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『君に愛される価値はない』と婚約破棄されましたが、助けてくれた冷徹公爵様の心の声が『尊い』とピンク色で大暴走している件【シリーズ】

【ヒーロー視点】冷徹公爵の脳内はピンク色でした。「なぜ私を好きに?」と聞かれたので、隠れてタルトを頬張る姿(ハムスター)を見て「尊い」と限界化した日のことを話します。

作者: 文月ナオ

こちらは、

『『君に愛される価値はない』と婚約破棄されましたが、助けてくれた冷徹公爵様の心のテロップが『尊い……息ができない……結婚したい』とピンク色で大暴走している件について』

のヒーロー(カシウス)視点の番外編です。

本編をお読みいただいてからの方が、よりニヤニヤできる仕様になっております!


▼本編はこちらから▼

https://ncode.syosetu.com/n8515lo/

 

「……カシウス、ひとつ聞きたいことがあって」


 穏やかな午後のティータイム。


 窓から差し込む柔らかな陽光が、俺の婚約者であり、世界で一番可愛いララを女神のように照らしている。


 彼女は飲みかけた紅茶のカップをソーサーに戻すと、不思議そうに小首を傾げた。


「ずっと気になっていたのですが……カシウスは、いつ私のことを好きになってくださったのですか?」


 ブッ!!


 と、俺は優雅に味わっていたダージリンを噴き出しそうになるのを、超人的な身体能力と鉄の意志で堪えた。


 危ない。もう少しで愛しの婚約者に紅茶の霧を浴びせるところだった。


「……なんだ、突然」


 俺はハンカチで口元を拭い、努めて冷静に問い返す。


 鏡を見なくてもわかる。俺の顔は今、いつもの「無表情(鉄仮面)」を完璧に維持できているはずだ。眉間の皺一つ動かしていない自信がある。


 だが、俺の脳内はすでに大惨事カタストロフィだった。


『(ぎゃああああああああああああああああ!!)』


 脳内テロップが絶叫する。


『(質問が可愛い! 上目遣いが凶器! なに!? その純粋な瞳は! 「好きになってくださった」って何その謙虚な言い方! 違います! 俺が勝手に落ちたんです! 貴女という底なし沼に頭からダイブして埋まったんです!! 好きなんて言葉じゃ言い表せないんだよ!!)』


 俺の頭上に、ショッキングピンクの極太テロップがミラーボールのように乱舞しているのが視えているのだろう。


 ララが「ふふっ」と肩を揺らしてくすくすと笑う。


「ふふ、また凄まじい文字量ですね。狂気的なほどの愛を感じます。……それで? きっかけは何だったんですか?」


 きっかけ。


 俺は、フッと小さく息を吐き、わざとらしく遠い目をした。

 その方が、かっこいい感じがするからだ。


 それは、まだ彼女が「地味で可愛げがない」と周囲の節穴(バカ)どもに蔑まれ、俺が「氷の処刑人」として世界を呪っていた、数ヶ月前の夜会のことだ。





 ◇◆◇





 その日、俺は最高に機嫌が悪かった。


 王城の大広間で催された夜会。

 煌びやかなシャンデリアの下、着飾った(貴族)どもが欲望を隠そうともせずに蠢いている。


 彼らの頭上に浮かぶ『媚び』『金』『権力』『嫉妬』というドス黒い欲望のオーラ(※俺には文字として見えないが、雰囲気で痛いほどわかる)に、反吐が出そうだったから。


「……下らない」


 俺は吐き捨てるように呟き、喧騒を逃れるためにバルコニーの影へと移動した。

 冷えた夜風に当たって、この鬱屈した気分を冷まそうとした。


(あーあ。どいつもこいつも、見栄ばかり気にして……ほんとくだらん)


 ふと、視線を横に逸らす。


 そこで、見つけてしまった。


 重厚なベルベットのカーテンの陰。

 煌々とした光が届かない死角に、一人の令嬢が隠れているのを。


 ララ・クロフォード。

 あの愚物(ゴミ)・ラルコフの婚約者だ。


 社交界では「地味で暗い女」「可愛げのない石人形」だと噂されていたが……。


(……何をしているんだ?)


