episode5『影』
episode5
『影』
[part1]
ジリリリリリ!!
ソラとウミの自室に置かれている電話器が鳴り響く。
ウミは受話器を取る。
ウミ『なんだよ?』
null『サヤが失踪した』
ウミ『え!!?』
急遽、喫茶店の店内に集まる4人。
null「痕跡を見ると2階の窓から飛び降りてそのまま失踪……」
ソラ「…………」
ソラは沈黙する。
ウミ「どこ行ったかわかるか!!?」
recefiaは首を横に振る。
null「居場所は特定できないけど、足跡で追跡はできるはずだよ。ソラのカメラならね」
ソラ「私のカメラですか……」
ウミ「ソラ!出来るか!?」
ソラはこくりと頷く。
null「……サヤの単独行動はグリッチ因子耐性のない彼女にとって危険な行為……体内の侵食が進み、アベンド化へのリスクになる」
ウミ「わかってるわ!!だから行くんだよ!!」
[part2]
『深度1・夕焼けの学校エリア』
ソラのカメラ撮影により、サヤの足跡を解析、追跡する。たどり着いたのはオレンジ色の光が差し込む学校の教室。誰もいないはずなのにトランペットの音が微かに奏でている。
ソラ「学校……」
ウミ「よりによってかよ……」
null「ザ・放課後の学校って感じだね。トランペットの音は吹奏楽部かな?」
ウミ「それより足跡だ!」
ソラ「(撮影する)廊下から階段……屋上へ向かって……」
ウミ「行こう!」
3人は急いで階段を駆け登り、屋上へのドアを開ける。屋上はオレンジ色に染まっていて夕焼けが美しく、陰影がはっきりと写し出されている。
ウミ「ん?」
ウミは異変に気づく。
屋上の中央に5人の少女が手を繋ぎ、輪になってくるくると回っている。あまりにも異様すぎる光景だ。
ウミ「誰だよこいつら……」
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
童歌のような不気味な旋律を少女達は歌う。
『せーの!ばいばーい!!』
一斉に少女達が掛け声を上げると、宙に浮かび空へ駆け巡った。
ソラ「う……」
ソラやウミは嫌な予感がする。先が予測できたからだ。しかし、彼らの予想は外れる。
ソラ「え?暗く……?」
地平線の夕日が急に沈みだす。辺りが暗闇に包まれる。
漆黒の闇の中、聞こえるのは地鳴りのような蛍の光。そして……ラジオのような男性の声が……。
『日本は生きてます。
日本は生きてます。
日本は生きてます。
日本は不滅です。
……日本は不滅です。
……日本は不滅です。
……日本は生きてます。
……日本は不滅です』
聞こえるのはラジオの音声、巨大のファンが回る機械音、そして蛍の光。
null「……深度2」
nullが淡々と告げた後、ライトを生み出し、明かりを照らす。
その世界は血のように赤黒く、漆黒の闇のように暗かった。
ウミ「これ、最初のアパートと同じ……」
ソラ「寒いです……すごく……」
屋上の中央部は巨大なファンが輪廻のように回っている。地鳴りのような蛍の光は止まらない。
ウミ「なんだよこれ……」
null「深度2、深度1より深層部。ノイズにまみれた場所……世界の成れの果てだよ」
声「深呼吸。安心。大丈夫。深呼吸。ふふ!ああ!……深呼吸……深呼吸」
暗闇の空から昆虫の羽が生えた人型がぶつぶつ呟きながら屋上に降りてくる。
null「あーライト付けると寄ってくるんだよねー。みんな、屋内に戻るよ?」
学校の廊下。そこはもう学校と呼べるのだろうか。壁には縛り付けられた人の物体が並べており、床も壁も天井も赤黒い。そして暗闇でライトですら闇に吸われてしまうほど。あまりにも静寂かつ、悪夢。
ソラ「悪夢……そのもの……です」
ウミ「いや、もう地獄だな……」
無音という凶器。言葉を挟まないと無に飲まれてしまいそうなぐらいの空間。しかし、耳を澄ませばうめき声や金切り声が微かにも聞こえる。
ウミ「null、スカしてる暇あるならとっとと仕事しろよ……?」
null「僕を便利なツールだと思ってない?僕にも人権?……があるんでね。疲れたら戦えなくなるのは君達と一緒だよ?」
ウミ「そうかよ……」
ウミは軽口を叩いているが恐怖に飲まれないように抵抗している。nullはライトを手に持ち先陣を切る。
教室へ入るとやはり真っ赤な世界が広がる。全ての机に顔写真が貼られており、行方不明者を示唆するかのような名簿があった。
ソラ「行方不明……」
null「……気味が悪いね。嘘か真かはわからないけど」
ウミ「おい、1つだけ……ノイズ塗れているぞ?」
ウミが言葉を放った机には黒いノイズが漂っている。nullはノイズに触れて解析する。
DD
『少年』
思念型、動画ファイル
・少年の写真が貼られた机で号泣する少女
・少女は机を抱きしめる
・「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!!!」
null「…………」
ソラ「……これ……」
ソラは机に触れる。
ソラ「この声……!」
彼女が次の言葉を放とうとしたその刹那。
♪〜♪〜♪〜
null「ピアノの音?……クラシック……『別れの曲』……」
ウミ「別れの曲?……確かに廊下から……」
null「近づいてくる……『ブラッドピアノ』かな?」
ソラ「ブラッドピアノ?」
null「アベンドだよ……グランドピアノの形の……」
ウミ「倒せるのか?」
null「できるけど、今はバグフィックスよりサヤ救出優先じゃない?」
ウミ「珍しくまともだな……」
別れの曲が廊下から鳴り響く。 3人は教室で息を潜めやり過ごす。
ソラ「遠くなりましたね……」
一同が安堵の表情を迎えた直後……
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ぐちゃ!!
