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王国動乱(中)



「あのようなことは金輪際差し控えていただきたい」


別室に案内されたアイクたちに少し表情を曇らせたコルセットが言う。


「面目ない」


フランが気まずそうに頭を下げる。


「我が王も寛大とはいえそれが愚者にまで及ぶことはないということを認識していただきたい」


それだけ言ってからコルセットは部屋から出た。

その扉の締め具合からもどれだけの怒りかがわかるだろう。


「大丈夫か」


マイクが柔らかなソファに座っているフーベルトへと状態を聞く。


「・・今のところは」


「先生とガーリングはこの国での接触は禁止だと。だから作戦会議には私とマイクで行ってくるので大人しくしていてくださいね」


「・・・」


フーベルトの物と同じだが横に広いソファに寝込んでいるアイクは何も言わない。

聞こえてはいるとしてフランとマイクが事件解決のために部屋を出ていった。


「あの男と知り合いなのか?」


フーベルトが二人が出て行ってkら少しした後にアイクへと声をかけた。

だが当人は口を開かないままだ。


「・・庇ってあげたんだぞ。話し相手ぐらいになってくれてもいだろ」


フーベルトは気にせずに話しかける。

だがアイクの反応はない。


フーベルトは会話を諦め、体の回復を優先しようとした時、低く曇った声が聞こえた。


「ガーリングはどうだった」


返答があったことにフーベルトは少し驚いた。


「正直に言ってみろ」


喉まで出かかっていた言葉を引っ込め、一度心から吐き出してみることにした。


「・・強かった」


自分でも驚くほどすっと言葉が出てきた。

何の抵抗もないことが自身でも不思議なくらいだった。


「こんな気持ちになるのは初めてだったが、素直にそう思えるほどに距離はある」


フーベルトは自分で自分の立ち位置を正確に理解している。

それを聞いたアイクは少し笑った気がした。


「・・・社交性の次は謙虚さを覚えたか」


「もともと傲慢な方じゃない」


フーベルトはガーリングの発動したであろう魔法のことを思い出す。


「ガーリングが何かした時、俺は魔法だと判別できなかった。フランの魔法は効かなかったし、魔素の漏れも感じなかったからな。でも結果を見れば単純な変化系の魔法。今思い返しても俺の頭の中にある知識の中でそれが魔法だと感じとれる要因は存在しないといえる」


ガーリングの魔法は得体の知れないものだったということを話す。


「ガーリングの魔法は人が使う魔力によるものとは根本から異なる。どちらかと言えば魔族による魔法の使い方に近い。正確には一種の自然法則と言った方がいいかもしれんないが」


「自然法則?」


「・・俺とガーリングの関係性を聞いたな。・・何の変哲もない元同僚だ」


アイクは両手を頭の上に置いたまま、動かずに話す。


「ずいぶんと仲がいいんだな」


笑いながら皮肉でフーベルトが返す。


「どれだけ長く一緒にいようと、心から気を許せるような友を持つのは難しいということだ」



だがアイクはそれを気にしているそぶりはなかった。


「お前は確かに優秀で、歴史的に見ても群を抜いた才能を持っている。だがその程度の奴は昔に何千人と見てきた。お前を1万人に一人の逸材だとしたら、ガーリングは1000万人に一人だ。お前はそういう世界でこれから戦っていかないといけない」



