第2話 スライム責めと、精剣 発動!
僕とジャンヌは城を出てアタル村に向かった。
まずは森を抜けなければならない。
「まさか、徒歩ですの?」
「中盤までは、だいたい徒歩だね」
「馬は?」
「馬に乗るファンタジーゲームはあんまりないなあ
「なんてことですの」
そのとき。
「きゃあ!?」
後ろにいたジャンヌが叫ぶ。
「ヒロト、なんですの!?これ!?」
青色の小さなブヨブヨした生き物が、ジャンヌの足元にいた。
<スライムが現れた!>
「スライムだね。弱いモンスターだから、銅の剣で切れば大丈夫だよ」
「剣? あれ!? 剣がないですわ!?」
「え!? 国王からもらったよね?」
「ないですわ!」
まさか、いきなりどこかに落としたのだろうか。
仕方ない。
僕は、こん棒でスライムを叩く。
スライムから、<4>という数字が飛び出す。
きっとダメージ数値だ。
僕は、地道にスライムを叩いていく。
<スライムをやっつけた!>
するとスライムからお金が飛び出し、4Gを手に入れた。
「モンスターが、お金になりましたわ」
「うん。モンスターを倒すと経験値と、あと原理はよくわからないけどお金が手に入る。まぁ最近だと、モンスターを倒してもお金は手に入らなくて、代わりに素材が手に入ってそれを売ったり、依頼をこなして報酬をもらうゲームもあるけどね」
「なるほど、さっぱりですわ」
「それにしても、このゲーム、ランダムエンカウントか。今どき珍しいな」
「なんですの、それ?」
「モンスターの出現には2つの形式があるんだ。1つはランダムエンカウント。さっきみたいに、突然モンスターが現れる形式。あんまり最近はないんだけどね。もう1つはシンボルエンカウント。フィールド上とかでモンスターが見えてて、それに近づくと戦いになる。シンボルエンカウントは戦いを避けることもできるけど、ランダムエンカウントは避けられない。逃げることはできるけどね」
「ふうん。ややこしいですわね」
「それより、銅の剣だよ。どこにやったの?」
「剣? あれ? ありますわ」
ジャンヌの腰には、間違いなく銅の剣があった。
「おかしいですわ。さっきはありませんでしたわ」
もしかして。
「ジャンヌ。ちゃんと<装備>した?」
「装備? 装備ってなんですの?」
やっぱり。
「武器は装備しないと、持ってるだけじゃ意味がないんでよ。ほら、こうやって」
「なんかいろいろ、めんどくさいですわね。これでいいんですの?」
ジャンヌは銅の剣を装備した。
少し進むと、今度は緑色のゴブリンが現れた。
ジャンヌが前に出る。
「ようし、いきますわ!」
ジャンヌは剣を持ってゴブリンに駆け寄り、剣を振り下ろす。
ザシュ!
<86>
「え?」
<ゴブリンを倒した!>
「やりましたわ! 私にかかればこんなものですわ!」
「ちょ、ちょっと」
僕は慌てて言う。
「なんですの? まだ何かありますの?」
「い、いや。ダメージ86!? えっと、ジャンヌはレベルいくつなの?」
「レベル? うーんと、14らしいですわ」
まだ旅は始まったばかりなのに、レベル14!?
「ジャンヌは僕と出会う前に、どこかで修行でもしていたの?」
「修行というか、戦争をしていましたわ」
「戦争!?」
「ええ。これでも私、民衆を率いて戦ってましたのよ」
中世ヨーロッパなら、そういうこともあるか。
これは頼りになるな。
こうしてジャンヌは現れてくるモンスターを次々と倒し、森にたどり着いた。
僕は特に何にもやっていない。
森の中に入ると、少しひんやりとした空気になる。
「ところで、ジャンヌはどこと戦争をしていたの?」
「イングランドですわ」
イングランド。イギリスか。
そういえば、ジャンヌはフランスから来たと言っていた。
「あら、さっそくお出ましでしてよ」
今度は、赤いゴブリンが4体現れた。
「何体だろうと、私にかかればちょろいですわ!」
「ジャンヌ! 油断しないで!」
「え!?」
カシュッ!
