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会議





違和感しか感じない「それ」を通った瞬間、マイクの視界が切り代わった。

目に入ったものはどこにでもあるようだが、普通よりは少し田舎じみた村だった。

だが、マイクの肌はそれを実像ではないと判断する。


獣人は特殊な生まれからか、自然との親和性が高い種族だ。

人工物か、自然物かの違いなど一目でわかる。


マイクはそういう感性を持つ獣人の中でも一際鋭かった。

その感性がこれは人工物だと言っている。


彼の肌が感じたのはこの空間に存在する歪みのようなモノだ。

この空間の歪みは結界の禿げだ部分とも言え、空気中にある様々なものに異変をもたらす。

主な原因として挙げられるのがそれは結界崩壊の前兆ということだ。


マイクはフランから預かっていた魔道具を使い、壊れかけていた結界に入り、そして同時に完全に破壊した。

結界が破られ、あっちとこっちの隔たりがなくなったことによって本物の景色が写し出される。


マイクの目の前に元同僚が一人と、知らないフードを被った見るからに怪しい奴が一人それぞれ横たわっていた。


まずは知っている顔の方へと近づき、軽く頬をたたきながら、声をかける。

だんだんと叩く力を強くしていくものの、フーベルトの頬が赤くなるだけで目を開けるようなことはない。


アイクへと報告をしようとしたが今はやめておくことにした。

彼はマイクを「ゲート」でここに送った後、クロックという友人へと会いに行った。

聞く限り、アイクの中ではおそらく真犯人はもう判明しておりその手がかりを友人に聞きに行ったのだろう、とマイクは検討外れでもない惜しいところまでいった考えを持っていた。


そしてアイクが正しければこのフード男が真犯人の共犯者、良ければじけんの実行犯ということになる。


マイクはまずフード男の手足の自由を奪い、目と口を魔法で封じる。

そして魔族にしか効かない薬を投与してから、フーベルトの治療を開始する。

彼に体に目立った傷はないものの、マイクが驚いたのは彼の足だった。


彼の足は通常の構造ではありえないような形に曲がっており、後遺症なしの回復が困難だと知識が一般人でも判断できる有様だった。


たが、ここにきたのはマイクだった。

マイクはここまでひどくはないものの、足をこの状態にまでになる例外を知っており、しかも経験済みだったからだ。


なぜフーベルトがと言う疑問は置いておき治療を開始する。歪んだ足をさらに粉々にし、その上から無理やり固定する。そこからだんだんと操作系の魔法をかけていく。


それをしながら縛ったフード男の様子を見る。

この男を人類の罪で裁いたとしても、おそらく民衆、そして上は納得しないだろう。アイクはどうするつもりなのだろうか。


応急処置が終わったことを確認したマイクは行きと同じように、無料のタクシーであるアイクの魔法の「ゲート」が開くのを期待して待っていたが、再び現れることはなかったので二人を片腕で抱え、建物まで走ることにした。





マイクがオフィスへと入ると、中には怪しげな組織の創設者であるフランとステイ、アイクの友人であるワシントンがすでに中にいた。

そしてマイクは知らない、小綺麗で高そうなスーツに身を包んだ中年の男がステイと向き合って話し合っていた。


「無事のようね」


部屋へと入ってきたマイクの顔色を見てステイが一安心したように言う。

フーベルトの足は無事とはかけ離れたところにあるが、命に別状はないのでひとまず頷いたおいた。

マイクはこの場にアイクがいないことから、まだ事件は解決していないだろうと考える。


「アイクはまだクロックの部屋だ。もちろん、万が一にも取り逃がすことはないから心配するな」


そのことを察知したワシントンが答える。

取り逃がす?

つまりはクロックが犯人だったと言うことなのだろうか。

マイクの頭の中で様々な疑問が浮かび上がる。

それを取捨選択して、1番の不安を問う。


「なぜ手助けに行かないんですか?」


これは彼らがアイクが戦闘になっているだろうことを知っているのになぜそこへ行ってあげないんだと言う疑問だった。

だが、怒っているわけではない。

マイクはここでキレるような思慮の浅さは持ち合わせていない。

単純に何か理由があると思ったからだ。


「フランよりも落ち着いて助かるわ」


そう言って、ステイが面白がる。それに反してフランはバツが悪そうだった?