部屋に沈黙が訪れる。


それからその部屋での会話はなかった。

その場には奇妙な空気感が漂っていた。





「お互い大変ですね」


誰もいないところから声が出てきて、少し驚く二人。


「これは失礼。私、聖統護国連隊の聖官長を賜りましたナグモというものです」


声の方へと目を凝らしてみると、だんだんと体の輪郭が浮かんできて人の形を結び始めた。


「私は魔法協会トレント本部のフランとマイクです。うちのボスがすいません」


フランが彼の方へと手を出し、握手を求める。

彼も躊躇なく手を握り返す。


「いえ、こちらこそです。ガルさんも最近殺気立ってるから」


その言葉からガーリングの部下だということがわかる。

おそらく軍の方も先の一件を受けてガーリングを引っ込めたのだろう。


「結界の方は?」


「かなり固いですね。物理攻撃は無効、魔素を乗せた言葉は通るようですがそれは通ったところで感はあります」


教会に張られた結界についての情報を共有するナグモ。


「それに下手に破壊すれば中でどうなるか分からない、と」


「その通りです。万が一が許されない状況ですから」


王女が人質に取られている以上、無茶なことはできない。

もし、それで王女の身に何かあれば漏れなく全員打ち首獄門の道の可能性がある。

確率としては低いが、ゼロでないのが問題なのだ。


「フラン」


マイクがフランに目の前にある結界についてどうかと尋ねる。


「うーん。確かに高度ではあるけど複雑なわけではないわね。これぐらいなら最終的にはゴリ押しで行けると思う。でも塗り替えるとなると難しいところではあるわ」


「破れるけど、改変はできない?」


少し専門性がある会話にナグモが開設を求めるように、聞く。


「はい、確かに結界の塗り替えは破るのとは違った技術が必要になってきますが難易度はそう変わるわけではありません」


「ではなぜ?」


「結界を張っている術者のレベルが不明だからです。極論、めちゃくちゃ難しい結界があるならそれはその術者の技量が直結して現れていると言えます。逆に結界が簡易ならば乗っ取ってしまうことができる」


