魔法不能者の超克(前半)
「ただいま」
そう言ったのは上機嫌でオフィスへと戻ってきたアイクだった。
その首元にはつい先ほど届いた魔法行使における正式な許可証をぶら下げている。
紆余曲折あったがなんやかんやで碧翠院からは許可をもらえたらしかった。
「二、三日寝たきりだったのにすっかり元気ですね」
「負債は完済。ちょうどいい」
勤務中でも関係なく昼寝をする相木に睡眠負債など存在するのかと聞きたくなるがここは我慢を堪える。
「駄目だ」
機嫌がいいうちにキールのことについて話そうとしたマイクがしゃべり始める前に遮られる。
「今すぐに貰ったデスクは返してこい。お前に両立は無理だ」
有無を言わせない速さでマイクを黙らせる。王国で付き添ってもらったことはすでに頭から消しているようだった。
「そしてフーベルト、お前の小汚い罠には乗らない」
目の前に置いてあった煙草を見せつけるように捨てる。
フーベルトが軽く舌打ちをする。
「いい朝だ。こんな日は散歩でもしてくるとしよう」
その勢いのまま部屋から出て、扉を閉める。
部屋には辺な空気が流れる。
そして再び扉が開いた。
「何かあっても呼ぶなよ」
それを言い終えてから扉が閉まった。
そしてまた辺な空気。
扉はまた開く。
「フランは今日休みでいいぞ」
そして3回目がくることはなかった。
嵐が過ぎ去った後で、男二人は1人だけ休暇をもらったフランの方に視線を向けた。
*
「観念した?」
人が混雑する騒がしい廊下でアイクが近づいてきたのを見たステイはその道を遮るように言った。
「何を?」
相対したアイクはとぼけるようにそのままの流れでステイを避けて外へと出ようとする。
だがその進路もステイが塞いでくるので仕方なく歩みを止めた。
「何度も呼び出したはずよ。あなたのオフィスは放送がしっかりと通るはずだけど?」
「昔はな。耳の良いマイクが放送なんかなくていいと張り合い始めたから外した」
「嘘ね。そんなことをしたらどこかしらから報告が上がるはずよ」
この協会で起こるこは全てステイの管理される。
それは問題も例外ではなく、彼女に仕事上で隠し事をすることは許されない。
「知ってるのはマイクと俺だけ」
「それ本当?」
だがステイはその例外を作ってしまっている。
自分はそんなつもりはないが周りからはアイクを特別扱いしていると言われることもある。
ここ最近ではそれが一番の頭痛のためである。
「嘘だ。何の用で呼んだんだ」
うんざりしながらアイクがついに足を止める。
「人事部からよ。ちなみに今週だけで7回目」
「今週って一昨日から始まったんじゃなかったっけ?」
話を聞くだけ無駄として再び足を動かし始めた。
ステイがその後を追う。
「たとえ行ったとしても聞き飽きた説教や、無意味な宣誓書を書かされるだけだ」
「それを無視しているせいで苦情が苦情を呼んでるのよ」
「それを解決するのが人事部の仕事だろ」
ステイの足がついに止まる。
「呼び出しに応じるか、仕事をするかよ」
「今からアポがある」
玄関口の扉へと手をかける。
「外で?」
アイクの仕事の傾向的に他人と会議や面談をすることはないのでステイが疑問に思う。
「外でだ」
それだけ言って青々とした空の広がる外へと息抜きをしに行った。
*
「帰るのか?」
「ええ、アイクも言ってたし」
「いつもの適当な冗談だろ」
フランが自身の所持品を鞄へと直しながら答える。
アイクが言った通りに今日は帰りつもりなのだろう。
「もしかすると試されているのかもしれないぞ。帰ったら猫の死体が置いてあるとか」
フーベルトがフランへと助言する。
もしくは一人だけでは帰らせないつもりなのかもしれない。
「試されているとしたら尚更帰るのが正解よ。彼はそういう人でしょう」
だがフランには効かない。
言質も取っている以上彼女にまで何を言っても今は無駄にしかならない。
マイクとフーベルトの羨望と嫉妬の視線を感じて口を開く。
「羨ましいのなら何時間も電車で吐いているアイクを見つけて背中を擦ってあげるといいわよ」
冗談めかしてその契機になったであろう出来事の話をする。
フランは当時にその行動をした自分を心の中でこれ以上なく褒める。
「じゃ、また明日」
そう言って部屋に男二人を残して帰ったことなど早速忘れてこれからの予定を頭で組み始めるのだった。
*
「帰るんですか?」
受付をしているワインに途中で話しかけられた。
