72話 帰宅
-----(清見視点)-----
迷宮から戻った途端に熱を出して仏間で寝ていた3日間。その間に事件があったそうだ。
それも、俺が関係している?
まさか、俺が夢遊病のように眠った状態で大暴れしたとか? そうか、それで人質をとって『アイス持ってこーい』とか『うどんを要求する』とか言ったのか。
いや、俺が暴れても高が知れているな。あ、じゃあポヨン君達が?
「ポヨン君達が俺の代わりに暴れちゃった?」
「何を言ってるんだ。ポヨンさん達は大人しかったぞ。大人しかったと言うか、実に献身的に清みんを看病していた」
「ええ、びっくりしましたね。スライムにあんな使い道が!」
えっ? ポヨン君達にどんな使い道?
「清みんのおでこ乗ったり脇に挟まったりして、熱を下げてた」
そう言えばスライムってひんやりした触り心地だ。
「あ、ありがとね、ポヨン君」
近くに居たポヨン君を持ち上げてお礼を言った。じゃあ、あとは何だろう?
「清みん、すっかり忘れてるみたいだけど。迷宮で拾ったろ。ウリ坊」
ああっ! 忘れてた、拾いました。ウリ坊5匹。
「ごめん……、誰か面倒見てくれてたかな。ご飯とか」
「それは、隊のほうでしっかりと、面倒みさせていただきました」
「ただ、ねえ?」
「はい。その……」
ん? 3佐の歯切れが悪い。言いにくい事?
あ、逃げちゃったとかか。
まだ飼い始めたばかりだもんね、仕方がないよね。
「今、こっちに連れて向かってます」
えっ? 逃げたんじゃないの?
としたら、何だ? 怪我した……とか? あ、まさか、誰かに怪我させちゃった?
避難民の誰かに噛みついて怪我させたから、捨ててきなさい、って事かぁ。
うわぁ、寝込んでいたとは言え、責任もってちゃんと世話出来なかった俺のせいだぁ。
怪我した人に謝りにいかなきゃ。
ピギー
ピギャギャ
ウリ坊の鳴き声がした仏間の外に目をやった。
1、2、3、4、5。うん、5匹。
「…………??? うり…ゆ?」
ピピっ!
「うりい?」
ぴぎっ!
「うりま、うりり、うりっし」
ぴぃ!
ピーギー!
ピヒャ!
「なんでえええええええ!?!????」
「落ち着け、清みん」
「落ち着いてください。いえ、我々も驚きましたけど」
う、ううう、ウリ坊!
拾った時は体長10cmくらいで片手のひらに乗るサイズだった。
今、目の前、仏間の前にいるのは、ウリ坊なんだけど、模様も見た目の可愛さもウリ坊のままなんだけど!
サイズが、サイズが……、3〜4mくらい無いか?ミニバンと同じくらい、いや若干小さいか。
「何で? 何食ったらそんなにデカくなるの? ご飯、何あげてたの?」
「普通に我々と同じ物です。それとポヨンさん達が取ってきた魔物、それは我らも食べています」
「そうなんだよなぁ。食べものが原因なら俺ら人間も巨大化してもおかしくない」
「そ、そそ、そうだね。俺の身長はこっちにきて伸びてないな」
俺は慌てて仏間の柱で自分の背を測った。裕理君と背比べで印をつけた柱に並んだ。うん、俺のラインのままだ。
「こちらの生物は急激に成長をするのかもしれないな。でないとこの世界は生き残れないんだろうな」
「そうですね。幼体など真っ先に狙われますね」
そ、そうだね。うん、狙われる前に大きくなったのか。良かった。
でも、大きくなりすぎじゃないか?
「ああああ……」
「どした、清みん」
「俺ってば、ウリ坊の可愛い期間をスマホに撮っておくのを忘れたあああああ。飼い主失格だ」
「あ、大丈夫です! 自分が撮ってあります! 送りますね」
自衛官のひとりが手を挙げた。ウリ坊を預けてた人だ。
けど、電波の無いこの世界で、どうやって写真データを送るんだよぉ。
俺は思い切り息を吐き出してから改めてウリ坊ズを見た。
目がクリンとしている。大きくなっても可愛いからいいか。
「清みん、ウリ坊らとはまだテイム状態なんだよな?」
「うん? テイムとかどこにも出ないけど、呼んだら返事したから仲良しのままだと思うよ?」
「なら。ねっ、3佐」
「ですね。やりましたね」
大島氏と3佐がニヤリとした顔で見合っている。何だ? どうした?
