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episode29-1 『ハッピーオアダイ』

episode29-1

『ハッピーオアダイ』



[part1]



男「(抑揚のない声で)……ミサ?今日のご飯は……なにかな?」


ミサ「(抑揚のない声で)今日は……トマト……スープよ……ダニエル?」


ダニエル「(抑揚のない声で)ぉおおーー!……それは……楽しみ……だなぁ!」



ミサという女性とダニエルという男性が仲良く談笑している。一方ツカサは……視界は真っ暗、非常に狭い空間に閉じ込められていた。


ツカサ「(身体が……動かない!)」


手足が動かない。全身が何かに挟まっている!


視界不良で何も見えないがツカサは嫌な感覚を感じ取っていた。手のひら、腕、足首、肩辺りに生温かい液体が溢れてる。


ツカサ「(なにこれ!?)」


グリッチ因子の能力なのか暗闇への適合なのか視界が見えるようになる。そして明らかになった『全身に棘が刺さってる』のだ。


ツカサ「…………っ!!」


グリッチ因子所持者のおかげなのか痛みはそこまで感じなかったが、とにかく状況が良くない。


ダニエル「まだかなー……まだかなー?……さっきから……座って……待ってるけど……料理……こないなぁぁ」


すると若い女性のような声が。


女性「パパ?私が……楽しませてあげるよ……?そうねぇ……そこに『グランドピアノ』があるから……私が何か引くよ〜!?」


ダニエル「キャシー……あぁ……助かるよー?それじゃぁ曲は……ベートーヴェンのピアノソナタ……『月光』を引いてくれない……かな?」


キャシー「ええっ!わかったわ!」


足音が近づいてくる。


ツカサ「(嘘……でしょ?……これって!?)」


ツカサ「(わたしが!?ピアノの中(弦やハンマー)にいる!!?)」


ツカサは焦りながら必死で身体を動かす。しかし動けば動くほど棘に食い込んだ部位が傷を抉る!


ツカサ「(ッ!!クソッ!!)」


思わず『お上品』な言葉を放ってしまうほど彼女に余裕がない。


キャシー「んじゃあ……引くわよー?」


ツカサ「!?」


キャシーは背伸びをしてピアノのドレミに触れる。


♪〜♪〜♪〜


ザクッ!ザクッ!ザクッ!


ツカサ「うぅっっ!!」


鍵盤を押し込んだ瞬間、ピアノの中で新たな棘が生えてツカサの脇腹、耳、そして左目を貫いた!!


キャシー「よし!『月光』!」


絶望的な状況の中でツカサは覚悟を決めた。グリッチ因子による重力攻撃を自身を対象に放った!!!


ガキンッ!!!


グランドピアノはひしゃげて蓋が開く。ツカサは這うようにピアノから脱出する!


ツカサ「はぁ……はぁ!!」


すぐに辺りを見渡す。そこは薄暗い夜の洋館、食堂部屋であり『誰もいなかった』


ツカサ「……クモリ……!!」


白い三角帽子の少女に憎悪を抱くツカサ。自身の身体を見つめる。黒いドレスを纏った服は真っ赤に染まり、重力攻撃よって左腕がひしゃげている。


ツカサ「……サイアク……!!」


ツカサはよたよたとしながら壁にもたれかかり、人体の再生を優先させる。


出血が落ち着き始めた頃に探索開始。


ツカサ「ゲホッ!ゲホッ!!」


突如、口からの吐血。


ツカサ「侵食……進んでる?」


グリッチ因子の乱用、人体への損傷、この世界の滞在……彼女の身体は確実に蝕まれていた。彼女は苦い味を飲み込む。


ツカサ「血も……甘ければ……いいのに」


不意にも彼女は笑みを浮かべた。



[part2]


『深度1・洋館エリア』


食堂から離れると部屋の照明は殆どない。赤いカーペットの廊下をランタン(グリッチ因子で生成)片手に探索する。


ツカサ「手入れされてない場所……ばかり……」


廊下の壁や床はホコリが被り、歩く度に雪のように舞う。そして道なりに進むと……。


ツカサ「エントランスホール……」


広大な吹き抜けの空間に階段、絨毯(じゅうたん)、壁際には棚や燭台、彫刻、絵画、シャンデリアも見える。


ツカサ「この洋館……多分、わたしの家じゃない………」


彼女は玄関へ向かう。


ツカサ「誰かの記憶の断片かしら……」


ドアノブを触ろうとした瞬間。


ガチャ!


