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22話 転移①

 -----(誰視点?)-----


 あの日、何が起こったのかわからないが気がついたら変な場所にいた。


 森……なんだが、ここは地球の森なのか?

 いくら思い出そうとしてもどうやってここに来たのか全く思い出せない。


 ひとつだけ思い出したのは、空から黒い大粒の雨のような物が降り注いだ風景だ。

 そうだ、俺の頭上にも黒い雨粒が降ってきたんだ。



 そして次に目覚めた時はこの森にいた。



 人の叫び声で、自分以外にも人が居る事がわかった。

 立ち上がり声のした方へ向かうが、直ぐに踵を返した。


 叫び声の主はとてつもない大きさの化け物に襲われていた。


 無理だ。

 助けられない。


 俺は木の陰にしゃがみ込むと震える膝を抱え込んでジッとしていた。

 怖さで動けなかった。

 まるでパニック映画にでも出てくるような巨大な虫に襲われていたのだ。見つかったら次に食われるのは俺だ。


 宇宙生物、実験によって生み出された生物、その手の映画が頭をよぎる。

 主人公はどうやって助かった?



 ようやく震えがおさまってくると、周りが静かな事に気がついた。

 そっと木の幹の陰から顔を出した。何も居ない、何も無い。

 さっきのは夢だったのかと思うくらいだ。


 大きな虫に襲われていた人が居た場所にそっと近寄ると、荒れた地面に血溜まりがあった。


 俺は吐いた。


 やはり誰かが襲われていた。

 けど死体はない。持っていったのだろうか?

 引き摺った跡はない。



 とにかくここを離れようと周りを見回す。

 上を見た時に、木の幹にとまっているソレが居た!


 音を立てないようにそこからゆっくりと離れた。

 だが上を見上げるとそこかしこにソイツらが居るのが見えた。


 何だよ、ここはぁ!


 木にとまっているソイツらを見たくなくて、木のない方……木のない方……へと進む。



 どのくらい歩いただろうか。木が減り背の低い植物が多い場所に出た。

 その植物の中に見慣れた物を発見した。


 車だ。

 走り寄った。

 窓から覗くと中に人が居た。後部座席に親子がいた。


 俺は窓をゴンゴンと叩いた。

 そんなに力を入れたつもりはなかったが叩いた音に自分が驚いた。


 中に居た女性も驚いて目を開けた。

 ウインドウが下げられた瞬間、お互い一気に話をした。したが、話は同じところで結局不明のままだ。


 そう、『突然、ここに居た』。



 とりあえず、車の中に入れてもらえた。


 車は動かないそうだ。

 俺は助手席に座った。親子は後部座席に居る。



 少しして窓を叩く音に自分が寝ていた事に気がつく。

 窓を叩いていたのはふたりの女性だった。

 俺らと同じく通勤途中で突然ここに居たそうだ。


 小さな車の後部座席はチャイルドシートと母親がいる。助手席には俺が座っていたので、空いているのは運転席のみだ。

 だが、女性はふたりだ。


 俺は車を降りて助手席を女性に譲った。

 今のところ、寒さ、暑さを感じなかったので俺は外で車に寄りかかる感じで地面に座った。


 何度か、話はした。


「ここはどこか」

「どうやってきたのか」

「スマホが使えない、どうやって救助を呼ぶか」

「助けを呼びに行くか、ここで待つか」



 結局誰も答えなかった。



 ここは、見た限り建物も何も無い草原だ。そしてその向こうが俺が出てきた恐ろしい森。

 今夜はこのまま過ごすとして、明日はどうにかしないとな。水も食料も無いんだ。


 夜中に何度かぐずった子供を抱いて母親は車の外に出てきた。

 何とかしないと1番先に危ないのは赤ん坊だ。明日は近辺を探ってみるしかない。




 明け方、人の声で目が覚めた。


 男性の声だった。数人がこちらへと向かってくる。窓を叩きドアに施錠をするように伝えた。相手の正体が不明だ。同じ被災者であるだろうとは思うが念のためだ。


 やってきたのは制服を来た消防士と警官だった。

 助かった、救助か、と思ったのも束の間、彼らも俺たちと同じ遭難者だった。



 喉も乾いたし腹も減ったが何も無い。

 母親は赤ん坊にミルクをあげていた。良かったな。予備を持っていたのか。母親がしきりに首を傾げている。


 それから「こんなんしかないけど」と、助手席を譲った女性から飴を渡された。

 ありがたい。何も無いより飴ひとつでも助かる。


 警官や消防士にも渡していた。自分の分はあるのか?

「自分だけ食べるなんて出来ないよ」

 その女性は笑っていた。



 俺は消防士達と手分けしてこの付近を探りに出かけた。ただし、昨日の恐ろしい体験は伝えてある。



 特に何の発見もないまま車へと戻った。

 腹が減った。

 このままだと動けるのもあと2、3日が限度かもしれない。


 車へ戻ると人が増えていた。皆、あの謎の黒い雨の前後の記憶が曖昧だそうだ。



 遅れて戻ってきた消防士からバスを発見したと聞いた。

 ここからは見えないが少し森に入ったところだそうだ。


 バスもやはり動かなくなっている。乗客の半分はどこかへ行って戻らないそうだ。合流すべきか。どちらにしても食べ物はない。


「1箇所にまとまっていた方が救助されやすいかと」

「それにバスだと全員が中に入れるわね」

「私……子供の荷物も多いし……」

「大丈夫ですよ。俺が持ちますから」



 消防士に説得されて全員でバスへと移動した。


 そこにあったのは、バスと言っても街中を走る巡回バスではなく観光バスのようだ。

 これは助かる。座席もリクライニング出来る。運転手は居ないようだ。


 残っていた乗客に話を聞くと、観光旅行の最中だったそうだ。

 突然世界が変わり、この変な森に居たそうだ。そこらは俺らと同じ体験だ。


 乗客の中で体力のある人達が救助を呼びに出たそうだ。


 バスの前部分、ガイド席の後ろのボックスにはペットボトルの水が入っていた。助かった。とりあえず水分は取れた。

 菓子の包みもあった。観光先で寄る土産屋の物だそうだ。ガイドの若い女性が残っていた。


 味見としてお菓子を食べさせる事で購入に繋げるそうだ。

 それも開けられて皆へ配られた。救助に出ている人の分は残しても十分に数はあった。


 そして戻ってきた運転手達の話に、かなり多くの要救助者が居る事がわかった。救助者ではない、救助を待つ者だ。


 だが、その中には自衛隊も居る事がわかった。雨風が防げるこの場所をキープしつつ、あちらとも合流をはかる。そんな感じであちこちで救助待ちの簡易避難所が出来た。




 それからは避難生活が始まった。

 自衛隊により水場が発見され、火を起こし、食べられそうな物も集められた。


 どこにも連絡が取れない以上、とにかくここで生き残る手段を探す。自衛隊が居てくれる事が皆の支えになった。とは言え、それでも勝手に行動をして戻らない者も出た。


 食べた事のない草や、ただ獣臭いだけの肉、人間は空腹が究極まで来るとそんな物を口に出来るようになるから不思議だ。

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