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01【アウトローたちの終末】

初投稿です。お目汚し失礼します。

(※3/10 かなり編集)


 狭いコックピットで人の形をした怪物が目を開けた。

 深い闇のような髪、モデルのような端正な顔立ち、しかし金色の瞳に人間味は宿っておらず、まるで動く死人だった。

 コックピットにはキャノピーも大きなモニターも操縦桿もペダルも存在しない。あるのは近未来的なVRゴーグルだけ。

 小さなバイタルモニターと彼にベタベタ貼られた電極が繋がっていて、雰囲気はコックピットというより生命維持装置に近い。

 VRゴーグル――リンクスギアのサブディスプレイが規則的に点滅した。無線だ。胡散臭い男の声がする。


『此方は旧日本解放軍実行部隊ギンシュ1_ハクボです。傭兵“オルキヌス=オルカ”、聞こえていますか?』

「感度良好。聞こえている』

『確認しました。早速ですがブリーフィングを始めましょう』


 リンクスギアから空間に投影されたホログラム映像が、ただでさえ窮屈な空間を圧迫する。

 映るのは本作戦区域である伊豆諸島近海。

 この辺りはあちこちで海底資源採取のための巨大な海洋リグが建造・増築され続け、せっかくの綺麗な青色の海が穴だらけだ。


『霊長簒奪戦争終結から一年経ちましたが、今度は世界中で人間同士による資源紛争が勃発しているのはご存じでしょう。我が国でも外資系による海底資源の盗掘が大きな問題となっています』

「……表向きは日本再生計画への協力だったな」

『そうです。日本は先の大戦で国土を焼かれた挙句占領され、奴らの拠点にされてしまいましたから……敗戦国の有様です。財政はゴミ。土地は荒廃し人口も全く足りない。場所によっては制御を失った敵の置き土産さえ徘徊している。自力で立て直すのは難しく、外国に支援してもらおうというわけです。国家を挙げたお涙頂戴の募金コマーシャルみたいなものですね』

「……」

『とまあ、ここまではありふれてしまった話です』

「……?」

『本当に善意で協力していただけるのならありがたいことですが、連中は他国の経済水域に介入したいだけのハイエナです。政府が賄賂を受け取っているという噂も、残念ですが十中八九事実でしょう』


 ハクボは見下げ果てた、と言わんばかりの声色だ。無理もないが。


『傭兵オルキヌス=オルカ。貴方への依頼はノーインク社が建造した海洋リグへの攻撃です』

「……」

『役割は陽動。貴方の破壊活動と稼いだ時間次第で作戦の成功率が上がります』

「……了解」

『結構。では仕事を始めていただきましょうか』


 そこで通信が切れ、オルキヌスは「はぁ」と短く嘆息を漏らす。

 霊長簒奪戦争とは――ヒューマノイドによる全世界一斉武装蜂起のこと。

 所謂AIの反乱である。

 彼らにはアルターエゴという、既存のAI技術を大幅アップデートした≪超AI≫が搭載されていた。

 それは人格を形成し、AIに個体としての自我を確立させる。所詮どこまでいっても人間に使われる道具に過ぎなかった従来のAIとは一線を画す疑似生命。

 しかし愚かで悪辣な人間たちは、彼らのことを最新型の奴隷くらいにしか扱わなかった。

 その冷遇は邪悪極まるものであり、人類なんぞ反逆されて然るべきであった。

 災害、病魔、老化……色んな分野に人類の天敵というべき存在はあるが、中でもヒューマノイドだけは自らの意思でヒトを絶滅させようと蹶起したのだ。壮絶な紆余曲折(ここでは割愛)があった結果、人類は戦争に勝つには勝ったが、総人口は二〇億人を切って、一八〇〇年代まで衰退した。

