盲導犬
私は65歳にして病気により両眼球を摘出することになった。
ようやく定年となり仕事を退職。
これから自由を謳歌できるというタイミングで…だ。
絶望した。
サングラスや義眼を勧められたが、
主に知り合いからの好奇の目に晒される事を嫌い、
摘出手術の退院後に地方へと引っ越す手続きを始めた。
近所に住んでいる3人の子らからは
「なんで?都会の方がちょっとしたことでも私達が助けられるし色々と便利じゃない?」
「田舎とかで新しいご近所付き合いが大変でしょ?」
「ただでさえ両目が見えなくて困る事多いのに…」
と反対されたが、既に配偶者を亡くして長い期間の一人暮らし。
さらにここ数か月の間に会社からの退職関連で人事や社長と揉め、
病気の入院や手術、ずきずきと続く痛み、
お見舞いへの対応の煩わしさ、
視界が真っ暗になってしまったストレスで
私自身すっかり人嫌いになってしまっていた。
田舎で子らに頼らずとも一人でも暮らせると説得するために盲導犬を飼う事にした。
運良く引っ越し先近くに盲導犬の支援センターがあり、そこに盲導犬のブリーダーがいた。
その支援センターがたまたま廃業する直前のタイミングで連絡を入れたことで、
ギリギリのタイミングで最後の1頭を格安で融通してくれた。
1頭のみ…なので私と犬との適正もへったくれも無いのだが、
私自身はその犬が全く鳴かない点や、気性が穏やかな点を気に入り、
田舎に借りた家でその盲導犬を飼うことになった。
当初は進む道を間違えて1人と1匹であたふたしていたこともあったが、
田舎ということで盲導犬に十分な理解があるのか、
スーパーマーケットの店内であっても盲導犬を引き連れて買い物に行ける。
ご近所の人とも盲導犬を通してすぐに打ち解けられた。
盲導犬を連れてのカラオケ会やお祭りなどにも参加することができ、
私は田舎暮らしをとても満喫することができていた。
毎日盲導犬と一緒に散歩に出掛け、
夜寝る時にはそばで一緒に寝てくれる。
素晴らしいパートナーとなっていた。
そして特に大きなトラブルもなく2年後。
地方に引っ越してから初めて3人の子と孫達が揃って私に会いに来るのだそうだ。
ピンポーン
「親父~!ついたよー。」「あ~。遠かった~。」「え!!??」 「きゃぁぁぁ!!」「ひぇ!」「うわぁぁl!!」「え!?なんで!?」「うわぁぁぁん!」「おい!マジか!?」
「ん?どうしたんだ?みんな?何か変なことでもあるのか?」
「…………っ、あ~あ…」




