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王国動乱(下)


「入ります」


マイクが静かにそう言いながら、二回目となる教会への侵入を試みる。

一度通った道なので大体の構造は覚えているので、自分の脳に従い先ほど通った道をトレースしていく。


「これは・・・」


「なにか?」


だがそう簡単にはいかなかった。


「変わっている」


こんなところに倉庫などなかったはずだ。

道を間違えたかと後ろを振り返るが、正規ルートからは外れていないことを確認する。


「いえ、私が知る限りではこんな場所は存在しない」


後ろにいたコルセットが記憶を頼りにマイクが間違っているわけではないことを言う。

教会突撃組はガーリングのこともあって大人数での行動は控えるようにした。

できるだけ少数精鋭で早期鎮圧を図る。

だが待ち構えているのが迷路とは思っていなかった。


「どうなってる」


こんな風にだらだらと時間稼ぎをされるのはまずい。

単純な戦闘面で言えばアイクが言うように勝てないので、短期決戦が望ましい。

だが、ここで地団駄を踏むことを不要とする声がした


「おそらく結界で座標を弄っているんだわ。建物そのものを落とし込んで、座標軸を操る、私もよくやります」



結界を専門とするフランだった.

彼女も最後まで一緒に連れてくるか悩んだが、これで正解だったようだ。


「王女様の結界術は想定よりも高度らしいな」


「どうする?」


マイクがフランへと解決策を聞く。

餅は餅屋だ。


「曲がった線を真っすぐに書き直す。ここの全体図をください」


コルセットへと地図を求めるフラン。

マイクには何をするつもりなのか分からないが、今は彼女を信じることにする。


ガーリングが未だ教会にいるのか、王城に攻めに来るのか判明していない以上慎重にならざるを得ない。

城にはフーベルトとアイクがいるとはいえ確実な安心が得られるとは言えない状況だ。


「あっちが落ちる前に見つけ出さないと」


こちらは一刻も早く王女を見つけ出し、確保する必要性がある。





俺の魔法がことごとく通用しない。


どれだけ複雑な魔法を組んだとしても、まるで答えを知っているかのように最適解を出してくる。


最初の落とし穴の作戦は失敗。

あらかじめ罠を張り、一部分だけ解除する。

これならギリギリまで悟られることなく王女とこの男を隔離できると思ったが簡単に破られてしまった。

そこから何段階にも分けて建てた作戦が全て効果なし。


だが未来予知なんてものではない。

それができるのなら初めの罠にわざわざ引っかかってやる必要はないからだ。

もちろん、そう思わせるための引っ掛けの可能性もあるが今のところその可能性は低い。


感触として一番可能性が高いのは俺の魔法による空気の初期微動を感知している説だ。

アイクによればガーリングが使うのは主に変化系の魔法。だとしたら体の体積を無理やり広くして感知範囲を延ばしているのろう。


それに加えて体術も一級品。

大量の実戦経験から余計な部分が削ぎ落とされ必要最低限の動作だけが残った現存する度の肩にも当てはまらない技術だと言うのがわかる。


一度マイクから聞いたことがある合気に近い。

自分の力が何十倍にもなって返ってくるのだ。

つまり近づくのはNG。

結局、魔法戦となるのだがそれも成り立っているか怪しい。


そんな男とギリギリでも戦えている原因は隣にある。


「マイクの侵入に気づいたってことは、五感の可能性もあるのか」


「否、妾の目は本質を見抜く目ではあるが、視力は凡人より少し優れているのみよ」


認めたくはないが、アイクの存在が大きいだろう。

フーベルトにとってここ最近は認めたくないことだらけだ。

だがそれは成長として割り切るしかない。

自分の身に変化が起こっているということだからだ。