廊下から金属音が響き渡る。そして何かが破裂したような音も。
ウミ「何の音だ!?」
ソラ「教室出て大丈夫ですか!!?」
null「いいよ」
強い打撃のような金属音。その正体はハンチング帽を被った少女がグランドピアノをルーペで叩いている音であった。
グランドピアノから赤い血が溢れている。蓋が開いており、内部には弦やハンマーなどが入っておらず……血塗れで身体がひしゃげた物体が入っていた。
サヤ「暗いよ……怖い……寒い……気持ち悪い……」
ソラ「サヤさん……」
サヤ「……ソラ?なんで?ここに?」
null「痕跡からたどり着いたんだよ」
サヤ「痕跡……そっか……証拠、残っちゃった……あー私ってバカだなぁ」
サヤは乾いた笑いをする。
ソラ「サヤさん!」
サヤ「…………」
ソラ「どうして……喫茶店から!!?」
サヤ「…………」
サヤは押し黙ったまま。ウミが前に出る。
ウミ「サヤ………男の子、行方不明……お前の関係者だろ?」
サヤは虚ろの表情を表すが、直ぐに笑顔を振る舞う。
サヤ「……弟!ヒカルって言うの!ホントねぇー……ダメな子なんだよー?いっつも勝ち気で自分勝手でさー!」
無理に笑顔を装うサヤ。
サヤ「そんでどっか行っちゃうの。ホント、私がいないと何もできない……子」
ソラ「…………」
サヤ「あの子のせいで……オカルトにハマってさー。奇跡なんて信じちゃって…………探偵ごっこ始めてみたり……」
ソラ「……サヤさん、帰りましょうよ?」
サヤは俯く。
サヤ「やっと……見つけたの。居たんだよ……DDSに居たんだよ。あの子が」
ウミは首を横に振る。
ウミ「……違うよ……多分……違う」
サヤ「赤い線も見えるし、ルーペで解析だってできるよー?ウソかホントかなんて簡単に……」
ソラ「サヤさん!……喫茶店でゆっくり休みましょうよ……?疲れてるんですよ!?」
サヤ「……」
サヤ「…………」
サヤ「………………」
サヤは俯いて沈黙した後、ゆっくり口を開く。
サヤ「疲れてる……か」
サヤはハハッと笑う。
そして明るく振る舞う。
サヤ「あーもー!!!」
サヤ「………………」
サヤ「……8年だよね。たった8年……ねぇ、私、リーダーやれてる?ちゃんと真面目に生きてる?やってるよね?うん」
サヤ「………………」
サヤ「…………………狂って……る?」
サヤは満面の笑みを浮かべる。
サヤ「………君達はまだまだわかってないなー!………狂ってないよー?へへ!………………違うって!」
サヤ「違う……違う違う違う違う違う違う違う!!!!」
彼女は泣き叫ぶように怒鳴る。ソラやウミは言葉を失う。
……沈黙の後、彼女は悲しげに笑った。
サヤ「ソラ……必ず……帰れる……から。私、真実を……全ての犯人を……探してくる」
サヤは闇の中に消えていく。
ソラ「サヤさん!ダメッッ!!」
サヤ「大丈夫……大丈夫……大丈夫…………大丈夫…………大丈夫………………大丈夫…………!」
サヤは奥の部屋の図書室へ入っていく。
ウミ「追うぞ!!」
3人は後を追いかけるが、図書室のドアが開かない。
ウミ「(ドアノブを捻る)クソ!鍵をかけられた!!null!!なんとかしろ!!」
nullはドアに近づく。その刹那、ドア越しから声が。
ヒカル「お姉ちゃん……」
サヤ「ヒカル!!!」
サヤの号泣がドア越しに聞こえてる。
サヤ「あぁぁ!!……バカ……バカッ!!どうして……!!?あの時……フラフラ、フラフラと!!何でもかんでも夢中になるから!!もう!!」
ヒカル「……ごめんなさい。ぼく、ワクワクがすきなんだ……それに」
ヒカル「お姉ちゃんをわらわせたかったんだよ……」
サヤ「ごめんねぇ!!ごめん!!ごめんなさい!!!」
ウミ「サヤ!!サヤ!!!逃げろ!!」
ウミはドアを何度も叩く。ソラやウミの攻撃でも壊れない。nullは淡々と呟く。
null「……開けたとしても……状況は悪化する」
ソラ「嫌です……!彼女はこのままじゃ!?」
ウミ「クソッ!!クソッ!!クソッッッッ!!」
ドアノブを何度も回りしたり、血がつくほどにドアを叩いたり……剣戟を繰り広げたり全ての対策を取るが……奇跡は起こらない。
するとnullがドアノブから手を離した。そして無慈悲な一言。
null「………………動体反応…………消滅」
