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王国動乱(上)



「おはようございます」



フランはアイクがドアから入っきたのを見てそう言った。

隣にいるフーベルトはアイクに挨拶することはないし、マイクも個人的な仕事で今はいない。


「・・・」


だがアイクは何も返事を返すことはなく、自分のデスクへと直行した。



それをフランは異変に思う。

もちろん、アイクという人物自体、律儀に返事をするような人柄でないのはフランは百も承知している。


だがそれでもフランが欠かさず挨拶をするのはそう育てられてきたからであり、それが常識だと心の根に染み付いているからだ。

だから例え、どれだけ無視されてもこの習慣を辞めるつもりは無い。



アイクは基本的に挨拶は返さずに、皮肉や仕事の進捗を確認してくる。

だが無視されるということは初めてだった。


その異変を感じたのはフーベルトも同じであった。


「・・・ハズレか?」


「逆に当たりかも」

 

アイクがなぜ挨拶に対する反応を見せなかったかを勝手に考察する。


不機嫌なのか、はたまた機嫌がいいのか。

それとも単に聞こえていなかったか。


機嫌がいいのなら問題はないが、不機嫌なら彼らにとっては大問題だ。


一度、彼が不機嫌な時にマイクがデスクにあったペンを勝手に使っただけでへそを曲げ、そこから仕事に取り掛かるのに無駄な手間を要した。



そもそも、触らぬ神に祟りなし。

爆発する可能性がある爆弾には近づかないのが1番の安全策だ。


フランとフーベルトは互いに目を合わせ、深入りしないことを決める。

そして目の前の仕事に集中することにした。




フランが再び外の景色を見た時には、太陽が一番高い位置から少し下がってきたところにあった。


胃がエネルギーを鬱していることを感じ取り、一区切りついたところで昼休みを取る。


「今日は?」


「俺もいこう」


フランがそう問いかけた相手は先ほど部屋の中へ現れたマイクだ。


マイクはチームだけでなく個人でも仕事を受け持っており、その量は単純にフランの倍になる。


別にやればやるほど給料が上がるわけでもないのになぜそんなことをするのかと聞いて見た。


マイクは好きでやっているのだと言う。

アイクはそれを聞いて、マゾだと言って小ばかにしたが、フランはその姿勢を純粋に尊敬していた。

その精神性は付け焼刃で身につくものではない。

フランのあいさつの流儀と同じようなものなのだと考えている



単純に仕事量が違うのでフランたちとマイクはたまにしかランチを一緒にできない。


だがらマイクとの食事は楽しみだし、学ぶことも多い。



比べてフーベルトとは毎日一緒にランチをして、夜もたまに食べにいく。



フランにとって彼は可愛い後輩感があり、どこか犬のように思っている。


ここにきた当初は棘のように尖っていたように思うが今ではマイクともうまくやっており、彼が牙を向くのはアイクだけだ。

気性の荒いオオカミが敵にだけ吠える犬になった、そんな感じだ。



だがそんな彼の才能にフランは舌を巻かざるを得ない。


彼の知識の領域は医学から魔法学、古典にさえ及ぶ。

逆に何を知らないと言いたいところだが、セルフサービスの水の取り方を知らなかったり、テレビなどの娯楽系には疎い。


そこがまた可愛いところなのだが、その可愛さを凌駕するレベルで仕事の面での神才を見せつけてくる。


フランが1日かけて終わらせる仕事を半日も経たずして終わらせてしまう。単純に、記憶力がいいと言うのはそれだけの時間短縮に繋がるのだということを知った。


だからそれを見越してなのか、アイクはフーベルトへと割り振る仕事量を操作している。だがそれすらも物ともしていない。


だがらフランはフーベルトのことも年上ながら尊敬している。


そして建物の一階にあり、一般にも開放されている食堂に着くと意外な人物がそこにはいた。



「おつかれ」


気安く彼の方から話しかけてくれるのは年下としてはすごく助かる。

そんな気遣いができる男の名前はワシントンだ。


彼はアイクと古くからの友人だそうだが、未だに疑問に思うことがある。


なぜアイクのような人と長続きするのかと。

上司としてみればとてつもなく優秀で、いざという時は頼りになる。

だが、友人としてはどんな手を使っても仲良くはなれないだろうことを確信することができる。


そんな人の方が珍しいはずだ。


「今日はお昼食べれそうなんですね」


「・・・これは朝ご飯さ」


