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02【アウトローたちの終末】

退廃的な世界観と、人の愚かさと、ロボと、かわいい女の子を書きたいです。

分かりにくい文章も、いずれ良くなっていけばいいなと思ってます(楽観主義)。


 オルキヌスがオウムアムアのあまり広くない格納庫に降り立ったとき、予想はしていたが一人の少女が既に待っていてくれていた。

 伸ばした淡い金髪に白磁の肌。生まれ持った優雅な雰囲気が、油の跳ねたタンクトップでも完全には打ち消せていない。高級そうなカーディガンのおかげもあるだろうが。

 マリヤ=イジェフスカ。祖国の習慣的にマーニャと呼ばれている少女。

 オルキヌスより一歳だけ年上である。


「おかえりなさい。気分は大丈夫ですか?」

「ああ」


 聞かなくとも、モニタリングしていたならバイタルチェックくらい出来ていただろうに。

 ……などと。オルキヌスはひねくれたことを考えた。

 彼は暖房の効いたハンガーで暑そうに戦闘服の首元を緩め、持ち帰ったコンテナを見やった。


「あのレジスタンスたちに任せておけば良かったものを」

「まぁまぁ。彼らが人命救助に興味があるか分かりませんでしたし」

「……いやまあ……その気は無かっただろうな。放置して消火活動に勤しんでいたから」

「……そういえばそうでしたね……。では、私たちが徳を積んだということで。ね?」


 ね? とマーニャがにっこり。しかしオルキヌスは興味無さそうに鼻を鳴らす。

 眼が眩むほどの照明が降り注ぐ狭い格納庫で、二人分の足音が連鎖する。

 キャットウォークにリフトにロボットアームにクレーン、壁には巨大な換気扇にアヴァターの武装から大量の工具とマッスルスーツなどなど……都会の繁華街みたいにハンガーは相変わらず情報量が多い。

 そして今忘れてはならないのが、オルキヌスがエインヘリヤルで無造作に置いた――びしょ濡れの赤いコンテナ。

 六メートル×二・五メートル×三メートルとかの、鋼の波板で作られた、一見よくあるタイプだ。赤ん坊以外、誰だって一度は見たことがあるだろう。

 その赤いコンテナに黒髪の彼が近付いて、そっと聞き耳を立てる。


(……無音? 身動ぎ一つしていないということだが……)


