第3話 武器屋と宿屋で初体験
クイーンスライムを倒した僕とジャンヌは、無事に森を抜け、アタル村に到着した。
するとジャンヌが言う。
「ヒロト。私、武器がありませんことよ」
そうだった。クイーンスライムとの戦いで錆びてしたさまったのだった。
でも。
「え?スペルミウムがあるじゃん」
「あんなの、二度とゴメンですわ!」
ジャンヌが叫ぶ。
まぁ確かに、僕も1日に何回出せるかわからないし、通常装備も必要だ。
「よし、じゃあまずは武器屋に行こう」
僕たちは、アタル村の武器屋に向かう。
「へい、いらっしゃい。なんのようだね?」
「武器屋だから、武器を買うに決まってますわ」
「いや、武器屋では<買う>だけじゃなく<売る>もできるんだよ」
「あぁ、そういうことですの。<買う>ですわ」
「武器を買ってくれるんだね。どれにするんだい?」
「あ、これが強そうですわ」
ジャンヌは、木こりの斧を手に取った。
「木こりの斧だね。300Gだけど、いいかな?」
「いいですわ」
「毎度あり。ここで装備していくかね?」
「<いいえ>ですわ。<ふくろ>に入れますわ。こんな重いもの、持ち歩きたくありませんわ。戦うときには、忘れず装備しますことよ」
確かに、この<ふくろ>はいくらでも入るし、重さも変わらない。
青いヤツのポケットみたいだな、と思った。
「じゃあ、その<ふくろ>に入れておくね。他に何か買うかね?」
「<いいえ>ですわ」
「また来ておくれよな」
ジャンヌは無事、買い物を終えたかに見えた。
しかし、僕はここで、嫌な予感がよぎった。
「ジャンヌ。ちょっと」
「なんですの?」
「その斧、装備してみてくれないかな?」
「嫌ですわ。重いですわ」
「すぐ外していいからさ」
「そこまで言うなら、装備してあげなくもありませんことよ」
ジャンヌは<ふくろ>から木こりの斧を取り出した。
すると。
「あれ?ですわ。装備できませんわ」
「やっぱり・・・」
「どういうことですの?」
「斧は戦士系の武器だからね。勇者が装備できなくても不思議じゃない」
「そうなんですの。ならば返品ですわ」
僕たちは再び武器屋に入った。
「いらっしゃい。何の用だね?」
「返品ですわ」
「武器を売ってくれるんだね。どれを売ってくれるんだい?」
「まぁ、そういうことでもいいですわ。この木こりの斧ですわ」
「木こりの斧だね。150Gだけどいいかな?」
「はぁ!? 先ほど300Gで買ったばかりでしてよ!」
「やめるんだね。他に売ってくれるものはあるかな?」
「お話になりませんわ!」
僕はジャンヌをなだめる。
「ジャンヌ、ゲームだと、売値は買値の半額が相場なんだ」
「他に売ってくれるものはあるかな?」
「どうせ装備できませんし、仕方ないですわ。木こりの斧を売りますわ」
「ありがとさん。ほら、150Gだよ。他に用はあるかね?」
「とにかく武器が必要ですわ。<買う>ですわ」
「どれにするかね?」
「うう、残金ではくだものナイフしか買えませんわ」
「毎度あり。ここで装備していくかね?」
「<はい>ですわ」
こうして、ジャンヌはくだものナイフを装備した。
「うう・・・なんだか疲れましたわ」
ジャンヌはぐったりしている。
も夕暮れが近づいてきた。
「じゃあとりあえず、宿屋に泊まろうか」
「賛成ですわ」
僕たちは今度は宿屋に向かう。
「オンボロの宿ですわね」
「仕方ないよ。村には一軒しかないんだし」
僕たちは宿屋に入る。
「いらっしゃいませ。一晩20Gですが、泊まっていかれますか?」
「私たち金欠でございますことよ。少しまけていただけなくて?」
「いらっしゃいまけ。一晩20Gですが、泊まっていかれますか?」