「部屋に行ったとしても中には入れないわ。どっちの結界かはわからないけど出入りするなということよ。それでも周りにはもしもの時のために信頼できる人を立たせてるし、そもそもアイク自身は大丈夫だと言っていたわ」


「でも、まだできることはまだあるでしょう?」


それだけしかしていないのかと言うことが浮かぶ。

部屋に入れなくて、助太刀ができないとしてもここでおしゃべりをするよりは何か有益なことができるはずだ。


「アイクが大丈夫と言ったのよ」


「でも・・・」


「大丈夫、だと言ったの」


ステイの有無を言わせないアイクの実力への信頼。

それを聞いてマイクは何も言えなくなってしまった。


「それに、俺たちもサボってたわけじゃないしな」


そう言うとワシントンは椅子から立ち上がった。

彼の視線はスーツの男へと向けられており、今まで行われてた話し合いが無駄なものではないと語る。


「初めましてですね、Mr.マイク。私は聖邦連合評議会対魔諮問機関調停局調査部条約違反事案調査委員会議長、約して連合諮問調議長のヴィアラです」


彼はワシントンに釣られるように立ち上がり、マシンガンのように話された肩書きを全て頭の中で再々生ているマイクの方へと差し出す。


マイクは何も考えずに出された手を握る。

柔らかい、武術を一度もしたことがないだろう手だった。

ヴィアラは握られた手を満足そうに見ながら、再び全員に向き直る。


「Mr.マイクが来たので一から説明いたしましょう。明日の明朝9時に条約違反事案、つまり今回の火事に連なるテロ活動についての調査委員会を開きます。そこであなた方の意見を聞きたく、馳せ参じた次第」


聖邦連合評議会での調査委員会による会議。

それは実質この世界での最高決定権を持つと言える場だ。

そこでの判断が黒なら黒、白ならば白になる。 


もちろん、形式的にはその後、評議会という1番大きな会議が開かれるのだが、そこでの判断が事前の会議決定を覆した例はない。

ほとんど形骸化しているようなモノだった。


「彼の考えている通りで間違いないです。この調査委員会での結論が実質的に聖邦連合の決定だと思ってもらってもいい次第」


マイクは自分はそんな考えを読まれやすい顔をしているのだろうかと疑問に思う。

そして時計へと目を移す。


明日の9時には世界の運命が決まる。

今の時刻はもう19時だ。

つまりリミットは最大で14時間。


「この調査委員会はあらゆる意見を取り入れ、公平な判断をするため様々な機関からの出席をお願いしています。もちろん、枠には限りがありますがここ、魔法協会からは二人まで出席が可能という次第」