彼も魔法協会という大きな組織の一つの部署の長であり、激務に追われる立場にある。

部長の中で、あれだけ自由気ままに仕事をしているのはアイクぐらいだ。


そしてそのことでフランは少し聞いてみようと思った。


「・・今日、会った時から何が機嫌が悪そうなんですが、何か知りませんか?」


アイクという主語をつける必要はない。

ワシントンとの会話は基本的にアイクに関してだからだ。


「あー・・もうそんな時期か」


「・・?」


ワシントンは表情と言葉から何か心当たりがあるのは明白だ。


「多分、3日後ぐらいに検査があるんだろ。あれだよ、碧翠院の」


「身体検査ですか」


フランは学生時代とこの仕事に就く前に一度行った検査について思い浮かべた。



魔法使用をライセンス管理をしている碧翠院による身体の適性検査。

これに引っかかってしまうと日常で魔法を使用するための資格が発行されなくなる、もしくは剥奪されることになる。


「それが何かあるのか?」


そのことについてフーベルトが頭の中で点と点が繋がっていない。

彼のためにフランが補足する。


「あれよ」


静かに手をピースの形して口に近づける。

それだけでフーベルトは理解したようだ。


「アイクは周りとは違うからな。体から毒素を抜くのにも膨大な時間がかかる」


つまりはこういうことだ。


その身体検査をパスするため、アイクは毎日過剰摂取している煙草の成分を体から時間をかけて抜いている。


だがら今は煙草も吸えないし、痛みで気分がささくれ立っている。


「でもアイクならそれも力ずくで突破しそうなもんだがな」


横でフルーツの盛り合わせをトレイに乗せたフーベルトが口を開く。

アイクはそういう自由を制限されるのが一番嫌いなはずだ。



「碧翠院の頭はゴードンだ。流石にアイクの魔の手もあそこまでは及ばないんだろう」


「ふーん」


ニュースや、新聞でしか聞かないような名前を出されあまりピンとこないフランだったが、アイクも一人の人だということ再認識する。


ワシントンはこの食堂で二番目に安い、サンドイッチのセットを注文し、同じテーブルへと座る。


彼がこの前に起こったアイクの蛮行について話そうとしたとき、建物の中に放送が入る。


「ワシントン先生、敷地内にいらしましたらすぐにF―15へ」


それを聞いた一息だけ吐き、ワシントンはすぐに席を立って出口へと向かう。


「・・それ食べていいぞ」


そう言ったのは良いものの、彼の顔はすごく物惜しげだった。


だがそんなことを気にせずに、フーベルトはフルーツサンドの方を遠慮なく取り、齧る。

それを見て踏ん切りがついたもか、ワシントンは走って呼ばれた部屋へと向かった。


結局、フランも頼んだパスタだけでは足りないのは分かっていたので、残りの一つの方をありがたく頂くことにした。


「なら、今日はノータッチかな」


「祟りなし作戦ね」


隣に座ったマイクの言葉にフランが答える。

彼の皿には分厚いステーキが乗っている。

やっぱり獣人は肉食なのだろうかと聞きたくなるが、そういう何気ない質問も差別になるみたいな記事を読んだので一応止めておいた。

フランはアイクについて考える。

フラ自身、アイクを苦痛でしかない薬の底なし沼から助け出したい思いはある。


だが、アイク自身にその思いがないとフランにできること何もない。


自分自身に煙草への嫌悪感があるとしても、それと同じぐらい彼の痛みを分かってあげたい気持ちもあるからだ。




この程度の痛みを感じるのはいつぶりだろうか。


最近は少し控えめになって来ていると勝手に思い込んでいたが、それが本当にただの自分の希望でしかなかったことを頭に直接叩き尽きてくる。


自分でも余裕がなくなってきていることがわかる。

注意力が鈍り、周りが見えなくなるこの感覚。



痛み止めが効かない。

これを止めれるのはあの煙以外にない。


だが吸うわけにはいかない。


魔法を使えなくなるのはこの痛み以上に苦痛だ。

魔法と自身の人生は切っても切れない関係だ。


もし魔法が使えなくなるのなら俺は死んでしまった方がいい。



だか、耐えれる気がしない。

俺の体は限界だと、今にも救いの手を差し出すように言ってくる。


それに従ってはいけない。

まだこんなのは序の口なのだ

ここから時間が経つにつれて比にならない痛みが襲ってくる。


痛み止めを適性の数だけを口に放り込む。

だが、ほとんど思い込み以上の効果はない。


頭蓋を釘で打たれているような痛みに視界の色が反転し、感覚が狂いだす。