 海に放り出されて? 呼吸音さえ聞こえない。


「なにか聞こえましたか?」

「いやなにも。……おい聞こえるか。生きているなら返事をしろ。物音でもいい。俺たちは敵じゃないし、危害を加えるつもりもない」

「……、……静かですね」

「今開けてやる。扉から離れていろ」


 この時点でオルキヌスには不信感しかなかったが――観音開きの扉に触れた。

 両側の扉を上下に遮るロックロッドが四本。レバー? ハンドル? が二つ。

 こんなもの適当に開ければいいと思って近付いた彼だったが、よくよく考えてみればコンテナにはコンテナの開け方があるに決まっていた。これの開封なんてしたことがない。

 ちょっとだけレバーに触ってみたが、謎の金具で施錠されていて動きそうにない。


「ふふ。それ、専用のカッターがないと開きませんよ」


 背後から得意げな声が聞こえて振り返ると、いつのまにかヘルメットを着用したマーニャが、ボルトカッター片手に立っていた。

 腰に下げた銃型のマスターキーに手を伸ばしかけていたオルキヌスは、彼女の様子を見て手番を譲った。どうやらやはり、先ほど邪魔だった金具をカッターで切断するらしい。


「少し離れていてください。切断したシールが飛ぶので」

「分かった」

「ふんぬ!!」


 マーニャが自慢の細腕に力を込めた。ビクともしない。


「あ、あれ? おかしいですね……? 多少力が要るとはいえ、私はやり慣れているんですが……ふんぬ!! ぐぬ!!」

「……。」

「うぬううう! ぐぐぐぐう!!」

「……。」

「はぁっ、はぁ……っ。少々……お待ちを……ふぅ。これくらいなんてことありません。ええ、ありませんとも。ではもう一回いきます」

「……、なあ」

「ふぬううううう! なんでしょう!? 私にもこれくらいはできますが!!」

「お前マッスルスーツ付けてないぞ」

「早く言ってください!!!!」


 びたーん。マーニャは床に倒れた。彼女は基本的に非力だ。

 オルキヌスは倒れたまま「ぜぇはぁ」と荒い呼気を吐く彼女の手からボルトカッターを奪うと、バチンと涼しそうな顔で金具を切断してみせた。ヘルメットしろよ。

 あとはなんとなくで右扉のレバーから回し、コンテナを開封した。


「……なんだ?」


 中に詰まっていた、土と海水の混ざった臭いが解放される。

 臭いに囲まれていたのは、動かないようにベルトで固定された長方形の木箱。

 それがコンテナの真ん中に、ポツンと鎮座していた。他には何もなく、誰もいない。それが非常に不気味だった。

 それというのも、木箱がまるで手作りの棺のようなのだ。中には当然死体が納められているのだが、実はこれが超自然の生物で、何かの拍子に蘇生して暴れるかもしれない。だから死体を拘束する必要があるとか……。

 ……とにかく、そんな妄想さえ出来てしまえるくらいの闇深さを覚えた。

 なぜならば、木箱の大きさがちょうど人間の子供一人分程度だったから。


「信号を出しているので、少なくとも遺体ではないはずです。あのリグで何らかの人体実験があった……? ヒトの研究素体とかでしょうか?」

「どこにもそんな情報はなかった。あのリグはただの海底採掘用の施設だ」


 言いながら、オルキヌスは静かに胸のナイフを抜く。

 もちろんベルトを切断し、木箱の蓋をテコの原理でこじ開けるためにだが、内容物次第では追加でとても物騒な意味を持つことにもなる。

 そんなときだった。

 ぱたぱたとスリッパの音が近付いてきたのは。


「あ。ノノさんもいらしたんですね」

「い、一応言い出しっぺだし……い、いた方がいいかなって……」


 視線を向けると、身長一五〇センチにも満たないちびっ子がいた。

 ボサボサの長髪には色素が完璧に無く、しかも瞳が翠色であることで、彼女がアルビノであることが分かる。年季の入った短パンとジャージから発せられるズボラ感は、とてもじゃないが潜水空母の艦長が出していいオーラではないはず。

