5話 細かい事は気にするな
-----(清見視点)-----
大島氏の話に遺跡から上がってきた隊長も加わった。
「あちらで生活をおくれる事を基本に、まずは土建に力を入れるようですね」
そうだよな。民間人も自衛隊もこれからそこで生活をしていくんだから、当然、家や共同の建物は必要だ。
「建築資材もあちらの都市で用意をしてもらえるんですか?」
「材木も地下都市で取れるのかしら……」
「いえ、建築資材は概ね自分らでの調達になります」
「そうなんだよな。日本のように木材や石材がほいほい手に入る感じじゃない。3佐もそれに頭を痛めていたよな」
「はい。木材に限らずコンクリなども手に入らないかもしれません。我々はまだこの世界を知りませんし、初めて出会った彼らに連れて行かれたデスエという一都市しか訪れておりません」
「デスエはさ、地下都市と言っても地下にある不思議空間だった。あ、スマホで撮ってきた」
大島氏が自分のスマホを差し出した。ママさん達がそれに群がり頭をつけ合わせている。
俺……宿でゴロゴロしたり、街を散策したのに写真を撮り忘れたああああああ。おのぼりさんの片隅にもおけないです、ごめんなさい。あ、宿の食堂のご飯を撮ったものなら数枚ある……。けど、今は出しづらい。
「すみません……。自分は宿の荷物にスマホを忘れてしまいまして、映像を撮っておりません」
あ、隊長、ダメ、ソレ言ったらダメ。
ほら、みんなが期待の眼差しで俺を見るじゃん。
「あ、あの、俺、その」
「清見君も、身ひとつでしたから!」
隊長が慌てて俺の代わりに言い訳をしてくれた。
俺はありったけの勇気を出して、スマホを差し出した。ドドとクサが俺のスマホに飛びついた。
楽しそうに画像を操作していた顔がすぐに曇った。
「こんだけ? えっ、これしかないの?」
微妙な表情でこっちへ返そうとしたスマホをトイレママさんがスッと横から取り写真を見た。
「あらまーっ、美味しそう! これって向こうの食事?」
「え、どんな? 見せて見せて」
「シチューかしら?」
「もつ煮込みっぽくない? デスエの郷土料理かしら」
ママさんらが俺のスマホを覗き込み楽しそうだ。まなちゃんやりこちゃんも母親のとこに寄ってきて一緒に覗き込んでいる。
「おいしそー」
「かれえ? これかれえ? ママ、かれー食べたい」
「清見くんたら、もう。食事の写真はもっと撮ってきてよ!」
「は、はい。ごめんなさい」
予想と違うところで怒られた。
ドド達は隊長に別の質問をしていた。
「現地の人と話した? 自動翻訳なんだよな、凄いよなぁ。俺の耳にもそれ、ついてるかな」
「だよな、気になるなぁぁぁ。話してみたい。あ、清見兄貴は向こうの人と話した? どんなでした?」
「いや、俺より、大島氏や隊長のほうが沢山話したよ、きっと……」
「スキルとは違うんですよね。転移特典かなあ、自動翻訳」
「異世界転移特典ならさ、ストレージとかアイテムボックスがあってもいいよなぁ……。俺、無いんだけど。実は持ってる人とかいるかな」
「シショーとか、持ってそう」
クサが俺のほうを見ると、皆の視線がまた俺に集中した。
「持ってませんっ!!! 無いです」
「ふーん。いいけど。 師匠何気に色々ちいとだからな」
チートじゃないし、持ってないし。
裕理君が俺の膝を踏んで立ち上がり、俺に視線を合わせた。
「きいたん、かれえ? かれえもってる?」
持ってないですー。カレーも、アイテムボックスも持ってないですぅ。
「デスエに行けば色々と聞けるぞ。俺らが移動する迷宮はデスエから近いからな」
「それで、建築の資材はどうするの?」
鮎川さんが話題を戻した。
「そもそも迷宮自体が不思議空間だそうなんです。地下都市は、地面を掘ってそこに都市を造ったわけではない、らしいです」
「どういう事?」
「ザッとした聞き齧りで翻訳も誤訳がある事を前提に話しますね」
流石だ、大島氏。大島氏は元サラリーマンから元エリートサラリーマンへとランクアップした。あの短期間でどんだけ情報を入手したんだ。
「掘らない……それは、元からあった鍾乳洞や洞窟を利用して地下で暮らすようになったって事?」
「半分当たりってとこかな。間違っている残り半分は、鍾乳洞や洞窟は『元からあった』のではなく、『迷宮』を踏破すると確立する空間らしいです」
「じゃあ、地下都市は全て、迷宮だったって事?」
「情報が少ないので、この世界全てかはわかりません。迷宮を説明するのにロープで例えたので、迷宮は『細い通路』を連想させてしまったかと思いますが、そうでも無いんですよ。そのロープは太さがもうまちまち、『紐』とはいえないくらいの広い空間も多く存在しているそうです」
「蟻の巣みたいなイメージかな」
「ああ、そうですね。近いかもしれない」
「自分も宿の店主に聞いた話ですが、デスエはかなり大きな地下都市ですが大昔に踏破される前は迷宮だったそうですよ。今居る人達の何世代も前の話だそうです」
へぇ、隊長、いつの間に。うん、俺が部屋で寝てる間にだな。
でも土建の話なのに、何で大島氏は迷宮の話をするんだろう。
「デスエの街は……そうだな、地球でのイメージだとエーゲ海のサントリーニ島に近いかな。白い建物の街、ご存知ですか?」
「知ってる知ってる。素敵よねえ」
「え、サントリーニみたいな街なの?デスエって」
「素材は全く違うと思いますがあんな感じです。そして、その素材、家や建物を形造る素材は、迷宮素材なんだそうです」
「迷宮素材? 迷宮から採れる素材?」
「石の切り出しかしら」
「近いけど、それも半分は当たりで残り半分ははずれ。迷宮が踏破されると、迷宮内に形作られる建物のようなモノが残るそうです。その後にそれらを補強したり増設したりで街にしていくそうです。ほら、外にある遺跡、中に建物っぽい壁や仕切りが残っていたでしょう? 残っている部分は迷宮由来の部分だそうですよ」
「そういう事」
「なるほどねぇ」
え、皆さん、理解が早いな。俺、ちょっと置いてけぼり中。そもそも、エーゲ海はわかる。海外のどこかの海だよな。
でもそのサントリーの街は見た事ないのでイメージが出来ない。今はもうスマホで検索も出来ない。誰かが書籍を持っていない限り見れないのか。
で、迷宮踏破すると、迷宮内にモコモコと建物が出てくる?
まぁ、迷宮自体が普段から魔物をモコモコと出してるらしいから、そういう物と思うしかないか。
「あ、つまり、そういう事か。生きている迷宮は魔物を生み出しているけど、踏破された瞬間、余ったパワーで街を生み出すのかっ!」
「清みん……。あってるような?違ってるような?」
「あらでも、なんかストンと落ちるわね」
「そうね。そうかそういう事か」
「あはは、まぁ、そんな感じで、俺たち日本人が貰う予定の迷宮は踏破済みなんで、サントリーニ島になりかけみたいな中途半端ではあるけど土台はあります。それをこれから自分たちで整えていかないとならないそうです」
「で、その材料は?」
「近くの別の迷宮、生きている迷宮から採れるらしい。もしくはデスエを通しての購入ですね」
「購入……日本の借金になるわけだ」
「そこは、空間スキルから採れる物が高値で取引されるので、頑張って再生していく方向ですね」
「土建はわかったわ。他には? 私たちの今後の衣食住」
 