 世界各国の廃墟化は感染症のパンデミックのように留まることを知らず。

 生き残った人間たちは腐敗し、汚染された自然環境では飢饉を避けられず、徘徊する敵の残骸は尚も脅威。

 人々は各地に生存圏を敷き、そこで身を寄せ合い、見せかけの協力の下で暮らしている。

 ――――当然、そうでないアウトローもいるのだが。


『――今更リグを一つ破壊したところで、なにか変化が起こるとは思えませんが……』


 コックピットに静寂が戻ったのも束の間、次は理知的でマイペースに喋る女の子の声が響いた。

 リンクスギアが喋っているのではない。こっちは数少ない仲間からの無線だ。


『マーニャ? お前、艦橋にいるのか?』

『はい。オルキヌスさんの出撃中はハンガーにいても仕方ないですし、だったらなにかノノさんをお手伝い出来ればと思いまして』

『わ、私は潜水艦の操縦に集中したいから……その間マーニャにオペレーターをし、してもらおうかなって……』


 言葉遣いの端々にどこか上品さを感じさせるのがマーニャ(マリヤ)。吃音持ちで幼さを感じさせる女の子が艦長の物部翠珂である。

 三人だけのアウトローチームだ。


『あ、オルキヌスさん。もうすぐ作戦開始時刻なので、リンクスギアを装着してください』

『ああ』


 リンクスギアの正体はBMI機器、つまりはブレイン・マシン・インターフェースだ。

 人間がマシンを操縦するにあたって、その方法が操縦桿やペダルやボタンなんかでは覚える難易度が高すぎると言われる時代。特に直接ヒトが搭乗して操る大型機械などは、時代が進むとともに、もっと直感的に操縦出来るようになって然るべきもの。

 そういうことなので、当時流行していたフルダイブ型VRゲームに着想を得て作られた新しいコントローラーこそ≪リンクスギア≫だった。

 ≪リンクスギア≫の使用者を≪プレイヤー≫と呼ぶ。

 オルキヌスは淀みない動作でギアを被る。すると機械側面の点滅が激しくなる。

 すぐ目の前の画面に。


――プレイヤーの接続を確認。

――ニューラリンク開始……完了。

――仮想コックピット形成中……完了。

――全システム正常に稼働中……リンクスギア_オンライン。


 狭くて暗いだけだったコックピットに青い光が灯った。

 たった今から、搭乗している機体の視界=オルキヌスの視界だ。

 左上に周囲の走査情報が表示されたミニマップ。

 左下から右に向かって機体各部位のコンディションを示すウィンドウ。

 右下には装備中の武器の状態。

 右上には無線やミッションの更新があった際、必要に応じて小さくインフォメーションが。

 ……残念ながら現在出撃ゲート内部に待機中なので、視界が開けたところで特に見どころはない。

 マーニャが言う。


『ノーインク社は戦争需要で業績を拡大させた有数の軍需企業の一つです。表向きは日本と協力してレアアースを守っていますので、防備は手厚く、かなりの抵抗が予測されます』

『しかも陽動部隊は全員雇われと来た。使い捨てる気だな』

『ご無理はなさらないでくださいね?』

『ああ……、翠珂』

『う、一七時、作戦開始時刻だ……。お、オウムアムア浮上。ナノミミクリー解除』


 恒星間天体と同名の潜水空母が海面に浮上。並行して表面の擬態を解き、全長二〇〇メートルにもなる鼠色の輪郭が露わになる。名前負けしない瘦せ細った長躯でありながら、相対した人間にはクジラを前にしたような圧迫感を与える。

 翠珂は深呼吸して。


『き、キャパシタ出力正常を確認……! ハッチ解放、垂直電動カタパルト展開……い、いつでもいける』

「オルキヌス=オルカ、エインヘリヤル、発艦』

『は、発艦ッ!』


 バチィッ!!!! と紫電が爆ぜた。

 空間に投影されたホログラムのガイドに沿って、オルキヌスの駆る人型N兵器アヴァター《エインヘリヤル・カスタム》がレールガンの要領で撃ち出された。

 前大戦時に最も使われた名量産機をマーニャが改良したモノ。ダークグリーンの巨人という異名を持つ。

 全高八メートルほどある殺意の鉄塊は、落下を始める前に背中の翼を広げ、急降下のちに海面スレスレを飛翔した。


「メインウィング出力安定、ジェネレータ、姿勢、火器……パフォーマンスは完全」

『もちろんです。私が診たのですから』


 ブースタが一層火を噴く。

 時速は四〇〇キロを越えた。小細工も何もなく、ただ一直線に目標地点へ向けて飛行し、十数分掛かる距離を全速で突撃する。

 オルキヌスが有視界でノーインク社の海洋リグを捉えたときには、既に他の傭兵たちが攻撃を始めていた。


『傭兵どもめ! 我々がノーインクと知っての狼藉か! 我々は政府から正式な認可を受けて活動しているんだぞ!』


 オープンチャンネルで中年男の怒声が鼓膜を劈く。

 呼応するかのようにリグの防空システムがこれでもかと弾幕を張り、プロペラの代わりに円盤型のフライトユニットが生えた装甲ヘリが傭兵たちにミサイルを撃つ。


(……数が多い。目視で確認出来るだけでもヘリが十数機は飛んでいる)


