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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
14/30

第十三話

 その後、小平太は、城山の球を捉えることができず、三振に終わった…

「城山の球は、1年生の域を超えているからな…そんじょそこらの奴らと、一緒にしてもらっちゃ困るぜ」

 川崎は、薄笑いをすると、

「やべえな…このまま、抑えられちゃ、奴らを活気づかせることになる。なんとかしないと」

 通は、ぶつぶつと言いながら、打席に入った。そして、

「さあ、てめえも二の舞にさせてやるぜ」

 城山が、力強く発して、第一球目を投げると、

「ぐっ!」

 彼のバットは、むなしく空を切り、

「ストライーク!」

「なんて速さだ…」

 思わず怯んだのだった。

「覚悟は、いいな…」

 こうして、城山は、通を三振させ、あっけなくツーアウトへと追い込んだのであった。

「すまん…」

 通が、帰ってくるやいなや、チームメイトたちに頭を下げると、

「そんな、謝ることはないぜ…まだ、始まったばかりなんだからよ」

 晴翔は、すくっと立ち上がり、

「だが、このままじゃ終わらないぜ」

 ニヤリと笑ったのだった。

「おい、見ろよ…奴の持っているバットは、木製だぜ」

「木のバットで俺の球を打ち返そうってか…ナメやがって!」

 川崎の指摘に、城山は、その目から怒りを発した。それに対して、

「そのバットこそ、友情と絆の証…虎頭は、そのバットを自分の物にするため、私たちよりもはるかに厳しい練習をしているのだ。彼には、心の底から尊敬してしまうよ」

 打席に向かう侍の背を見ながら、玄奘は静かに呟いたのであった。

「他の野球経験者を差し置いて、野球初心者の虎頭が3番か…ほんと、面白い奴がうちの野球部に入ってきたものだぜ」

 鍋島が、不敵な笑みをこぼしたが、

「頼むぞ…虎頭…」

 すぐに表情を引き締めて、じっと見据えたのだった。

「ぶっ殺してやるぜ!」

 城山が、大きく振りかぶって、第一球目を放つと、

「こなくそ!」

 晴翔は、そのボールをかすらせてバックネットへと運んだ。

「ファール…」

「むう…城山の球に触りやがった」

 川崎が、腹の底から絞り出すような声で、そう発すると、

「ちっ…前に飛ばなかったか」

 彼は、舌打ちして悔しがった。

「1番バッターの先制攻撃と走力で相手チームをかき乱し、2番バッターで手堅くランナーを進塁させる…そして、4番バッターは大砲のごとく力を持って、大量点をたたき出す…ならば、3番バッターの役目とは…」

 鍋島は、そう言って、一呼吸を置いた…その間に、

「そりゃあ!」

 晴翔は、城山の第二球目もかすらせたが、打球は三塁線を割って、点々と転がっていったのであった。

「ファール…」

「やるな…あの3番…」

 城山が、彼への評価を修正し、表情を厳しくさせると、

「ふっ…何だか、次は打てそうな気がしてきたぜ」

 晴翔は、力強くバットを握りしめた。そして、

「ぬかせ…これで、とどめだ!」

 彼が、そう言い放って、力一杯に第三球目を投げた瞬間、

「3番は、打者たちをつなぐパイプラインであり、タイムリーヒットで急襲するヒッター。そして、1、2番が倒れても、初回を三者凡退にさせて相手ピッチャーを勢いづかせないために、待ったをかける切り札でもある…ゆえに、チームの要たる者…それが、3番だ…」

 鍋島は、かっと見開いたのだった…

「いただきだぜ!」

 …カーン!!!