「ジャンヌ。値切るには、そういうスキルが必要なんだ」
「ヒロトはそのスキル持ってませんの?」
「ない」
「全く、役立たずですわね。<はい>ですわ」
僕たちは20G払う。
「ありがとうございます。ゆっくりお休みください」
すると、辺りが急に真っ暗になる。
ジャンヌが驚く。
「な、なんですの!?敵襲!?」
「いや、宿に泊まるとすぐに夜が来て、またすぐ朝が来るんだ」
「さきほどゆっくり休めと言われたのに、全然ゆっくりできないじゃありませんの」
「大丈夫。HPとMPは完全回復するから」
「まぁ、いいですわ。部屋に行きますわよ」
僕たちは指定された部屋に向かう。
「ここだな」
「ふうん。で、私の部屋はどこですの?」
「ここだよ」
「え?じゃあヒロトの部屋は?」
「だから、ここだって!」
「ええ!?男女一緒の部屋ですの!?」
「そういえば、男女で部屋が別れてるゲームってないなぁ。大丈夫、ベッドは別々だから」
「非常識ですわ!」
「じゃあ、外で寝る?<テント>っていうのもあるよ。もちろん男女一緒だけど・・・」
「もう!わかりましたわ!変なことしたら、くだものナイフでめった刺しですことよ!」
ジャンヌは諦め、部屋に入り、椅子に座った。
「で、食事は?」
「え?」
「食事」
「あぁ、最近はそういうゲームも多いけど、それも食材やスキルが必要で・・・」
「で、ヒロトは料理のスキルは?」
「ない」
「全く、本当に役立たずですわね」
「なんだよ。ジャンヌは料理できるのかよ」
「もちろんですわ」
「え、そうなの」
「腕をふるいますことよ」
「じゃあ、ちょっと宿屋のおかみさんに、食材がないか訊いてくる」
こうして、僕はおかみさんから無料で提供してもらったパンを持って部屋に戻ってきた。
「ふむ。ではしばらくお待ちになっていて」
ジャンヌは張り切ってキッチンに立つ。
そして約30分後。
「できたましたわ!」
「えっと、これは?」
「トーストですわ!」
うん、見たら分かる。30分も何してたんだろう。でも言うと怒るだろうしなぁ。
「さあ、召し上がってごらんなさい!」
「いただきまーす」
僕はトーストに噛みつく。
「いかがかしら?」
デロデロデーン。
僕は最大HPが20下がった。
「いかがかしら?」
「お、おいしいよ」
「でしょう? 私も食べますわ!」
ピロリロリーン♪
ジャンヌは最大MPが10上がった!
なぜ。
「さあ、お腹もいっぱいになったことですし、次はお風呂ですわね」
「どっちが先に入る?」
「私が入ったお風呂にヒロトが入るのも嫌ですし、ヒロトが入ったお風呂に私が入るのも嫌ですわ。かといって、ヒロトが汗くさいのも嫌ですし、どうしましょう、ですわ」
「同時に入ったら解決じゃない?」
ガキィン!
くだものナイフが飛んできた。
「ヒロトはシャワーだけにしなさい」
「へいへい」
そうしてまずジャンヌがお風呂に入る。
うーん。
お風呂が覗ける魔法があっならなあ。
なぜかこういうとき、ゲームプレイヤーはお風呂の中が見れるんだよなぁ。
ジャンヌがお風呂から出てきて、次は僕が浴室に入る。
湯船には、ジャンヌが入ったばかりのお湯が・・・と思ったら、お湯は抜かれていた。
「ちぇ」
僕はシャワーを浴びて浴室から出る。
「さて、もう寝ますことよ」
僕たちはそれぞれのベッドに入った。
すると。
ピロリロリッテッテー♪
一瞬で朝がきた。
「なんか、全然休んだ気がしませんわ」
僕たちは受付に鍵を返しに行く。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「全然ですわ」
僕たちは宿屋を出た。