36話 異世界コアラ
-----(大島視点)-----
進んでいた行列に3佐からストップがかかった。
森の中で見づらかったが、前方は木が密集しているようだ。
それらの木は樹木の太さはそれほどでもなかったが上の方の幹には結構な数の魔虫が集まっていた。木によっては魔獣もいるようだ。
「……コアラ、あれ、コアラだよね?」
隣に居る清みんの口から呟きが漏れ聞こえた。
うむ? あの特徴的な鼻、体毛や木への掴まりかた、確かに地球のコアラに似ている。
「コアラも異世界転移してきたのかな?…………コアラ界にも異世界ファンタジーとかってあるかな」
ぶほっ
誰かが吹き出した。
『異世界に転移したコアラだけどユーカリある?』
ブホッ プッ
誰だ、変なタイトルを口にしたやつ。周りから吹き出す音が増えた。
「俺じゃないよ? 今の俺じゃない」
隣で清みんが必死に否定していた。
わかってる。隣に居たからな。声は後ろ方向から聞こえたな。
「けれど、あの位置であの大きさです。降りてきたらかなりの大きさだと思われますね」
「熊くらいですかね」
「熊でも大型のやつと同じくらいの体長はありそうです。それと爪。ここからもハッキリ見えるくらいの異常な長さの爪、本場のコアラでもあれほど凄くはなかったです」
「凄いなぁ、3佐、本場のコアラを見た事あるんだ?」
清みんが3佐を羨ましそうに見た。きっと自衛隊の何かの出張でオーストラリアあたりに行ったんだろう。
「清みんもほら、今は本場の異世界で、異世界コアラを見れてるじゃないか」
「異世界コアラ……」
一瞬微妙な顔をした清みんだったが思い出したようにスマホを取り出して写真を撮り始めた。
しかし、それどころではない状況で、絹田3佐は素早く隊員達に指示を出していく。
「避難民は全員、仏間へ避難させろ。物理攻撃が弱の者、経験値が低い者は仏間へ避難。チャイルドシートも柱から外して押入れに確保。避難民も入れるだけ押入れへ避難させろ」
「自分は動けます!」
バスがあった場所に居た自衛官達も戦う側にまわろうとしたが3佐は許さなかった。
「せっかく助けた命をここで失う愚行をする気はない! 指示あるまでは仏間で待機を命ずる」
慌ただしく自衛官達が動き出して清みんはようやくあまり良い事態でない事に気がついた。
大量の魔虫に、初めてみる種類の大きな魔獣。
「清見君と長谷川さんは大島君に密着してボックスから出ないようにお願いします」
「絹田3佐、ふたりも一旦仏間に避難させては? その方が俺も動きやすい」
「あの、あの、手は離していいのかな」
清みんがオロオロと聞いてきたが、さっきスマホでコアラを撮った時に既に仏間から手を離しただろ。
たった今、手を離していた事に気がついて驚いていた。
「長谷川さんもバンから手を離してください。長谷川さんは仏間へ避難してもらいましょうか」
「あ、俺……は」
「清見君は大島君と一緒に最前線でスライムの指示をお願いします」
清みんの表情が手に取るようにわかった。『ひえぇぇ』って顔だな。
長谷川さん(ミニバンのママさん)を仏間へ移動させようとした時に上からボタボタと魔虫が落ちてき始めた。
魔虫は直径15〜20cmのアブラムシに似たヤツだった。大きさはそれほどでもないが爪と牙はある。人間は容易に噛みつかれて食べられてしまいそうだ。
清みんのバッグからポヨンさんが飛び出す。清みんの恐怖を感じとっているのだろうか。仏間の屋根にいた他のスライム達も落ちてくる魔虫に体当たり、包み込んで溶かしている。
しかし数が多い。前衛の自衛官達も、『ニッポン』迷宮の宝箱(ゴミ箱だったが)から出た武器を手に戦い始めていた。因みに武器は修復済みだ。
俺は長谷川さんを連れて仏間へと近づこうとしたが、俺のボックスと仏間の間に複数の魔虫が固まって落ちてきて道を塞がれた。
清みんが硬直して動けなくなる。
「清みん、清みん、ちょっ、あそこまで歩いてくれ、仏間のガラスのとこまで」
「無理無理無理無理、足の踏み場がない。虫踏んじゃう! 足食われるぅぅぅ」
そうなんだよ、俺のボックスの弱点は床なんだよなぁ。ハッキリ床があってくれれば助かるが見えないだけに、はみ出やすい。それは清みんも十分すぎるくらい知っている。だから進めなくなってる。
どうする、あの塊を迂回して……と思っていると、塊が地面でばらけた。余計に広がってしまい移動が難しい。
「むぅ、このままでいるしかないですね」
背後にいた絹田3佐もその判断しかかいようだ。虫に囲まれた。
ミニバンがある長谷川さん側の地面の方は魔虫が比較的少ない。
「3佐! ミニバンに長谷川さんを避難させましょう。ミニバン自体もセーフティゾーンのはずだ。攻撃は防げると思います」
「そうだな。大島君、バンへ寄るぞ。長谷川さん、バンへ接触したらドアを開けてすぐに中へ入ってください。ドアに鍵はかかっていませんよね?」
「気をつけろ!!! そっちに行ったぞ!」
誰かが叫んだ声がした。