「腕が無くなるよ?お嬢ちゃん?」


ドアが開きその隙間から初老の女性がニヤニヤと笑っている。


ツカサはすぐに手を離し、ドアを閉める。幸い被害は手の甲の刺傷だけで済む。


ツカサ「わたくしと遊ぶつもり?上等よ?」


初老の正体を彼女は感じ取っていた。


ツカサ「……クモリ!!」


ツカサは2階へ上り複数のドアの中、赤いドアの部屋に入る。


そこは沢山の美術品が展示された大きな部屋だった。ツカサは目の前の光景を見つめる。


そこには中央の巨大な彫像。大理石の女神像だ。


ツカサ「随分、金にモノを言わせるような部屋ね……」


どこかため息をする彼女。しかし重要なのはそこではない。その女神像の背後に……何かいる。


ツカサ「……ピクトグラム?」


ピクトグラム。言葉(文字)を使わずに、視覚的な図記号によって直感的に情報を伝えるコミュニケーションツール。ソレそのもの、青い男性と赤い女性のピクトグラムが手を繋ぎ仲良く踊っている。


ツカサ「アベンドね……そこで一生踊ってなさい……」


ピクトグラムから『ショパン、ノクターン第2番、変ホ長調、作品9-2』が美しく流れている。非常に心地よく感じるツカサだが、甘い誘惑程罠がある。


ツカサは別の部屋に入ろうとするが……。


初老の女性「お嬢ちゃん〜ツカサちゃん〜?アンタって!ヘタレねぇぇ〜!!?踊りの1つもできないのかいぃ?」


その部屋から初老の女性がささやくように呟く。


ツカサ「!?うぜーな」


ツカサは挑発に乗りドアを開ける。


ドアの先は……『宇宙』だった。


ツカサは宇宙に吸い込まれる!!


ツカサ「なんなの!!?」


倒れてその空間に引き摺られる。右足が宇宙に触れた瞬間、右足が消滅する。


ツカサ「クソックソクソ!!」


これ以上の被害を抑える為に重力攻撃で両足を潰してそのドアからもがくように離れる。


『ショパンのノクターン』が耳にまとわりつく。凄惨な状況の中、ピクトグラムが不気味に楽しげに踊り続けている。


再生能力よりピクトグラムの精神汚染が上回り、再生能力が阻害される。


ツカサ「コイツらのせいで!!?」


ツカサは力を振り絞ってピクトグラムのアベンドに重力攻撃を行う。ピクトグラム達は無反応でツカサにゆっくりと向かう。青い男性のピクトグラムの手にはナイフが……。


ツカサ「来ないでよ!!」


その戦いは泥沼になる。無慈悲にナイフを振り下ろす青いピクトグラム。ツカサは耐えながら何度も攻撃を行う。


床が赤く染まり汚れ始めた頃に奴ら(ピクトグラム)は消滅した。


大量の吐血を繰り広げるツカサ。


『15歳は迎えられないかもしれません』


ツカサは浮かぶ言葉を振りはらい、美術室から部屋を出る。




身体は元通りになりランタンを手にして、再びエントランスホールへ。2階に居るツカサだが、1階に初老の女性がツカサを見つめている。


初老の女性「ご感想はどうだい?ツカサちゃん……」


ツカサは指を弾くような動作をして黒い高速の弾丸を生成、女性の右目を抉る。


初老の女性「あ!いたっ!」


右目から『彼岸花』が生え始める。


ツカサ「黙れクソババア……」


初老の女性「……お嬢様言葉は……忘れたのかい!?ねぇ!?教育が必要!!?」


ツカサは無視して青いドアの部屋に入る。


女性は大きな声を上げた。


初老の女性「代々受け継いだ名家もアンタの代で終いだね!!


小鳥遊(たかなし) (つかさ)!!」




episode29-2へ続く

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