4話 この世界で
-----(清見視点)-----
遺跡に戻ってきた。
お尻は痛いし、身体はガチガチ。すぐにでも畳で寝たいが、チェラのお世話をしないと。半分寝落ちした状態でチェラ達に回復をかけてまわる。(気持ち程度)
ダイソナーは遺跡とデスエの行き来のために自衛隊に数体を貸してくれているそうだ。
まだ昼過ぎだが、俺はヨレヨレと遺跡の外へと向かう。勿論兄貴が迎えにきてくれていて、兄貴と山根さんに両脇を支えられている。山根さんはこの世界に転移した当初から一緒にいる元消防士だ。
大島氏も誰かに支えられて一緒に仏間へとあがった。
最近昼間は保育園で過ごしている裕理も、ママさんの誰かが仏間へ連れてきてくれていた。
久しぶりに裕理と昼寝をした。
「清見、どうする? 夕飯だけど起きられるか? 今夜はこのまま寝ておくか?」
兄貴の声で目が覚めた。身体はまだまだ寝たがっていたが、頭はスッキリしている。
あ、スキルチェック。
よっし、スキル仏間はまだあるぞ。
5日、いや、6日近く留守にしたのだ。スキルが消えているかもしれないと覚悟はしていた。
覚悟はしていたけど、やはりスキルがまだある事にホッとする。
大島氏は起きて畳の上でストレッチをしていた。近くで子供らも真似ている。裕理も気になっているようだが俺にピッタリとくっついたままだった。
兄貴はそれを見て笑った。
「清見が出かけて2日目に、裕理が清見を探し始めてな。遠くにお出かけだって言うと一旦は納得するんだが、しばらくするとまた聞いてくるんだ。きいちゃんは?って」
「そうねぇ。あちこちに聞いて回ってたわ。きいちゃんどこ?って」
仏間に居た風呂ママさんも笑っていた。
「昨日あたりからぐずり出してな。きいちゃんがいない、きいちゃんがいないって」
「うちの子にも移っちゃって」
「そうそう。子供らできいちゃんいないーって大泣きの大合唱。保育園から園長先生が出てきて宥めていたわ」
うわ、トイレママさんにキチママさんにもご迷惑を……。大変申し訳ございません。
見ると仏間には顔見知りな子らが全員集まっている。大島氏とストレッチをしながらもこっちをチラチラと確認している。
俺は裕理君を抱っこしてみんなの方へと向かい、大島氏を真似てストレッチをする事にした。
足を投げ出して座った俺の股の間に裕理が入り込んで同じようにストレッチをする。それを見たまなちゃんらも俺の足や脇にピッタリとくっついて座った。
「あの、これじゃ、ストレッチできないよ」
そうしている間に仏間に夕飯を運んできてくれて、久しぶりにみんな一緒の夕飯になった。
ドドやクサの高校生コンビも居る。鮎川さんや倉田女子、杏や紬の小学生組もだ。
ドド達はデスエの話を聞きたがり、大島氏が話していた。助かった。ずっと宿に居た俺も聞きたかったんだ。
「まだ、本決まりじゃないんだけど、ここだけの話って事で」
そう前置きをして大島氏は色々と話し始めた。
俺たちが住む事になる踏破済み迷宮だが、500人はゆうに入れる広さだそうだ。
地上に近い階層は上からの危険がある。各都市を繋ぐ10階層より下が良いと助言があった。
階層と言ってもビルや建物のような感覚ではない。鍾乳洞が渦巻きながら下へ伸びているイメージ。
未踏破迷宮は渦巻いた一本のロープ状態。例えば12階から13階へ降りるには、一本道を進むしかない。
だが踏破すると中央の石段が繋がる。踏破前は繋がっているようで繋がっていない螺旋階段であったが踏破された瞬間に螺旋階段として確立する。
つまり迷宮内をショートカットで他の階層へと移動できる。
俺たちが貰った迷宮は踏破済みだから普通の螺旋階段になっているそうだ。
「いつか未踏破迷宮の螺旋階段の写真を撮りに行きたいなぁ」
「清みん、いつか踏破したい、じゃないんだ? いつか写真を撮りたいなのか」
「踏破なんか目指さないよ。観るだけ。見て写真撮る」
「この世界じゃスキル持ちは普通って本当なの?」
ドド達は異世界のファンタジーな部分に興味深々だ。迷宮がありスキルがある。これは男心を揺さぶる。
「赤ん坊のうちにスキル石を使うそうだぞ」
「え、マジか」
「まぁ! 生後何ヶ月からかしら、うちの子もスキル取った方がいいの?」
ドド達に加えてママさんらも慌て出す。
「待って待って。俺達より先に裕理や郁未がスキル覚えたらヤバイじゃん」
「それって『物理攻撃(微)か、ゴミめ……』とか言われちゃうじゃん! ヤバイぞ、俺ら抜かされるぞ」
「民間人の、しかも子供がスキルを入手するよりまずは、住むところを何とかするのと、自衛隊の人達のレベル上げが先だなぁ」
大島氏は、この世界で入手するスキルより、空間スキルの有用性について語りだした。
