よし、行こう
血の通った人間、ユウヒはしばらくの間へたり込んだままだったが、やがてすっくと立ち上がり、シャナさんからなにか買って店を出て行った。
彼女の去り際に『あんまり役には立てなかったみたいだな。すまん。また何かあったら話しかけてくれよ』と言ってみたのだが、果たしてまた彼女と話す機会はあるのだろうか。
薬屋で買い物をするということは町の外へ出るつもりがあるということだろう。出て行く彼女には何か―――そう、決意のようなものが感じられた。
床に座り込んだユウヒと、立ち上がったユウヒ。血の通った人間の切り替えの速さってすごいな。
「それで、何かわかったの?」
シャナさんは特に感慨はなかったらしい。
とりあえず今解ったことを述べてみる。
「今んところ交友値がちゃんと働いてるっぽいことと、あと説明義務なかったっす」
「うん。私にはさっぱりだわ。―――奥どうぞー」
そうだ、シャナさんにはまだ何の説明もしていないんだった。
まぁわかっていることもないしプレイヤーがきても困るので、とりあえず奥でシャンクと相談だな。
俺は今度こそシャンクの待つ居間へと戻る。
「どうだった?」
ソファに座ったとたん聞いてくるシャンクに、起こった事ととりあえず解ったことを報告。
「で、何でもできるわけじゃないらしい、と。どこに基準があるんだろうな?」
交友値がどうの行動がどうの、しばらく意見を交わす。
そして町の外へいけるのかという話が出て、唐突に言った。
「よし、行こう」
口にした途端、もうそうするしかないという衝動に駆られる。俺は町の外へ行く。
「随分とまぁ、急だな。出来るかどうかの保障もないのに」
「だってさ、こんなチャンスこれからないぞ? 町の外、一回行ってみたかったんだ」
行けるかはわからない、でも可能性はある。
バグだとしたら、いつ親父殿に修正されるかわかったものじゃない。
となれば行動あるのみ。
「まぁどうせ調べる必要のあることか。よし、行って来い。ポーションぐらいならくれてやる」
俺をよくわかっている親友に止める気はないらしい。どころか餞別までくれた。
「サンキュー、シャンク。武器は……よし、」
売り物の武器はいつも各10ずつぐらいアイテムストレージに放り込んである。展示のやつじゃ足りない(と見積もっていた)からだ。いちいち倉庫にとりに行くのは面倒だろうと。杞憂だったが。
それにしてもジャックの奴は今どうしているだろう? いつもの俺なら飯食ってるだろうが。
……いろいろあるな、どれがいいんだろう? やっぱ剣か?
悩んだ末、両手剣<アイアンソード>にする。
ダーンタウン、つまりは始まりの町の鍛冶屋だ。そう強い武器のあるはずもない。
まぁ大通りに面してたりする他のとこよりいいもの置いてるけどな。ついでに隠しイベントのある店だったりするんだけどな。人が来ないんじゃしょうがない。その上、いい武器はそれなりの値段だから最初の所持金だときついらしい。
そういや俺の所持金は……所持品売るか。それしかないな。うん、察してくれ。金はレジに放り込んどくタイプなんだ。
「なあシャンク、<青銅の剣>買わないか?」
「うちは薬屋だ。ポーション代払うかこら」
「すみません。今は勘弁。……となると他に武器を買ってくれそうなとこは、」
本気で金ないぞ?これらを売ったらそこそこの額になるはずなのだが。
「ラディン、ジュニー、あと防具屋と雑貨屋もいけたと思うぞ……ってもう閉まるんじゃないか? あと俺も姉さんと交代の時間だ」
「まじか! 今……やべ、」
どうあがいたって奴らのところの閉店までにたどり着けない。だが俺がぐだぐだとここにいるとシャナさんがいつまでたっても交代できない。
防具はあきらめるか。
礼を述べてお暇することにする。
「長居して悪かったな。いろいろと助かったよ。結果は明日の朝一で報告する」
自分でどうにも仕様がないとき相談相手がいるとは本当にすばらしいことだと実感する。俺一人だったら今頃町を徘徊しているだけだっただろう。
「お前と話すのは嫌いじゃないからな。楽しみにしておこう」
装備は布の服、布のズボン、アイアンソードにヒールポーションsとマジックポーションsが五つずつ。
「じゃあ、いってきます」
シャンクと一緒に奥から出、薬屋姉弟に見送られ、俺は、もうすっかり暗い町へと飛び出した。
町の外を目指して。