ゴブリンの持っているナイフが、ジャンヌの腕に傷をつける。
「なんですの? 明らかにさきほどまでのゴブリンと動きが違いますわ」
「ダンジョンに入ったり、ストーリーが進むと、より強いモンスターが出てくるんだ」
「じゃあ、あの赤いのと、さっきまでの緑色は、単なる色違いじゃないんですの?」
「うん。どうやらこいつらは、ボブゴブリンっていう名前みたいだね」
「あぁ、そういえばそこに書いてありますわ」
モンスターの頭の上に<ボブゴブリン>と表示されていた。
「まぁ、思っていたより速かったので驚きましたけど、どちらにせよ私の敵ではありませんわ」
ザシュ!ドシュ!
あっという間に4体のボブゴブリンを倒した。
本当に頼りになるな・・・。
でも。
「ジャンヌ、傷、ちょっと見せて」
「何ですの?」
僕はジャンヌの腕に触れる。
「ヒール!」
僕の手の平が光る。
「すごいですわ! 傷が治りましたわ! 奇跡ですわ!」
「いや、初級魔法だし、そんなに騒ぐことでも」
「魔法!?」
「うん。少し使えるみたい」
「少し見直しましたわ!」
じゃあ今までなんだと思ってたんだ。
「単なるウンチクヤローですわ」
声に出てたらしい。
僕たちはそのまま森の奥に進んでいく。
すると。
「む! また色違いですわ!」
今度は緑色のスライムが5体現れた。
<アシッドスライム>と書かれている。
「けちょんけちょんですわ!」
次々とアシッドスライムを倒していく。
しかし。
<アシッドスライムは仲間を呼んだ!>
さらに6体のアシッドスライムが現れる。
「く、これじゃキリがありませんわ!」
これは僕も戦ったほうがいいな。
僕はこん棒で加勢する。
しかしアシッドスライムは次々と現れてくる。
そのとき。
「きゃあ!」
ジャンヌの叫び声が聞こえる。
「大丈夫!?」
って、おお!
見ると、ジャンヌの体にアシッドスライムがくっつき、服がボロボロに破れていた。
スライムの粘液で溶かされているらしい。
ひょっとして、ゲームはゲームでも、エロゲ?
「な、なんとかしなさいですの!」
「わ、わかった!」
僕は、ジャンヌの体にくっついているスライムをひっぺがす。
「ちょっとヒロト!どこさわってるんですの!」
「し、仕方ないだろ!」
すると、僕がひっぺがしたアシッドスライムがどんどん集まっていく。
え? いきなり?
まだ序盤なんですけど。
大きなスライムになるかと思いきや、女性の体に変化した。
「わらわはクイーンスライム。そなたらを倒し、魔王様から世界の半分をいただくとしよう」
うーん。なんかテンプレだ。
と、
「きゃあ!」
「うわ!」
クーインの手からスライムが伸び、僕とジャンヌを木に拘束した。
「さて、どちらから始末するかのう。まずは剣士から片づけるか」
クイーンは、ジャンヌのほうに向かうと、スライムでジャンヌの体全体をつつむ。
「あぁ!」
さらにジャンヌの服が溶けていく。
「み、見ちゃダメ!」
ジャンヌは叫ぶが、僕は目が離せない。
股間が熱くなってくるのを感じる。
スライムはさらにジャンヌを攻撃していく。
「ダメぇ!」
ジャンヌは体を震わせたかと思うと、グッタリとしてしまった。
するとジャンヌの体から、ピンク色の光の玉が現れる。
クイーンはそれをつかむと、ゴクリを飲み込んだ。
「ふふ。次はおぬしじゃ」
クイーンは僕のほうに向かってくる。
「え? 倒すって、殺すんじゃないの?」
「何を言っておる。わらわたちは、貴様たちから淫気を取り出して喰らうのじゃ」
淫気。説明されなくても、だいたい想像つくな。
クイーンは、こちらに向かってきたかと思うと、今度は僕のほうにスライムを伸ばしてきた。
僕の体がスライムに包まれる。
「ぐう!」
ニュルニュルとした感触が全身を覆う。
「さて、どう責めるかのう」
スライムが僕の下半身を覆う。
「くぅ!!」
「これはどうじゃ?」
今度は胸元にスライムがやってきた。
「うぐぅ…」
そのとき。
ザシュ!
