21話 現実?の迷宮
-----(清見視点)-----
「思ってたのと違うね」
ダンジョンに入ってすぐにそんな言葉が口から出てしまった。
「うーん、ある意味思ってた通りとも言える。異世界ファンタジーよりも現代ファンタジーの、『日本にダンジョンが出来た』系小説に近くないか?」
「ん? どういう事?」
「ほら、低層階は初級レベルで混み合ってるあれだよ」
「ああ! なるほど」
そっか、そうだ。ファンタジーでも現代日本を舞台とした小説かぁ、日本のそこかしこにダンジョンが出来て、国民が割と気軽に入れる系だな、うんうん、確かにそんな感じ。
デスエからダイソナーで10分ほどで着いた迷宮、何だっけ、細いとか不遜とかそれと似た名称だったな。
あ、看板見っけ。『フォソーン』だ。
文字にすると俺にはそう見えるけど大島氏にも同じに見えてるのかな?
大島氏って発音が良いんだよね。外国人……異世界人のネイティブっぽい。あ、デスエのネイティブがよくわからないけど。
痛っ。
下唇を噛んでフォソンのふぉを発音しようとしたら噛みすぎて血が出た。
もうやだ。外国語嫌いだ。
10階層の通路は混み合っていた。
割と気軽な感じでそこかしこに人が居る。年齢もかなり若い子が多い。若いと言うか子供だよな?
しかもソロっぽい。案内人にゾロゾロと着いていく俺たちが大人なのがちょっと恥ずかしい。見られている。
「あ、ほら、清みん、あそこ」
大島氏に言われて顔を向けると小学生くらいの女の子2人が、小さいネズミのような動物を叩いていた。ネズミが光っていたのでかろうじて魔物だとわかった。
倒せたのかその子はネズミから何かを拾い上げて喜んでいた。
「石が出たみたいですね。まぁまだこの時点では何石かは不明ですが出ない事も多いので獲れたらラッキーですよ」
案内人が説明をしてくれた。そして少し奥を指差した。
「ほら、あちらでは鉱石を発見したようです」
しゃがんでいた男の子が立ち上がって喜んでいた。
俺らがいくら初心者でも、ここでやるのはちょっと恥ずかしいな。自衛隊の人達も同じように感じたのかモジモジしながら案内人に問いかけた。
「あの、もう少し大人の居る場所は」
「ではこのまま進み下へ降りましょうか。と言ってもここはまだ若い迷宮なのでそこまで強敵は出ませんよ」
強敵じゃなくていいんだけど、大人が居る狩場がいいです。
その後、下の階に着いても、10代前後だったさっきの階層より、10代半ばになっただけで、若者な狩場である事には変わりなかった。
しかし自衛官達は楽しそうに狩っていた。俺はもちろん見学だ。
だって俺は後衛だから。
今回デスエに来た目的『冒険者登録』は済んだし迷宮の見学も出来た。俺はさっさとニッポンへと戻らせてもらった。
自衛官数名と大島氏は迷宮を幾つか経験するそうだ。
俺はニッポンでやる事が多い。昔のように引きこもっていられない。と言うのも毎日地上へと行き来するからだ。
空間スキル保持者は、そのスキルを消さないために、『5日ごと』に地上の建物へと顔を出す。自衛隊員達は地上の建物へは日参している。再生した物資を持ち帰るためだ。あの凄い数の石段を毎日上り下りとは本当に頭が上がらない。
なのに俺と来たら「階段が辛い」と、ちょっと泣き言を言ってしまった。本当にちょこっと口にしただけなんだよ?
そうしたら自衛官に背負われる事になった。いや、申し訳なさすぎるから何度も辞退したよ? でもね、「大丈夫です!」とか「お任せください!」とか、全然聞いてくれない。
それであっという間に自衛官の訓練も兼ねて交代で俺を背負っての階段登りが訓練に組み入れられたんだよ。
しかも俺だけでなくママさんらも担がれる事になった。
毎日5名(仏間、キッチン、機体、保育園、産院)をくじ引きで引いた者が背負う事に決まり、さらに登り降りの競争になっている。俺に当たった人、ごめん。
因みにトイレ、風呂は地下10階層へ無事に移動できた。現在は『年少区』に置かれている。
朝一番に地上参り訓練(そう呼ばれ出した)が始まり、背負わない隊員も、地上の物資を担いで降ろすために毎日30名ほどが参加している。
地上に着くと再生している物資を持ち、カラにしてそこを去る。
もちろん去る前に『傷つけ再生』をセットしていくのを忘れない。ただ持っていってしまうと食糧以外は再生しないからだ。
基本、地上は危険である。なのでこの螺旋石段は普段は地上へ上がるのは封鎖しているが、朝の訓練時のみ、一般人も使用可になっている。
訓練したい若者が参加している。山の上の神社を目指して階段を登る感じだろうか。俺は絶対にやらないけどね。登山や筋トレ趣味の人が多いのかなぁ。
石段が開放されるのは、俺たち空間スキル持ちと言うか、スライム持ちが一緒だからだ。
俺たち(を背負った自衛官達)がまず地上へ到着、周りの安全を確認後に自衛官の荷物運び出しや民間人の登山(?)が開始になる。そして最後に俺たちが降りた後は階段は翌朝まで封鎖される。
その日も地上に到着して背中から降ろされた俺たちはそれぞれの建物へと向かう。ママさんらは窓を開けて部屋の掃除をする。キッチン、仏間、機体、保育園はそれほど広くもないしスライムの手伝いもあり掃除は直ぐに終わる。
その後は産院へと集合だ。産院は広いので掃除が大変なのだ。皆で手分けをして掃除に取り掛かる。その間、自衛官達は荷物の運び出しに動いている。
最近のいつもの風景なのだが、その日は産院に集まる前に自衛官の大声が聞こえた。
何か、あったのか。
「何だ?」
「なぁに? 何かあったの?」
各自の建物へ向かいかけたママさんらが、立ち止まる。自衛官の声はうちの仏間から聞こえた気がして、俺は仏間へと急いだ。




