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勝てない君と負けない僕

作者: 小雨川蛙

 

「ねえ、聞いたよ」


 突然、僕は訓練場で声をかけられた。

 見れば同い年と思わしき少女が剣をこちらへ向けながら微笑んでいる。


「あんた、訓練生はおろか教官でさえ敵わなかったんだってね」


 噂が回るのは早いものだ。

 確かに僕は昨日、教官相手に摸擬戦をして勝利を勝ち取っている。


「その強さ。私の相手に相応しい。私とも戦ってよ」


 いや、いきなりそんな事言われても……。

 そもそも君の名前も知らないのに。


「無視してやり過ごすつもり?」


 ちげえよ。

 混乱してるんだよ。


「ま、いいか。どうせ、こうして攻められたら!」


 いきなり飛びかかってきた。

 こっち武器も握っていないのに。


「そう! あんたも対処せざっ!?」


 そして、武器なしであっさり制圧。


「やっ、やるじゃない……」


 これが僕と雑魚キャラの出会いだった。



 *



「おはよう」


 昨日の事をもうすっかり忘れたと言わんばかりに彼女が話しかけてくる。

 あんな完敗してよくもまぁ、のんきに話しかけてこれるものだ。


「昨日は油断したけどね、今日はそうはいかないよ。そもそも昨日の私は手加減を……」


 寝ぼけ眼をこすりながら僕は彼女を無視して顔を洗いに行く。


「ちょっと聞いているの!?」


 返事していないから聞いていないのはわかりきっているだろうに。


「このっ!」


 ――からの暴力。


「なっ!?」


 ……からの制圧。


 痛みで動けなくなっている彼女をそのままにして僕はようやく顔を洗うことが出来た。



 *



 試合場での決勝戦。


「やっぱりあんたなのね」


 傷一つない僕とは対照的に満身創痍の彼女が不敵に笑う。

 君、さっき教官に『もう棄権しろ』って言われてなかったっけ?


「うれしいよ。正直、ライバルのあんたが弱いと私だって恥ずかしくて仕方ないからね」


 その言葉そっくりそのまま返したいところだよ。

 僕は棄権を勧めようとしたが、彼女ときたら開始の合図も待たずに斬りかかってきた。


 戦場なら正しい判断だ。

 なにせ、まともにやりあったら彼女に勝機などないのだから。


「ふぐっ!?」


 だけど、ここ試合場だよ……。

 案の定ブーイングの嵐。


「やっ、やるじゃない。それでこそ私のラ、イバ……る……」



 *



 それから僕は正式に兵士になって。

 それから数多の戦場を駆けて将となった。


「勲章の数が増えたね」


 戦場から帰還した僕を迎えた彼女が言った。

 こんなもんジャラジャラしてて邪魔なだけなんだけどな。


「だけど、私も負けちゃいないよ?」


 そう言って彼女はグイっと体を前に出して見せつける。

 確かに彼女は成長している。

 色々と。


「さて。帰ってきたばかりで悪いけど、いい加減、私達の内どちらが強いか決着をつけない?」


 これまでに百戦以上戦っていてその全てで僕は勝利しているんだけど、彼女は一体何を言っているんだろうか?

 そもそも僕、本当に帰還したばっかりで疲れているんだけど。

 ていうか、明らかに君はそれを狙って――。


「オラァ!!!」


 疲れ切ったところを……それも不意打ちで狙い……挙句の果てに返り討ちにされる君を見て部下たちは幻滅しているんじゃなかろうか。

 少し心配になりながら気絶しそうに朦朧としている彼女を抱きかかえた。


「まったく」


 飽きれながら僕は呟く。


「君、弱いんだからいい加減、僕に絡むのやめてよ」

「よっ、弱くはな……」

「はいはい」


 最早名物となっているらしい光景を見せつけながら僕は玉座へと向かった。

 きっと、王はいつものように呆れて言うだろう。


『それ、戦利品?』


 って。



 *



「ところでさ」


 ある時、彼女とお茶を飲んでいた時に僕は遂に聞いていた。


「君、なんで毎回僕に絡んでくるの?」


 すると君は肩を竦めて笑う。


「その質問が出るってことが私はうれしいよ」

「どう言う意味さ」

「幸せもんだね、あんた」


 そう言って君は言った。

 どことなくドヤ顔で。


「私もそうだったからわかるの。強い人ってね。孤立しちゃうんだよ」

「強い人? 私もそうだったからわかる?」


 腑に落ちない顔をする僕を無視して君は言った。


「私もさ。あんたに出会うまで周りの誰よりも強かったからわかるの。強さは孤独だってね」

「僕は別に孤独を感じたことなんてないけど」

「だからね。あんたの存在を知った時に私は決めたの」


 僕の声なんて聞こえていないように君は話を続ける。


「あんたのライバルになってやろうってね。あんたを絶対に孤独になんかさせないって!」

「いや、だから僕は別に孤独を感じては……」

「うるっせえなあああ!? あんたから聞いてきたんだから最後まで話を聞けよぉ!!」


 殴りかかってくる君を今回もあっさりと制圧しながら僕はようやく気付く。


「……確かに。考えてみれば少なくとも退屈とは無縁かも」


 二人して王都でも重要なポジションになっているのに出会った頃のようなやり取りをする。


「で、でしょ……? だから、私にもっと感、しゃ……を……」

「でもうるさいのは勘弁してほしいんだけどなぁ」

「退屈よりずっとマシなはずよ……」


 君の声を言葉を聞きながら僕はため息をついた。

 確かにそうかもしれない。


 王都の人々は今日も今日とて僕らのやり取りを見て呆れていた。

お読みいただきありがとうございました。

色々とオチは考えてみましたが、結局この尻切れトンボ感が一番この二人に相応しいと思いました。

日常は続くよ……みたいな。


ごめんなさい。

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