ヴィアラの口からスラスラと用意していたようなセリフが続く。


2枠。

アイクが不在なのでこの場の決定権はもちろんステイにある。

彼女がメンバーを決める。


「おそらく、いろいろと相談があるでしょう。今すぐとは言いませんが、今日中に私へと連絡をくれれば問題ない次第」


ステイの方を見ながら、意味深な笑い顔を浮かべる。


「ではこの中の二人、サンクト・カテドラルで会いましょう」


そう自分の要件だけ早々に済ませて、ヴァアラは上機嫌に部屋から出て行った。






「誰にするんだ?」


椅子に座り直したワシントンが決定権を持つステイに聞いた。

ステイは思考の海から帰ってこない。


「先生は無理ですよね」


マイクが不安そうに呟く。

アイクは未だクロックの部屋から出ていない。

そして出てくるかもわからない。


「この件を知っている者、つまりこの中から二人ってことね」


ステイがこの部屋にいる者の顔を見渡す。

彼女の顔は先ほどマイクとの会話よりも覇気がないように見えた。

それも仕方がなく彼女の生きる指針は自己保身であり、こんなことに関わっている時点で彼女の人生の中では天災モノである。


聖邦連合評議会は魔法に関してのヒエラルキーの頂点に位置し、ここでの活動も彼らの許可なくして行うことはできない。

反感を買うことはできないのだ。

かと言って、彼女自身、魔族を廃絶させる決定をするほどの肝を持ち合わせてはいない。

彼女の胃がキリキリとなり始める。


「私、行ってもいいですけど」


フランが目の前の資料から目を離さずに行ってのける。

ステイは一度、フランを出席させた場合の会議をシミュレーションをしたが、すぐに考えるのをやめた。


この調査委員会での会議は普通ではない。

会議の流れの大部分は聖邦連合の方で決められており、結論もほとんど決まっている。

そして、連合主催の会議に出席している者はそこでの結論から発生する多大なる利益を掠め取ろうとするハイエナの集まりだ。


純真無垢で、清廉潔白で、単純馬鹿のフランに任せたらステイが首を括ることになりかねない。


消去法で一人は決めてある。


「・・・ワシントン、頼むわ」


「まあそうだろうな」


アイクほどでないにしろ、ワシントンは聖邦連合が主催する調査委員会にはある程度顔を出してたことがある。

こういう時にアイクかクロックがいればと思ってしまうが、それはもう考えるだけ無駄だ。


あと一人。

聖邦連合での意向は不明、そしてこの委員会に魔法協会が呼ばれたのは調査報告を聞きたいということ。

なら、その事件を担当していた彼ら、そしてその中でも二人からしか選択肢はない。

そして答えは限られていた。


「俺がやりましょう」


ステイが声をかける前にマイクが手を挙げ、立ち上がる。

ステイは申し訳なさと、自分が出なくて済むという一安心を持つ自分への嫌悪感に気づきながらも頷いた。


「いつ出発ですか?」


聖邦連合の本部があるサンクト・カテドラルに行くにはここからでは片道で5時間以上かかる。

こんな直前に言いに来るなと言いたいところだが、生命線を握られている手前、強く言うことはできない。

一度危険因子として判断されたら、それを取り消すのにどれだけの労力を費やさないといけなくなるか。


「色々と準備もあるし、見積もって朝3時だな」


ワシントンが概算での時間を言う。

残り時間は七時間。その間にアイクが戻ってくればよし、さもなければ自分でなんとかするしかない。

刻々と迫る制限時間の終わりに身を引き締めながら、頭を回し始める。






部屋を出たマイクとワシントンは、情報収集のためある護衛隊の施設へと来ていた。


「悲惨だったな。働き始め早々」


「いえ、これも仕事です」


ワシントンの気遣いにマイクはあくまで礼儀正しく答える。

だが、彼の内心はグチャグチャだ。

なぜ自分が、なんのために、そんな疑問が頭から離れない。


この会議は肉食動物が蔓延る野原も同然だ。

マイクは最近その野原に出てきたよくてひよこの半人前。

太刀打ちできるのかという話ですらない。


「気負うなとは言えないが、一つヒントをやろう。アイクはクロックの部屋に入る前から調査委員会が発足し、会議をすることはおそらく予想済みだった。そしてステイが俺と君を人選することすらもな」


ワシントンの言葉を頭の中で反芻する。

先生はこうなることを予想していた?

なら俺がこんな状況になることも想定済みなのだろうか?



なら俺のやるべきことはなんだろうか。

限られた手札の中で、最善を尽くさないといけない。


そんな思考の渦へと自分を溶かしていたマイクは、護衛隊員に声をかけられ現実へと意識を戻す。


ここに来るのは二回目で、一回目は先ほどのことだ。


暗く、狭い恐怖心を仰ぎたてるような雰囲気を持つ、暗い牢獄。


その建物の地下深くの檻の中にいるのは首だけが自由の利くように拘束された魔族だった。

マイクは目の前の男をフード付きでしか見ておらず、素顔を見るのは初めてだった。


この男の顔は明るく、若い。

牢獄に捕らえられているのを感じさせないような表情だったので気味が悪かった。


「君がやったのか?」


彼にとっては何度目か分からないだろう質問を投げかける。

彼はその質問に答えることにすら飽きたのか、自由が利く首を縦に振るだけで口を動かすことはなかった。


「なぜやったかは聞かない。逆に問おう、君はやっていないな?」


男が顔をこちらへと向け、見えるはずのない目を動かす。

ワシントンの言葉に少し興味を持ったようだ。


「・・・どういうことだ?」


「そのままの通りだ」


何を言っているのか分からないというような間だ。

だがやがて、言葉の意味を理解し終えたのか首を動かしながら口を開く。


「いや、俺がやった。夜中に火をつけて弱い人間を殺したんだ」


投げやりな態度で、そう言い放つ。

彼がここに運びこまれてからの尋問でこいつが真犯人であることを白状した。つまり事実は魔族が人を殺した。それも人類圏で。それで事件は終わる。終わってしまう。


「どうやって人類圏へと来た?協力者か?」


「例え協力者がいたとしてもどうせ死ぬんだから言うわけねーじゃん。もしかするとその協力者を探し出すために貴重な情報源は残しておくよね?」


逸るマイクを小馬鹿にしたような態度で魔族が答える。

だが、協力者の件はアイクがまだ帰ってきていないことからクロックで確定だ。


だが、それを報告したとして何になるだろうか。

実行犯は結局のところ魔族がなのだから、魔族がやったことには変わらない。


このままだと委員会で何もできずに終わる。

それすらもアイクの予想通りなのか?

だが、委員会で判断された時点で詰みになるなのだからそんなことはしないはずだ。


魔族への侵攻を阻止するには俺では無理だ。

俺では。


マイクは、暗闇の中考え続ける。






サンクト・カテドラル。

聖邦連合評議会の本部があり、この世界の中心地。


ここにはあらゆる中央政府機関が集中している。

その評議会の中心に建てられた区画のさらに中心に位置する建物の部屋の一席にヴィアラは座っている。


こんな会議はヴィアラにとっては慣れたものだが、今回は規模が規模だけに手が震えていた。


ここで人類の天敵である魔族の命運が決まる。

これは武者震いだ。

唯一、人類に戦争と言えるレベルまでの戦いをしうるまで発展した種族。

おそらく今の世界で最も人類を殺しているのは魔族と言えるだろう。


講和条約こそ結んだものの人類はその内容には納得していない。内容はエルフが提示した条件を丸呑みしたのも深く関係がある。そんなことでは人類の魔族への怨嗟の炎は消せない。