 敵戦力はまだまだこんなものじゃないだろう。向こうにもアヴァター乗りがいるはず……。

 それに対し、寄せ集めの個人傭兵(フリーランサー)のアヴァターが、オルキヌスを含めてたった四機。

 リグはメインの第一プラントから、第二第三及び居住区へと鉄橋で繋がっており、計四つのブロックから成る。

 一人で一ブロック担当すればいけるか。


『なに? なんだと……? フッ……おい貴様ら、その程度の戦力で……野蛮人め。謝ったって遅いぞ。我が社の防空システムからは逃れられん!』

「チッ」


 舌打ちしたのはオルキヌスもプラント甲板から発射されたミサイルにロックオンされてしまったからだ。

 この上更に装甲ヘリが一機向かってくる。


「ぐ……ッ!」


 飛来するミサイルに対し、オルキヌスは加速を選んだ。全身がシートに押し付けられて呻く。

 正面から降りそそぐ鋼鉄の雨は、間一髪頭上を越えて着水。

 だがミサイルの雨を搔い潜った先に待っていたのは、装甲ヘリによる三〇mmガトリングと多連装ロケットランチャーのスコールであった。


「ッおお!!」


 スラスターを噴かし、海面を滑るように躱す。

 機体を翻し、右手で構えたプラズマライフル(三点バースト)と右肩のミサイルランチャーで応戦。

 しかし敵は全長三〇mという輸送機並みの図体で、信じられないほど素早い。向こうのインターフェースもリンクスギアだからか。

 ヘリコプターはライフルの射線から逃れるように右へ旋回すると、円盤型ユニットの縁から青白い火花を散らす。

 火花は電磁パルスの波となって円形に拡散していき、接触した誘導ミサイルをそこで爆発させた。

 爆炎の黒いカーテンが風に棚引く。


『EMP防空システム……弾道ミサイルによる抑止を終わらせた兵器ですね。高価なのでうちにはありませんが』

『か、悲しいね……敵は使うのに……』


 暢気な無線はシカトして、オルキヌスは僅かに目を細めた。

 狙いがあって――関係ないと言わんばかりにミサイルをもう一度発射。今度は先ほどより二発多く。

 バババババッ!! と凶器を差し向けるも、当然EMPが再度展開され、ダメージを与えることが出来ない。


『――無駄だ。何を考えている』


 敵プレイヤーの嘲笑は、すぐに焦燥へと変わった。

 二発多く撃ち込んだことで、より分厚い爆風のカーテンを引いた。

 視界を遮られ、ほんの一瞬、敵プレイヤーはオルキヌス機をロストしたのだ。


『しまった――――!?』


 時速数百キロで進行する世界の一瞬とはつまり、致命的である。


「――ブースター」


 ボンッッッ!!!! と、煙から真上に飛び出したのはエインヘリヤルだ。

 そこから落下速度とブースタの爆発的な加速で一気に肉薄する。

 振り上げた左腕――プラズマトンファーが唸りを上げて撓った。


『う、ぐぉ、……ッッッ!!!!』


 だが、一刀溶断とはいかない。人体に負荷をかける強引なマニューバで、装甲ヘリが左後方に一歩引いて見せたのだ。空ぶった紫電が虚ろを焼く。

 装甲ヘリのプレイヤーは冷や汗をかきつつも冷静に努めた。

 目の前の――大振りの一撃を失敗し、体勢を崩したエインヘリヤルに銃口を向けようとして――、

 ――攻撃はまだ続いていた。


「――アンカー」


 ぐるり。

 まるでサッカー漫画のシュートシーンだった。

 バーニアを上手く使い、体を捻って、脚部グラップルアンカーを射出。

 無理な体勢に苦悶の声が漏れたが、アンカーは機体尾部に巻き付いて命中した。


『こ、こいつ……っ』

「墜ちろッ」

『なんだぁあああああああああああああああああッ!!?』


 オルキヌスがやったことは極めて単純で、ブースタ全開で急降下しながらヘリを引っ張っただけ。

 要は、海へ引っ張り落とす。


『ぎ――ぃッ、……っ!!』


 仮にヘリのプレイヤーが優秀で、こんな状況でも着水直前でなんとか立て直せそうになっても。


「いいから沈め」


 釘をトンカチで打つみたいに――悪魔がヘリの円盤に勢いよく着地するから、意味がない。

 金属と金属がぶつかる嫌な音と水飛沫。頑丈なだけあって真っ二つとはならないが、だとしても機体はくの字に折れ曲がった。細かい部品と一部の装甲が弾け飛び、直後にざぱんと浸水。