 晴翔が、そのボールをジャストミートさせて、大空へとボールを運ぶと、

「何だと!」

 川崎は、マスクをはぎ取って、そのボールの行方を必死に追った。だが、その打球は、フェンスを越えて、遥か彼方へと消えてしまったのであった。

「ホームラン!」

「やったぜ、虎頭…先制点だ!」

 晴翔の渾身の一打に、大志高校ベンチが大いに盛り上がると、

「なんて野郎だ…まさか、場外へ出されてしまうとは…」

 城山は、がっくりと膝を落とし、

「恐るべし、虎頭…お前の名は、完全に俺の脳へ刻み込まれたぞ」

 谷口は、眉間にしわを寄せて、晴翔をじっと睨んだ。そして、

「よっしゃあ!」

 晴翔は、満面の笑みでガッツポーズし、ベンチで祝福を受けたのであった。


 晴翔のソロ・ホームランによって、活気づいた大志高校1年生たちは、次第にイケイケムードになっていった。

「よっしゃあ…俺も虎頭に続くぜ」

 優希が、ネクストサークルで、ぶんぶんとバットを振り回すと、

「おう…この勢いで、ガンガンかっとばしていこうぜ」

 将人は、大声で彼を激励した。

「ちっ…ナメやがって…」

 城山は、優希が打席に入ってくるやいなや大きく振りかぶり、

「これ以上、打たれてたまるか」

 立て続けに豪速球を放つと、

「たーまや!」

 彼は、そう声を張り上げながら、立て続けに空振りをしたのであった…

「ストライーク、バッターアウト!」

「おろっ?」

 と、優希は、主審の発した言葉に目を丸くし、

「俺、もう3回も空振ったのかよ」

「そうだよ…さっさと戻りなさい」

 がっくりと肩を落としながらベンチへ戻っていった。それを見て、

「けっ、バカがよ…お前みたいなど素人に、うちの城山の球が打たれてたまるかっつうの…て、言うか、怪力があるだけで4番にしたんだったら、相当頭が悪いぜ、あのチームはよ」

 ここで、腹癒せとばかりに別駕が、大いに罵ると、

「将来的には、あいつはスラッガーとなる素質があるので、あえて4番に座らせたのさ…今は、経験を積ませてやることの方が大切なのでな」

 玄奘は、腹の底で、そう言い返したのだった。

「あちゃあ、何をやっているんだよ。あいつは…」

 将人が、思わず頭を抱えると、

「これで、スリーアウトチェンジか…完全に、今の雰囲気をぶち壊してくれたぜ」

 晴翔は、じとっと優希を白い眼で見たが、

「ふっ…1点もらえれば、十分だぜ」

 藤次は、そんな周囲をよそに帽子をかぶり直して、意気揚々とベンチを発ったのであった。


 2回表、東亜工業高校1年生たちの攻撃が始まった…

「このまま、勢いづかせてたまるかよ」

 谷口が、バットを握りしめると、

「このまま、最後まで逃げ切らせてもらうぜ」

 藤次は、そう言って、第一球目を投げた。すると、

「ぬかせ!」

 彼は、その初球を捉えて、はじき返した。しかし、打球は、高く上がったものの途中で失速し始め、

「くそ…距離が伸びないか」

 そう口走りながら懸命に走った。

「オーライ!」

 小平太は、前進して、それをセンターフライにしようとした。と、その時、彼は、ボールをグラブの角に当て、ポロリと落としてしまった。

「しまった…」

 彼は、焦りながらボールをさっと拾ったが、すでに谷口は1塁ベースへ到達してしまったのだった。

「ぎゃはは…ポロリだぜ。もうけ、もうけ!」

 東亜工業高校ベンチが、思わぬ進塁に大いに沸くと、

「す、すまん…」

「ドンマイ、ドンマイ…」

 小平太の謝罪に、藤次は、さりげなく声を掛けた。

「ここは、慎重にいかないとな」

 彼は、自分にそう言い聞かせ、次の打者に対して第一球目を放った。すると、東亜工業高校の5番バッター・猿谷は、それを捉えてはじき返した。

「サード!」

「うっしゃあ!」

 通は、真正面で、その何でも無いゴロを処理しようとした。ところが、打球は彼のグラブをはじき、

「やべえ!」

 ファールラインを割って転がっていったので、慌てて彼は、そのボールを追うことになった。

「まわれ、まわれ!」

 別駕が、この時とばかりに大声を張り上げる最中、通は必死にこぼれ球を掴み、3塁ベースのカバーに入った佐戸一郎にボールを投げた。しかし、間に合わず、

「セーフ!」

 ノーアウト2・3塁になってしまったのだった。立て続けの彼らのミスに、

「おい、おい…まさか、緊張して体が動かねえんじゃあるまいな」

 鍋島が危惧し、

「す、すまん…」

 その失態に、通が大きく項垂れると、

「まずい展開に、なってきたな…」

 藤次は、額に汗を滲ませながら、そう口にしたのであった…

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