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――東京地方裁判所・第六刑事法廷にて。
十一月四日。開廷時刻は午後一時三十分。
東京地方裁判所、第六刑事法廷の周辺には報道陣が群がり、警察官が交通整理に当たっていた。
事件の被害者が著名な元モデルの娘であり、また本人が子役であることや、容疑者が死刑囚の息子であることから、注目は全国区となっていた。
法廷内は傍聴希望者であふれ、立ち見が出るほどの混雑ぶりだったが、事件の性質上、多くは非公開とされ、限られた関係者のみが入廷を許された。
被告人、冬木透。十九歳。都内の大学に在籍する学生。
彼は細身の黒いスーツを身にまとい、証言台に立った。
彼の視線は床を向き、表情は冷静で淡々としていた。
感情を押し殺したような声で、尋問が始まる。
「あなたは、少女を自宅の前から連れ去りましたか」
「はい」
「家族に連絡をせず、所在を隠していましたか」
「はい」
「少女を東京都内のあなたのアパートに匿っていましたね」
「はい」
「少女の体に複数の傷が確認されています。それはあなたによるものですか」
「……はい」
「あなたは、少女に対して愛情を抱いていましたか」
「はい」
「その感情は、社会通念上許されるものではなかったと理解していますか」
「はい」
「逃げずに、自ら警察に出頭したのはなぜですか」
「……わかりません」
「あなたは、自身の行為が犯罪であると認識していましたか」
「はい」
「それでも少女を手放せなかったのですか」
「はい」
法廷内は静まり返っていた。
被告の言葉を聞く者はただ書記官のタイピング音だけを耳にし、冷たい蛍光灯の光が揺らめいていた。
感情の動きは一切見えず、ただ淡々とした事実の羅列が続いた。
その少年には、懲役十年の刑罰が下された。