彼女とは協会へ入った時期が同じで面接の時も会った背の長い子だ。
ご偶に一緒に帰ったりそのままご飯に行くような関係でもある。
「ボスが休暇をくれると」
「アイクがねぇ。裏がありそう」
「ま、その時はその時よ」
アイクへの認識はこの協会では共通認識で毎度のごとく裏を警戒する必要がある。
だが今回は素直に以前の報酬だと思って楽しむことにしていた。
そこに細身で少し暗い雰囲気の男が話しかけてきた。
「あれ?帰るのか?」
その男の印象は薄暗く、マイナスイメージしか浮かばないような雰囲気だったがフランはそう感じなかった。
「せっかく顔を見に来たのに寂しいじゃないか」
なぜなら彼のことを昔から知っており、何より大変だった時期に一番お世話になった人物だったからだ。
「ところでアイクは今日来ているか?」
鼠色の服をした痩せ気味の男はフランとワインに笑顔でそう問いかけた。
*
青々とした空の下で煙草を挟み、口へと運ぶ。
ベンチに座りながら、行く人々を観察し、考察してそれを途中でやめる。
アイクは思考の途中放棄が途轍もなく好きだ。
入り組んだ迷路を整理するように複雑な回路を並行して並ばせる途中でその地図をを真っ白にする。
どんどんと白くなっていく地図を見ながら脳が柔らかくなる感覚がくる。
だが、それを邪魔するものが現れる。
それは先ほどから隣に座っているソワソワしている親子だ。
おそらく協会に要があるのだろう。
そしてそのことを話しかけられる前に席を立つべきだと判断し、煙草を地面へと投げ捨てる。
「あの・・・協会での検査の申し込みってどのようすればよいのですか?」
だがゲームオーバー。
少し趣味に夢中で間に合わなかった。
無視してもいいが、気になったことがあったので会話することにした。
「なんで俺に聞く?」
「いえ、あの建物から出てきたのが見えたので」
見られていたことを不覚に思う。
それさへなければ面倒な会話をせずともあの白紙の地図を描くのに没頭できたものを。
「悪いが俺はしがない清掃員なんだ。そんな金のかかる検査を命の危機でもないのにしようとする気持ちがわからん」
だが会話がスタートしたならそれはそれでいい。
先ほどから気になっていたことを聞いてしまう。
「なぜわかったの?」
母親が不思議そうに聞いてくる。
「あの芝生で寝転んでいる兄弟。弟の方に問題ありだな。兄貴がずっと心配そうに見ている。後、あんたも」
目の前には戯れるように遊んでいる兄弟がいる。
だか弟の方は無邪気な割に、兄の方が少し顔色が悪いように見える。
「何の検査をするか知らんが基本、予約は埋まっている。例外でもない限りそこに割り込むことはできない。命の危機ぐらいの例外は別」
アイクはいつも何かと理由をつけて検査を優先させているが、規定的には順番の優劣は存在する。
母親の顔は疑問から先にいかない。
「なんで予約をしていないことが分かったって?検査の申し込みもできない人間が予約の方法を知っているとは思えないからだ。納得いったなら今日は帰るんだな」
母親は少し残念な顔をしたが、すぐに立ちアイクに一礼だけしてから口を開く。
「グレイ、ブルートもう行くわよ」
彼らは教会の方へと歩いていく。
「帰るんじゃないのか」
先ほどと会話の流れから違うことをしようとしている母親へと問いかける。
「駄目でもともと。助言はありがたかったけど青の子のことも心配だし、やるだけやってみます」
それから子供たちが合流し、協会へと向かった。
アイクはバカだと思いながらも止めることはしない。
疑問は解消したし、興味がなくなったからだ。
「あれだけ使っちゃダメって言ってるじゃない」
だがその言葉を聞いてからまた少しだけ灯っていた火がつく。
「なぜ魔法を使うことを禁止する」
一般的に魔法を使うことは善とされる。
使い方はあれど使うこと自体が悪とされる時代はとっくの昔に終わった。
それでも宗教的に禁じる愚か者もいるがその一員の証拠である刺青が入っていないのは確認済みだった。
「この子は周りの子たちとは違うの」
弟の方を見ながら母親が話す。
「生まれた時から不能者だったけど最近になってから魔法が使えるようになったのよ」
アイクはそれを聞いて当たりを引いたと確信した。
なぜなら普通ではありえないようなことが起こっていると言ったからだ
*
「彼は?」
フーベルトが戻ってきたフランに驚きながらもその隣にいた男について聞く。
