15話 勝手な想像
-----(清見視点)-----
迷宮ニッポンの地下10階層、ニッポン街の一画に俺と兄貴と裕理は家を貰った。
家と言っても建物とは呼べない。
石壁で囲まれたスペース、これが加瀬家の敷地、らしい。敷地を囲む石壁は高い所でも2mくらいか。
テーブル代わりに積まれた石に登るとお隣さんが見える。
敷地内は高さ30cmの石材で区切られてスペースがふたつに分かれている。が、意味不明。
壁もないのに中途半端に低い敷居。躓くし邪魔。
「一応、大人2名なんで二間の家をくれた感じか?」
兄貴が笑いながら言う。道側(道なんてない)の壁なんて高さ1mもないから通りがかりの人から丸見えだ。ただその反対側の石壁は結構な高さがあり、その壁には穴があいている。
中は押入れほどの広さがある。高さも押入れの中板をくり抜いたくらいある。そんな穴が2つと、小さい物入れ程度の穴が幾つか。
穴が開いている壁は作った石壁ではなく洞窟の壁を掘った感じだ。
引越しで持ってきた畳はまだ全家庭(全員)には行き渡ってはいない。あちらの遺跡避難所に置いてきたのも多かったようだ。
自衛隊が毎朝上から運び出した畳や物資も順次配給していく予定だそうだ。
うちには最初から畳が2枚、家の中に置かれていた。うん、石の洞窟に畳2畳の和室……和室と言うか茶室?
そこは裕理くんの部屋だ。俺には押入れ(石壁の穴)がある。しかし裕理君は寝る時は俺の部屋(穴)へ来る。
「兄貴、保育園とか病院ってどうなってるの?」
「うん? 建物じゃなくてこの街のって事か?」
「そう。もしアレなら俺の分の畳を先にそっちに優先してあげてもいいかなって。裕理君用に1枚あればいいでしょ」
兄貴が何か嬉しように笑った。
「ああ、大丈夫だ。そっちはちゃんと優先して配られている」
「そうなの?」
「自衛隊が地上の病院から畳やベッド、布団も降ろしたし、広めの敷地にちゃんと病院が出来てるぞ」
「病院? 産院じゃなくて?」
「ああ、もう病院でいいだろ。まぁ野戦病院に近いけどな」
「そっかぁ。電気も水道もないもんな」
「そうなんだよなぁ。そうなるとやはり地上の建物は消せない。上は照明こそ点かないけど水道から綺麗な水はいつでも出るし微妙に使える電化製品があるんだよ、謎だが」
「なに? 電化製品って」
「ああ、病院の食事の温度を保つカートとか、他にも医療関係の、俺は詳しく知らんが何かが使えたって言ってたな」
「そっか……。キチママさんとこの炊飯器も使えたもんね。電子レンジがダメなのに……どう言う区分けだろう」
「それさぁ、あの転移の瞬間に使用中だったとかだって俺は思ってる」
びっくりした。
突然大島氏が入ってきた。
入ってきたと言うか、低い壁越しに覗き込んできた。
「あ、すまんすまん。つい会話が聞こえて」
そりゃそうだ。オープンな長屋のようなもんだからな。
「でもそれだと部屋の灯りも点いていないとおかしくない?」
反対側の壁からキチママさんが顔を出す。
いやー、オープンすぎるぞ、この長屋。
「そうか、確かにそうだなぁ」
「何かルールがあるのかしらね、その不思議な力には」
「あ、そっか。もしかしたら……水と食料が復活したのもルールのうちとしたら、人の生存の継続に関わる部分に神がかり的な祝福が起こったとか?」
「なるほど、それは考えなかったな」
「確かにねぇ。部屋の電気が消えても命には関わらないもんね。でもお水とご飯は欲しいわね」
勝手な想像だけど、自分の口から出た言葉がストンと胸に落ちた。突然、異世界に転移した理由はわからない。
もしも周りが話していた謎の黒い物体が宇宙人とか何かだとして、それに襲われた地球人を地球の神様が救うために異世界へと転移させたとしたら。
神様は転移の時にスキルと食糧(生きるのに必要な)をくれたのでは。全員ではないけど……うーん、運の良い人だけ?
「俺たちって運が良かったんだろうか」
大島氏がボソリと呟いた。
「どうだろね……」
「そうねぇ」
「トイレが遠すぎるのが難点よねぇ。まながオシッコって言ってから共用トイレまでは間に合わないのよー」
なるほど、それは大問題だ。うちの裕理くんもトイレ訓練が始まったら大変だ。
「水場問題は本部でも最優先事項に上がってるようだけどな」
「トイレとお風呂、持ってこれないかしら……」
「螺旋階段って結構広いわよね?」
突然、トイレママも顔を出した。流石はオープン長屋だ。
風呂ママも居る。リコちゃんと郁未君がうちの畳で裕理君と遊び出す。声を聞いたのかキチママさんとこのまなちゃんも来た。(壁越しにキチママさんがうちに入れた)