ナグモがフランの開設を聞いて納得した表情になる。


「つまりうまい結界の使い方っていうのは術式は複雑でなく、簡易でもない、言うならば中途半端な結界こそが手を出されにくい結界だと言えます」


「なら、この結界に手出しはできない?」


「それを解決するために私が来ました」


フランは結界へと一歩踏み出し、直に触る。


「彼女は結界術の創始の地であり、最高峰でもあるエルフの国の出身なんです」


少し心配しているナグモを安心させるために、フランの実力を担保するためにマイクがルーツを公開する。


「ほう、彼らの血を宿していると」


ナグモはそのことを聞いて驚く。


「少し離れていてください」


フランは自分の魔力を通じて魔素を流し、結界を一部分だけ上塗りしていく。


「というか珍しいですね。エルフと聞いて見る目が変わらない軍の人は」


フランが珍しそうに、ナグモに話しかける。


「そういう輩がいるのは小耳にしますよ。旧時代の人間に多いのだとか。決して軍人すべてがそう言った人でないということです」


「確かに、あのガーリングって人も驚きはしたものの、特別何か言ったりはしてこなかったな」


フランは委員会での最悪な出会いのことを思い出す。


「ガルさんはそんな人ではありません。次代を代表するお方ですから」


自身の事のように誇ってみせるナグモ。

これだけ部下に慕われているのなら別にガーリングも悪者ではないという説が浮かぶ。


それでも今は一旦、目の前の結界に集中することにした




フランが結界の改変に取り掛かってから20分、ついにフランが結界から手を離した。


「よし」


一歩下がったフランと入れ替わりで、マイクが前へと出る。


「どこへ?」


ナグモが訳が分からず、フランに聞く。

マイクに聞かなかったのは彼は結界の中へとすでに入っていったからだ。


「うちのボスの教えなんです」


ナグモは頭に?マークを浮かべている。


「情報がないのなら現場に行って収集する」




結界へと静かに入ったマイクは魔法による身体操作でできるだけ存在感を薄め、自分から出る音などをかぎりなくゼロにした。


建物の裏口から入り、次々と部屋を移動する。



確かに、中には一般の人たちはおらず、いるのは数人の見張りだけだった。

だがマイクはその見張り達の態度に納得がいかなかった。


「5000って言ってただろ、嘘つくなよ」


「はあ、よく覚えてやがんな」


彼らのやる気と言うか、モチベーションが低い方に思われる。

確かに全員が全員、この国を本気で民主主義の国へ変えようとする情熱を持っているとは限らない。


だが彼らのやっていることはある種のクーデターだ。

それ相応の覚悟がないと実行し、その上成功させることはできない。


見ている限りの彼らの雰囲気では革命の成就は難しいように思われる。


この調子なら隙をついて王女を見つけ、うまく連れて逃げることができるかもしれない。

そうなれば国王が武力行使を思いとどまる理由はなくなる。


そうなれば革命はに勝ち目はない。


そんな考えをしていたマイクの耳に、限りなく小さな声が聞こえてきた。


見張りに注意し、建物の構造を脳に刻みながら、声のする方へと近づいていく。



そしてドア越しに、あらゆる生物を圧迫するような力強い声が聞こえる。


「ガーリングがすでに来ている?ならなぜまず妾に顔を見せぬ」


だが声だけで美しい容姿を連想させる華やかな声だ


「奴は妾を誰と心得ているのであろうか。不敬千万極まる。次に会ったときは首を刎ねることとしよう」


冷酷な言葉の内容とは裏腹に、その声を直接耳で聞きたいと思わせる。


「さて、父上はもたもたと何をしているのやら。賢帝が聞いて呆れる、その名が泣いておろうよ」


その言葉使いは、先ほど会った国王のアセンシオに限りなく似ているのだった。





「マクリーン嬢、頼むからじっとしていてくれよ」


マイクは二つ目の声を聞いてはその部屋へと入ることを止めた。


「気安く妾の名を呼ぶとは、身の程知らずも甚だしい。そも、テロリストの分際で妾に指図できると?」


男の願いを潔く一刀両断する。


「これは失礼しました。だから俺たちのためにも、あなたのためにも俺の言うことに従ってください」


「・・すべて妾に大人しく従っていればいいものを」


この中にいるのは体感で二人だけだと確信する。

会話に出たように一人はテロリスト。

そしてもう一人は・・・


「隠れずとももう気づいておる。獣臭がして敵わん」


これは明らかに自分に向けられた言葉だと感じた。

だがマイクは気取られたというような感覚はなかったし、ここまで誰にも見つからなかった。

それなのに部屋の中にいる人物の圧が早く顔を出せと急かしてくる。

マイクはその圧に抵抗できずにまんまと顔を晒した。




「いつから?」


「妾の結界へ入った時からよ」


扉を開くと同時に表れたのは、平凡な椅子に座っているにもかかわらずその存在感をまったく薄れさすことのない、頭から忘れることができなくなるような美しい容貌をした少女がいた。


「腕の良い術者がおるようだが、妾を欺くことはできぬ」


大きな瞳を微塵も揺らさずにそんなことを言ってのけたにその様はまさしく王の威厳を感じさせた。


自信一つでここまで人に差が出るのかとマイクは疑問に思う。

彼女の言った言葉がすべて真実になり、それが正解であると言おう事を世界に当然とさせるような態度だ。


「さて、貴様は父上の使いであろう。ついに国王陛下も重い腰を上げたか」


目の前の王女様はうんざりしている様子だ。


「・・というかあなたの結界?王女様はテロリストに人質に取られているのでは?」


マイクは頭の中でいつまでも反芻し続ける言葉の中から異変に感じたものを掘り返し、思わず聞く。

そして彼女の存在感で今気づいたが、彼女の周りにはすでに誰もいなかった。


「当初はな、だが奴らの体たらくを見ていられなかったものでな」


そんなことを言いながら、頬杖をつく。


「まさか・・」


マイクが、王女の言葉と今の状況を整理し、なぜ人質である王女がここまでの自由があるのかの答えを見つける。


「時期尚早ではあるが、父上にはその座を降りてもらうこととした」


この傲岸不遜な王女様は父親の国を乗っ取るつもりなのだ。





「しかも巻き込まれたクーデターを乗っ取たんですか?」


マイクはこの王女の胆力に感嘆する。

こんな少女が存在するとは。


「乗っ取ったなどと人聞きの悪い」


だが、そんなマイクの反応を気にも留めない。

こんなこと驚くことでもないと言った表情だ。


「前代未聞すぎる」


マイクは歴史的に見ても例を見ない、たまたま巻き込まれたクーデターをその場で解決するどころか、悪用してそのまま国家転覆を狙うなどという後にも、先にも一度しかないであろう大事件が世に知れ渡ることを考える。