「私の父の友人よ。昔はよくお世話になったの」
「フーベルトとマイクだね。よく聞いているよ」
鼠色をした男が右手を前へと出してくる。
それを握り返さずに、マイクの方を見る。
「フランから?」
「いや、いろんな人から」
少しの間はあったもののマイクがその手を握り返す。
だがフーベルトは椅子から立ち上がることはなかった。
そしてそれを気にしている様子は細身の男にはない。
男はそれが慣れている様子だった。
「俺はアポリアーノ。まあそう怪しまないでくれ、君たちのことを知っているのはそれが俺の仕事だから。こういうところで働いている」
胸元を探りながら一枚の紙を出す。
「情報中央局?」
「裏でいろいろ言われたりするが俺はこの仕事に誇りを持ってる」
映画やある宗教などでは世界を裏で牛耳っているなどと言われる組織だ。
だがその理念や組織目的は明白で彼ら方によりも重きを置いているのが対魔族における情報収集に施策だ。
戦後の魔族囲い込み政策の一環として組織された情報局はあまり魔族以外にもウケが良くない。
だから平然と握手拒否を受け入れることができる。
「うちに何の用?」
フーベルトもその一員であることを明らかにする様に少し警戒しながら話す。
「アイクを探しているらしいの。どこかで見なかった?」
それとは対照的に完全に信頼し切っているフランは何の疑問も感じずにアイクを探す。
「朝会ったっきりだ。神出鬼没だが、もう3時になるつまりは・・・」
「ただいま。無能な部下の代わりに仕事を取ってきたぞ」
アイクの定時は3時なので戻ってくるだろうというマイクの判断は正しかった。
だか予想外だったのはアイク本人が自分で仕事をとってきたことだ。
「誰だこいつは」
アイクは入室を許可していないものがこの場にいることに不機嫌だ。
「久しぶりだな。変わらずの様で何よりだ」
「そりゃどうも。誰がこいつを俺たちの聖域に入れたんだ?」
フランはアイクとアポリアーノが知り合いであるという事実驚く。
「知り合いなんですか?」
「昔のな」
彼女からすれば自分の上司と近所に住んでいたお兄さんの様な人が知り合いだったということだ。
世界は思っているよりも狭い。
「親しくもないがな。何しに来た」
「いや、最近噂を耳にするようになったから少し話に来た」
アポリアーノは部下たちを見渡して言う。
「二人の方が望ましい。特に君の方が」
アイクはそれを見て奥の方へ入れと言うふうに顎で示す。
「これを見てろ」
部下たちには持ってきた資料を持たせて、アポリアーノの後を追う。
*
「定時なんだ。早めに切り上げてくれ」
「安心しろ。そう時間は取らせないさ」
アイクの椅子へと躊躇なく座るアポリアーノ。
それにアイクは何も言うことはない。
「最近、お前の噂が絶えないな」
「そりゃどうも」
「・・褒めているとでも?」
アポリアーノの口調が少し強くなる。
だがそれは単なる怒りではなくその中には気遣いが感じられる。
「アイク、戦争が終わって40年ほど経つ。今まではそれで良かったかもしれないが少し度が過ぎる」
「死ぬのか」
「ああ、ヨハネスはそう長くない」
アポリアーノが席から立ち、アイクへと近づく。
「無論、彼も後のことは憂いている。対策を打ってはいるがそれが身を結ぶかは怪しいところだ」
「少しずつだが、魔族勢力が徐々に人類圏へと入ってきている。皮肉にも民主主義がそれを可能にしているんだ」
アイクの頭に以前に特殊なポーカーをした顔が思い浮かぶ。
「ゴードンか」
アポリアーノは頷きもせずに続ける。
「未だ尻尾は掴めていない。そしてヨハネスの亡き後、最悪の場合には戦争の再精算が為される。意味はわかるな?」
「軍事裁判のやり直しか」
エルフの要請によって戦後に行われた戦争犯罪を裁くための裁判。
アイクはそこで自分が被告となって立ったことを思い出す。
「世代が変わりつつある今、確実に判決は変わってくる」
「だがどうしろと言うんだ。大人しくしていたらその最悪が変わる可能性があるのか?」
「そうだ。悪名は無名に勝るとも言うが、この場合は有名であることも問題なんだ。名前を知られること自体がリスクになりつつある」
アポリアーノは語尾を和らげて、言い聞かせる様に話す。
「これは警告なんかじゃない。助言だ。ヨハネに当時程の影響力はない。下手に名前が知られると司法は容赦なくその影響力を利用してくる」