僕の体にまとわりついていたスライムが斬り落とされた。
そこには、銅の剣を持ったジャンヌがいた。
「小汚い<ふくろ>の中にあったポーションで回復しましたわ。さあ、行きますことよ」
ジャンヌは、クイーンに向かって剣を構える。
「人間ごときが! わらわにかなうと思うか!」
ザシュ!ガキィ!キィン!
2人はお互角の戦いを繰り広げる。
当然、僕の出る幕はない。
「ふん。ならばこれでどうじゃ!」
クイーンからスライムが伸び、ジャンヌの銅の剣を包んだ。
すると、どんどん剣が錆びていく。
「ああ!」
「こんな安物の剣、わらわにかかればこんなものよ! くらえ!」
「くう!」
クイーンの攻撃で、ジャンヌが傷を負っていく。
今こそ僕の出番だ!
僕はジャンヌに近づく。
「ヒール!」
するとジャンヌが叫ぶ。
「ちょっと!どこさわってるんですの!」
「いや、ヒールって、直接、手の平で触らないと効果がないんだよ」
「それにしても、そんなところさわらなくてもよろしいんじゃなくて!?」
「ご、ごめん!」
ジャンヌの言う通り、つい、いろんな場所を触ってしまった。
さらに股間が熱くなったかと思うと、
「え?」
突然、股間が白く光りだした。
クイーンはそれに気づかずジャンヌと対峙して言う。
「ふん。何度回復しようと同じことよ。その錆びた剣ではもう戦えまい。噂の精剣なら、わからんがのう」
精剣・・・。
僕がジャンヌに授けるという精剣・・・。
聖剣でなく、<精剣>。
まさか・・・いや、これしかない!
僕は叫んだ。
「ジャンヌ!」
「な、なんですの!?」
「精剣は、ここだ!」
僕は自分の股間を指差す。
「はぁ!?」
「だから、ここだ!」
「こんなときに、何を言ってるんですの!?」
仕方がない。
僕はジャンヌの手をつかむと、僕の下半身に近づけた。
すると、僕の股間がさらに白く光る。
「こ、これは何ですの!?」
「抜くんだ!早く!」
「え!?」
「早く抜いて!」
「もう、どうにでもなれですわ!」
ジャンヌは光の中に手を入れる。
すると、
ズズズズッ!
僕の股間から、白く光る剣が現れた。
すると、クイーンが叫ぶ。
「バ、バカな!それは!?」
ジャンヌは、その剣を見つめる。
「これが、精剣スぺルミウム・・・すごい・・・熱い・・・」
「ぬうう!振るうより先に仕留めてやるわ!」
クイーンが向かってくるが、ジャンヌは冷静にスぺルミウムを構える。
「よくもいいようにやってくれましたわね。お返しですわ。疾風斬!」
「ぐあああ!」
クイーンはドロドロと溶解し、溶けていった。
「やった!」
「不本意なこともありましたけど、精剣スぺルミウムが手に入りましたわ。これでヒロトは用済みですわ」
しかし。
シュウウウ。
スぺルミウムはすぐに消えてしまった。
「どうやら、1回しかもたないようだね」
「全く、役立たずですわ」
すると、
<パッパラパッパッパー♪>
ファンファーレが鳴り響く。
「な、なんですの!?こんな森の中で!?」
「ああ、僕のレベルが上がったんだよ。1から2に」
「ヒロトは特になにもしてなかったですわ」
「一緒に戦ってたら、経験値は全員に入るんだ」
「まったく、平等なようで不公平ですわ」
「ところでさ」
僕は、ジャンヌに確認したいことがあった。
「なんですの?」
「ジャンヌのフルネームは?」
「ジャンヌ・ダルクですわ」
やっぱり。ジャンヌには、間違いなく精なる剣士の資格があったのだ。僕と違って。