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第1話 精なる僧侶と精なる剣士の出会い、そして旅立ち

目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。

ロッジのような木製の天井が目に入る。

あれ? ここはどこだ?

僕は何してたんだっけ?


挿絵(By みてみん)


部屋を見渡すと、やはりロッジのような部屋だった。テレビすらない。

すると、部屋の片隅にいた中年くらいの女性が洗濯物を持って駆け寄ってきた。


「ああ! 良かった! 目が覚めたんですね!」

「えっと、僕は?」

「川の近くに倒れていたのを、うちの息子が見つけたんです。体にケガはなかったけど、気を失ってらっしゃって。目が覚めたら、うちの主人が話したいと言っていました。下の階にいますよ」


なんか、一気にたたみかけられた。

僕はベッドから起き上がると、まだ訊きたいことがあったので、奥さんに話しかけた。


「あの・・・」


「うちの主人が話したいと言っていました。下の階にいますよ」


ん?


「えっと・・・」

「うちの主人が話したいと言っていました。下の階にいますよ」


そんなに大事な話なのかな。


僕は階段を降り、テーブルに座っていた男性に話しかけた。

「おお! 目が覚めましたか。具合はどうですかな」

「おかげさまで、どこも何ともありません」

「それは良かった」

「ところで、ここは?」

「ルミナ村ですよ」

あれ? 日本っぽくない名前だな。テーマパークか何かかな?

「はぁ。どの辺ですか?」


「アイタミアの南の方ですね。少し北に行けば、グリア王国がありますよ」


あ、これって・・・


「ちょっと、家の外を見てきていいですか?」

「どうぞどうぞ」

家のドアを開くと、そこにはのどかな田園風景が広がっていた。

農業をしている村の人々。

羊飼いの少年。

みんな、なんだか古めかしい服を着ている。

コンクリートの建物や道はなく、家は全て、木の丸太のようなものでできている。


うーんやっぱりこれは・・・


僕は家の中に戻り、再び親父さんに話しかける。

「ここ、ファンタジー世界ですよね?」

「ここはルミナ村です。アイタミアの南の方ですね。少し北に行けば、グリア王国がありますよ」

親父さんは、壊れた機械のように同じことを言い続ける。

さっきの奥さんもそうだった。


つまり・・・


「ここはゲームの中の世界でもありますね?」

「ここはルミナ村です。アイタミアの南の方ですね。少し北に行けば、グリア王国がありますよ」

うん。どうやら僕は、ファンタジーゲームの世界に転生してしまったらしい。


まぁ、最近は転生することはよくあるらしい、というか、もはやブームみたいだし、僕は特に驚かなかった。

ここにいてもらちがあかないので、僕は家の外に出ようとする。

すると、親父さんが言う。

「お待ちなさい。これを差し上げましょう。きっとお役に立つはずですよ」


それは、腕時計のような形をした方位磁石だった。

確かに、3Dマップだったら必要だ。

「ありがとうございます!」

「あと、これも」

小汚ない小さな<ふくろ>を受け取った。


再び家を出ると、小さな男の子が僕に駆け寄って話しかけてきた。

「お兄ちゃん、元気になったんだね!」

きっとこの子が、あの夫婦のお子さんだ。

「君が僕を助けてくれたんだってね。ありがとう」

「うん!お兄ちゃん、名前はなんて言うの?」

と、そのとき僕の目の前にメッセージが現れた。


<名前を決めてください>


僕は、元の世界と同じ名前、ヒロトと書き、決定する。

「ヒロトお兄ちゃん、また遊びに来てね!」

「うん。きっと来るよ」


こうして、僕はルミナ村を出た。

きっと、少し北のグリア王国に行けば、何か起こるに違いない。

僕は方位磁石の赤い針が示すほうへ進んでいく。

キレイな景色だ。けっこう画質がいいゲーム機らしい。


しばらくすると、城が見えてきた。

僕は城の中に入る。

すると、門番が話しかけてきた。

「おお!あなた様が伝説の! 国王様がお待ちです! さあどうぞこちらへ!」


伝説の? ああ、伝説の勇者か賢者ね。


門番に従って通路や階段を進んでいくと、謁見の間にたどり着く。

目の前には国王と大臣とおぼしき2人と、複数の衛兵がいる。

国王が僕に言った。

「おお! そなたが伝説の精なる僧侶か! 言い伝えは本当じゃった! よくぞ参った!」


ん? 僧侶? 勇者じゃないのか。


「これで、2人揃ったわけじゃ」

「2人?」

「もう1人は、私ですわ」

背後から声がして振り向くと、そこには金髪のロングヘアーの女性がいた。


挿絵(By みてみん)


「あなた、お名前は?」

普通、自分から名乗るもんじゃないのか。別にいいけど。

「僕はヒロト。君は?」

「私はジャンヌですわ。私も転生して来ましたの。精なる剣士らしいですわ。

すると、国王が言った。

「うむ。これで言い伝えの2人が揃った。


<異世界より来たりし黄金の髪の精なる剣士が、特に特徴のない精なる僧侶より精剣スペルミウムを授かりしとき、魔王を討ち滅ぼさん>」


特徴のない精者って、僕のことか。

特徴がないのに、どうやって特定したんだ。

魔王を倒すっていうストーリーも古めかしい。


「聖剣ねぇ」

僕が言うと、国王が訂正した。

「ちがう、<精剣>じゃ」

ゲームだから、発音が同じでも違うのがわかるらしい。

「え? どういうこと? 何か違うの?」

「わからん」


そういえば、<精なる僧侶><精なる剣士>とも言っていた。

精霊の力を使うとか、そういう設定だろうか。


すると、ジャンヌが言う。

「とにかく、そういうことらしいですの。さ、早く私に精剣スペルミウムを授けなさい。それであなたは用無しですわ」

「いやいや、ちょっと待って」

「持ってないんですの?」

「ない」

「心当たりは?」

「ない。今、初めて聞いたし」

「役に立たないですわね」


そんなやりとりをしていると、国王が口を挟んだ。

「とにかく、旅立つがよい。まずは西の森を抜け、アタル村に行くのが良かろう。これを持って行くがよい」

すると、目の前に宝箱が2つ現れた。

箱には、<A>というボタンがある。

僕はためらうことなく押す。

簡単に開いた。

銅の剣と、こん棒を手に入れた。

「私、剣がいいですわ」

まぁ剣士だから、妥当だろう。

僕はこん棒を装備した。


「さあヒロト、出発ですわ」

「ちょっと待った」

「なんですの?」

「まずは、城の中を回ろう」

「何か用事でもありますの?」

僕は、城の中の部屋に入ろうとする。

「ちょっと、勝手に入っていいんですの?」

「大丈夫、大丈夫」

部屋の中には複数の召使いのような人たちがいた。

「この人たち、私たちが部屋に入ってきたのに完全に無視してますわ」

「話しかけなかったら何も言われないよ」

そう言いながら、僕はあちこちの部屋に入り、タンスや壺の中を覗く。

「よし、ポーションと20G見っけ」

「それ、泥棒ですわ」

「いいんだよ。ゲームだし」


「ゲーム? ヒロト、ゲームって何ですの?」

「え? ゲーム知らないの?」

「聞いたことないですわ」

確かにお嬢様っぽい喋り方だけど、今どきゲームを知らないことなんてあるかな。

「えっと、ジャンヌはどこから来たの?」

「1430年のフランスですわ」

中世ヨーロッパか。ゲームのことを知らないのも当然だ。


「さぁ、今度こそ出発ですわ」

僕たちは、国王の指示に従って、アタル村を目指して森へ向かった。

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