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闇夜の出会い

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 夜を演出する方法として、獣の目を光らせる手法。漫画やアニメなどではよく見られる光景なのは、皆も知っているだろう。

 実際、ネコなどは暗闇に置くとその目が光るわけなんだが、なぜかというのは、みんな知っているかな? ネコは網膜の脈絡膜という部分に脈絡壁板、いわば光の反射板のようなものをそなえている。こいつはわずかな光でも反射させる性能を持っているんだ。

 それとグアニンと呼ばれる、光が当たると白く輝く物質をネコの網膜は豊富に含んでいる。そのために我々は光によって輝く、彼らのまなこを目の当たりにすることができるというわけ。

 おかげで人間にとっては不十分な光量だとしても、ネコはそれを十分に活かせるために、夜目が利くんだね。そしてそれが、こちらを見やっていることの証拠として、昔からいろいろと恐れられたのだろう。

 陽の光の下での活動を主体とする私たち。夜は夜で、目のきく彼らに任せたいところだが、今の時代は夜も人間が明かりに包まれ、遅くまで起きるのがほぼ当たり前。そのために、昔だったらまず出くわさなかったものに、出くわす機会も増えてしまったかもしれないね。

 夜の中でしか見えないもの。そのひとつのケース、聞いてみないかい?


 あれは私が小学生のときだったかな。

 うちは、いつもだと門限が決まっていてね。陽が暮れる前までには家に戻りなさいといわれていたんだ。

 夏場はともかく、冬場は大変だ。放課後を迎えてからいくらも経たないうちに、陽が西へ傾きかけてしまうものだから、満足に友達と遊ぶ時間を確保できなかった。お祭りなどの行事があるときなどは例外的に解除されるも、窮屈さを覚えるときもしばしばだったよ。

 暗くなってからは、何かと危険だから。門限をもうける理由はだいたいこのようなところだろうと、私なりに考えてはいた。

 しかし、いざ親に理由を尋ねてみるとほかの理由もあるのだという。


 子供が日暮れ以降に出歩いていると、まれに「墓碑」を目にしてしまうことがあるから、とのことだった。

 墓碑はほぼ墓石と同義。そりゃあ、うちの近所にはお寺があってお墓も多いし、別に日暮れを待たなくとも、ちょっと意識すれば無数の墓石たちを目にとめることになる。

 どこかまずいところがあるのか、と返すと、それらとは別の墓碑のことだという。


「暗い闇の中にあって、確かにそこに見える墓碑。昼間には絶対存在しない墓碑。それを目にしてしまうのは、子供に悪いものを及ぼすからだ。すこやかでいるためには、認知しないほうがいい」


 お祭りなど、やむなく遅くなる場合でも、なるたけ明るい道を通りながら家まですみやかに帰りなさい、とのお達しだった。

 墓碑を見てしまう、とはどのようなことだろうか。なまじ話を聞いてしまうと、ちょっと興味が湧いてきてしまうもの。おりよく、今年の夏まつりがもう数週間後に近づいてきていた。

 普段の門限から解き放たれる日。友達と一緒に参加した私は、お祭りの店回りなどを堪能したものの、真の狙いはその帰り道にある。

 いつも推奨されている、明るい道をはずれた。入り組んだわき道を、慣れた地元民ならではの土地勘で進んでは曲がり、進んでは曲がりと、地図上で見たら尾行を巻きたがっているような奇妙なルートをたどった。

 照明は、点々と設置された電柱上の細長い電灯程度で、照らされていない面積も相当に多い。電灯そのものも点検が行き届いていないのか、もう思い出したように点滅するのがやっとのものや、完全にお亡くなりしているものもちらほら。


 そのうちの、もっとも長く暗闇が続く道へ差し掛かった時だ。

 角を曲がって、いくらも進まないうちに私はかなたから別の影が、こちらへ近づいてくるのが見えた。

 黒ずくめの格好をしているのか、ほかのわずかな色合いも私のまなこにはもたらされない。よほど細いのか、手足もそこにあるように思えず、私が確かめられるのはそのやたらと角ばった太い図体のみ。

 はたと足を止めた私は、なおも正体を見極めんと目を凝らす。対する向こうは進みを緩めず、かすかに体をゆすりながら、こちらとの間合いを詰めてきた。


 ほどなく、視界へとらえることができたよ。

 それは確かに墓碑といえた。お墓参りで見る、我が家を含めた種々のものよりも横にも縦にも大きく、黒々とした体を持っている。それがまるで蚊の足ほどの、細い細い足を地面につけながらヨタヨタと近づいてきたんだ。


 ――こりゃあ、面白いものを見られたぞ。


 そう私が喜ぶのも、つかの間だった。

 とたん、私は盛大な放屁をするや、下腹部に溜まっていたものが一気に解放されるような心地がして、一気に頭が冷える。

 いわゆる「おもらし」感覚だ。ある程度歳を重ねた今では、その羞恥のでかさは語るに及ばず。人の目がないとはいえ、とんでもないことだと、顔がいっぺんに赤くなるのを感じながらついズボンに手をやってしまう。


 が、それらがいっさい感じない。確かに漏れてしまった感触があるのに。

 ただ代わりに、前方からにわかに漂ってくるのはトイレの中で嗅ぐべき臭いたち。本来なら、私のズボン越しに臭ってもおかしくないそれだった。

 なお近づいてきたそれに、目を見張る。墓碑はしとどに濡れそぼっていたんだ。

 先ほどまでは、そのような湿った様子など見られなかったのに……と、いぶかしがる間に、続いて襲ってきたのは腹の虫。

 ぐうう~、という音に伴い、奇襲してくるのは空腹感。つい先ほどまでみんなと回りながら、たこ焼き、焼きそば、りんご飴と、気の向くままに詰め込んだそれらのありがたみが、これまた一気に消えたんだ。

 そうして、それらの面影をふんだんに残す、お好み焼きの具のできそこないらしき山が、ぱっと現れ出たんだ。

 あのよたよた歩いて来る、湿った墓碑のそのうえに。乗せきらないものをぼろぼろ、ぼろぼろこぼしながら。


 いや、必死に逃げ出したよ。

 だってさ、あれはいわば外から取り入れたり、内からひねり出したりしたものだからさ。それらが優先的に持っていかれてしまった。

 でも、もしもあのまま。この体にもともと備わっているものを持っていかれてしまったら……とうてい健やかでいられるとは思えないね。

 翌日、夜が明けるとかの道の近辺には、盛大に吐しゃ物らしきものがまき散らされてあるのが確認されて、酔っぱらいの誰かがぶちまけたんだろうと噂されたっけ。

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