司法はその存在理念からして世論の煽りを受けないことは絶対にない。
以前とは違いどこまで行ってもこの世界には民主主義が根付いている。
そのブレーキが存在しない。
「ヨハネスが死ぬことの影響はそれだけに留まらない。評議会の勢力図にエルフとの関係性の悪化、魔族の姿勢の変化に、それに伴う軍の再編成。挙げだたらキリがない」
「俺たちも人手が限られている。これ以上、この案件に人を出すことはできない」
「だからお前がきたのか」
「そうだ。これ以上騒ぎを起こすことになれば君の身の保証ができなくなる」
アポリアーノが扉へと手をかける。
「それだけ伝えにきた。そしてもう来ることはない。次に会うのが牢屋でないことを祈っておくよ」
「俺もさ。お前の首だけの姿なんて見たらフランがびっくりするからな」
アポリアーノはアイクの言葉が事実でならないことも祈りながら、フランと最後に会話だけをして、次の場所へ来るべき日のために種を捲きにいく。
*
アポリアーノとアイクの会話をマイクは静かに耳を立てて盗み聞きする。
だが完璧には聞き取ることはできない。
マイクは日常的にいろいろなことを盗み聞きしている。
初めはそんなつもりは無かったのだが自然と過ごしているうちに会話が声に入ってきて結界的にそうなってしまう。
それを繰り返しているうちに会話が入ってこない方が違和感をもつ事となった。
なのでアイクが盗聴対策として壁に音を反射させない、吸収する壁に張り替えた時にはその日の内に協会の建物へと深夜の間に侵入しさりげない場所に何点か穴を開けた。
そのおかげで何とか部分的に会話内容は聞こえるが、正確のは聞き取ることができない。
だがおそらく政治的な話であることは間違いない。
キールは従順に従うつもりはないが、契約がある上アイクを自由にし過ぎるのは確かに問題だとマイク自身も感じているので何かあるのならそれを報告するつもりではある。
だが不必要な場合や、間違った情報を流すわけにはいかない。
聞いた情報は必ず裏を取る必要がある。
だからあの情報局で働いていると言う男について知る必要がある。
「フランはあの人といつからの付き合いなんだ?」
「イコール年齢よ。生まれた時から父の隣にいたわ。父とは違ってよく気にかけてくれていたわ」
彼女の語尾から父親が嫌いであることを確信する。
「父親が嫌いなのか」
「父だけじゃないわ。母親も大嫌いよ」
あのフランが両親のことを嫌っているのは意外だった。
根っからの正直もので、いいところの育ちだと言うのは感じていたがそれは間違ってるのかもしれない。
「隣にいたってことは父親も情報局?」
「あら?そんなに私たち家族の素性が気になる?無関係のあなたが」
少し踏み込みすぎたことを自覚する。
フランの逆鱗がどこにあるかわからない以上これ以上は不可能だと判断した。
そこへアポリアーノが部屋へと戻ってきた。
「橋渡しありがとうフラン。助かったよ」
「もう帰るの?」
「ああ。仕事があるからな」
フランとアポリアーノは抱き合い、言葉を交わす。
「それと父上から伝言を預かってる」
「聞きたくないわ」
「なら聞く必要はない。俺は引き受けてしまった以上伝えるしかないが」
フランは耳に手を当てる様にして聞かないと言った意思表示をする。
だがアポリアーノはそれに少し笑いながら口を開く。
「「協会での活躍はよく聞いている。またいつか会えることを願っているよ」と」
フランはその言葉を聞いても表情を変えることはない。
どんなことを彼女は思っているのか、マイクは知る術はなかった。
「フーベルトとマイク、フランのことを頼むよ」
彼らの方を向いてアポリアーノは頭を下げる。
フーベルトは無反応でマイクは手だけで応える。
返事をしても良かったが、正直フランを頼むと言われて任せろと言えるほどの自信はなかったからだ。
「では」
そこからアポリアーノはすぐさま踵を返し、出て行った。
それと入れ違いでアイクが中へと入ってくる。
「父親からの伝言くらい聞くべきだと思うぞ」
「先生」
「立派な父親からのな」
「やめて」
アイクが何を言おうとしているのかはマイクにはわからなかった。
だがフランはそれを阻止しようとする。
だがアイクの傍若無人を止めれるものはこの世にはいない。
「そう長く隠せる物でもない。お前が戦争終結人のーーー聖者ヨハネスの娘であることを」
アイクは躊躇わず、そして堂々とフランの1番の逆鱗である部分を抉る様にして突いたのだった。
