71話 事件
-----(清見視点)-----
迷宮の地上へ出た。
俺たちは自衛隊と共に電車の避難所へと戻った。もちろんそこに仏間がある。
ニッポンへの移動計画の話を詰める前に俺は熱を出して寝込んでしまった。
仏間の押入れに布団が敷かれて俺はそこで休んでいた。
熱を出すのはいつぶりだろうか。
この世界へ転移してくる前、地球での生活が夢の中で走馬灯のように浮かんでは消えていく。
職場でインフルエンザが流行った。流行ったのは誰も休まなかったからだ。あの職場では『休み=ずる』みたいな暗黙のルールがあった。
誰かがインフルに罹患する。出勤するから当然まわりに広がる。そして蔓延するのだ。
あの時もおでこに冷えロンを貼り解熱剤を飲んで働いていた。
39度以上が何人いたか。その頃には上司のパワハラやら同僚の嫌がらせもあったので、こんなに辛い思いをしてまで働く意味はあるのかと、朦朧とする頭でエンドレス自問自答をしていたな。
心配した両親から休むように言われたけど、何かに負けるのがくやしくてムキになってた。
それでネカフェに1週間泊まったんだった。誰かが救急車を呼んでくれたみたいで、気がついたら病院だった。
親にもネカフェの店員さんにも大迷惑をかけた。ずっとあとで聞いたけど、両親がちゃんとネカフェにお礼とお詫びに行ってくれたって。
あのネカフェ、大学時代もよく篭ってた。漫画の品揃えも良かったなぁ。熱下がったら行こう。
熱……、小5の時に風疹が流行って、うちのクラスは学級閉鎖になったんだ。俺は早い段階で熱と発疹が出て学校を休んだ。だから学級閉鎖の時はもう元気だったから儲けたって思った。
けど、そのあとに『お前が流行らせた』って学級会で攻められたっけ。『クラス全員にアイス奢れ』って言われて、泣きながらアイスを買いに行った。
スーパーのレジのおばちゃんに何か聞かれて支離滅裂に答えたら、すぐに学校に話がいって大騒ぎになった。
あの時買ったアイス、どうしたっけ? アイス食べたいなー。シンプルなバニラアイス。母さんに言って買ってきて貰おうかな。
『あんたは季節の変わり目になると熱出すわねぇ。ちゃんと寝てなさいよ。お母さん、今日は仕事休むから』
『帰りに何か買ってこようか? 清見、何がいい?』
あれはいくつの時かな。父さんに何を頼んだんだっけ? バナナだったか?
『白くてつるん? 何だそりゃ』
ああ、そうだ。熱で食事が喉を通らなかったから、そんなリクエストをしたっけ。結局、父さんが買ってきたのはうどんだった。
冷やしたうどん、食べたいなぁ。わかめと揚げが入ってるやつがいい。
目が覚めたら仏間の天井が見えた。知らない天井でも病院でもない見慣れたうちの仏間。
開け放たれたガラス障子から外が見えた。
うん。地球じゃない、謎の異世界。
あれ? 俺、押入れで寝なかったか?
「清みん、起きたかー」
「あ、ごめん。俺ぐっすり寝ちゃった」
「うんうん、ぐっすり眠れて良かった。熱は下がったか? 36.9か。ギリ平熱だな」
大島氏は見たことのない体温計を俺のデコでピピっとやった。病院から持ってきたのか?
「もしかして俺、熱出した? その、季節の変わり目は熱が出やすい体質なんだ。今って地球時間で季節の変わり目……かな?」
「季節というより世界が変わっちまったからなぁ。清みん、3日寝てたぞ?」
3日。………みっか! 嘘だろ、寝過ぎじゃん、俺。
「ごめ、そんなに寝っぱなしでごめんなさい」
俺が仏間を引いて避難民をニッポンへ連れて行く予定だったのに、出発に遅れが発生?
「アイスもうどんも無くて申し訳ないが、今、胃に優しい食事を用意してもらうから待ってて。ほら、水分はちゃんと取れよ」
大島氏からペットボトルの水を渡された。
「うどん? アイス?」
「寝言でさー。アイス買ってきてとかうどん作ってとかさー」
俺は慌てて飛び起きて土下座した。
「すすすすすみません。3日も寝ていた上に我儘?を言ったみたいで」
出て行った大島氏が食事を持って戻ってきた。3佐達も一緒だ。
俺は慌てて再度、頭を下げた。
「これを食べながら聞いていただきたい。実は清見君に大事なお話があります」
「そうだよー? 清みんが寝ている間に事件があったんだよ」
事件?
何? 俺、寝ている間に何かしちゃった?