目の前にいるガーリングは完全にはフーベルトに集中しきれていない。

アイクの話では元同僚。

つまりアイクの魔法を警戒するのは当然だ。


その証拠としてガーリングは王女とある程度の距離から離れない。

アイクの転移を警戒しているのがわかる。


このゲームにおいて形はどうあれ、王を取った方の勝利。

それは例え戦いの末の勝利である必要はない。


「さて、今度は妾の番。安心するがいい。勘で当てるような興醒めなことはせん」


王女が一瞬だけ思考の波に潜る。


「舞踏場か?」


「不正解、そこにお前のパパはいない」


答えを外したとしてもその顔に焦りや、落胆の色は見えない。


「次は俺だな。この世界には呪いによって望まない力が宿ることがある。お前のその能力は呪術か?」


「これも否。妾は神の恩寵を一身に受けて産まれておる。そのような穢れた術に身を許したことなど一度もない」


対してアイクは小さな舌打ちをする。

こちらはあまり余裕がある状況と言えない。

アイクの転移があるとはいえ、それを確実に有効活用しなければならない。


「次は妾よ」


マクリーンが段々と真実に近づいてくる。


アイクの状態を考えて転移は使えて一回。

そして落とし穴での対応見た限り、ガーリングを分断しないことにはなにも始まらない。


王女がこちらに来ている以上戦況を動かせるのはこっちからだけ。

王女が正確な国王の居場所を当ててしまう前にどんな手を使ってでもガーリングを王女から引き離す。


そう再び決意し、体へと大量の魔素を流し込む。





「こっちです」


少しは知りながらフランの言うがままについて行く。

さっきまで壁だったものがフランが触るとまるで道を開けるように広がっていく。


「さすがですね」


「一応専門家なので」


フランは謙遜するがこれをできる者はおそらく限られてくるだろう。

これはエルフ特有の絶対的な空間把握能力か、もしくは人間の中でも怪物級の領域感知を持つものしか許されない所業だ。


「おそらくこれで」


フランが右にある壁に触れるとその目の前に回りとは少し違う大きな扉が現れる。

これがおそらく礼拝堂へとつながる扉なのだろう。

コルセットがその扉を開ける。



「存外、早かったな」


その声は一言でその場を支配してしまった。


「協会連中がいれば納得の速度か。父上も大人げないことをする」


そこにいたのは一人だけ。

それは傲岸不遜に祭壇の前に堂々と立つ、マクリーン王女の姿だった。






「あなたが王女様ね」



フランが声の圧に気圧されずに話しかける。


「魔人族とは、これまた珍妙なものよ」

マクリーンが段々とフランたちの方へ近づいてくるが、ある人物を見て立ち止まる。

その人物の隣に控えたコルセットが聞く。


「どうですか?」


そこにいたのは煌びやかな装飾を着飾ったこの国で一番の権力を持つ男。


「国王陛下」


アセンシオだった。


「余の目は騙せぬぞ。誰ぞが余の最愛の娘の皮をかぶっておる」


マクリーンをじっと見つめ不快感を表せながらそう言う。


「・・国政に囚われ、自身の娘の顔すらも判別付かなくなったか」


「・・余の娘への理解が薄いようだ。マクリーンは余の父親である姿よりも国王である姿の方が好む」


フーベルトからの連絡であちらにマクリーンとガーリングがいることは先ほど知った。

つまりどちらかが偽物のわけだが。


「・・・この老体に鞭を打ったとしても、人の子一人の手助けすらもできぬとは」



そう言ったマクリーンの顔はどんどんと剥がれ落ち、弱弱しい皺の入った老人が出てきた。


「シャルリーヌ」


アセンシオが彼女の名前を呼ぶ。

そこに先ほど感じさせた嫌悪は入っていなかった。


「許しを請うつもりはありませんよ、陛下。」


そう言った老婆はアセンシオの目の前まで来て、ゆっくりと頭を下げて請う。


