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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
18/30

第十七話

 そして、9回裏となり、大志高校1年生チームの最後の攻撃が始まったのだった…

「最終回となったが、こちらも1番からの好打順だ。このチャンス、確実に物にしていくぞ」

「ラジャー!」

 玄奘に発破をかけられた小平太が、勇んで打席に入ると、

「ここは、0点に抑えて、延長戦に持ち込んでやるぜ」

 城山は、大きく振りかぶり、第一球目を投げた。すると、

「俺たちの底力を見せてやるぜ」

 彼は、初球から果敢にフルスイングし、打ち返した。それを見て、

「やったか!」

 晴翔は、そう声を発したが、高く上がった打球はセンターにあっさり取られ、

「くそ!」

 小平太は、思わず天を仰ぎ、

「まずは、ワンアウトだな」

 川崎は、ニヤリと笑ったのだった。

「仇を取ってやるぜ、小平太…」

 2番バッターの通が、表情を厳しくさせながら、バッターボックスへ向かうと、

「俺たちも…先輩たちや母校の名を汚さぬため、負けるわけにはいかないのさ」

 城山は、力強く初球を投げた。

「そう考えると、みんな同じだな…みんな、何かのために体を張って戦っているんだからな」

 そう言うと、通は、そのボールをかすらせてバックネットへ運び、

 …ガッシャーン!

「ファール…」

「くう…しくじった…」

 歯ぎしりした。そして、通と城山の攻防戦は激化し、カウントが2-3となると、

「はあ、はあ…しつこい奴だぜ」

「それは、お前もだろ…」

 二人は互いに苦笑いし、

「だが、これで、終わりにしてやるぜ」

「それは、こっちのセリフだ」

 火花を散らしたが、次の一球で勝負の軍配は城山にあがり、通を見事に三振させたのであった。

「ツ、ツーアウトか」

 玄奘が、顔をゆがめながらうつむくと、晴翔はすくっと立ち上がって、

「まだ、試合は終わっていないぜ…そう簡単に、あきらめられるかよ」

「虎頭…」

「俺は、とことんやるぜ!」

 かっと目を見開いたのだった。

「最後の最後で、あのクソ野郎か」

 別駕は、ぐっと表情を険しくさせ、

「さあ、来いや…てめえの打球は、死んでも取ってやるぜ」

 全神経を集中させた。

「いくぜ!」

 城山は、大きく振りかぶって、第一球目を投げると、

「うおっ!」

 …ブーン!!!

 その球威に、晴翔が大きく空振りしたのを見て、

「ストライーク!」

「どうだ…」

 ニヤリと笑った。

「奴も烏丸と同様に、200球近くの球を投げているはず…その体で、ここまでの球を投げられるとは…」

 晴翔は、思わず武者震いし、

「上等だぜ…」

 バットを強く握りしめた。

「食らえ!」

 城山が、間髪を入れずに、第二球目を放つと、

「負けるか!」

 晴翔は、両足をこれでもかと言うぐらいふんばって、バットを振り抜いた。しかし、ボールは、そのバットをすり抜けて、

 …ズバーン!!!

 キャッチャーミットに突き刺さったのであった。

「ストライクツー!」

「なんて球だ…」

 晴翔が、全身から汗が噴き出す感覚を覚えると、

「今までの中で、最高の球だぜ…この調子で、奴を粉砕してやれ」

 川崎は、そう声を掛けながら、城山へと返球した。

「追い込まれたか」

 晴翔は、打席を外してから素振りを一回すると、

「今持てる力をすべて発揮するのみ」

 集中力を十分に高めてから戻った。そして、

「これで、最後だ!」

「みんなのために、俺は打つ!」

 城山の第三球目が迫ったが、

 …カーン!!!

 晴翔は、その一振りに魂を込めてフルスイングすると、そのボールはジャストミートし、

 …ボカッ!!!

「ぶおっ!」

 サードを守る別駕は、あまりの打球の速さに取りきれず、そのボールを顔面に当てながら、後ろへと倒れたのであった。

「やった!」

 大志高校1年生は、晴翔のバッティングに、思わず総立ちとなった。だが、痛みを堪えながら別駕が、

「クソが…この土壇場で、出塁などさせるか」

 さっとこぼれ球を拾って、1塁へ送球すると、

「突っ込め!」

 1塁ベースコーチは、大きく吠えた。その仲間の声に反応した晴翔は、

「OK!」

 …ズザザアァ!!!

