第8話 新たな出会い
僕が目を覚ますと、ベッドの上にいた。
「ああ! よかった! お目覚めになりましたね!」
見ると、メイドのような服を着た女性がいた。
「えっと、僕は?」
「あなたは森で倒れていらっしゃったのです。心配しましたよ。国王様がお待ちです。あちらの階段を上がってください」
「ここはどこですか?」
「国王様がお待ちです。あちらの階段を上がってください」
なんか、既視感があるな。
そうだ、僕は山脈でヤオに蹴り飛ばされたのだった。
とりあえず、階段を上がる。
すると謁見の間だった。
国王が僕に話しかける。
「おお! 目覚めたか! これで2人揃ったな」
なんか、また既視感。
「2人?」
「もう1人は私です」
「振り返ると、鎧を身にまとい、大きな槍を持った戦士がいた」
「うむ。<なんの変哲もない精なる僧侶が空から降臨するとき、精なる戦士と共に魔王を打ち滅ぼす>。これが我が国の伝説じゃ」
いや、だからなんの変哲もないのに、どうやって特定したんだ。
あ、そうか。
空から降臨したからか。
仲間に蹴っ飛ばされて山脈から落ちることを、降臨と言うならだけど。
「えっと、じゃあ僕はこの人と一緒に魔王を倒しにいけばいいんですね?」
「いや、その前に我が国を脅かすモンスター、ウェアウルフを退治していただきたい。この城の南西にある洞窟に巣食っている」
<いいえ>
「なんと! 我が国を見捨てるというのか? 我が国を脅かすモンスター、ウェアウルフを退治していただきたい。この城の南西にある洞窟に巣食っておる」
<いいえ>
「なんと! 我が国を見捨てるというのか? 我が国を脅かすモンスター、ウェアウルフを退治していただきたい。この城の南西にある洞窟に巣食っておる」
やれやれ。
<はい>
「うむ。感謝するぞ。では、精なる戦士アンガスと共に洞窟に行くがよい」
「アンガスです。よろしくお願いします」
なんか、見た目と違って丁寧な言葉遣いだ。
「うん。僕はヒロト。よろしく」
こうして、僕とアンガスは、洞窟を目指して城を出た。
道中、モンスターが現れたが、アンガスが槍で次々と屠っていく。
敵の攻撃も、鎧で完全に防いでいる。
僕は特に何もしていない。
「えっと、モンスター退治って、僕を待たなくてもアンガスだけで十分だったんじゃないの?」
「そうかもしれませんが、伝説では僧侶と共に魔王を倒すことになっていますからね。できるだけ一緒に経験を積んだほうが良いと思いまして」
律儀だな。
こうして、洞窟の奥にたどり着くと、ウェアウルフが現れた。
「お出ましですね。ここはまず私が」
アンガスはそう言うと、ウェアウルフに突進していった。
槍の強力な一撃をお見舞いする…かと思いきや、ウェアウルフは槍をかわし、鋭い爪でアンガスを攻撃してきた。
「むぅ!」
アンガスは槍を振り回すが、素早いウェアウルフには一撃も当たらない。
「くっ!」
「アンガス! これを! スピーダ!」
仲間の速度を10秒間だけ上げる助魔法だ。
「ありがとうございます!」
スピードを増したアンガスは槍の攻撃を次々と繰り出す。
しかし。
「な!?」
ウェアウルフにはアンガスの背後に回っていた。
「グオオォォ!」
ウェアウルフの爪が、アンガスの鎧を破壊していく。
「アンガス!」
僕が防御力を上げる補助魔法を使おうとしたその時。
「ヒロトさん、大丈夫ですよ」
アンガスは兜を脱ぎ捨て、さらにヒビだらけの鎧を脱いだ。
女性だった。
いや、そんな気はしてたけどね。
っていうか、服がエロすぎだろ。
「私の戦闘スタイルは二通り。強固な鎧による戦闘と、究極に身軽な装備による戦闘です。もっとも、この姿で戦うのは久しぶりですけどね」
いや、趣旨は分かるけど、究極にエロすぎだろ。
「さあ、行きすよ」
アンガスはそう言うと、ウェアウルフに突進して行く。
確かに、さっきよりは速い。
しかし。
「やぁ!」
槍を大きく振り下ろす。
だが。
「なに!?」
ウェアウルフの体は、槍をかわした。
「ググッ。オマエ、オソイ」
ウェアウルフがしゃべった。
「ばかな!?」
「ソンナ、オオキナ、ヤリ、フリマワス、アタラナイ。ヨソク、カンタン」
そうなのだ。
アンガスは、仲間になった当初から、槍をまるで剣か斧かのように振り回していた。
ザコモンスターはそれでも倒せていた。
むしろ突くより威力は高いのかもしれないのだが、当たらなければ意味がない。
「そ、そんな! 力こそパワーなのに!」
え?