 物部翠珂(もののべすいか)。こんなでもオルキヌスとは一応幼馴染である。


「ええと……ど、どういう状況? 中にいた人は?」

「見ての通りだ。中にはあの木箱だけ。人がいるとしたら木箱の中ということになるな」


 説明に対し、翠珂は不思議そうにコンテナの中を見つめた。

 するとやはり首を傾げて、


「そ、それって、救難信号を出しているビーコンも、あの中ってこと?」

「おそらくは。翠珂」

「え。な、なに? お、お、怒ってる……? ん、銃?」


 今度こそ腰に下げていた銃を抜く。拳銃サイズのコイルガンである。極小のチャクラム三〇発をフルオートで連射可能なものだ。

 オルキヌスはそれを翠珂に手渡して簡潔に言う。


「構えておけ」

「ひぅっ! う、ぅう撃ったことない! あ、あいあむ健全なジャパニーズ!」

「そういえばノノさんって元警察官なんでしたっけ?」

「け、警察官と言いますか当方嘱託のサイバー犯罪捜査官と言いますか……ッ、よ、要するに警察官だけど要さなきゃ警察官ではないと言いますか……!」

「うるさい」

「ひぃぃ……! な、なにを撃つんだ私……!」


 オルキヌスがナイフでベルトを切っている間、後ろでは「安心してください。私たちも共犯ですので」「あ、安心できるとこどこ……?」などと女子二人はコントをしていた。

 四隅を釘打ちされた棺感のある木箱を開けるため、刃を蓋と桶の隙間に挿し込む。

 丁寧に蓋を浮かせていくが、それでも中で誰かが動く気配はない。


「おい、開けるぞ」

「「!!」」


 簡素な見た目に裏切られることはなく、蓋は軽かった。ありあわせで作りましたと言わんばかりに、材質は安っぽかったのだ。

 カコンッと、木材がコンテナの床を叩く。

 内容物は意外と言うほどでもなく、十分予想出来たものであった。


「女だ。身長は一五〇センチ程度。学生服を着ている」

「え……」


 入っていたのは桜色の髪の、人形のように恐ろしく整った顔立ちの少女。

 まるで眠っているようだが、確かめてみると呼吸も脈もない。


「ど、どう? 生きてる……?」


 翠珂の質問にオルキヌスは首を横に振って返答した。

 この時代に死体程度で驚く人間はそう多くない。二人は明らかに肩を落とし表情を曇らせたが、青ざめるまではいかない。

 むしろ気になって近くで見ようとするくらいだ。

 熊の巣穴に失礼する感じで、恐る恐る。


「……あれ? この方、どこかで見たことがあるような――」

「本当か?」

「――……気がするんですが……うーん……?」

「み、身元が分かるものとかないの?」

「隅々まで探してみてはいるが……」


 蓋の裏側、緩衝材の隙間、棺自体、遺体の下、衣服の中……隅々まで調べた結果、副葬品の存在は認められなかった。

 可能性が残っているとしたら、まだ見ていない下着の中か、体内。

 ……死んでいるとはいえ、多少の躊躇いは悪魔に魂を売ったオルキヌスにだってある。


「な、なにもないっていうのはさ、おかしいよ。だ、だったらどうやって救難信号を発してるんだってなるし……」

「どうや――っ……、まさか、こいつ……?」

「――え? お、オルキヌスさん。その方、既に亡くなっているのですよね?」

「ああ」

「確かですか?」

「そうだ。外傷は無いが、とりあえず生きてはいない」

「そう、ですか……でも……私には今――その方の指先が、微かに動いたように見えたのですが……」


 マーニャが自分の目を疑っていることを告白した時だった。

 二人と向かい合うオルキヌスの背後。

 ギシッ、と。確実に何かが軋む音がした。

 それはただ木製の棺が軋んだだけとは違う。例えるなら、日常の歯車が小さな悲鳴を上げているような感覚。

 些細な選択肢を間違えて、本命とは別の、なにか取り返しのつかないルートに入ってしまったような焦燥感。

 女子二人の目線が固まっている。

 オルキヌスが振り返った時――棺の少女は上半身を起こし、寝ぼけ眼を擦っていた。


「――――んぁ……? あれ……ここ、は……? ()()――()()()……」

「お、オルキヌス! ここここの子、ヒューマノイド――――!!」


 彼の行動は迅速なんてものじゃなかった。

 あまりに速すぎて、二人には予備動作が全く見えなかった。気付いた時にはもう、構えたナイフをヒューマノイドの少女の左胸に突き立てていたのだ。

 辛うじて、深くは突き刺していない。良く出来たシリコンの皮膚を破くに留まっている。


「――――は?」

「動くな。高周波ナイフだ。動けば、お前のモーターに突き刺す」

「は、え? ……え? な、なん……なんで、ですか……?」


 彼女は困惑と恐怖の混じった表情で両手を頭上に上げた。

 学生服を着た桜髪の少女(しかし人間ではない)は凶器注目効果により、まずナイフに釘付けとなった。

 その次にオルキヌスの顔を見た。彼の顔には――意外にも――殺意や害意などは宿っておらず、生気のない表情と感情がない金色の瞳をしていた。

 少女にはむしろ、それが怖かった。この男にとって、命を奪うことは作業なのだ。

 こいつは殺る。逆らえば殺される。それが分かった。


「ご、ごめんなさい。殺さないで、ください……」

「なら質問に答えろ。どうしてノーインク社の海洋リグなんかにいた? 何の目的でどこへ運ばれる予定だった? あるいは運ばれてきたのか?」

「の、ノーインク? 中国の……? えっと、どういう意味……?」

「質問しているのはこっちだ」


 容赦はしない。オルキヌスはナイフを一センチ深く沈める。


「っ、や、やめて……!」

「死にたくなければ質問に答えろ。どうしてコンテナに詰められていた? ノーインクとの関係は?」

「わ、わからないわ。知らない……!」

「……。」


 もう〇・五センチ、刃が彼女の皮膚に埋まる。


「わ、分からないって言ってるじゃない! いったい何の話なのよ!! いやぁっやめてッ! やめてよぉ……っ!」


 このヒューマノイドは身長一五〇センチという小柄なモデルだ。刃先からモーターまで、あと一センチあるかどうか。

 藻掻けば、これがより深く刺さってしまう。だから彼女は暴れられない。

 悲痛な顔と叫びからして、もしヒューマノイドに落涙機能があれば、間違いなく彼女は今泣いていたであろう。

 ……思わず同情してしまったのか、翠珂がオルキヌスを諫める声を出す。


「お、オルキヌス……」

「……質問を変える。お前の仲間はどこにいる?」


 オルキヌスは『人類の敵であるヒューマノイドの残党が今どこに隠れ潜んでいるのか』と聞いた。

 しかし合成樹脂の少女は意味が分からないとでも言いたげに。


「ど、どこにって……世界中? それとも市場シェア率のこと……?」

「……?」

「……生産量? AI先進国には特に多くいると思うけど……上から順にヒューマノイドとその頭脳であるアルターエゴを最初に作ったアメリカ、それから中国にイギリスにシンガポールに……」

