第2話「女性キャッチャー現わる!」
体全体から汗が出ており大きく息を切らしていた。
苦しい状況をチームメイトでスタメンではないもののマリーアイリン選手がイライラしながら小さくつぶやく。
「トライアウトの時と比べ球速は速くなって95マイル(約152キロ)や96マイル(約154キロ)を計測し、三振も奪えてる。コントロールはまだまだだが、キャッチャーもタイムをかけて話しかけたりしないのか。その気配すらないじゃん。ただひたすらミットを構え続けるのも見ててイライラするわ!」
ここで強打者3人から2本のシングルヒットと1つの押し出しとなるフォアボールで3失点してしまう。
マリーアイリン選手は監督にキャッチャー交代についてキツそうな口調で相談しに行く。
「ボス、あたしこれ以上ベンチで見てられません!キャッチャーはピッチャーの心理状況を理解できませんよ。苦しい投球をしてるのにタイムをかけずにただミットを構えてるだけです。ピッチャー交代の前にキャッチャーをあたしにしてください!それでもこのピッチャーの調子が良くならないのであれば、あたしは責任を取って自らダブルAに降格することを約束します。身勝手な事を言ってるのは確かですし認めてますから。」
監督は、黒いサングラスを両手で軽く触ってから返事をする。
「そこまで言うなら試しに交代しよう。現在3点取られている。ここから2点以内の失点にこの界をしのげたら、アイリンの判断が正しかったと認めよう。主審、キャッチャー交代!ブリーフランクからマリーアイリンにチェンジ!」
監督は審判に選手交代を告げた。
(キャッチャー代わって、背番号5 マリーアイリン!)
場内に英語で選手交代のコールが流れ、アイリン選手はマスクをかぶって、僕のところに向かってきて話してかけてくれる。
「ヒカルだったけ?あたしはある程度、日本語が話せるんだけど、明らかに焦り過ぎだし、打たれるのを怖がってる。これだとスリーアウトになる前にノックアウトで交代させる。とにかく怖がらず、あたしの胸に向かって堂々と投げてこい!」
突然、話しかけてもらえて僕は驚いた上に、今の一言で、アイリン選手の爆乳を少し見てしまった上で苦笑いしながらも真面目に返事をしていく。
「はい、そうです。そこまで言ってくれるなら分かりました。確かに僕は、抑えることで必死になりすぎていました。アイリンさんの言う通りにしてみます!」
試合は再開され僕は、3人のランナーがいるがセットアップから思い切ってワインドアップの投げ方に変える。
アイリン選手の胸を見ながら投げていくと球は、内角低めのストライクゾーンにボールが入った。
打者は空振りし、この時場内の画面には99マイルの数値が表示された。
ここから僕の野球人生は、少しずつ変わり始めていき、この回3者連続三振で全球95マイル超えの球速とこれまでになかった伸びのあるフォーシーム(ストレート)に変化していったのである。