「この世界のスキルについてはまだ情報が全然入ってきてないが、俺たちが持ってる、俺達と言うか、清みんやママさん達の空間スキルだな、アレはこの世界でもかなりレアっぽいようです」
この世界には俺たちの空間スキルのように、何かが定期的に再生するとかはないそうだ。少なくともデスエ近隣の都市では聞いた事もないと驚いていたそうだ。
自衛隊でも会議によく上がるそうだ。
この空間スキルの恩恵がいつまで続くのかわからないが、なるべくこのスキルを継続させたいそうだ。
最短でも、この世界で俺たちの生活が軌道に乗るまで。
自分たちで食糧を賄えるようになるまで空間スキルに残ってもらいたい。
俺たちはある日突然、謎の現象でこちらへとやってきた。
また突然に戻れるならよし。しかし戻れない場合は。自衛隊は戻れない場合も考えて色々模索しているらしい。
まずはこの世界での食糧生産。農地、苗や種は用意してもらえる。ただし無料ではない。珍しい地球の物資と交換だそうだ。
そこで空間スキルの物資再生が役にたつ。地球で当たり前のものでもここでは珍しいからだ。
「清みんの花笠なんか、凄く注目されているらしいぞ?」
「え……なんで?」
「花笠にポヨンさんを乗せていただろう? どうもテイムの道具のように思われたらしい」
「え、や、違うよ? 押入れから花笠を発見するよりポヨンさんとの出会いのが先だし……」
「花笠の方が先じゃないか?」
「え、そうだっけ? でもでも、ママさん達は花笠なくてもバスグリンちゃん達をテイムしたよね?」
「そうよね」
「ええ、私たち、清見君ほど勇気はないもの」
ええと?待って? 何の勇気? その話の流れだと、スライムに挑む勇気じゃなくて、花笠かぶる勇気に聞こえるけど?
ママさん達がみんな目を逸らした。
「大島氏。誤解はちゃんと解いたほうがいいと思う」
「そ、そうだな。アレかぶってスライムに突っ込んだら危険だな」
「そうですよ。日本の信頼にもおけますから!」
花笠の言葉が皆の口から出たからか、押入れから裕理が花笠を持ってきて俺に渡した。
「ん。ん」
……ありがとね。
被った。
どこからかポヨン君が飛んできて上に飛び乗った。
子供達から拍手が湧いた。
大島氏が話題を変えてくれた。大島氏の優しさだと思ってる。たとえ、口の端がピクピクしていても。
「迷宮なんですが、踏破済みでも薄いシールドがあるそうなんです」
シールド? 聞いた事ないな。踏破済みって事はこの遺跡にもあったのか。
「まぁ、薄いので効力はそこまで期待できないそうですが、小物の魔物……虫や小動物は防ぐそうなんです。つまり、踏破済み迷宮は地上からは入ってくる事はない。ただ、この遺跡がそうですが、たまに大型が落ちてくるそうです」
「重量級の魔物は防げない程度の薄さって事?」
「重さ、というよりは、大型魔物同士で地上で揉めてシールドを突き破るとかだそうです。普通に重い魔獣が通りかかるだけなら天井を踏み抜く事はめったにないそうです」
ん?めったにって言った? めったにって事は、たまにはあるうんだ?
俺の言いたい事がわかったのか、苦笑いを返しながら続けた。
「まぁ、たまにはあるみたいです。そういうことも加味して迷宮に街を造る時は10階層くらいの深さにするそうです。なので俺らがこれから行く迷宮も、そのくらいの深度に街を造る予定らしいです」
ふと思ったんだけどさ、巨大な魔物が落ちてくるのを前提に街を造るくらいなら、地上部の樹木を根こそぎ無くしたほうが安全性も上がらないか?
アイツらって木の上に居るイメージだし、木が無ければ魔物も虫も寄ってこなくない?
え?それも想定済み? なるほど、流石は国を守る人達だ。
ちなみにこの世界の植物は頑丈だ。と言うかある程度以上に育つとどんどんと強固になるらしい。
どうりで仏間の庭の雑草が手強かったわけだ。
地球の日本の平均サイズをレベル1として、レベル3を超えるともう地球の手には負えないそうだ。
「日本の平均サイズって何のサイズ?」
「ああ、植物の強さ、だって。手で引っこ抜けないし鎌で切るのもかなり力がいるらしい」
それじゃ雑草が生えまくりになるじゃん。草刈りどうするんだよ!
「なんか聞いた話によると、こっちでは専門家が鍬や鋸に魔力を通して使うらしいよ?」
「何の専門家だよ!」
「あれかな、緑の手の持ち主とか」
「スキルに庭師とかあるのかも」
「あら、でも確か日本でも国家資格とかあったわよね」
資格とかレベル上げとかなんかちょっと、ね……。
俺、異世界でもひきニートでいいや。
-----(異世界人視点)-----
不思議な国から来た彼らのひとりがかぶっていた帽子。『花笠』と呼んでいた。あれは魔力で覆われていたのがハッキリと見えた。
それに彼らから入手した物は全てではないが、魔力に覆われた物が多い。
魔力に覆われていて、そして他からの魔力を弾く、不思議な物体だ。