「無理を承知で懇願いたします。この一件、教唆人であるシャルリーヌ一人の首をもってして収めていただけはせぬでしょうか」





王城での戦闘が始まって数十分。

フーベルトとアイクがまず確認したのは、ガーリングの防衛範囲だった。


彼の移動速度は魔法を応用することによって常人の数倍の速さで移動を可能としているが、もちろん限界がある。


アイクたちの勝利条件が王女――マクリーンの身柄の確保は、騎士であるガーリングから彼女を分断することが必須条件と言える。


最初の落とし穴から始まり、近づいたり離れたり、彼の射程距離へとだんだんと近づいていく。


フーベルトにはジョーカーでもある、アイクの転移魔法があるが易々と手札を切る事はできない。


そのためには確実なる確信を持てる場面が必要だ。


そして何よりガーリングが使う魔法系統は搦手が得意な変化系。

時間稼ぎなどは相手の十八番だ。


フーベルトは自身の魔力を感じながら、雪と風を混合させた魔法を新たに生み出す。


これは無風であり、視覚的に見る事はほとんど不可能。

その上、少しでも吸ってしまえば肺を凍えさせ、呼吸困難に陥らせる。


だがガーリングはもちろんのこと、マクリーンでさへもその風を吸い込む事はない。


彼らの間で何か伝達し合っているのか、それとも王女本人の素質なのか。

それを暴くのはアイクの仕事だ。


「今のを避けれるとなると、信じ難くありえない可能性だが」


少し躊躇った後、口を開く。


「もしかして精霊と意思疎通が可能なのか?」


「是。故に妾に謀りも、死角も存在しない。世界が妾に教えてくれるのでな」


マクリーンは答えを当てられたことに焦燥感どころか満足感で満ちている様子だ。


「特異点だな。純潔の人間で選ばれるとは」


「世界は理解しているということよ」


「ワシントンが知ったら発狂するぞ」


いつまで経っても見えない影を追い求める親友の顔を思い浮かべる。


「そして貴様の底も見え透いたものよ。父上は王城にすでにいないのであろう」


続けざまにこちらの手札がバレてしまう。



「正解、案外遅かったな」


「たわけが、貴様の問答に付き合ってやったのみよ」


真偽のほどは定かでないが、ここにゲームの鍵がないことが確かになってしまった。

つまり次は・・・


「察しが良いのも困ったものよな。ガーリング、もう遊んでやる必要はない。さっさと教会へ戻り、革命の成就といこう」


「はいは・・」


そこでフーベルトは先ほどまでで明確になっていた、ガーリングによる絶対領域を犯す。

ここしかないと判断し、アイクにも指示を送る。


無理を覚悟でマクリーンをゲートへと通し、身柄を確保する。


つまりはゴリ押す。

これ以上時間を消費できず、手もないとなるとできるのはこれくらいだ。


フーベルトのいる場所から向こう側全てを被害を考えずに凍りつかせる。

これからの国を背負っていく必要がある王女側はその被害を最小限にするために防衛するしかない。


変化系による形状変化で王城の床が盛り上がり、両陣営の間に大きな壁が作られる。

そこまでは想定内。


フーベルトの本命は先ほど放った無風の雪の因子を持つ空気。

それがまだ僅かにも存在していることを確認し、そこからリンクさせて、再発動させる。


点と点が壁を挟んで繋がるように一本の線となる。

王城を凍らせる波による冷気は無風の雪に干渉し、そこからまた新たな波を発生させる。

そしてそのままガーリングの壁を破壊する。


それはアイクの視界をクリアにし、ガーリングの体を数秒だけ凍らせ、動きを封じる。


アイクがマクリーンの足元へゲートを発動させ、勝負を決めにかかる。


だがそこへ何故かガーリングが現れた。

フーベルトはすぐに壁を通り越して、彼がどんな状態にあるのかを見る。


たがそこにガーリングがおり、今にも体の氷が剝がれかけている。