 迷うことなくヘッドスライディングした。

「セーフ!」

 その塁審の判定に、大志高校1年生は、大きく歓喜の声をあげた。

「わははは…やはり、最後でヒーローになるのは、俺のようだな。ばしっと、決めてくるぜ」

 優希は、ブンブンと威勢よくバットを振り回しながら、打席へ向かおうとしたが、

「このチャンスを無駄にするなよ…今日の試合では、ノーヒットのお前だけど、人間やればできるのだからな」

「うるせえ…いちいち、やる気の失せることを言うんじぇねえよ」

 玄奘の言葉に、思わずキレた。

「ほんと、大丈夫かよ…奴は…」

 晴翔が1塁ベース上で、ふうっとため息をつくと、

「まあ…これで、志高も終わりだな。あとは、延長戦での勝負だぜ」

 そう言って、別駕は、顎をしゃくった。

「ぐうの音も出ないようにしてやるぜ」

 城山は、そう言って、大きく振りかぶった。と、その時、優希は、途端に大声を張り上げ、

「ランナー。走れ!」

「へっ?」

 その唐突な命令に、晴翔は少し戸惑ったが、

「ちっ…こうなったら、破れかぶれだ」

 2塁へと全力疾走した。

「うらあ!」

 優希が、わざと大きく空振りし、川崎の送球をそれとなく妨害すると、

「くそっ!」

 彼は、それをよけて懸命に送球したが、ぎりぎりのところで、晴翔が先に2塁へ到達したのであった。

「セーフ…」

「まったく…無茶ぶりさせやがって」

 晴翔が、青筋を立てながら、ユニフォームに付いた泥を払うと、

「おい、竜岡…人のことより、まずは自分のバッティングに集中しろ…そんな余裕は無いはずだぞ」

「やることなすこと、ケチをつけるじゃねえよ…てめえは!」

 優希は、玄奘の言葉に再びキレ、

「いや…あの坊さんの言う通りだと思うのだが…」

 それを聞いていた別駕は、密かにそう思った。その一部始終に、

「ふっ…チョロイ4番だぜ」

 気を許した城山が、第二球目を放つと同時に、

「あっ、やべえ…手元が狂った」

 そうこぼすと、ボールはキャッチャーミットに届くことなく地面に叩きつけられた…

 …ザシュッ!!!

 が、彼は迷うことなく、思い切りバットを振り抜き、

「ぬん!」

 …ブーン!!!

 その上、空振りした…

「はあっ?」

 大志高校ベンチからの悲鳴に似た声がこだまする中、

「よっと…」

 …パシッ!!!

 川崎が、そのワンバウンドした球を、難なく処理して見せると、

「クソが…振り遅れてしまったぜ!」

 恥じることなく優希は、いきり立ってホームベースを叩き、怒りのアピールをした。

「て、言うか、今の球を振るな…このバカ!」

「うるせえ…いらんことを言うな。気が散るだろうが!」

 味方からヤジられる中、彼は怒鳴り返すと、

「次は、もっと速く…速く、振るんだ!」

 自分に、そう言い聞かせながら、バットを握り締めたのだった。

「ああ、神様…どうか、この哀れな子羊をお助けください」

 それを見て、坊主の玄奘が神に助けを乞い、

「何だか、だんだん可哀相な奴に思えてきたぜ」

 別駕が優しい目で彼を見つめながら同情し、

「まあ…これで、ジ・エンドだな」

 城山はニヤリと笑うと、止めと言わんばかりに、第三球目を投げた。すると、

「うりゃあ!」

 …ブーン!!!

「な、なぬうううっ!」

 味方からの悲鳴に似た声がこだまする中、優希は、ボールが到達する前にバットを振り切ってしまったのだった…

「バ、バカか…速すぎるっつうの!」

 その珍プレーを目の当たりにした晴翔が、呆然としていると、

 …コーン!!!

 なんと、振り切って1回転させたバットに、ボールが偶然にも当たってしまった!?

「し、しぃえぇー!」

 晴翔は、その奇跡に思わず、漫画・おそ松くんの登場人物であるイヤミのポーズをした。と、そんな中で、打球は、綺麗な弧を描きながら宙を舞い、右中間にポテンと落ちたのだった。あまりのことに思わず、

「んな、アホな…」

 別駕は、鼻水を垂らしながら顎を大きく外した。

「よし、ツーアウト1-3塁だぜ。チャンスだ!」

 将人が、そう大きく吠え、

「どうだ、見たか…この俺のミラクルショットを!」

 優希が、ガッツポーズをすると、

「まあ、結果オーライと言うことにしておくか」

 玄奘は、気持ちの整理がつかないまま、打席に入ったのだった。すると、城山は、怒りを頂点にさせて、ボールを強く握りしめ、

「ざけんなよ、このドリフターズどもが!」

 そう声を張り上げて、ボールを放った。…が、

「合掌…」

 …カッキーン!!!

 玄奘は、そのボールをミートさせて、見事に左中間を破ったのだった。そして、3塁にいた晴翔は、悠々とホームに帰り、さよならタイムリーヒットで、大志高校が勝利したのであった…


 試合終了後、大志高校1年生は、先輩たちのもとに集合した。

「ご苦労さん…まずは、おめでとうと言ったとこだな」

「ありがとうございます…なんとか、志高の面目を保つことができたと思います」

 鍋島の言葉に、1年生たちから笑い声と安堵の声が聞こえると、間髪を入れずに、こう言い放った。

「しかし、言葉にできないくらい、ひどい泥試合だったぞ。草野球じゃないんだから、もっとしっかりやれやがれ…いくら、まぐれで勝ったとは言え、こんなんで公式戦に通用すると思ったら、大間違いだ!」

 その一喝に、1年生たちは、途端にしーんと静まり返った。

「内容から言って、褒美を出すどころか、罰を与えないとならないな…今から、河原まで、往復10周してこい!」

 その言葉に、目が点になった晴翔は、

「い、今からっスか?」

「いいから、さっさと行け!」

「いてて…は、はい!」

 例の如く、鍋島に尻を思い切り蹴とばされ、1年生たちと共に、慌てて走り出したのであった。そして、

「もう少しで公式戦だ…それが終われば、お前たちともお別れだな」

 彼らの姿が小さくなっていくさまを見ながら、

「あとは頼んだぞ…お前ら…」

 鍋島は、小さく笑ったのだった。


 そして、公式戦が終わると、鍋島たち3年生は、部員たちに惜しまれながら引退をしていったのであった。

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