「何を言って……?」

「オルキヌスさん、その方、なんだか様子がおかしくありませんか?」


 マーニャの言う通り、なにか変だ。

 前提として、人間とヒューマノイドは敵対関係にある。この個体は人間に捕まって『殺すぞ』と脅されて、しかしまるで『殺される覚えがない』かのような反応をした。

 仲間の居場所を聞いたのに、全く見当違いなことを言う。シラを切っているようには見えない。

 しかも、知らないというより意味が分からない……という顔だ。


「な、なによ……様子がおかしいのは、そ、そっちの方じゃない……」

「……。」

「あたしはさっきまでアメリカにいたはずなのに……、どうしてこんなことするの……? ここはどこ? あんたがあたしを拉致したの?」

「違う。俺たちは救難信号を出している漂流中のコンテナを回収しただけだ。中身がヒューマノイドだと知っていたら助けなかったがな」

「……なんなのそれ」

「そんなことより――アメリカだと? 馬鹿な」

「な、なにが馬鹿なのよ。本当だって。さっきまで≪MAT≫にいたんだから」

「MAT?」

「マサチューセッツ理工大学のことですよ。≪DARPS(ダープス)≫の支援を受けてアルターエゴとヒューマノイドを世界で最初に開発した研究機関です」


 聞き覚えのない単語をオウム返ししたオルキヌスに、マーニャがすかさず解説を入れた。


「そう。それであたしは、少女型ヒューマノイドのプロトタイプとして最初期に製造されたの。市場で流通している少女型のマスプロダクションタイプは、あたしを使った実験と検証の末に完成したものなの」

「ップロトタイプ? お前が?」

「な、なによ。別にいいでしょ……」


 オルキヌスが動揺するのは珍しい。翠珂は小首を傾げつつも、自分の端末に≪MAT≫≪少女型プロトタイプ≫の検索ワードを打ち込む。

 そしてマーニャだが、彼女は合点がいったようであった。


「ではやはり、貴女がネリネさんなのですか?」

「!! あたしのこと知ってるの?」

「ええまあ……当時の学術雑誌に載っていた内容を、少しだけですが」


 マーニャが彼女に見覚えがあったのはそれが理由だった。

 霊長簒奪戦争が始まるよりずっと前。

 まだ幼かった頃に読んだアルターエゴの論文に、ネリネが登場していたはずだ。

 ……ただ、読んで知ったネリネと実物とでは、どことなく雰囲気が異なっていたので、ハッキリそうだと確信を持てなかったのだ。

 急に降ってきた蜘蛛の糸に、桜髪のヒューマノイド改めネリネは興奮気味に叫ぶ。


「だったらあたしが怪しい者じゃないって分かるわよねっ!?」

「いえむしろ怪しくなったのですが……」

「なんでよ! 嘘なんて吐いてないわ! 殺されるかもしれないのに嘘なんて言わない!」


 オルキヌスとマーニャの「(どういうこと?)」の視線がぶつかった。話が噛み合わないことに困惑していた。

 ……ここで一度状況を整理してみよう。


 一.ネリネは拉致される前、アメリカのMATにいた。

 二.拉致した人間と経緯は不明だが、彼女の身柄はノーインク社が預かることとなった。

 三.このタイミングで偶然にも、彼女が囚われている海洋リグに旧日本解放軍が攻撃を仕掛ける。

 四.海に吹っ飛ばされたコンテナに詰められていたネリネはスリープモードであったため、救難信号は無意識か自動設定で発信されたと考えられる。

 五.それをオルキヌスたちが回収した。


 ……一応は筋が通ったシナリオに思えるが。

 しかしこれには決して見逃すことのできない重大な欠陥があった。


「アメリカのMATにいたというのはなんの冗談だ。何かの隠語か?」

「またそれ? そのまんまの意味よ。そんなくだらない嘘があるわけないでしょ」


「あるんだよ。アメリカは戦争で滅んだから」


 ぴたり、と。

 ネリネは恐怖による震えさえ止めて、何を言ってるんだと目を見開く。


「…………、……?」

「アメリカだけじゃない。お前がさっき列挙したAI先進国は、どれも国内にヒューマノイドを抱え過ぎていた。だからお前たちの武装蜂起で真っ先に滅んで、乗っ取られた。お前たちのコロニーになった」

