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学問には苦労がつきものである

「あーっとだな、MMOにおけるマナーったら、あれだ。楽しく気持ちよく遊ぶためのもん……今は周りを敵にしねぇために守るのか? ……で、とりあえずPK、は解るよな?」


ヤマダのMMOマナー講座はまずその意義から始まった。


「プレイヤーキル、プレイヤーキャラ同士の殺し合いだな。殺った奴には警告タグがつくはずだ」


うん? だったらMPKはプレイヤーキルの一種か? M……マゾヒスティック? マゾヒスティック・プレイヤー・キル……自分にリスクがあることを楽しむプレイヤーキル?


「マジか!? どんなだ?」


|俺<生徒>の回答に食いつく|ヤマダ<先生>。とはいえ俺はNPCでもある。プレイヤーの疑問を解消してやりたいと思わないわけじゃないんだ。


「殺した場合のみ、名前の表示が一月の間赤くなる。匿名以外の掲示板でもだ。怪我をさせたぐらいじゃ変わらないんだけどな」


「そうすると……MPKは?」


だからってな、ヤマダよ。脱線はしすぎんようにな。


とりあえず首を傾げてみる。わからねぇっつったらなんか、MPKでどうなるかわからねぇって意味に取られそうなんだよな。この対応でも微妙だが。


「わからねぇのか……だったら……」


ほらな。……ってこれ、困るの俺じゃねぇか! MPKの説明プリーズ!


「違う違う」


手と首を振る動作もつけてやるぜ! どうにも血の通った人間ども、ジェスチャアが少ないように思われるんだが、友人たちは結構使う。ある町人の体験談では、街中で身振り手振りを交えて道案内をすると、ものすごく嫌そうな顔をされるんだと。せっかく教えてやったのに失礼なやつだと憤慨していたな、ケイクは。俺は割と少ないほうだとは思うぞ?なんたって家が狭いからな。


「あ、何が違うんだ?」


……こいつ、ユウヒじゃねぇんだった。イエスノークエスチョンで聞いてくれんと答えられないぞ、こんなの。それにしても随分と今更この問題にぶち当たったな。昨日から不自然な会話も多いので、そこから彼女の導いたと同じ質問をしてほしいところだ。


「わからねぇんだ」


「だから何が?」


首を降りつつ手を頭の高さに上げる。


「あん?なんだ? ……今は何が違うかを……いやまて、あんた、そういえば喋れねぇことがある……?」


「ああ」


よしよし、第三の親父殿の有力候補なんだからな、お前は。


「え? そんで……わからねぇのが……なんだ?だと通じねぇから……MPKでどうなるかがわからない?」


「それもあるが」


「んじゃ、タグのつくはっきりした条件がわからない?」


「いや、それは大丈夫だ」


「んじゃあ何だよ! MPKはわかってんだよな!?」


「いや」


おっしゃあぁぁ!ようやくだよ、ようやく伝わった。感動も一入だ。


そんなこんなで、どうも面倒見のいいらしいヤマダに俺は、苦労しつつもMMOのマナーとやらを教わる。MPKの意味とか、ルートも横殴りも嫌われるからよせとか。ちなみに直接殺すわけでないMPKで警告タグは当然つかないぞ。


意思の疎通の難しさから、お互いになんとなく気疲れしたあたりで、俺はふとフレンド登録のことを思い出した。


言葉の切れたところで、つと手を差し出す。首をかしげた後にそれを握ろうとするヤマダ。ひょいと避けて宙に浮いた彼の手を握って申請。


「なんだよ! ってフレンド登録!? できんのか? それと何で避けたんだよ!」


いやな、こうしないとお前が弾かれるんだよ――ともいえず、黙って文句を受け止めつつ、無事に承認されたことを確認。俺のフレンド欄には四つの名前が載ることになった。あ、ティティとしてないな。クエスト終了のときにするか? うーん、ま、今の状態で様子見にしておくか。


「まあいろいろあってな。それより、だ」


言葉を切って川を指差す。


「あ? 言っとくが化け貝退治は俺のいないとこでやれよ。死にたくねぇ」


「いや。礼だよ」


ちなみにこれ、クエスト報酬について言うときの台詞だ。うん、大体正しい使われ方をされてるな。


じゃなくて、だ。あーっとなんつえばいいんだろうな?


さっきやった分で大体相手の体力がわかったから、寸前でとめることも多分できる。そこをヤマダが止めを刺せばと思ったんだ。金はないし、アイテムは先約があるしで、経験値ならプレイヤーであるヤマダにちょうどいい気がするんだが……ってこの機能、何で気づかなかったんだ俺!


「あん? なんだ? アイテムでもくれんのか?」


訝しげなヤマダにフレンド欄からパーティ申請を送る。これに登録して俺が化け貝退治をすれば、御礼はできるしクエストは達成されるしで一石二鳥だな。


パーティの仲間には経験値がレベルに応じて分配される。レベルの低いヤマダの配分は少ないが、奴らLv.8だからな。そこそこの御礼になるだろう。


「パーティー? で、川、だから化け貝退治はあってんだよな?」


「ああ」


「で、お前が倒すってか。……だから礼か。でもな、俺は恵んでなんって……」


どうした? ヤマダ。『恵んで』のところで一瞬語気が荒くなったのだが、すぐにしぼんでいった。


「ああくそっ! ちきしょうっ、俺は生き残るって決めたんだよ! ――ジャック、ありがとう、頼んだ」


「おう」


彼が葛藤した理由を、俺は知る由もないのだが、その、悔しそうに、でも何かを振り切って潔く頼んだその様は、どこか俺に感動を与えた。どこが、かはよくわからなかったけれど。


ヤマダが十分に離れたことを確認して俺は再び水に入る。今度はちゃんと捌ける数を計算して場所を選んだんだぞ?


川の中ほどに進んだ俺めがけ、化け貝どもが襲い来る。さあ、戦闘開始だ!

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