それが今回のことで大火となり目に見えてわかる。


今回の会議の目的は、魔族への攻撃ではなく魔族に関連する聖邦連合の既得権益の確保。

ここへ結論がいくように会議を誘導しないといけない。


軍では反魔族の意見が凄まじいが所詮軍は軍。軍は手足であり、俺たち頭の指示には逆らえない。


時刻はもう9時手前だ。

次々と招集された委員が入ってくる。

彼ら一人一人に形だけの挨拶を済ませ、席へと戻る。


ヴィアラはまだ来ていない魔法協会の席へと目を向ける。

今回、あのアイクは会議には参加しないと言う噂を聞いた。


アイクとの会議は多い方ではないが0ではない。

アイクは委員会を荒らすだけ荒らしてから、その後始末はせずに自分の要求だけを言って去っていく。


俺たちからしたら迷惑そのものだのだが、評議会連中はなぜか奴を気に入っているため出禁などにはできない。

だから、できるだけ場へと呼ばないようにしているのにどこから聞きつけているのか気づいたら席に座っている。


だから今回も油断はできないが、あまり心配することもないと軍人である友人から言われたこともあり少し安心している。

アイクは今大きな案件に取り掛かっていて出張ってはこないと。


それを確認するため協会の白い建物へと出向いたが、確かにあの憎たらしい顔を目にすることはなかった。

魔法協会からはマイクという獣人と、以前もカテドラルであったことのあるワシントンという人物が来るらしい。

想定通りで問題ない。



ヴィアラが思案に耽ている中、ひっそりとワシントンが入室する。

マイクの姿は無く、彼一人だけだった。


ヴィアラは少し異変には感じたが特段考えることもなく時間を確認し、始めようとした。

一つの空いた席の机にはネームプレートがあり、そこにはマイク・ジェームズと書かれている。

 

一呼吸おき、静寂した空気の中ヴィアラが声を上げる。


「一人不在ではありますが、時間になったようなので条約違反事案調査委員会を始めさせていただきます次第」







「まずは本件の総責任者である私から調査委員会の設置意図および方向性についてご説明いたします。本調査委員会は条約違反、つまりは戦争講和時に魔族と人類によって結ばれたカテドラル平和条約における魔族の重大な違反の事実を調査するため設置されました。」


ワシントンはなんのなしに周りを見渡す。

知り合いが一人、顔見知りが一人いる。

この場を仕切っているヴィアラにその隣に座っている少し厳つい銀髪をしたグラサン。

ネームプレートにはザンブルクと書いてある。

彼は顔見知りの方だ。


「事の発端から説明いたします。第一事件は6月12日、ゲイリーングで起きた火災です。そこから連続して複数の場所から同じような事件が・・・」


相変わらず前置きだけ長く、時間だけが過ぎていく。

久しぶりにカテドラルへとやって来たが、何も変わってないようで安心する。

今は事件の概要を説明しているが、資料には載っているしそもそも、説明不要なレベルで有名な事件になっている。


「・・・という疑惑が上がりましたので、この件を世界秩序に関わる高度な政治的判断を求められる事案と認定し、我々聖邦連合評議会に事件の全決定的管理領域を一度返還していただきました。そして再びこの委員会で最終的な決断をつけるということに致し、幅広い観点からの意見を検討するべくそれぞれ各界のオピニオンリーダーにご参集いただきました次第」


やっとのことで静けさを取り戻した会議が帰ってくる。

いつもなら非効率極まりないこの会議で睡眠不足を解消したりするが、今回はそうもいかない。


ヴィアラの意味のない時間稼ぎはこっちからしてもありがたい。

早く終わるより、長引かせた方が俺たちの目標達成確率は単純に上がるからだ。


「それでは我々からの出席要請を承諾していただき、これからの人類の未来を決定する力を持っている方たちの名前を席順で呼ばせていただきます」


ワシントンはわかりやすいようにそれぞれに番号を振っていく。


1,聖統護国連隊 聖官長 ルーカス

2,聖統護国連隊 聖人  ガーリング

3,戒律監査院  監査総監  ライ

4,ハーヴァルディ人類史研究室 室長 コモンズ

5,魔族研究家兼評論家  メリーヌ

6,人類魔法協会トレント支部対魔特捜部 研究員 マイク

7,人類魔法協会トレント支部 実務部  部長 ワシントン

8,世界流報クラブ 理事会長 ジェシー



「そして我々聖邦連合評議会のヴィアラ、ザンブルクです。この10人でこの重大な案件に取り組んでいきます。この案件は至急ではありますが、慎重にならざるを得ないというのは全員の共通認識だと思います。なのでこのような場を取らせていただいた次第」