「もとより、戴冠までの何十年もの時間を無為に浪費するつもりは無い」


世の中では大バッシングを受けそうな事件だが、彼女はそれすらも無に帰させてしまうようなこの世界の中での存在感がある。。


「王女は、この計画が成功すると?」


マイクが恐る恐る聞く。


「妾が成功させる」


一コンマの間もなく返事が返ってくる。


「・・自信家ですね」


「これは確信以外の何物でもない」


その顔は笑みで満たされている。

彼女の笑みには安心感と恐怖心を同時に与えてくる。


マイクは一度正気に戻り、考え直す。

王女は人質ではなく、首謀者になった。

なら軍事力ごり押し作戦が通用する・・・・


だがマイクに一つの疑問が浮かんだ。


「なぜ私にこの話を?」


王女がこのことを伏せたままであれば、クーデターはより簡単に成功しただろう。


つまりこのことを言っても大丈夫な場合は限られてくる。

情報がマイクで止まるという場面だ。


「貴様にはメッセンジャーの役割を与えてやろう。光栄に思うがいい」


だが消されるというマイクの第一の心配は消えた。

次ン三考えられるのは・・・


「お嬢も思い切ったことをするもんですね」


マイクが入ってきた扉から、柔らかで棘のような以前に聞いたことがある声が割り込んできた。


「やっと顔を見せたか、その忠義に免じて首は繋げたままにしておいてやる」


入ってきた人物を見て王女が口を開く。


「それは恐悦至極」


考えられる可能性、それは・・・


「先刻振りか、マイク。アイクに伝えてくれ、両賭けすることにしたと」


その事実を伝えたとしても状況が変わらない場合だ。




後ろの扉からガーリングが歩いてくる。


「なぜという問いには先にお答えしよう。王女様とは奇妙な縁があるもんで」


そして王女の手前で立ち止まり、マイクの方へと振り返る。


「贅沢な奴め。妾との縁など泣いて喜ぶべきものを」


マイクの頭に大量の疑問符が浮かぶ。

なぜこの混乱を沈めに来た軍の人間がクーデターの首謀者の側にいるのか。

そして両賭けの意味。


「それは確かに」


当人は穏やかに笑っている。

確かなことは今の時点から、ガーリングの立場は逆になったということだ。


「ふむ、その獣ずらも見飽きてきた頃よ。マイク、不意とはいえ妾の前ですぐに名を名乗らなかった事は斬首に値する」


全てを見通すような大きな瞳が細められ、背筋が凍るような圧に晒される。

この緊張感を前にすると喉に力が入らなくなる。


「だが、その罰は貴様が責務を果たすことで免ずることとする。一言一句漏らすことなく伝えよ」


それを言った後、流れるように王への伝言、いやこの国を賭けてのゲームの条件を言い渡した。

王女の言葉は自然と頭に残り、良い会聞いただけで暗唱できるほどに聞き取りやすかった。

これも素質なのだろうか


言いたい事を言い終えた王女は上機嫌に席を立ち、礼拝堂へと戻る。

その後ろにガーリングがついて行き、それを確認もせず当たり前とする王女が口を開く。


「では、父上から国と王座を頂くとしよう」


そして命を拾ったマイクの頭の中は先ほどの伝言で支配されていた。





「王の取り合い?」


初めに面会に来た時に案内された王座のある場所でマイクが伝言を伝える。

先ほどと違うのは周りに軍と魔法協会以外にもこの王国の為政者たちがいるところだ。


「はい、つまり私たちは王女をとらえれば勝ち、逆にアセンシオ国王陛下を奪われたならこちらの負け。そして互いの王の生死は問わないと」


こんなゲームのような感覚で国王と言う国一番の重要事項を決めていいのかという疑問もあるがそれが、それこそが王国なのかもしれない。

ある国では一番強いものが後継者とするという先代王の遺言で30年以上争っていた国もあるぐらいだ。

最終的にその内線の中で生き残った王がその国を治めることに民衆は何も言わなかった。

王は人間という物差しでは測れないところに存在している。


「・・・マクリーン」


だがそんな人外も人の親だ。

実の血のつながった娘にクーデターを起こされたとなると感じるものは単純ではないだろう。


「期間は二日、これは聖邦連合が介入するかをどうか決定するのにかかる時間でありこれ以上となると他国からの干渉も考えられるためだそうです。もし決着がつかなかった場合はテロリストの要求を全面承認すること」