つまりこの場にガーリングが2人ことを意味した。


もう1人のガーリングがマクリーンへと手を伸ばし、ゲートから脱出させようと試みる。


アイクが言っていたようにガーリングは切り札を使った。

後はそれに対処するだけだが、もうすでに手は打ってある。


連絡を受けて、引き返して来たマイクがもう1人のガーリングの妨害をする。


変化系での魔法はフーベルトが抑え込み、単純な膂力勝負へと持ち込む。


技量ではわずかに敵わないマイクだが力比べなら獣人が負ける道理はない。


もう1人のガーリングがマイクによって吹き飛ばされ、マクリーンがついに孤立する。


氷に囚われたガーリングが体を無理やり水分へと変化させ、空気を伝って、高速移動を試みる。

だがアイクからの情報ですでにフーベルトに種が割れている以上、思い通りにはいかせない。

そのための氷だ。


そしてマクリーンの腰ほどまでゲートが侵食する。

フーベルトが王女と目が合う。

その目は決して自分が負けるとは思っていない目だ。


「不敬な」


絶体絶命で、世界に味方される17歳の王女は傲岸不遜にそう言ってのけた。


その時、完全に開かれていたゲートが突如として塞がってしまった。

半身をゲートによって両断されかけた王女は軽やかに脱出。

代わりにアイクが気を失って倒れた。


だがこれは王女の仕業でも、ガーリングの仕業でもない。

アイクの気絶はフーベルトが起こしたものだった。


今のアイクの状態で魔法を使ってしまえば、後々どうなるかは目に見えている。

だからゲートを開いた後に昏睡させるようにフーベルトへと指示し、それに従った形だ。



アイクの転移の魔法は一度ゲートが開けば、物体が相互にゲートを通り抜けるまで維持され、勝手に閉まる。


だがら、こんな中途半端にゲートが閉塞してしまうのは初めてだった。


その原因を考えている暇は彼らにはない。


目の前には外に飛ばされたガーリングと氷の檻からの脱獄して来たもう1人のガーリング、そしてそこには謎の力で危地を脱したマクリーンの姿がある。



「何をしておる、ガーリング。貴様は強いだけが取り柄であろう」


「本当に面目ない。もう2度と近づけませんよ、2度とね」


ガーリングの周りの空気感が変わる。

フーベルトとマイクは自分たちが彼の並べる墓標の一つになる可能性を意識する。


「覚悟は?」


「まだ」


「俺もだ」


自分たちはこの国の者ではない。

つまり王女からの命の保証は期待できない。

張り詰めた緊張感で叫びたくなうような、そんな時だった。


「そこまでにしよう」


声がした扉の方に顔を向けると、そこにはフランたちと見知らぬ老婆を連れたアセンシオ国王が立っていた。





「無理を承知で懇願いたします。この一件、教唆人であるシャルリーヌ一人の首をもってして治めていただけはせぬでしょうか」


目の前にいた老婆が深々と頭を下げ、現国王へと請い願う。


「教唆人?」


「いかにも。お姫様がこのような荒事を働いた原因は恐れ多くも私一身によるものでございます」


フランの問いかけに老婆――シャルリーヌが答えことに至った経緯を話し始める。


「お姫様がお生まれになった時、陛下は私目を第一の侍女として使えさせていただきました」


シャルリーヌの顔は思い出話を聞かせるような、昔のことを懐かしむ表情だった。


「身寄りなき私のようなものを先代国王様が直々に御声掛けいただき、これ以上のない栄光を受けた上、さらにその王孫殿下の教育係を任せていただけるなど、恐れ多き限りでございます」


「ならなぜこのような蛮行を?」


「お姫様は御父上の素質をより濃く受け継いだのでしょう。明晰な頭脳に、底のない大器。そして王妃様より受け継ぎし胆力。立派のご成長なさればこの国をより大きく、そして強い国へと成長させる事は間違いなかったでしょう」