 俺は気配を殺して観察した。泣いているのか? それとも誰かを待っているのか?


 だが、違った。


 彼女は、会場の隅で、一心不乱に皿の上の料理を見つめていたのだ。


 周囲の令嬢たちは「私、少食ですの~」「ダイエット中ですの~」と嘘をついて、皿にグリーンピース一粒しか乗せないようなアピール合戦をしている中、彼女だけは違った。


 彼女の皿には、一口サイズのフルーツタルトが山盛りに積まれていたのだ。


 サッ。


 素早い動きで、彼女はタルトを一つ、口に放り込んだ。

 誰にも見つからないような、神速の早業だった。


 そして、モグモグ、モグモグ。


 リスか?

 いや、ハムスターか?


 彼女は頬をぷっくりと膨らませて、必死に咀嚼している。


 その目は真剣そのものだ。「味わう」というよりは、「摂取する」という気迫に近い。


 この退屈でくだらない夜会の中で、彼女だけが「食」という根源的な営みに全力を注いでいる。


 その時、彼女の近くをラルコフ(ゴミ)が通りかかった。

 派手なドレスを着た別の女とイチャつきながら、ララの方を見て鼻で笑う。


「見ろよ、あんな隅っこで。華がない女だ」


 聞こえよがしの悪口。

 普通の令嬢なら、泣くか、怒るか、恥じて俯く場面だ。


 だが、彼女は違った。


 彼女は、口いっぱいにタルトを頬張ったまま、パンパンに膨らんだ頬で、ラルコフの背中に向かって――スッと「虚無の目」を向けたのだ。


 その目は、雄弁に語っていた。

 『どうでもいい』と。

 『お前の相手をするくらいなら、このタルトのクリームの甘さを味わう方が有意義だ』と。



 ――ズキュゥゥゥゥン!!!!



 俺の心臓が、撃ち抜かれた。

 脳天に雷が落ちたような衝撃だった。


 なんだその「生命力」は!

 周りの着飾っただけの人形みたいな奴らとは違う!


 理不尽な扱いを受け、蔑まれ、婚約者に裏切られても、彼女は泣き寝入りなんてしていない。「食う」ことで抵抗しているのだ!


 そのふてぶてしさ!

 その逞しさ!

 鋼のメンタル!


 そして何より、モグモグしている時の、小動物のような愛くるしさ!


『きゃ……きゃわいい……ッ!!』


 俺の脳内で、理性のブレーカーがバチンと音を立てて落ちた。


 灰色だった視界が、一瞬にして極彩色に――いや、ネオンピンクに染め上げられた。


『なんだあの生き物は! ハムスターか!? いや天使だ! 間違いない、あの頬袋に詰まっているのはタルトじゃない、夢と希望だ!』


『強い! あんな仕打ちを受けても折れていない! 推せる! 一生推せる!』


『もっと美味いものを食べさせてやりたい! 俺の屋敷に来い! 専属シェフを雇うからぁ! その頬袋を最高級のタルトでパンッパンにッ! 満たす権利を俺にくださぁいッ!!』


 世界が、変わった瞬間だった。

 俺は震える手で壁を押さえた。膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。


 だめだ、尊すぎて直視できない。眩しすぎる。でも見る。ガン見する。目が離せない。


 あの日、あの瞬間、俺は誓った。


 この「逞しくて可愛い小動物(天使)」を、何があっても守り抜くと。


 誰が何と言おうと、俺が彼女の……この、天使よりも天使なララ嬢の頬袋を守護するんだ!!


 あぁ、ララ嬢! タルトと一緒に俺も食べてくれ! 咀嚼してくれ! いや、むしろ俺が食べたい! 俺のタルトになってくれ!  ララタルト!


