ジャック師匠! 次俺がやってもいいですか!?」


「練習のときは群れからはぐれた奴がいい。仲間が攻撃されると襲ってくるモンスターは多いからな」


テンプレで――これらは初心者プレイヤーに街中で発言する類のものなのだが――指導をする。


「よっしゃ! 行きます!」


プレイヤー――弟子か――ヤマダは俺の言葉に従い群れからはぐれたホーンラビットを見つけて駆け寄る。俺もそれについて移動する。


ヤマダはぎこちない操作でショートカットから単純なスキルを選択、実行する。


ザシュッ


ヤマダの攻撃では止めをさせなかったらしい。

ホーンラビットはヤマダの方を向き、突進の体勢に入る。


「まだだよ」


いや、のんびりした風な声だとか文句つけるなよ。警告しようにも切羽詰った台詞なんてあんまりないんだよ!

ちなみにこれは『注文の品がまだ』という場面で使う台詞だ。


それでもちゃんとヤマダは反応し、不恰好でも突進を避けた。


「同じ技を使うにはちっと時間を置かないといけない」


ヤマダが困惑しているようすだったので理由はこんなところだろうとさっきの言葉から抜き出して発言する。


案の定ヤマダは同じ技を使おうとしていただけらしく、別なスキルを使って今度こそホーンラビットをしとめた。


「よっしゃあぁぁぁ」


何の制限もなく声を上げるヤマダになんとなく、なんだろう? 腹の立つ? 気持ちがこみ上げてくるが、まぁいい。


それからしばらく俺とヤマダははぐれのホーンラビットを狙ってはソードスキルで倒すことを繰り返した。


【ヤマダはレベル2に上がりました】

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