廃校の影
掲載日:2025/11/06
深夜の廃校には薄明かりを灯した懐中電灯が、廊下に落ちていた。
私はそれを拾い上げると、長い廊下の先を照らした。
点々と浮かぶ赤い模様。
それは黒みを帯びて光り、まだ滴り落ちてから数刻しか経っていない。
月明かりもない暗黒の廊下。
進むたび、ギィと軋む床が、まるで何かの“喉”のように震える。
腐った木の匂いは、生温い呼気のようにまとわりつき、平衡感覚を奪っていった。
やがて、赤い模様は線となり、奥へ奥へと続く黒い影に溶けていた。
影に懐中電灯を向けると、まるで光そのものを食べているようだった。
私は影に手を伸ばす。
触れた瞬間、冷たさも熱もなくなった。指先から“時間”が漏れ出すような、奇妙な静けさがあった。
だんだん意識が朦朧となり、さらに深く手を沈めたい欲求にかられていく。
次の瞬間、鋭い痛みが走る。
咄嗟に手を引き抜くと、指先から血が滴っていた。
懐中電灯を取り落とし、私は逃げるように廊下を駆けた。ドプンッと後ろで音がした。
まるで、何かが喉奥で唾を飲み込んだような音だった。
──カタンッ。
深夜の廃校に、物音が響く。
懐中電灯の薄明かりだけが、まだ息をしていた。
その明かりは暗闇の奥で、誰かを誘うように、ゆらりと揺れた。