「清みん、ウリ坊ズで仏間を引けないか?」
おおおおお!
おおう、なるほど!!!
「やってみる」
自衛隊では既に想定済みなのか、ロープのような物が仏間に取り付けられていた。
仏間のガラス障子が進行方向になるようだ。それらをウリ坊ズに取り付ける。
その場に居た自衛官達が仏間の中に入る。俺も畳の縁に腰掛けた。
「ウリ坊ズ、前方に、歩いてみて」
ズズズズ……
最初はゆっくりと、しかし仏間はしっかりと進んでいった。
スピードを徐々に上げて、さらには森へと突っ込んでもみた。
ウリ坊ズはなるべく仏間と近い位置で引かせる。
木が邪魔にならないように両端に2頭ずつ、中央に1頭だ。
ウリ坊ズが避けた木も仏間の謎シールドに弾かれて飛んでいく。
何度か戻りつつ、何人まで乗せられるか検証をした。
コアラパンダだけだと直線以外は止まってしまっていた仏間だが、ウリ坊ズが仏間の進路をコントロールする事で、コアラパンダが補助に入っても仏間が止まる事はない。
ウリ坊ズ(5頭)に、コアラパンダ5体。
仏間に託児所をくっつけて引く事になった。それにより避難民は一度に半数を運ぶ事が出来る。
ニッポンへ2往復で済む。
しかも、うちの子になったウリ坊ズが主体で引いてくれるので俺も仏間に乗っていられる。
もちろんミニバンのように底にタイヤがあるわけではないので、あそこまでスピードは出せないだろう。
だが、片道徒歩5日よりはずっと良いはずだ。
避難民の残った半数(自衛隊が多い)は、電車の車両で待っていてもらう。コアラパンダも一体、残る。ミニバンも一緒にニッポンへ向かう。
「ラクだねぇ。嬉しい。楽チン楽チン。あ、うりゆー、疲れたらちゃんと教えてな?」
ピギィィ
仏間を引いて走っているウリ坊に声をかけた。元気な返事もあった。
ポヨン君は俺と一緒に仏間にいる。フルフルさん達は仏間の屋根だ。
仏間には避難民達と若干の自衛隊もいる。託児所の子供達(保護者も)は押入れに居る。時々バウンドする仏間で泣き出す子がでるかと思いきや、キャーキャーと楽しそうな声が聞こえた。
途中、2度の休憩を挟んだ。ウリ坊ズを見たが元気そうだ。ポヨン君達に森でカニを取ってきてもらい、焼きガニにした。
ウリ坊ズも美味しそうに食べていた。
本当に食べ物で成長したんじゃ無いよな? これ以上大きくなったらどうしよう。マンモス欲しいと思ったけど、今のサイズで充分だ。
「もう一踏ん張りしましょう」
3佐に声をかけられた。
「はい。みんな、頑張ってね」
森を駆け抜ける。高い木の上の方から落ちてくる魔物が下に着く前には通り過ぎている。
ウリ坊ズ及びコアラパンダの機動力よ。凄いな。
それとウリ坊の毛は思ったほど硬くない事がわかった。背中あたりはしっかりとした毛だが、顎とか耳の下とか腹は柔らかい。
大人になったら硬くなってしまうのだろうか。サイズ的には充分大人だが。
ニッポンの迷宮の地上部が見えて来た。病院や保育園だ。機体もある。
そこに沢山人がいるのが見えた。
大勢の人達が待ち構えていた。
夕方という時間的にも、迷宮の地下10階層、ニッポンに居るはずの人達。それが地上に居た。
その中に、兄貴の姿を見つけた。裕理を肩車している。他のママさん達もいる。
スピードを徐々に落として、ニッポンの上部へと到着した。皆が寄ってくる。こちらも仏間から避難民達が降りていく。
抱き合ったり手を取ったりして喜んでいた。
俺ももちろん、兄貴から裕理を渡された。いや、裕理は兄貴の子なんだけどな。
「きいたんきいたん、おかえり。ぽーよんくんおかえりぃ」
はぁ。頑張って良かった。
「清みん、お疲れ」
大島氏に肩を叩かれた。
「うん、大島氏も。お疲れさま」
「まだあと一往復あるけどな」
言わないでえええええええ。でも、俺、頑張ったよね?
完