ヴィアラがこれで説明は終わりだと言うように席に座る。


それと同時に直接鼓膜を響かせるような声が聞こえた。


「御託はもうええ、早く終わらして返してくれ。俺も戻って準備したいんや」


その声の正体はこの世界での軍の役割を持つ聖統護国連隊のルーカスという見るからに軍人の装いをした髭を生やした若い男だった。

その隣にはワシントンと年齢が同じくらいのオヤジが座っている。

こっちは知り合いだ。


「ご協力感謝します。私どもとして迅速な解決は必須と考えております次第」


それに反応して立場は同じだということをヴィアラが伝える。


「ならできるだけ早く頼むで」


「重々と承知しています」


ワシントンはこの会話から聖邦連合の今回の思惑を推測する。

軍と連合の関係は根深く、彼らは利害一致で協力することが多い。

つまり彼らの言動を探っていくことで、会議の全貌が見えてくる。


「真犯人は結局魔族ということで確定でいいのですか?」


この世界での情報の流通を一翼に担う世界流報クラブのジェシーという金髪の女性が事実確認をする。


「その判断は早急だろう。その可能性があるということで我々が呼ばれたと考えていいのだな?」


それに答えたのは「歴史」という未来と過去を見通す学問のヒエラルキーの頂点、ハーヴァルディ人類史研究室の室長である老人のコモンズだ。


「おっしゃる通りです。ではそれぞれの機関の意見をお聞きいたします。軍部における意見は前もって通達済みなので、Mrライ、監査院の意見を聞かせていただきたい次第」


名指しされた、ライは席を立った。


「我々の意見としては第一、この事件においての魔族における関連性によって判断すべき。第二、魔族が関連しているのなら侵攻もやむを得ないと考えております。我々の立場的に止めるべきだという意見もありましたがそれも考慮した上での判断だと理解していただきたい」


ワシントンはライの言葉の前半は言う必要があったのかと疑問に思う。

そしてよりによって倫理的観点からの判断を重視する監査院がその判断をしたことに驚く。

だが、それはワシントンだけではなかった。


「監査院は余程忙しいようだな。ここで見送ったのなら次に活動するのはいつになることやら」


そう目の前にいる相手に皮肉を言ったのはコモンズだ。その言葉にライが眉を顰める。


「ならあなた方は魔族が人類を虐殺していたとしても、それを黙って見ていろと言うのですね、コモンズ室長」


監査院への侮辱をあえて聞き流したライが老人へと鋭い目を向ける。


「無論、そうするべきだと主張させてもらおう。人類であっても既存する生態系を跡形もなく消し去るのは倫理に反する」


コモンズが倫理を重んずる監査院相手に皮肉を重ねる。


おそらくコモンズは盤面から監査院を取り除くつもりだろう。

ワシントンはコモンズの思惑を読み取る。

かの翁は人類における倫理的問題のみの解決を主体とする監査院に、魔族への倫理基準の適応を否定させることによって、監査院がこの委員会にいること自体の矛盾を監査院自身に作らせようとした。


「魔族を滅ぼすのは可哀想、その段階の話ではないのです。あなた方歴史学者は少しマクロ的思考をよしなってはどうです?」


だが、そう簡単にはいかない。ライは皮肉に皮肉をもって返す。

コモンズは面白くなさそうに会議を見渡すだけだった。


少しの沈黙の後、会議室に置いてある机の真ん中に座っていたメリーヌがヴィアラと目配せをした後に立ち上がった。


「私の意見を慎んで述べましょう。今の人類は魔族に対して、寛容な統治を行っていると言える。それはかつての連合の功績そのものであり、我々人類の誇りでもある。しかし、その温情を好奇とみなし、我々へと牙を剥いてくるのなら武力行使ももう仕方ないと言わざるをえません。たとえそれで我々に小さな損失が出ようとも」


ワシントンは甘ったるい声で喋る短髪黒髪の男は政治家を連想させるなと思った。

聞く限り、聖邦連合に癒着どころか一心同体なそれの意見を聞いたワシントンは、連合は魔族侵攻の方へと意見が寄っていると言うことを理解する。


「ならお聞きしましょう、以前の大戦から魔族への統治の影響を与えたのは連合はもちろん、現魔人族のエルフの功績でもあるといえます。もしここで我々が手を出したのなら彼らは同種族である魔族を庇わないと言えるのでしょうか」


そう聞いたのはこの世界の民意の体現者ジェシーだ。

彼女の情報から民意が生まれ、その民意は彼女によってに操られる。

たが、その性質上彼女が肩入れする勢力はなくここでの唯一の公平性を持っている存在だと言える。


「そもそも、条約を破ったのは奴らからだ。もしそれでエルフが我々の正当性を認めないとしても影響はあまりないともいえる。今のエルフはかつてのような力はない。魔族と束になったとしても人類が負けるようなことはないだろう」