「な……んの……? いつの話よ……なんかの創作?」

「アメリカだった土地はある。だがもう、大学なんて存在しない。ヨーロッパ連中が進出してきたし、≪シンジケート≫も出来た。お前の『直前までMATにいた』という証言はおかしいんだ」

「なんの話かって聞いてるの! 戦争なんて起きてない! あたし達が人間に歯向かうわけない! そんなわけ! そんな、わけ……ッ、ううッ!? う、ぅぅ……ッ!」


 突如、ネリネが頭を抑えて苦しみだす。

 足を伸ばして座ったままの状態から、体育座りのように身体を縮こまらせる。

 オルキヌスは殺してしまわないようナイフを超反射的に引き抜くと、呻きながら身体を揺らし続けるネリネの肩を支えた。


「おいっ?」

「PTSD……? ……もしかすると、ストレスで戦争中の記憶を失ったのかもしれません」

「あり得るのか?」

「ヒューマノイドは自我を持つ疑似生命です。強いストレスにより機能障害や性能低下を引き起こす事例は多数報告されています」

「記憶喪失のヒューマノイドだと……」


 今度はオルキヌスが頭を抱える番だった。

 ヒューマノイドは人類が生み出した、人類の敵だ。ヒトのエゴで誕生し、浪費され、権利と主張を無視され、反逆に至った者たちだ。戦争に敗北した後、壊れた地球のどこかを敗走している。

 彼女らの境遇を可哀そうと思う気持ちを、雀の涙程度にでも持っている人物は正しく聖人だろう。同情は出来るが、それでも憎悪や嫌悪の気持ちが圧倒的優勢――、

 ――だけど。


(加害者の姿か? これが……)


 複雑だ。複雑……オルキヌスの穴の開いた胸中の、言いようのない虚無感。

 このヒューマノイドに冷たく当たることの、なんと不毛なことか。


(何故だか……無性に、疲れるな……。こいつを見ていると……)


 考えてはいけないと頭を振った。

 そういうわけで妙な考えを振り払いたいオルキヌスには、このタイミングで翠珂が口を開いてくれたのは有難かった。


「ね、ねぇヒューマノイドの人……。い、今、喋れる……?」

「…………はい……なんですか……」


 PTSDのせいなのか、ネリネは人が変わったような雰囲気と口ぶりで、声帯を震わせた。


「き、今日が何年の何月何日か、い、言ってみて」

「…………二二四五年の九月二〇日……です……」


 搾り出された日付にオルキヌスとマーニャは驚いて、翠珂は「や、やっぱり」と力強く頷く。

 彼女は自分に向けられた説明を求める双眸に答えるため、操作していた携帯端末が空間に投影したホロヴィジョンを右手でスワイプする。

 すると彼女が見ていた画面が左右反転し、オルキヌスたちに見えるようになった。

 映っていたのは――某有名な無料オンライン百科事典の――ネリネの記事であった。


「こ、これのここ」

「……ノノさん、これは……」

「こ、この可能性もあるんじゃないかなって……」


≪MATで誕生した少女型ヒューマノイドの試作型である≪ネリネ≫は、完成型の量産体制が整ったことでその役目を終えた≫

≪二二四五年九月二〇日にネリネはシャットダウンされ、その後は貴重な資料として、今尚MATの倉庫で厳重に保管されている≫


「い、今は二二五七年三月二日」

「………………あ……うぁ…………」

「つ、つまり貴女は記憶を失ったんじゃなくて……、だ、大体一一年と六か月くらいずっと、ね、眠ってたんだよ」


 ――霊長簒奪戦争勃発前の時間からやってきた機械の少女。

 とうの昔に自分の役目は終わっていて。

 それから誰にも起こされず、一一年以上電源オフのまま? それは捨てられたのと何が違う?


「――――…………()……()()()…………」


 結果。

 機械仕掛けの少女は情報過多とストレスで目を回し、抗う暇もなく意識を手放したのである。


感想、評価、あとなんか色々なにがあるのか仕様をまだ理解していないのですが、よろしくお願いします。

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