「これならどうですか!?」
アンガスは槍を頭上でグルグルと回転させる。
遠心力をつけるつもりなのだ。
ウェアウルフの話、聞いてた?
「ぐあぁぁ!」
槍を繰り出す前に、ウェアウルフの一撃をくらう。
「オマエ、バカ」
僕はアンガスのステータスを確認する。
力 126
かしこさ 9
いや、脳筋が過ぎるだろ。
「うあぁぁ!」
アンガスはさらに爪の攻撃をくらう。
槍も破壊される。
元から少ない布が、さらに減る。
「くっ!」
「トドメ…ダ…オマエ、タオス。マオウサマ、カラ、セカイハンブン、モラウ」
ウェアウルフはそう言うと、アンガスの上に飛び乗った。
「ふぐぅっ! あぁ! もっとぉ!」
え? そういう感じ?
「いいわぁ!」
アンガスがそう叫ぶと、ピンク色の光の玉が放出された。
ウェアウルフが、それをゴクリと飲み込む。
「ツギ、オマエ」
ウェアウルフは僕の方に向かってくる。
僕は自分にスピーダをかける。
しかし。
「うぁぁ!」
ウェアウルフに蹴り飛ばされ、アンガスの近くの壁に激突する。
そのとき、偶然、僕の股間がアンガスの胸に当たった。
すると。
すると、白い光がアンガスの胸の間で光る。
「はっ!? ヒロトさん、こ、これは何ですか!?」
それは、白く光る槍だった。
「こ、これが、僕とアンガスの、精、なる力。あ、あとは、まか、せた」
僕は完全にぐったりと倒れた。
「わかりました!」
アンガスは立ち上がると、光の槍を振りかぶる。
「ワカラ、ナイカ。ソノウゴキ、アタラ、ナイ!」
「それは違います。力こそパワー、ですからね」
アンガスは槍を振った。
槍がグンと伸びる。
ウェアウルフが回避しようがないほどの広範囲を、光の槍が薙いだ。
「ナ、ナニ!? ギャァァァ!」
<ウェアウルフを倒した!>
シュウウウ…
光の槍が消えていく。
「や、やったね、アンガス」
「すごい力です」
「精槍、といったところかな。僕の仲間が言ってたけど、好きに名前を付けていいらしいよ。他には精剣スペルニウムとか、精術スペルマージとかがある」
「では、スペルムグニルにしましょう」
「うん。いい名前だね」
「では、国王に報告に行きましょう」
僕たちは城に戻った。
アンガスは再び鎧を着ている。
さすがにあの格好で城は歩けないらしい。
「よくやってくれた。さすがは伝説の精者たちじゃ。お主たち、次はどこに向かうのじゃ?」
僕は答える。
「イータの町に行きたいと思います。僕の仲間たちが、そこにいるはずなので」
そう。ナルマの護衛として、みんなはイータの町に向かっているはずだ。
「なるほど。イータの町はこの城の北じゃ。どうか、この世界を救ってくれ」
こうして、僕とアンガスはイータの町に向かった。