ソラ「え?」
nullの言葉が室内に響く。
ウミ「……!?」
null「魂の反応……なし。
…………ロスト」
nullの淡々と声が響き渡る。
時が止まったように静寂が続く。
ウミ「……ウソ……だろ?」
ソラ「サヤ……さん?」
ロスト……nullの発言がソラ、ウミには頭に入ってこない。
しかし、夢のような浮遊感から徐々に現実へと侵食されていき、やり場のない感情が滝のように溢れ出してきた。
ウミ「………………クソったれがよッッッ!!!」
彼がドアを蹴るとついに鍵が壊れた音がした。
図書室に入る3人。
そこにあったのは赤い……手帳と黒いノイズ。
ソラ「!!?」
ソラは手帳を拾う。手帳に書かれていたのはこの世界の専門用語のマニュアルや、null、ソラ、ウミへの評価などが記載されている。
・null、ソラ、ウミの評価
『厨二病のかわいい奴!ゴスロリカメラオタク君!ヒョロヒョロモヤシ野郎!個性豊かな人々と個性豊かな世界!まさにミステリー!!
ps.私にとって、真実は君達だったよ』
ソラは手帳を読む手が震えている。
ウミは…………怒りを抑えられない。大きな声で言葉を放つ。
ウミ「いや違う!!帽子もルーペもねぇ!!あいつはまだ生きてる!!」
null「……もういないよ」
ウミ「うるせぇよ!!」
null「……彼女はロストした」
ウミ「ちげぇぇ!!!」
ウミは悲鳴の叫び、咆哮を上げた。
一方、ソラは漠然としている。
ソラ「真相を探すって言ってたのに……」
彼女はぽつりと呟く。
ソラ「帰ろうって約束したのに……」
ソラ「なのに……!」
ソラが手にしている手帳が少しずつと濡れていく。正体は言うまでもない。
ソラ「サヤさん……!!」
nullは感情を表さずに黒いノイズ、DDを回収する。
DD
『絵日記』
思念型、画像ファイル
・タイトル名、暗いお姉ちゃんとワクワクぼく
・内容は他愛もない日記。しかし、絵の少女はどこか表情が暗い
『捜索打ち切り』
思念型、テキストファイル
・行方不明の少年a(仮)の捜索を打ち切りとする
null「ソラの洞察にズレがあったね。彼女は完璧に『振る舞って』いたよ。オカルトに浸った理由もそういうこと……」
ソラ「…………」
ウミ「何が言いてぇんだ?」
nullはいつもの表情で語る。
null「……経験上、迷い人のロスト率は32%。つまり3人に1人は失う。今回はその不運を引いただけだよ」
ウミ「理屈じゃねぇんだよ!!!」
ウミが怒鳴る。nullの表情に変化はない。
ウミ「もっとこう!!……大事なモノ!!!わかんねぇのか!?…………お前はバケモンだから心とかわかんねーモンな!!!」
null「…………」
null「この状況でもまだ言える?」
nullは周りを見渡す。周囲には得体のしれない金切り声が無数に近づいている。
null「戦場内で赤子の如く泣いていたらどうなる?撃たれるよね?情けをかけてくれると思う?…………それとも全員……ここで骸になる?……エモーショナルは喫茶店まで我慢してくれる?そしたらコーヒーを淹れるよ」
その言葉で聞いたウミは歯を食いしばり、俯いた。
ウミ「クソッ……クソッーーー!!」
ウミは壁は思いっきり殴る。壁から鈍い音。
ウミ「そうやっていつも正論をぶちかましてくる!!お前が本気でやれば……あいつは助けられたのに……!」
null「変わらない……僕達がどの選択しても変わらない……《不可侵領域》展開……モブを一掃する」
ウミ「おせーよ」
nullを起点として空間にノイズが広がり、アベンドなどの怪異を飲み込んでいく。
null「終わり。流石に追加はなしだよ?そんな連続で使えないから……」
ソラ・ウミ「…………」
nullの周囲に幾何学的な紋章が浮かび上がる。
null「探索終了。帰るよ」
図書室は光に満ちて、3人は光に包まれる。
グリッチ因子による転移能力を使用し喫茶店へ移動する。移動中は暗闇だ。ソラとウミは言葉を失っていたがnullが沈黙を破った。
null「彼女は自らの意志で運命を選択した」
ソラ、ウミ「…………」
nullは続ける。
null「人の意志を僕達の軽い正義で踏みにじるのは…………傲慢な考えだと思わない?」
episode5
END