「しかし、誠に遺憾でございますが、私がこの目でその姿を見る事は叶わないのです」


シャルリーヌのが心臓の当たりに手を添え、握る。

その顔はすでに悲痛の表情を描いていた。


「病か」


「左様でございます。残された時間は長くて一年。お姫様の晴れ姿を見ずに死ぬことなどできませぬ」


「だから王女を誑かし、クーデターを図ったと?しかし情報では、クーデターに巻き込まれたのは偶然でそれを利用した形だと聞いていますが」


フランがそれが本当の真実であるかの整合性取ろうとする。


「そのクーデターを誘致したのは私です。お姫様は優秀で、王たる素質を備えている。しかし、お父上に比べて少し口下手なところがある。それではこの革命は成功しない」


「だから昔の頼みを利用し、愚かにもテロリストを教会へと招き入れ、お姫様の御体を危険晒しながらも、この賭けに出たのです」


その場に少しの沈黙が訪れる。


「そしてマクリーンに心酔しているガーリングを呼び出し、余に強制的にこのゲームへと参加させたと」


「ガーリング殿もある意味被害者でございます。責は私一人に」


ガーリングさへいれば武力面での問題は解決する。

あとは正統性の問題だけだった。


「誤算だったのは魔法協会。お姫様はご自身のために陛下が大量の資金を投じて協会を誘致するとは考えなかったのでしょう」


「魔法協会に、聖統護国連隊と王国、それらを相手に革命を成功できると思えるほど我々も愚かではありません」


そしていま一度、シャルリーヌは頭を限界まで下げる。


「どうか、何卒、この醜く軽い首一つで事を治めてはいただけないでしょうか」


ただ国王の声を待つ。

この場で話すことができるのは当事者であるアセンシオだけだ。

そして彼がついに口を開く。


「先程から不敬であろう」


少し圧の入った声が教会に響く。


「余を誰と心得る。ジークフリートの国王であり、マクリーンの父であるぞ。奴めが何を考え、何を思い、事を実行したのかなど顔を見ずともわかるわ」


アセンシオの声が優しさに溢れたものになる。


「シャルリーヌ、貴様はマクリーンに病を隠そうとしたのだろう。だが奴を欺けるものはこの世にはおらぬ」


「正直に話すしかなかった貴様は余命の事を見抜かれ、どうもできなくなった」


「マクリーンは気丈で傲慢のように見えるが、根は優しく甘いやつよ」


「貴様に聞いたのであろう。最後の願いを」


「そしてそれが奴を動かした」


アセンシオがシャルリーヌと目線を合わせる。


「マクリーンは余の国政に疑問を持っていたのは存じておる。なぜ自分の娘より、国を優先しないのかと」


アセンシオはかつて直接でも言われたマクリーンの厳しい言葉を思い出す。


「だができるわけない。マクリーンは奴との、レインとの唯一の繋がりであり、ただ1人の家族なのだ」


すでに亡くした王妃とマクリーンを重ねる。


「最後まで判断できなかった。中途半端に娘を愛し、賢帝などと言われているが所詮は優柔不断で危険を犯すことができない小心者よ」


「マクリーンは秤にかけたのだ、父親の王国と侍女の願いを」


「そして選びとったのは・・・シャルリーヌ貴様の方だった。業腹だが、余の負けよ。何も言えることがなし」


アセンシオは自らの腰に携えた、代々と伝わる王剣を外す。


「余がこの座を戴冠したのは19の時。戴冠式の日、父上はその場いなかった。マクリーンは賢帝と称された余よりも賢く、レインの大器を持ち、世界から愛されている。それは周りとは一線を画し、奴をより一層特別たらしめる」


