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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
16/30

第十五話

「わりい…ついムキになって、カーブにこだわりすぎちまったぜ」

「気にするな…あとの奴らを、全て三振にすればいいことだからな」

 城山の謝罪に、川崎が勇気づけていると、

「俺も続くぜ!」

 大志高校の6番バッターである一郎は、気合を入れながらバッターボックスへと入ってきた。

「生意気な…これ以上、打たせてたまるか」

「うらあ…食らえ!」

 大振りで応戦してくる一郎に対して、城山はカーブを駆使して、あえなく三振させたのであった。

「す、すべてカーブだったか」

「そんな雑なスイングじゃあ、奴の球は打てないぜ」

 がっくりと肩を落としてベンチへ向かう一郎を見ながら、川崎はマスクの下でほくそ笑んだ。

「まずいな…俺も三振しそうな感じだぜ」

 7番バッターの将人が、そうこぼすと、

「おっしゃあ、井出…毎日、自宅で千本の素振りをしてきた成果を、ここで存分に見せてやれ」

 晴翔は、そう大きく声をかけた。それを耳にして、

「そうだ…俺は、最大の弱点であるバッティングを向上させるべく、日夜素振りをしてきたんだったな」

 将人は落ち着きを取り戻すと、静かに打席に入り、バットを構えたのだった。

「さっきの川崎の攻撃で、ファインプレーを見せてくれたガキか…ならば、遠慮なく敵討ちさせてもらうぜ」

 城山は、ニヤリと笑うと、あっという間にカウントを2-0へ追い込んだのであった。

「なんて球威のある球だ…」

 彼の速球に、息を乱しながら将人が汗を拭った。その様子に、城山はニヤリと笑うと、

「これで息の根を止めてやるぜ」

 容赦なく第三球目を投げた。だが、

「今まで努力を無にしてたまるか」

 彼は、そのボールをかすらせ、バックフェンスへ炸裂させたのだった。

「ファール…」

「ぬう…当てやがった…」

 それを見て城山が顔を歪めると、

「よし、いけるいける…」

 晴翔は、右手で拳を作りながら、口角を上げ、

「はは…何だか、打てそうな気がしてきたぜ」

 将人に笑みがこぼれた。それを目の当たりにして、

「舐めるな、このクソガキが!」

 城山は不快な気分になりながら、大きく腕を振り抜いた。だが、その影響で制球が甘くなったため、将人のバットによって、ボールは大きく弾き返されたのだった。そして、打球は三遊間を抜け、レフト前へと転がっていったのであった。