*
静まり返った部屋の中でフーベルトが呟く。
「事実なのか?」
「なんのために嘘をつく?」
「フランがね」
「ここにいない人間のことはもういい。今これに集中しろ」
フランは今この場にはいない。
アイクの逆鱗への一撃を喰らった彼女は部屋を飛び出し行方不明となっていた。
アイクの言葉からマイクが資料を見直す。
「・・不能者と認定された以上、魔法が使えるようになったとは考えられない」
「事実はいい。考えを聞かせろ」
アイクがいつもの様に部下たちに意見を出させる。
「そもそも不能者でなかったのでは?」
「検査ミスだと?お前は俺たち協会のミスを認めるのか?」
「ええそうです。1日に何百人と同じ検査をしていたら1人ぐらい間違えることもある」
マイクの言葉にアイクが呆れながら応える。
「検査を見たことは?」
「・・一度だけ」
「自分の時だな。そもそも不能者がどう言うことを言うのか分かってるのか」
「魔法を使えない。主に魔力機関に欠陥を持つもののことだろう」
マイクが答えに詰まった瞬時にフーベルトが割って入る。
流して見るとフーベルトが勝手に答えた様に見える。
「よかったな。物知りな同僚がいて」
だがアイクにそれは通じない。
マイクがそのことを答えられなかったことはバレている。
「つまり魔力機関が正常に働いているかどうかに寄る」
「だからそれを確認するために赤ん坊に無理やり魔素を流してそれを正常に処理できるかを検査するんだ」
アイクが不能者検出についての情報を聞かせる。
「生後五ヶ月以内に赤ん坊は協会支部に来ることが義務付けられている。だが、検査は1人ずつ行う。全員並ばせて検査をするんじゃないんだ。赤ん坊の取り違えや記入ミスがあるはずがないだろ」
「後天的に使えるようになった可能性は?」
フーベルトが意見を出す。
「検査時は欠陥を持っていたが成長するにつれて最適化していった」
アイクとマイクともに反論が出なかったことを確認し、指示を出す。
「年上の面目丸潰れだな。物知りの案を採用だ。魔素を流し魔力が働いてるかを再検査しろ。もし正常ならおめでただ」
*
「フランの父親のこと知ってたか?」
フーベルトがそんなことを聞いてきたことにマイクは少しだけ驚いた。
「少し気持ち悪くなるかもしれないが、我慢してくれ。知らなかったさ。知ってたのはアイクだけだろう」
幼い金髪の少年の腕を抑えながら彼の質問へと応える。
フランの素性について知ったからと言って特別変わるものは何もない。
強いていうとするなら・・・
「気の毒だ」
「なぜ?」
「俺も同じ目にあったからだ」
以前にアイクに騙されて絶縁寸前の家族と無理やり対面させられたのを思い出す。
あの食事会で得をしたのはアイクだけという心の底から納得のいかない結果だった。
そして両親は何も昔から変わっておらず、おそらくあれが一緒にする最後の晩餐だろう。
「俺の人生の中で2番目に最悪な食事会だったさ。・・残るはお前だけ」
フランの父親に言及があったということは現時点で素性を犯されていないのは彼だけだ。
そしてそれは時間の問題だと考える。
「アイクには見つけられやしないさ」
「それはどうかな?」
「不可能だ。俺でさえどこにいるか知らない。生きているのかすらもな」
そもそもフーベルトの存在自体謎が多い。
どこの学校出身なのか知らないし、神童であることは間違いないのだが世間が賑わったりした印象はない。
どちらかというと雑草の中にたまたま花が咲いていた様な感覚だ。
「だが俺が父親ならあんな怪物の部下になんてさせないけどな」
素性詮索については先ほどフランで痛い目を見たのでこの辺で切り上げることにした。
フーベルトにキレられると後々どうなるかがわからなくて怖い。
「それは確かに」
フーベルトがマイクのそんな悩み事に全く気付かずに笑う。
「・・まさかあのフランがね」
「人は見かけによらないんだろ」
「フランの態度を見るに、なんでこんなところで働いているのかはだいたい見当がついたな」
それについて深掘りしたかったが、その機会は今度になりそうだった。
「はい。ありがとう検査は終わりだ」
金髪の少年が何もわかっていなさそうな顔で笑う。
無邪気な笑みだ。
「どうだった?」
「魔力は機能していない」
おそらくこの世界で魔法不能者であることを2回、宣告されたのはこの少年が初めてだった。
*