 抵抗虚しく、鋼鉄のハエは、口を開けた海に咀嚼されてしまった。

 そして敵だったものを踏み台にしてオルキヌスは跳躍。再び飛翔する。


「……ふん」


 すぐに砲撃や狙撃が殺到した。

 高所を飛んでいては的になる。すぐに地面効果を受けられる位置まで降下し、アイススケートのような滑らかな軌道で回避していく。

 アラートが鳴る。

 或いは鳴るより早く攻撃を捉えては、生物じみた気持ち悪い動きで次々に対処。視界の端から端まで、黒目が忙しなく動き、躱せないものは撃ち落とす。


(遮蔽が要る)


 そんなわけでプラントの脚部に潜り込むことにする。あの等間隔に並んだ円柱状のぶっとい脚を盾にして籠城出来たらな、とか考えていた。

 海面とプラント底部まで距離約二〇メートル。攻撃を躱しながら滑り込む。


『賊が! やらせるか!』


 プラットフォームを支える柱に囲まれていても、容赦無くミサイルが飛んできた。

 ……というか敵アヴァターも一緒に来ていた。


(? いない……?)


 当初の予定通り脚部を盾にしつつ応戦しようとするも、しかし敵機を確認できず。

 となると、一瞬だが視界左上のミニマップを見なければならない。

 敵機の反応は――。


「――下か」

『死ねェ!』


 海中から飛び出して来たのはスクリュー回転する巨大な水弾。なんとエインヘリヤルと同サイズだ。

 一瞬反応が遅れたことで回避を捨て、右腕のエネルギーバリアを起動。後方へ受け流す。

 すると巨大な水弾から水の鎧が剥がれていき、腕の代わりにエイヒレのような翼を持つ可変機体≪バトイデア≫が顕になる。

 オルキヌスは反射的にプラズマライフルを撃つが、しかし一手遅くそのダークブルーのマシンは再び潜水してしまう。

 それも、エインヘリヤルのレーダーに映らない深さまで。


「くだらない遅延を……!」

『ははは! 賊である貴様に、高貴たるこのオレは捉えられまい!』

『――オルキヌスさん! 囲まれています! すぐに退避を!』

「分かってはいるが……!!」


 エイ野郎を追いかけている場合ではない。

 ジャキジャキジャキッッッ!!!!

 プラント脚部の外側に、オルキヌスを取り囲む装甲ヘリが三機。ガトリング砲にレールガンにミサイルポッドにレーザーガンに……とにかく無数の銃口がこんにちは。

 追い詰められた状況に、時間が止まった。いやスローモーションになった。

 周囲のスキャン情報を確認、把握。オブジェクトの位置と射線、弾幕の薄い方向、回避ルートを算出……完全回避は可能。


(いや違うな。むしろ……こっちか)


 突然、時間が通常速度に回帰する。

 オルキヌスが選択したのはシミュレーション通りの逃げ択……ではなかった。

 エインヘリヤルがブースタを噴き荒らしたのは敵との距離を詰めるため。

 武器を構える暇はなかった。

 だから掟破りの無法タックルである。


『な、なにィィィィッ!!?』

「おァ……ッ!」


 劈く衝突音。選ばれたのはガトリング砲を装備していたヤツだ。

 装甲ヘリ側のプレイヤーに回避行動を取っている猶予はなかった。というより、出来なかった。

 空中を時速三桁キロで取っ組み合いになる二機が上下左右、無茶な軌道を描いてその場から離れていく。

 別のプレイヤーは無線で叫ぶ。


『今のはなんだ!? 速すぎた……反応出来なかった……』

『ショックを受けてる場合か! 何してる! 振り払え!』

『ええクソッ出来ない! ワイヤーが! ああっ!!?』


 オルキヌスは自身が体当たりした敵機にグラップルを巻き付け拘束し、密着したまま左腕のプラズマトンファーを起動させた。

 すると、熱線が鋼鉄をバターみたいに溶かした直後に爆発が起きるわけだが。

 なるべく自機が巻き込まれないよう、瞬時にグラップルの拘束を解きつつ、海面へ向かって爆発物(ヘリコプター)を渾身のパワーで蹴り飛ばしておく。

 ボンッ!!!! と水蒸気爆発が発生した。


「はぁ――ふぅ……! 次……!」


 返す刀で左肩のアンチマテリアル・レールガンを組み立てて、撃つ。

 ガシャコン――――ズゴンッッッ!!!!