(※当時の俺は、本気でそう考えていた。ちなみに気持ちは今も変わっていない)





 ◇◆◇





「……というわけだ」


 俺は回想を終え、努めて平静を装って(装えていないが)答えた。


 ララが、ポカンと口を開けている。


 手にしたカップがカタカタと震えているのは、衝撃のせいか、それとも笑いを堪えているせいか。


「えっ……。り、理由が……『食べてるところがハムスターみたいで可愛かった』……?」


「訂正しろ。ハムスターではない。天使だ」


 俺は真顔で即答した。そこは間違えてもらったら困る。あの瞬間、俺は彼女に一世一代の一目惚れをしたんだから。


 でも……。


『(もっと高尚な理由を言え俺のバカ! 「花を愛でる優しさ」とか「凛とした立ち振る舞い」とか言えばよかった! 他にも褒め言葉はいっぱいあるだろう! でも嘘はつけない! あの時の君の必死なモグモグ顔は、俺の人生を救うほど可愛かったんだ!!)』


 頭上のテロップが、滝のように高速で流れていっているのが見えなくても分かる。


 『可愛い』『尊い』『モグモグ』の文字がゲシュタルト崩壊を起こしているのが自分でもわかるから。


 ララはしばらくパチパチと瞬きをしていたけれど、やがて「ぷっ」と吹き出した。


「ふふ、あはは! もう、なにそれ!?」


 彼女は目尻に涙を浮かべて笑うと、テーブルの上のクッキーを手に取った。


 そして、パクっと一口で口に入れる。


 サクサク、モグモグ。


 うぉぉぉぉ!! 可愛いぃぃ!! 食べてる姿だけでこんなに俺の心臓を握り潰そうとするなんて、キミはどれだけ罪深い天使なんだぁ!!


 あの時と同じように、頬を少しだけ膨らませて、彼女はにっこりと、悪戯っぽく笑った。


「じゃあ、これからもたくさん美味しいものを食べさせてくださいね? 私の飼い主様」





 ――ズキュゥゥゥゥン!!!!(二回目)





 破壊力が桁違いだ!

 今の笑顔は、あの夜会の時の「抵抗のモグモグ」ではない。俺だけに向けられた、「幸福なモグモグ」だ。


『結婚しよう!! 今すぐ!! 教会はどこだ!! いやもう俺が教会を建てる!! 地球ごと抱きしめたい!!』


 俺がテーブルに突っ伏して悶絶したのは、言うまでもない。


 ああ、今日も世界はピンク色だ。

 俺の天使の頬袋が満たされる限り、この世界は平和なのだから。

 

【1/4追記】

続編となるアフターストーリーを投稿いたしました!

本編に負けないボリュームなので、読み応え十分だと思います!


【アフターストーリー】勘当されたはずの厳格な父が襲来しましたが、心の声が「娘LOVE」の極太マゼンタ文字でした。婚約者のショッキングピンクと混ざって、ただの視覚的公害です

▼リンクはこちらです▼

https://ncode.syosetu.com/n1471lp/


──────────────────

お読みいただきありがとうございます!


カシウスがララに落ちた理由は、まさかの「食い気(頬袋)」でした。

限界オタク公爵のちょろい(?)脳内を楽しんでいただけていたら嬉しいです。


【お知らせ】

このお話と本編をまとめた「シリーズ」を作成しました!


シリーズ機能を使うと、二つの作品を行き来しやすくなりますので、ぜひご活用ください。


もし「笑った!」「カシウス可愛い!」と思っていただけましたら、

ページ下部の星評価【★★★★★】にて応援していただけると、作者の頬袋も喜びで膨らみます!


★評価は『星1つ』からでも、とても嬉しいです!泣いて喜びます!

面白かった、続きが読みたい、と思ったら、ぜひポチッとお願いします!


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― 新着の感想 ―
イヤだ早い!イヤだ嬉しい!前編を何回も読んでいたので、見つけて思わず内容見ずに、下までスクロールして星5つつけちゃいましたwww なんと、そんな理由で…公爵様が仰っていたララの「凛とした強さ」が予想の…
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