どこまでも御国第一。

ゲームとしても内容はいたって真面目だ。


「・・・」


だがアセンシオは何も言わない。

まだショックから立ち直れていない。


「そして王女からの伝言です」


追い打ちになると思ったが、ここで伝えないと機会がなくなると判断し、話す。


『これは父上の参加の是非を聞いているのではなく、通達である。二度とない国を賭けた親子喧嘩、存分に楽しもうぞ』


これで王女から任じられた言伝は全てだ。

後は国王の判断次第になる。


「どういたしますか?」


周りの重鎮であろう人がアセンシオへと聞く。


「マクリーン、娘の目から見た余はそんなにも頼りなかったか」


しかし肝心の国王陛下は正気ではないようだった。


「陛下のんびりとはしてられません。マイク氏が言った事が本当ならガーリングがあちら側に付いたということ。彼は一人でこの国を滅ぼしかねない」


「ガーリングさえも余を見放したか」


「陛下!」


家臣たちの呼びかけも空しくアセンシオの頭は空虚なままだ。

だがあまり時間は残されていない。


「護衛隊に今すぐ教会の中へ突撃するように言え」


「それは駄目だ。ガーリングがあちらにいる以上、数の問題で解決することはできない」


「例え、それで辛うじて王女を捕らえることに成功したとしても兵の損耗は国力の低下を招くだけだ」


「だが国家あってこその国力だ。そしてこの王国において陛下ご自身が国家だ」


こういう場合が王がいる国の一つの弱点だということを感じさせる。

王の強権がゆえに周りが絶対的な決定権を持たない上、誰も責任を取りたがらない。

フランは仕方なく、内政干渉に当たらない程度に話し合いに参加しようとした時だった。



「賢帝とはよく言ったもんだな。今の状態はまさしく献帝」


声の主の顔色は良いとは言えず、見慣れた立ち姿には右手に一本の杖と左腕に包帯が加えられている。


「大丈夫なんですか」


フランが今日何度目か分からない言葉を口にする。


「頭はな。代わりに指を何本かくれてやることにした」


そう言って左腕を見せてみせる。

それでフランはアイクが何をしたのかを悟った。


「切り落としたいぐらい指が痛むが、心地いい痛さだ。頭痛より100倍ほどマシだな」


周りを見渡し、機能不全となった王の代わりに頭の役割を果たそうとする。


「さて、思春期真っ只中の純潔の娘に大人の汚らわしさを見せつけてやろうじゃないか」





「ナグモには悪いことをしたな」


影の薄い後輩を思い浮かべながら、目の前の衛兵を無力化する。

殺す方が簡単だが、それは傲慢な王女様に禁止されている。

できるだけこのクーデターでの被害は最小限にするという方針だからだ。

もちろん、これは王女が殺人にアレルギーを持つからではない。


単純に人的資源の減少、つまりは国力の低下を避けているというだけだ。


「よくもぬけぬけと。自ら王国で問題を起こし、軍を二分化。父上と妾、どっちが勝っても己の利となるように仕組んだのは見えておるわ」


隣にいるその例の王女がガーリングの思惑を簡単に明らかにする。

もともと隠し通せると思っていた物ではないが


「バレてたか、知ってたけど。でもナグモへのことは本心からさ」


その言葉にマクリーンが自然に整えられたであろう眉を上げた。


「ほう、これは驚いた。貴様のような化け物にも罪悪感という人間の心がまだ残っていようとは」


その顔に笑みを浮かべる。

初めて会った時から中々表情は変わらないものだということをガーリングは感じる。

言っていることはこれ以上なく酷いが。


「一応、現役の人間なんで」


「貴様の人間のフリはいつ聞いても稚拙なものよ」


出会った時からこの化け物扱いは変わらない。

マクリーンはガーリングを一目見た時から人として外れていることに気づいていた。

ガーリング自身はこの扱いを嫌ってはおらず、逆にマクリーンにとって自分が周りとは違い特別であれる証明なので止めさせるつもりは無い。


ガーリングにとって唯一恐れることはマクリーンの物語で自分自身が周りと同じ名無しの凡人とされることだけだ。


「ふん、もう王座の間か。二日も不要だったか」


気づいた時には目の前には大きな扉。

マクリーンが王城へと一緒に攻めることには少し反対だったが、教会にいる連中より自分の近くにいた方が安心だという理由でそのことを言うことはしなかった。


そもそもマクリーンが行く気になっていた時点でその意見は一秒もかからず却下されていただろう。



大きな扉を少しの力と魔法で一気に開ける。


「おっ」


堂々と王座に座る国王までは予想していなかったものの、そこには意外な人物が王座へと座っていた。


「ようこそ、わが城へ」


そう言ってのけたのは顔色の悪い、昔馴染みでもあるアイクだった。

周りには誰もいない。アイク一人だ。