自信満々にメリーヌが笑いながら言う。


「議論を本筋の方へと戻しましょう。魔族の関わりがなければ今の話も無為です。魔法協会の調査結果、意見をお聞かせください」


ヴィアラが勝手に話を乱すなという意味を込めて、会議を一度締める。

そしてその視線はついに、ワシントンの目へ向けられた。


「では、凝縮ながら述べさせていただきます。無駄は省き、結論から申し上げると真犯人は未だ不明です」


会議室の色が一気に落胆へと変わったのがわかった。

このままだとワシントンはすぐにでもこの会議から梯子を外されるだろう。

それだけは止めないといけない。


「しかし実行犯と思われる人物を特定し、捕縛いたしました」


ジェシーがスクープだと言う目でワシントンを見つめる。

他の出席者の様子も様々だ。


「ですが、あなた方が親の仇のように嫌っている魔族だと確定はできません。何しろ、先日捕らえたばかりなもので」


少し、ジャブ程度の攻撃を加えながら話す。

この中でも1番興味があるだろう軍部が口を開く。


「実際に仇や。そも魔族かどうかを調べるのにそんな時間がかかるとは思えないが?」


ジャブを打ったらアッパーで帰ってきて、ワシントンの顎を正確に打ち抜いていた。

ワシントンは後悔と同時に、そのアッパーの後の隙を攻めてきた攻撃へと備える。


「人類と魔族の見分け方は外見から区別がつかない場合、魔法関連で検査するしかない。しかし、実行犯の魔素の練り方は人類の方法を模倣しているようなので、慎重にならざるを得ない状況です。人類のそれは魔族からすれば非効率極まりないのでね。万全を期すために精密検査を実施しています」


「いつまでにその調査結果は出ますか?」


結論を急ぐヴィアラが聞いてくる。


「三日後には」


ワシントンは前もって用意していた答えをそのまま口にする。


「三日後?えらく難しい検査なんやな」


見るからにイライラしているルーカスが笑う。


「検査ミスをすることは許されません。我々の立場も理解していただきたい」


ワシントンも少しギアを上げていく。


「そもそも奴を捕らえた時に魔殻を調べたらよかったんや?それができへんでも戦闘場所に魔殻を探しに行ったらええ話やんけ。少しは頭を回せや」


怒りのボルテージがだんだんと上がってきて攻撃的になっているのをワシントンは感じた。そこで少し反撃に出ることにする。


「もちろん、調査は済んでおります。捕縛に成功したのは戦闘から時間が経ってのことでした。そして魔殻は結界によるものか、それとも本当に魔族じゃないのか魔殻は発見できず。・・軍関係者ですら思いつくことを我々がしていないと?頭が足りないのはそちらの方なのでは」


ルーカスがその言葉を聞いた途端に立ち上がり、ワシントンの方へと向かってこようとする。


「議論が盛り上がっていいことです。ですが範囲を逸脱しないよう。魔法協会としては三日後には真実がわかると言いうわけですね?」


それを目だけで止めたヴィアラは再確認をする。

ワシントンは少しビビりながら素直に頷く。


「なら三日後ぐらい待ちましょうと言いたいところですがそうはいきません。上の意向もそうなのですが何より、市民が早急な解決を迫っています。我々聖邦連合は彼らのために存在している。彼らの選んだ代表者が評議員になり、この世界の方向を決定する。この世界での最高権力者は彼らなのです」


