第9話 踊り子フレカ
僕とアンガスはイータの町にたどり着いた。
さて、ジャンヌたちを探さなくては。
そう思って町を歩き回っていると、頭の上に星マークが付いている女性を見つけた。
すごく恥ずかしい格好で、すごく恥ずかしそうに歩いている。
何か、ただならぬ事情がありそうだ。
すると、アンガスが言う。
「そんな卑猥な格好で、何をしているのですか?」
いや、今は鎧を着ているけど、君も大概だろ。
女性は答える。
「わ、私は旅の踊り子ですぅ。そ、そんなに見ないでくださいぃ。踊りで人を楽しませたいと思ってぇ、踊り子になりましたぁ。で、でもぉ、恥ずかしくてぇ、踊れなくてぇ、だから見ないでくださいぃ。困っているんですぅ」
「えっと、もうちょっと服を着たらいいんじゃないかな?」
「ダメてすぅ。この衣装はぁ、師匠の形見なんですぅ」
「踊れないのに、よく旅をするお金がありますね」
「それはぁ、この格好で町や村を歩いてるだけでぇ、おじさんたちがお金をくれるんですぅ」
エロオヤジどもが。
「で、僕たちに何かできることはあるかな?」
星マークがついているということは、重要な何かがあるはずだ。
「師匠からの遺言でぇ、東の森に行ってぇ、伝説の衣を手に入れないといけないんですぅ。でもぉ、こんな格好じゃ戦えないんですぅ」
なんか、だいたい展開が想像つくな。
「わかった。じゃあ僕たちも一緒に行くよ」
「ありがとうございますぅ。私、フレカですぅ」
「ヒロトさん、お仲間が探さなくていいんですか?」
「うん。みんな、僕を放って次の目的地には行かないはずだ。仲間だからね」
「信頼し合っているのですね」
「まぁね」
こうして、僕、アンガス、フレカは北の森に向かった。
その3日前。
これも、後から聞いた話だ。
ジャンヌたちは、既にイータの町に着いていた。
ヤオが言う。
「さて、次の目的地は東のスタディアの町ネ。川を船で渡るネ」
ジャンヌが続ける。
「さぁ、行きますわ」
ナルマが訊ねる。
「あの、ヒロトさんは待たなくていいの?」
リッカが答える。
「いいんだよ。オレたち3人がいれば十分だろ」
すると、ヤオが口を挟んだ。
「違うネ。ナルマでマイナス1だから、実質2人ネ」
ナルマのドジっ子がマイナスされた。
こうして、僕を放置して、4人はイータの町を去った、そうだ。
さて、物語は再び僕たちの話に戻る。
伝説の衣を求めて森に入った僕たちは、例によってアンガスが槍で敵を次々と屠りながら、奥へと進んでいった。
「アンガスさん、す、すごいですぅ」
「はい。力なら誰にも負けません」
それは僕も保証する。
「それで、伝説の衣はこの森のどこにあるの?」
「女神像のところにあるって、師匠が言ってましたぁ」
女神像か。
「あれじゃないですか?」
あった。
「たぶん、あれですぅ」
フレカが女神像に近づこうとした、そのとき。
ビュルルル!
突然、触手がフレカを襲う。
「きゃあ! な、なんですかぁ!?」
「くくく。パーティーが2つに分かれた今が狙い目だからね」
魔王の手下が現れた。
頭の上には<ベッカラ>と書いてある。
「フレカさん!」
ズドォン!
アンガスの槍が触手を叩き潰す。
だから、槍ってそういう武器だっけ?
しかし。
「きゃぁぁ!」
再び触手が現れ、フレカを襲い空中に吊り上げる。
「くっ! 本体を倒さないときりがないですね!」
アンガスはベッカラの方に突進し、槍を振りかぶる。
そのとき。
吹雪がアンガスを襲った。
ベッカラの魔法だ。
「くっ!」
アンガスの身体は氷漬けになっている。
だが。
「はあ!」
バキバキバキッ!
アンガスは力ずくで凍った鎧ごと氷を破壊し、凍結を解除した。
しかし、その勢いで自分の槍も破壊してしまった。
「しまったわ!」
「バカめ!」
触手がアンガスを襲う。
「ダメぇ! もっとぉ! いいわぁ!」
アンガスから、淫気が放出される。
「あぁ! うぅ! いやですぅ!」
フレカからも淫気が放出される。
「くそっ!」
こうなったらアンガスの精槍スペルムグニルを使うしかない。
僕はアンガスの元に駆け寄る。
「はぁん! それ欲しいのぉ!」
アンガスの胸が僕に近づこうとしたそのとき。
「させないわ! ミニマルム!」
マズイ。
対象を小さくする状態異常魔法だ。
すろと。
「えぇ! こ、これは何ですか!?」
アンガスの胸が貧乳になっていた。
えっと、対象を小さくするって、こういう感じ?
マズイ。
これでは精槍は出せない。
「さて。まとめて始末してやろう!」
ベッカラの触手により、僕、アンガス、フレカが投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「きゃあ!」
「え!? こ、ゴメン!」
偶然、フレカの上に僕がのしかかる。
「トドメだ!」
ドォォォン!
ベッカラの爆裂魔法が炸裂した。
「ふん。粉みじんだろう」
しかし。
「むっ?」
何かが爆発の煙を吹き飛ばした。
「な、なんだ?」
「伝説の衣、見つかりましたぁ」
そこには白い光をまとったフレカが立っていた。
明らかに、さっきまでと雰囲気が違う。
アンガスが僕に訊ねる。
「な、なにが起こったんですか!?」
「きっと、精なる衣だ」
「ヒロトさぁん、私の踊り、しっかり見ててくださいねぇ」
フレカは軽やかにジャンプする。
さらにクルッと身を翻す。
すると。
ヒュィィン!
白い光が僕を包み込む。
「な、なんだ!? すごい力が湧いてくる!」
「さぁ、ヒロトさん、やっつけちゃってくださぁい」
「え? う、うん。エアリア!」
以前、リッカに使った風系統の魔法だ。
そのときはほどんどダメージは与えられなかった。
しかし。
ブォォォ!
無限とも思える風の刃が、ベッカラを襲う。
「ギャァァァ!」
ベッカラは叫び声をあげ、消滅した。
シュゥゥ…。
僕とフレカを包んだ光が消えていく。
すると。
「ひゃぁぁぁ!み、見ないでくださいぃ」
雰囲気が戻ったフレカが体を隠す。
「す、すごい力だ」
「えっと、師匠は精衣、スペルムクロスって呼んでいました」
「僕たちは、一緒に魔王を倒してくれる精者を探しているんだ。一緒に来てくれないかな?」
「はいぃ。わかりましたぁ。師匠の衣を見つけられたの、ヒロトさんのおかげですしぃ」
こうして、精なる踊り子フレカが仲間になった。