11話 重い荷物
-----(大島視点)-----
遺跡から、建物の第一陣の出発だ。
絹田3佐の指示した方向へとズンズンと進む。とは言え今日は左右に看護師長と清みんだ。しかも空間付きで森の木を薙ぎ倒して進んでいる。
空間の建物で木を薙ぎ倒すには、ある程度のスピードが必要な事がわかった。ゆっくりとした徒歩だと太めの幹に邪魔されて動きづらいそうだ。
念の為を考慮して、危険が少なそうな場所でも俺と密着したまま進んでもらっている。
清みんや看護師長が建物から手を離さないように背後の自衛官も同じ場所に手を添えてもらう。
「失礼します」
自衛官が看護師長の手に自分の手を付けるように掴む。
「まあ、ほほほほ。若い方に手を握られたのは随分久しぶりですよ。仕事がらこちらが握る事はありますが」
看護師長が少し嬉しそうだ。
「失礼します」
3佐が清みんの手に自分の手を添えた。
「ハハハ……。オネガイシマス?」
清みんは乾いた笑顔で対応してた。
問題は危険地帯だ。
建物を持った手が俺の防御空間からはみ出ないように縮こまった状態で建物を運ぶのはかなり疲れるそうだ。
しかも危険地帯は木の幹も太い、移動速度をある程度上げないと木に邪魔されて進めなくなる。
実は何度か建物から手を離す事があった。
建物をしっかりにぎり、かつ脇を絞めた状態での速歩き。清みんはほぼ半泣きだった。
「もぅ、やだよぅ」
「むぅりぃ」
「手が、手が離れるぅ」
それに比べて流石は看護師をまとめる長である看護師長は泣き言ひとつ言わないどころか清みんを励まし続けていた。
「大丈夫、あと少しですよ」
「頑張って! もうちょっと」
「ほら、深呼吸してー」
「吸ってー吐いてー」
清みんから何か出てくるんじゃないかとちょっと心配になった。
途中休憩も取る。
3日の工程なので当然野宿………建物があるので野宿ではないか、比較的危険が少なそうな場所で建物から手を離して休む。
仏間の中に入れば何故か魔物は襲ってこない。飛行機の中にいた時もそうだったな。清みんは仏間の上に降りてきたっぽい魔物にビクビクしていた
「天井……やぶられないかな」
危険な森の移動でも、休憩のたびにこうやって手足を伸ばせるのは助かる。空間スキル持ちが羨ましいな。
看護師長がスライムを帽子から出して外に放ったのを見て、清みんも鞄からスライムを出した。
「仏間の上に乗ったやつ食べちゃって。あと病院の方もね。お願いね」
スライムが仏間から飛び出した直後に天井の上から魔物の雄叫びが聞こえた。
清みんは仏壇のテープ剥がしてブツブツと言いながら手を合わせていた。
「魔物成仏、魔物成仏、魔物成仏……」
危険な地上を、森をぶった斬って直進、時々方向修正、なんだかんだで途中休憩と泊まりを入れても予定の3日で目的地へと到着出来た。
予定の地の地上部と思われる場所に見たような円筒状の石壁が地面から突き出している。
遺跡避難所ほど古い遺跡感はないな。どちらかと言うと新しめの石壁の城壁のような感じだ。
だが、中央に穴があり、絹田3佐が確かめに行くとやはりそこから横穴もあり、奥へと進めそうだという事だ。
ここが『ニッポン』の真上かはわからないが、今日はもうこの地上でそのまま休む事になった。
スマホが無いのは本当に不便だ。着いた連絡も出来ないし、ここであっているのかの確認も取れない。
だがもう清みんがヨレヨレだからな。
今夜は仏間ではなく病院の方へ全員で泊まった。こちらはトイレもシャワーもベッドもある。が、廊下は第一陣出発者達の畳やら布団やらで大混雑だった。
俺らは5人だけなので問題ない。通路から2階へ上がりそこで休む。
明日はここが地下『ニッポン』と繋がっているか、迷宮を地上から地下へと移動していくそうだ。と言っても踏破済みなのでどこかに中央螺旋階段があるはずだ。
スマホはともかく自衛隊は無線機とか持っていないのだろうかとか考えているうちに、あっという間に眠りに落ちた。