「ちい…やられた!」

 城山は、思わず歯ぎしりした。

「よし…これで、ワンアウト1-3塁だぜ!」

 大志高校ベンチが、大きく沸き上がると、

「僕のバッティングだと、ゲッツーにされる恐れがある…ここは、スクイズで宝生院を返しつつ、井出を2塁へ送った方がいいかもしれないな」

 それとは対照的に、8番バッターの勉は、冷静な判断をしながら打席に入った。そして、フレームの分厚い眼鏡の奥底から、玄奘と将人に目を合わせ、

「よし、わかった…」

 二人のランナーが、やや大きくリードを取ると、静かにバットを構えたのだった。

「バントの構えはないが、スクイズの可能性は大いに有りうる。気を付けろ…」

「ラジャー」

 川崎と目と目で合図を交わすと、城山は、力一杯に第一球目を投げた。すると、勉は大きく空振りして、しりもちをついたのであった。

「いてて…」

 尻を擦りながら、勉が起き上がると、

「大振りをするな…もっとコンパクトにスイングしろ」

 玄奘は、そう声を張り上げて叱咤した。

「むう…ランナーに走る気配が、全くなかった…と、言うことは、ヒッティング勝負でくる気だな」

 城山は、そう勘ぐると、

「ならば、緩急を付けて打ち取ってやるぜ」

 第二球目に、ゆっくりと大きく曲がるカーブを放った。すると、

「もらった…」

 そのチャンスを逃すことなく、玄奘たちは一斉に走り出し、勉はバントの構えに切り替えた。それを見て、

「いかん…スクイズだ!」

 川崎は、急いで立ち上がったが、勉にバントされたボールは、1塁線と並行に転がる絶妙なゴロとなったのだった。

「よし…1点を返したぞ!」

 玄奘が、悠々とホームベースへ帰還すると、

「1塁へ投げろ!」

 城山が声を上げ、

「2塁もダメか…くそったれ!」

 川崎は、ボールを拾うと同時に1塁へ送球したのだった。

「アウト!」

 この見事なスクイズにより、大志高校は、1-2と東亜工業高校を突き放し、2塁にランナーを残した状態で、ツーアウトとなったのであった。

「ここは追加点を狙う以外に、他は無いだろ…」

 味方の援護に勇気づけられた藤次が、闘志を燃やしながらバッターボックスへ入ると、

「次は、烏丸か…中学の時じゃあ、俺から1本もヒットを打てていない癖に、偉そうなことを言いやがるぜ」

 城山も負けじと闘志をむき出した。その様子に、

「熱くなるな…藤次もトータル的な成績では、良い打率を残しているんだぞ」

 川崎が目で訴えたが、

「おらあ!」

 ヒートアップした城山には、その思いは届かず、

「フェア!」

 審判の声と共に、打球は3塁線を翔っていったのだった。

「いけるぞ、将人…ホームへ突っ込め!」

「オーライ!」

 味方の指示に、将人は3塁ベースを蹴ると、一気にホームを目指した。それを見たレフトの服部は、ボールを取るやいなや力任せに返球した。だが、ボールは、ホームベースから大きく反れてバックフェンスの方へと流れていった。そのため、川崎は、そのボールを拾うためにホームを離れるハメとなった。

「くそ…」

「投げろ…まだ間に合う!」

 川崎がボールを拾うと同時に、ホームベースまでたどり着いた城山が声を出すと、

「追加点だ!」

将人は、大きくジャンプして、ベースに向かって頭から突っ込んだ。

「させるか!」

 川崎は、懸命に送球したが、間に合わず、

「セーフ!」

 主審の声が、場内に響くと、

「よっしゃあ…これで、2点のリードだぜ」

 大志高校ベンチの球児たちは、大はしゃぎしたのだった。


 この追加点で調子を乱したのか、城山は、次の小平太、通に連続ヒットを浴びて、さらに追加点を取られ、スコアは1-4、ツーアウト2-3塁で、晴翔を迎え撃つことになったのであった…

「この流れは止めさせないぜ」

 そう言って、晴翔が、力強くバットを構えると、

「くそ!」

 城山は、息を切らしながら、第一球目を放った。

「もらった!」

 晴翔は、そのボールをとらえると、センターを守る谷口の頭上を超す痛烈なヒットを放ち、ランナーだった小平太と通を返して、さらに2点を追加したのだった。

「くう…1-6だと…」

 1試合で6点も取られると言う、今までに経験したことのない屈辱に、城山はマウンド上で、思わず苦悶の表情を浮かべた。

「ぎゃははは…このまま、コールド勝ちになるまで叩き伏せてやるぜ」

 その様子に、優希が大きく笑うと、

「よし…遠慮なく、場外へ出してしまえ、竜岡!」

 大量得点で勢いに乗る大志高校は、その言葉を受けて、さらに盛り上がった。

「ちくしょう…これ以上、点をやれるか!」

「再び、た~まや~!」

「ストライク、バッターアウト!」

 だが、例によって、優希は見事なまでに三振したのだった…

「ふう…ようやく、チェンジだぜ」

 汗を拭いながら、城山がベンチへ戻っていき、

「ああ、もう…何だよ、あいつは…」

 大志高校ベンチのナインたちが、頭を抱えて嘆き、

「おかしいな…何で、かすりもしないんだ。“た~まや~”の掛け声が悪いんだろうか…」

 バットをマジマジと見ながら、優希がぶつぶつ言っていると、

「チェンジだぞ、君…早く、グラブを持って、ポジションへ向かいなさい」

 例の如く、彼は、主審につっこまれた。

「いちいち、うるせえんだよ…このクソじじい!」

「よさないか、竜岡!」

 えらく冷たく当たってくる審判にキレた優希は、迷うことなくガンを飛ばしたが、あえなく玄奘たちに阻まれ、ライトへと引きづられていったのだった。

「本当に、すみません…もう、あのような真似はさせませんから…」

「まったく…言動次第では、没収試合になることもあるんだから、十分に気を付けてくれよ」

 玄奘の真摯な謝罪に、主審は、しぶしぶ承知したのであった。

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