名分は市民のためだと言うヴィアラ。


「だから、根拠は曖昧だが市民のために魔族を滅ぼすと?」


コモンズがヴィアラを見つめながら問う。


「それを判断するのが私達でありこの調査委員会を構成するメンバーなのです」


そう笑いながらヴィアラは再びワシントンの方へと黒い目を向けた。


「Mrワシントン、検査を何度も確認する必要はありません。我々はあなた方の腕を信頼しています。精密検査一回のみにかかる時間は?」


「・・・一日あれば」


ワシントンは実際は半日でできる検査に嘘をついた上、そもそも魔法協会の中では実行犯は魔族で確定していることを隠す。

犯人に魔族だけに効く薬を投与し、それで効果が出たのだからもう確定なのだ。

だが、それを言ってしまえばノータイムで魔族殲滅が決定、ミッション失敗となる。


「ふむ、なら先日の捕縛時から検査をしたとしたなら今日中にはわかるということですね。そしてその可能性はどれほどのものでしょうか」


ヴィアラは理論値としての最速の時間を指摘する。


「・・・65%程度だ」


「よろしい、ではその実行犯が魔族と断定して話を前に進めましょう」


ミスった、とワシントンはそう思った。

だが、高すぎても低すぎても正解ではないし、もう言ってしまったことなので切り変えていくしかない。


「何を話す必要があんねん。反撃しかないやろ。サイン出たら今日中にでも俺らは東にいけんねんで。でもいつもみたいに諸々の許可取らなあかんとか言うて無理なんやろ?」


ルーカスが呆れながら言う。


「そうです。ですが今回は無理をすればそれも不可能ではありません。本案件は至急、時に現場での判断がより重要視される状況はあり得る次第」


全員の注目がヴィアラへと集まる。


「つまりどういう?」


ジェシーがついその先を知りたくなり聞いてしまう。


「評議会を通さずに軍を動かすことができるということです、上へは事後承認という形にはなりますが」


「気に入った、決まりやな」


会議室内の空気がピリつく。

その空気に当てられ、ワシントンは一瞬言葉が出なくなる。


「ありえない、そして許されない。こんなちっぽけな委員会にそこまでの権限はないはずだ」


代わりに、一貫して魔族を滅ぼすことに反対していたコモンズが声を挟む。


「だが実行力はある。能力あるところに権力が発生し、権限が生まれるんです。おわかりですかな、ちっぽけな会議に呼ばれたコモンズ室長」


コモンズの言葉をメリーヌが一蹴する。

そこへ現実へと引き戻されたワシントンが声を引き出す。


「今一度それで本当に人類の利益になるのか考えましょう」


一定の沈黙の後、めんどくさそうにヴィアラがワシントンの方へ見る。


「では検討いたしましょう。Mrメリーヌ、現在の人類は魔族からの利益を享受していますが、その割合は人類の総利益のどれくらいの割合を占めますか?年々の上がり幅も教えてください。概算でいいです」


メリーヌが待ってましたと言わんばかりに口を開く。


「三割にも満たないだろう。成長率も最近での上がり幅は微々たるものだ」


コモンズがそれに対抗する。


「つまり魔族を滅ぼせば単純に三割の損失」


「ですがもちろん、魔族へと回していた予算を自由に使えることができるので一概には言えませんね」


今まで黙っていた監査院がここで介入する。

コモンズの表情は忌々しげだ。


「そして人類はある程度の期間の確実なる安寧を得ることができる」


「だが人類はどうせ同族同士でも争い始める」


「それでもその間の期間は魔族が存在していた場合よりも長いことは確実です」


白熱していく議論の中で、ヴィアラの冷たく冷静な声が走る。


「聖統護国連隊に聞きます。魔族との戦争になった場合、戦争で発生する損失はどれぐらいですか?」


ルーカスが答える。


「以前の大戦での2割にも満たないだろう」


「それは最小限での数字だな、最大では?」


ワシントンが思い通りには運ばせない。


「・・・4割を超える」


「そんな状態で勝ったとしても戦後の黎明期を再現することになるだけだ」


軍の代表者である彼らはそれ相応の責任からか、あからさまな嘘をつくことはできない。

コモンズは損失を避けるべきだと主張する。


「そのリスクを払う価値はあると考えます」


ライがヴィアラと目を合わせながら発言する。

ヴィアラの頷きを承諾とみなし、流暢に話し始めた。


「第一、戦争に勝った場合の経済効果は測りきれない。第二、もしエルフ族が敵対し、まとめて殲滅が可能なら人類の生存領域はかなり広がる。これは未だに増え続ける人類の個体数の急上昇の対応にもなる。第三に、殲滅戦なので賠償金は得られなくとも彼らの土地には有数の鉱石山がある。それを人類が最高効率で運営すれば、戦争での損失など一年で賄いきれる」


「・・・だがもし負けたら?」


顔色の悪い様子でコモンズが問う。

だがそれに反応したのは監査院ではなく野太い声だった。


「それは我々に対する侮辱と受け取ってもいいのか」

 

「・・決してそんなわけでは」


睨みを聞かせルーカスがコモンズを黙らせる。


「さて委員長殿。裁定を」


ワシントンがもう考えなしに声を挟もうとするが、その声が空気を揺らすことはなかった。


「・・どうも遅れました」


会議室の空気を変えたのは、ワシントンのそして魔法協会の一つ目の切り札だったが、その札がワシントンの意思とは関係なく勝手に場へと出された。


「本日、参考人招集を受けた魔人共栄連盟のフラン・ルーニンです。遅れたことをここにお詫びいたします」


美しい容貌をしたエルフ族は正々堂々とこの戦いへの参戦表明をした。





「そんな話は伺っていませんが」


予定にないことが起こり、ヴィアラが少し狼狽える。


「すいません、魔族の行く末を決める委員会なので魔族側の意見がないと公平ではないと思いまして」


ワシントンが助太刀に入る。

手札が場に出た以上有効利用しないといけない。


「参考人の出席要請は伺っておりません」


少しずつ落ち着いてきたヴィアラがそう答える。


「俺が受けた」


だが、隣に座っている同じ聖邦連合のザンブルクの裏切りの声にヴィアラは再び混乱へと陥った。


「なぜ俺に黙っていた?」


「現場の判断を重視したんだ。・・彼女へ椅子を」


ザンブルクは速記者に椅子を持って来させ、フランの出席を正式に認めた。


「今世間で話題となっている魔族による火災事件疑惑。それに少し遅れて発足したこの魔人共栄連盟ですが、今までにない魔族との平等な生活を望むという世界を目指した組織です」


フランが高々と自分の組織について説明する。


「馬鹿らしい、誰が望んでいるんだ」


メリーヌがすかさず毒を吐く。


「少なくともここに一人」


フランはそんな毒を受け流し説明を続ける。


「魔族との共同繁栄はこれからの人類にとって必要不可欠だと確信しています。魔族には魔族の人類には人類の長所と短所があり、それを補い、研究し、共に発展していかなければなりません」