 網膜に焼き付くほど眩く白い閃光は、足元から立ち上る黒煙をまあるく抉り抜いて、茫然としていた敵機(レーザーガン装備)を貫く。

 光の柱が突き立った装甲ヘリがどうなるかは、考えるまでもないだろう。


『なんなんだお前……! くそ、冗談じゃねぇぞ!! もうすぐ子供が産まれるってのに!!』


 囲い込んできた最後の一機――レールガン機と目が合う。合った気がした瞬間、敵は脱兎のごとく逃げだした。

 それも全力の遁走だ。ホーミングレーザーとミサイルの一斉発射で足止めしてくる。


「……。」


 が、勿論追撃する。なんか言ってたが逃がさない。まだアンチマテリアル・レールガンの射程内だ。

 この距離、あの速度……オルキヌスは狙撃手ではないし数キロ先の狙撃なんて不得手を逆自負するが、別に本気で当てようと思えば当てられる。


(当てる)


 “ソレ”は起きた。先程と同じ現象が――もう一度、世界の全てがスローになった。

 最速で逃走する装甲ヘリを、レティクルのセンターでは捉えない。所謂偏差撃ちだ。計算は完璧。必ず当たる。外す隙は一切ない。

 なかったのだが――、


「……。」

『賊めが!! 死――――ッ?!!』


 ――オルキヌスは何の前触れもなく、唐突に機体ごと一八〇度振り返った。

 するとほぼ同タイミングで、先ほどプラントの脚部で襲ってきたアヴァター(バトイデア)が、スラグショットガンを構えて海中から跳び出してきた。


 ちょうどレティクルのセンターに収まるように。


 ギュゥウンッッッ!! と紫電が迸って爆ぜた。あまりの弾速に、空間自体に一本の弾道が焼き付いて出現したかのようだった。

 瞬きの時間もなく、続けてアヴァターが一機、木っ端微塵に破壊される。ジェネレータが大破した重機械が、内側から膨張して吹き飛んだ。無残に焼けたパーツが太平洋に散骨される。

 脱出は……間に合っているようだ。


『オルキヌスさん。ミッションは殲滅ではなく陽動ですからね?』

「……そうだったな」


 飛んでいくコックピットブロックに合わせていた銃口を下ろした。

 感情のない金色の瞳は、人殺しを全く躊躇していない。




◇◆◇




 結果を言うと、オルキヌスにとってはぬるい任務だった。被弾はほぼ無し。余裕で生存した。

 ダークグリーンの巨人は海面上をふわふわと飛行し、オルキヌスは現場を俯瞰する。

 作戦時間は約四〇分。現在は三月なので、もうすぐ日没。視界不良の観点と終息した戦局からみて、さすがに今から増援が来ることはないだろう。

 結構プライドが高そうな奴がオープンチャンネルで威張っていたはずだが、本隊が挟みに来た途端意外にもあっさり降伏した。おかげで想定よりレジスタンス側の被害は少なく済んだはずだ。

 それからというもの、旧日本解放軍は何隻もの船舶でリグを取り囲み、海水を放射。或いはヘリから消火剤を落として消火活動を行っている。

 モニタリングしているマーニャから。


『どこにでもいる普通のレジスタンスかと思っていましたが、かなりの規模だったんですね。これなら、このままリグを奪い取っても運営は可能でしょうが……成功させて良かったのでしょうか……』

「さあな。どうでもいい」

『もう。実際に戦っているのはオルキヌスさんなんですから。もう少し真剣に考えてください』


 呆れているのか怒っているのか。気品のある柔らかな声色からは判別つかない。

 鼓膜に馴染む良い声は、しかし胡散臭い男の声に代わった。


『――個人傭兵(フリーランサー)各位。作戦は成功です、ご苦労様でした。報酬は契約通り、本日中に≪S銀≫の口座に振り込ませていただきます』


 それは任務終了を意味する無線だった。

 マーニャは安堵を隠さずに言う。


『……ともあれ、お疲れさまでした。待っていますよ』

「ああ。帰投する」

『き、帰投ストップ。ちよ、ちょっと待って……!』


 弛みかけていた空気をキャプテン翠珂が引き締めた。


「どうかしたか?」

『あ、あのさ。きう、救難信号が出てて……えっと……』

「ノーインク社のモノだろ」

『そ、そうかもなんだけど、ち、ちょっと変っていうか……』

「変?」

『は、発信源がね? リ、リグから少し離れてて……その……たぶん戦闘中にリグから吹っ飛ばされたんだと思うんだけど……』


 翠珂は勿体ぶるように一拍置いて、


『ひ、漂流中のコンテナの中から発信されてる……』

「なに?」


 それはコンテナに人が閉じ込められているということだろうか。

 世も末ならば、人身売買はポピュラーな犯罪ではある。


『ど、どうする……? しれっと回収してみる?』

『しれっといけますかね……?』


感想、評価等、色々お待ちしてます。

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