「神の寵愛を一身に受けるその様はまさしく真の王。この世界の正統後継者よ」


ジークフリートにおいてそれが認められる場合は一つだけだ。


「そのためなら余は喜んでその礎となろう」


王の退位時にのみ限られる。





「この戦は余の負けじゃ」


「・・国王自ら負けを宣言するとは」


アセンシオの降伏に無感情なマクリーンが反応する。

フーベルトとマイクはやっと一息つく。

ガーリングが戦闘態勢を解除したからだ。


「だが、シャルリーヌ及び教会を占領してた者達を自由にするわけにはいかない」


シャルリーヌの方を見ると手が拘束されている。

おそらく彼女が真の犯人だったのだろうか。


「2日後に式を開き、そこで正式な戴冠とする。これからはマクリーン、貴様の王国よ」


だが結局アセンシオは王座を譲ってしまった。

紛れもなく協会側の敗北と言っていいだろう。


「国政に関して俺から言う事は何もない。強いて言うならばただ迷わない事だ」


砕けた口調でマクリーンへと話しかけるアセンシオ。

これが本来の彼なのだろう。

王と言う身分はそこまでも私心を縛る。


「それを父上から言われるとは」


「ふっ・・励む事だ」


だがここにおいてはただの親子のように見えた。

彼らの表情は家族と食事時に雑談をするときのようなものだった。

少ししてからシャルリーヌがこちらへと近づいてきた。


「お姫様」


「シャルリーヌ」


そして同時に互いの名前を呼ぶ。


「貴方様は私の長い人生の中でより多くの影響を与えてくださいました。最後まで付き添うという願いを叶えられないこの愚か者をどうかお許しください」


衛兵に連れられる前に、シャルリーヌは柔らかい笑みを浮かべて言う。


「このシャルはいつでも見守っておりますよ」


言いたいことを言い終えたのか、シャルリーヌはマクリーンに背を向け歩き出す。

そこへ次代の王が震えた声をかけ、引き留める。


「シャル姥。妾から・・・いや、余から褒美を取らせる」


その声は先ほどまでの力強さはなく、あったのはただ感謝のみだった。


「・・其方の働き、大義であった」


大きな赤色の瞳を潤ませながらも、涙を流すことはない。

例え母のように慕っていた者との別れでも、一度王座を賜った以上泣くことが許されない立場に彼女はいるからだ。

それが王に成るということなのだ。


「・・・その様よくお似合いでございます」


シャルリーヌはついに溢れた大粒の涙を流しながらも、威風堂々とした彼女の姿を目に焼き付けるのだった。




「結局、王女様はどうするんだろ」


ジークフリートからトレントへと変える電車の中でフーベルトが何気なくそう言う。

結局、その後は暫定国王であるアセンシオの指示に従い大人しく王国を出国した形だ。


「女王な」


隣に会う悪マイクがフーベルトの言葉を訂正する。

今回無傷で帰れたことに素直にほっとする。


「まあ連合は内政に干渉する事はないし、他国からの圧力もあの女王ならどうにでもするだろう」


「私たちは役目を果たせなかったわね」


あの傲慢な女王様は明日には国を父親から譲り受けるだろう。

建前上は国王の持病の悪化とされているが、真実はほとんどの国が知っているだろう。

それでも最後まで弱みを他国に見せないよう退位した前国王はもっと世間から褒められていいだろうとマイクは思う。


「そうだ。あの時、王手まで行っていたはずなのに勝ちきれなかった」


フーベルトが思い出したかのように、昨日の戦闘について語る。


「ゲートが女王を拒絶するように閉まったな」


「あれさえなければガーリングにも勝っていたのに」


名残惜しそうにフーベルトが言う。

彼の負けず嫌いは誰が相手でも発動するようだった。


「アイクに聞いてみないことにはわからないな。そもそもアイクの魔法自体謎の部分が多い」


「どういう原理で物質が転移しているのか」


アイクの操る転移魔法。

詳しく聞いたことがなかったが今回の事で少し興味が出てきた。

トレントに帰ったら報告がてらキールにでも聞いてみることにしよう。


「まあ、今はいいんじゃない。とにかく前国王からもらったご褒美でゆっくり楽しみましょう」


フランが嬉しそうにアセンシオからもらった木箱を掲げる。


「そういえばガーリングは?」


フーベルトは手を変な風に動かしながらフランへと聞く。


「一応連合側だから、ジークフリートにある程度の期間は残るみたいよ。なんかあの人王女様の護衛みたいなところあるし」


「あのナグモって人は?」


「一足先に軍へと戻ったらしい。作戦とはいえ、上司に振り回される者同士、同情するな」


あの存在感がない軍人を思い浮かべながらマイクがそう言う。

会話したのは少しだけだが、彼の場合心からあの上司を尊敬しているから気苦労はマイクたちの数倍だろう。


「アイクも目覚めるのは検査日の三日後か」


フランの隣に昨日から昏睡状態が続いているアイクが椅子に座ったまま寝ている。

彼を今、無理やりにでも起こそうものなら本当に殺されかねないだろう。

触ってっ祟られないようにマイクは少しだけ距離を取る。


「フーベルト、何をしているんだ?」


マイクはさっきから手で遊んでいるフーベルトに声をかける。

彼に手を弄る癖があるとは思わなかったからだ。


「・・まあいいか。研究だ、魔法のな」


おそらく初めの無言の間は話すかどうか迷った間だろうが、マイクはそのことを気にせずに静かに聞く。


「ガーリングの違和感の正体がやっと分かった。あいつの魔法は本当に魔力を必要としていないらしい」








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