フランの乱入から未だ落ち着かない空気の間に決着をつける。


「では問います。なぜ人類の発展に魔族が必須なのですか?我々には彼らの存在なくとも現在のように進化してきました。それを考慮しても、彼らと並んでいた歩いた方がいいと?」


そこで唯一の中立国であるジェシーからの思わぬ横槍が入る。


「もちろん、人類の発展は人類のみの力ではありません。戦後期の魔族への恐怖からもあるでしょうが、何よりは魔族の研究が進んだことが大きいはずです。魔族たちの奇妙なる生態系から生活様式まで、解明したこそ今の魔法があり、現在の生活の基礎が出来上がったのです」


その槍もなんとか受け流す。


「だがそのため彼らを放し飼いにするには危険すぎる存在だと思いますが?」


次は監査院のライからの口撃がくる。


「放し飼い?まずそこから下りましょう。決して人類は魔族よりも優れている種族ではありません」


場が一気に静まる。


「もちろん、家畜のように扱えるようなものでもありません。人類が以前の戦争に勝てたのは偶然。逆に魔族が人類を支配している可能性はあった。ここまで酷いものじゃないでしょうけどね」


フランが急いで畳み掛ける。

だが、そう簡単にもいかない。


「だからこそ危険なのだ、万が一にでも魔族がかつてのような力を持ってしまったらそれこそ人類は滅びてしまう」


メリーヌがフランと目すら合わせずに言う。


「なぜ、彼らと敵対するのですか?それでもし今の現状の報復として魔族に滅ぼされるのなら自業自得でしょ」


再び沈黙になろうとした会議室、そしてフランが少しの希望を見出そうとした時、柔らかに感じるが棘のようなにも感じる声が響いた。


「お前、人じゃないな。・・・エルフか」


それはルーカスの隣にいた聖統護国連隊のガーリングだった。彼は笑いながらフランに問いかける。


「ご名答、半分ね」


そこでフランは自分の出自がハーフエルフであることを開示する。


「あなたの理想は素晴らしい。だがこんな事件が起こった今魔族に何の報復もなしというわけにはいかない」


それを聞いた上でガーリングが続ける。


「なぜ?あなたたちが譲ればあちらも譲歩することを覚えるはずよ」


「民衆が納得しない。君が全ての民衆を扇動しみんなで我慢しましょうと言い、そうですねとなるのなら問題はない。だが今回はそうはならないんだ」


ガーリングの参戦によって場が落ち着き出す。

フランは焦り、ヴィアラはそれに乗じる。


「それに条約問題は何も解決しません。魔族は人類への攻撃を二度としないことを誓ったんです」


ガーリングは表情を笑みから変わらずに続ける。


「いい話だったが、理想だけで現状はついてこない」




ガーリングにより場は落ち着いてしまった。

もうフランの理想で殴ると言う手段は選べないだろう。


「ならこの理想を世界に落とし込むだけよ」


だがフランはそこで諦めたりはしない。

無理ですよと言われても、自分の中で踏ん切りがつくまで挑戦し続ける。

そうやって彼女は生きてきたのだから。


「もし魔族と敵対した場合、確定的にエルフは魔族側に付くわ」


「なぜわかる?」


ガーリングが口を開く


「・・・私がエルフだから」


「それは分からない。君らは種族意識が薄い。個体値が一人一人高く、寿命も長いからだ。そんなエルフが協調したのは長い歴史で見ても大戦時のその一回だけだ。それも複数の偶然が重なって起きた奇跡のようなもの。今も国として成立しているのが不思議なぐらいだ」


フランは諦めない。

自分の中で納得するまで。


「なら実行犯だけを民衆に引き渡して・・」


「無駄だな、それで収まる現状ではない。そして、もし組織的犯行ならそれをわざわざ見逃すことになる」


フランは諦めない。

たとえ、無理筋であったとしても。


「ならいっそのこと人による犯行だとして」


「本末転倒だ、何も解決していない」


フランは諦めない。

それが、・・・。


「もう諦めるんだ。君が今できることは戦争に備えるように同族へと口添えするだけだ」


フランは・・・


   




「失礼」

 

ワシントンは既視感を感じた。しかしそれはワシントンだけではなく、他のメンバーもだった。

先ほどと同じような空気が変わるのを耳で聞いたからだ。

全員が声の主がいるドアの方へと顔を向ける。


「相変わらず弱いものいじめが好きか、ガーリング」


その姿を見て、人が感じたものはそれぞれだ。

畏怖に、尊敬、安心に危機感。


だが、その当人はおそらく何も感じていないのだろう。

なぜなら彼はこの会議を荒らし、自分の要求だけを呑ましてすぐに帰るつもりなのだから。


「申し遅れました、私は世界最高の魔法行使者であるアイク先生の、光栄にも部下をさせていただいているマイク・ジェームズという獣人です、以後お見知りおきを」


そう言ってドアの前に立っていたのは、自前の耳と尻尾をつけた魔法協会の第二の切り札であるアイクだった。








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