14話 迷宮内に街を
-----(大島視点)-----
空間スキル持ちの建物が無事に『ニッポン』の真上、地上に到着した。
産院、機体、保育園、キッチン、風呂、トイレそして仏間の7つが迷宮の穴を囲むように並んだ。
先に産院が出発した事で、大きな荷物は前の遺跡迷宮の地上部に残された物も多少はあったようだ。
だが、個人の細々とした荷物は機内や保育園の庭に入れて引いて持ってくる事が出来た。
それらは人海戦術でニッポン街へと運び込み、人も荷物も無事にニッポン街へ。
まわりを見ると疲れ切っているはずだが皆の顔が明るく見えた。
もちろん自衛官達や避難民達もだ。
予め決めた場所での寝起きが始まる。
俺は清みんとこの隣のスペースを貰えた。因みに、清みんや空間スキルのママさん達は本部のすぐ横でご近所さんになっている。
建物と言っても石壁メインで区切られた街だ。
日本が街を作ったここニッポン街はこの踏破済み迷宮の地下10階層にあたる。
つまり空はない。天井は9階層だ。
とは言え10階層はかなり天井が高い空間なので窮屈な感じはしない。そして空がない、つまり雨は降らない。だから居住地でも屋根は不要だ。
共用のトイレや銭湯(無料なので銭湯はおかしいか)は、石壁をかなり高くしてあるが屋根はない。臭いも湿気もこもらなくてよいみたいだ。
ただし設置場所が水の取り入れや排水を考えた場所に限られるので住む場所によってはかなり遠く不便だ。と言うか俺たち日本人は便利に慣れすぎているからな。特に風呂•トイレは。
まぁその辺は今後の課題だそうだ。
俺や清みんやオタク連中は『地球には戻れないかもしれない』と言う思いが薄ぼんやりと頭の隅にある。
だが、大体の避難民は『いつか救助される』と思っている。
それは仕方がない。ここニッポンは俺たちには『街』だが、彼らには『避難所』なのだ。だがそう思っていてくれた方が不便を我慢してくれる気持ちになれるだろう。
ところでここニッポン、元は踏破済み迷宮で近くの都市であるデ・スェ・ヒンイーンのゴミ捨て場だった。
と言っても生活ゴミではない。生ゴミを捨てに来るには遠すぎる。
迷宮探索が主流のこの地下都市、そこから出る数々のゴミ。つまり要らないスキル石や、使い古した武器装備。
たまに一般人のゴミもあったが、この世界は物を手に入れるのが難しく手に入れたら大事に使うのでゴミに出す事は滅多にないそうだ。
持ち主が亡くなった時も引き継ぐ者が居ない場合は、持ち物は競売に掛けられるらしい。なるほど清みんちの押入れの物が高額買取されるわけだ。
スキル石は本部で保管され、必要に応じてどんどん配分される。
スキル石は大事に取っておかずにとっとと取得してさっさとレベル上げをしていく方針だそうだ。
俺もそれが正解だと思う。
空間スキル持ちは地上の建物が消えないように、当座は5日に1回は必ず建物詣でに出かける事になった。
10階の階段の往復、しかも地球の1階分よりは遥かに長い階段だ。
清みんはやる前から涙目になっていた。
「エレベーターほしい……」
多分、自衛隊の方で何かを考えてくれると思うぞ。
そう、自衛隊は毎日10階の往復を軽くこなしている。
毎朝復活する物資を取りに行くのだ。使った分が増えるスキルの機能を無駄には出来ない。
それにあの程度の階段なら朝の訓練の一環だそうだ。
なら、清みんを背負って交代で階段を登るのを訓練にしては?冗談で言ったのに取り入れられた。
ごめん、清みん。謝りに行ったら嬉しそうだった。
「あ、最後の一階分と通路は自分で歩くよ?」
清みんがドヤ顔で宣言した。