「そこは貴様が座っていいような易い椅子ではない」


少し不機嫌になりながらマクリーンが口を開く。


「失礼、やってみたかったんだ」


言われてから大人しく席を立つアイク。

ガーリングはそれに違和感しかなかった。


「さっきよりはマシな顔色だな」


「お前のおかげさ」


ガーリングは以前のちょっとした喧嘩のおかげでアイクを本調子に戻してしまったのかと少し考える。

だがその可能性はないとしてすぐにその考えを捨てた。


「貴様はこの国の者ではないな。名を名乗れ」


「お前が例のお転婆お嬢様か。噂はかねがね」


アイクはマクリーンの質問には答えず、杖を突きながらこちらへと近づいてくる。

少しマクリーンの方へと寄り、転移を警戒する。


「これだから枯れ木の相手はしてられん。二度目はないぞ、名を名乗れ」


「名乗るものでもないさ」


アイクが口を開いた瞬間、ガーリングは魔法を感知した。


すぐに状況を確認する。

そしてマクリーンの床だけが抜け落ちていることに気づく。

肝心の彼女は悲鳴を上げるどころか、その顔に驚きの表情すらなかった。

視線だけがガーリングの方へと向いており、助けてみろと言うような目線だ。


この傲慢さがまたたまらないのだ。


**



「君は確かフーベルトだったか」


柱から姿を現したフーベルトにガーリングがそう声をかける。


「ついさっきお前から俺を守ってくれた騎士だ」


代わりにアイクが答える。

そしてアイクはガーリングの魔法を分析する。

初めの不意打ちは失敗。

できるだけメタ的な対策も含めて用意したはずがまんまと逃れられてしまった。


「魔法協会のアイクだ。こっちは弟子のフーベルト」


目の前の神童が何か言いたげだが今は無視する。

まさか、王女自ら父親を捕らえに来るとは思わなかった。

ガーリングまでは読めていたが、お連れ様で来るとは予想外だった。


「ほう、貴様がアイクか」


王女様がアイクの名前に反応する。

アイクの名前は一定の関係者には知られている物の、ほとんど関わりのない王女が知っているほど有名でもない。


「俺を認知しているとはお目が高い」


ガーリングからか。それともまた別の・・・。

それを聞き出すつもりで口を開く。


「よく知っておるぞ。妾の手足となる候補の第4候補だったのでな」


「俺を4番目に置くとは。俺をまるで分ってないな」


うまく躱されてしまう。まあ、可能性が高いのはガーリングだろう。


「ふん、妾からの誘いならば貴様は嫌でも来るのは分かっておる」


「なぜそう言い切れる?」


「妾の言う手足とは文字通り。妾の足を揉んでもらう時が来るやもしれぬ」


「確かにそれはとてつもなく魅力的だ。建物で山姥とおしゃべりするよりは素晴らしい」


頭の中でステイが金切り声で喚いている状況が浮かぶ。そして王女の真っ白な足を見つめる。


「今は応募してる?」


「残念ながら、その席は第一候補の俺がいただいてます」


その足を隠すようにガーリングが前へと出る。

良い年したジジイが情けない。


「お前の余生も知れてるな」


「お前よりマシさ」


「それはどうかな」


魔法協会の素晴らしい点を上げようとしたがなかなか頭が働かないのか、何も言えなくなってしまった。


「無理するな」


ガーリングのその言葉がより一層アイクを惨めにした。


「もう良いか?貴様らのくだらない雑談で妾の貴重な時間を浪費するな」


マクリーンがそろそろ限界が近いようだった。

ガーリングはそれを感じ取り、背中からの一撃の用心のため一歩下がる。


「さて、国王は自分の娘ですら顔を合わせることができないとは」


周りを見渡し、今度こそ誰もいないことを確認する。


「ま、それが賢帝の出した答えさ。自分の娘より国を優先したんだ」


「・・まあ良い、鬼追いから影隠れになったのみよ」


彼女の表情は余裕に満ちている。

そしてその自信の源は・・・


「妾に嘘は通用しない」


マイクからも少しだけ聞いた、マクリーンの嘘感知。

事実か、虚実か。

それも確かめる必要がある。


「居場所がバレたとしても身柄を取られなきゃ負けじゃない」


このゲームの勝ち負けは王の身柄の確保に左右される。

こっちはその王が強力な武器と一緒ではあるが目の前にいる。

一応王手としていいだろう。


こちらの国王の居場所はまだ見つかっていない。


「これ以上、王城を捜索したけりゃ俺たちを倒せってな」


フーベルトへ話は終わったという合図をする。

そうすると城内の空気感がひんやりとして、気温が低下し始めた。


「これも言いたかった」


そしてこの大きな城の中で、新時代を担う神童と旧大戦時代に一騎当千を謳われた軍人のリベンジマッチが始まる。





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