お宿
さて、もう一回分あるな……などと思ったが、結構時間が遅くなってしまった。
どうするか……うん、飯だな。
ギルドホールを出て、暗い通りを照らす明かりへと向かう。露天はそこそこ充実しているな。店に入るより、適当に目に付いたものを好きに食べるほうが性にあっている俺は、揚げパン、串肉、何かの丸焼き、とつまみ歩く。何かって何かって?虫っぽかったぞ。パキッとした歯ごたえは好みだった。
同じ品でも、今まで食べてたのとはまた違った味で楽しい。イカフライが焦げっぽかったりな。
ふと、誰かと誰かの会話が耳に入った。
「あいつ、NPCだよな?」
「だと思うんだけどねぇ」
「あいつ、俺の店に素材売りに来たぞ」
あいつって、俺か?ちなみに最後のはリディックだった。
「よう、リディック。今日は営業日じゃないのか?」
「おうジャック。なあ、あんたもNPCだろ?」
ちょっと驚いた風だったが、ごく普通に挨拶が交わされる。
「ああ」
だったら何でだとか聞きたそうなんだが、交友値が低いからな。今はまだなんとも。軽く首をかしげるにとどめる。
「これからどうすんだ?っても大したことはできねぇか」
「いや、ちょっくら出てみようと思ってる」
「は?出るって……」
リディックは言葉を途切れさせ、ゆっくりと外壁の方に首を向けた。俺はああ、とおおきくうなずく。
そうだ、俺は外へ行くんだ!……まあ、あのレベルの中をこの時間に突っ切る自信はないが。かといってこのまま食べ歩きだけで……もいいんだが、金がなぁ。
いつも夜はどうしてたっけか?まぁ昨日、いや、一昨日か、までのことだが……そうか、寝てたんだ。
「ところで、ここらにいい宿はあるか?」
「ん?ああ、それならハンガ婆さんとこだな。案内してやろうか?」
「頼む」
連れられたのは、そこそこ大きな三階建ての建物、当然屋根は山形だ。あの四角いのはギルドホールだけと見ていいだろうな。
チリリン
「らっしゃぃ。おんやまあ、かわった子をつれてきて」
この婆さんがハンガだろう。
「邪魔します」
「よろこべや婆さん、久方ぶりの客だ。――いい話し相手になると思うぜ」
久方ぶりって、ベータテスト以来と言うことだろうか?
それと、リディックが最後に付け加えた一言が気になった。
「ほぅ、そぃじゃぁお客さん、まず飯にするかね」
そんな俺の疑問はほっといて、宿泊の手続きは完了する。……食事か、当然、
「ああ、それで頼む」
あ?さっき食っただろって?こちとらNPC、満腹なんざねぇさ!
心ゆくまでの食事、二日ぶりの風呂!しかもでかい!宿って初めて使うが、俺の家より快適じゃないか。
……ただな、ハンガ婆さん。ベッドというのも経験させてくれたっていいだろう?……朝まで語り明かすって、シャンクとやりたかったよ!