強烈な痛みを搔き消すため頭を机に勢いよくぶつけるが、痛みは消えない。


今晩にはおそらく吐き気がしてくるはず。

それをわかっているのに、止めれもしない。


頭が正常に働かない。

動く気がしない。


仕事をしている間だけは痛みが弱まる時もあったが今回は全く当てにならない。


終わりのない赤色の信号の果てに、俺の意識はまた落ちる




「言ってくれれば、君専用のデスクを用意させたが」


黙々と作業しているマイクに声をかけたのは、相変わらずに強烈な匂いを放っているキールだ。

マイクが即席の椅子とデスクで仕事をしているのを見て、そう言ったのだった。



「・・・ならもらいましょう」


少し考えた後、マイクはせっかくなのでもらうことにした。

アイクがこのことを知ったのなら何を言うか分かったものだが、今の彼はマイクに構っている余裕はないだろう。


だからチャンスは今しかない。


今のマイクのボスはアイクだ。

だがキールの方にも顔を出すことによって外見的には二つの部署に所属しているように見えるだろう。


給料は変わらないが、得られるものは二倍以上。

それに加え、色々な所にパイプを作ることができるので、やらない選択肢はない。


「君が望めば、部署移動も可能だ」


「それは遠慮します」


だが、ボスをアイクからキールに変えるつもりはない。

基本的には犯罪管理局での仕事に関しては、言い方は悪いがマイクにとってサブみたいなものだ。


マイクの中での優先順位ははっきりとしている。


「まあいい、こちらは常時人手不足。君のような人材がたまにでも入ってくれるのはありがたい」


対魔特捜部と比べてここの捌く仕事量は尋常じゃない。

別にアイクの元での仕事が楽だと言っているわけはない。


ベクトルが違う大変さがある。

だが基本的には難易度は難しくなく、マイクからすれば単純作業の繰り返しだ。


それでも一件につき、1時間以上を要する。

それが一日で、何十という数を上回って回ってくるのだからこれだけ部下がいてもギリギリなわけだ。


「君がここにいる割合が高いことを見るに、仲間外れにされているか、あまりあちらの部署にいたくない理由があるのか」


仕事をしている横で、キールは勝手にマイクが管理局に顔を出している理由を推測する。



「そういえばアイクは禁煙の時期か」


マイクが今朝知った理由を数秒で当ててしまうキール。

 

「なら君がここにいるのは正解だろうな。今の彼に触るのは命知らずの獣ぐらいだろう」


キールはそう言って資料を何枚かマイクに渡してくる。


「だから、その役目は君に担ってもらうとしよう。この中から一つでいい。アイクにやらせろ。もしかすると爆発寸前のガラスのような機嫌も落ち着くかもしれない」


マイクは今のアイクに話しかけなければいけないことにうんざりするが、こちらに選択権はない。


「・・・それとも今日は五時からサウナを予約してあるんだが、一緒に来る?」


マイクはその脅しを聞いて、すぐに資料を選んで一つ取り、席を立つ。

今のアイクに声をかけるのも嫌だが、キールと一緒にサウナへ行くこと以上に嫌なことはない。


もしそんなところを見られたらマイクは魔法協会での立場が無くなってしまうだろう。

それほどまでにキールの協会での印象は最悪だ。


「・・ニーナ、五時にテルマに集合。タオルは持参だ」


キールは少し傷つきながらもこれからの動向趨勢を楽しみにしているのだった。


「忘れるなよ」


以前、約束を放り投げて帰った愚かな部下に念押しするのも忘れなかった。





「ジークフリート王国でのクーデター?」


フランがマイクが持ってきた資料を流し読みしながら口を開く。


「大戦後に王政復古した所か」


フーベルトがタイミングのいいところで昼寝から返ってくる。

その能力はどうやったら身に着くのだろうかとフランは思う。

一度寝たら、朝の7時になるまで必ず起きることがない彼女からすれば彼の謎めいたその能力に興味が出てきたが、アイクが今日初めて会話に参加して来たのでスルーした。


「・・・面白い、それに加えて王女の誘拐か」


彼の方を見ると一見して何の問題もないように見える。


「どうしますか?」


フランがアイクの状態を含めてこの件を担当するかを聞く。


「キールのお古なのは癪だが、お前らにこれ以上同情をされる方が耐えられん」


ボスがチームの意思を決定し、部下たちがジークフリートの基礎知識を調べ始める。


「今日の夜には出発だ」


「・・・先生も行くんですか?」


フランが意外だという風にアイクへと聞く。

基本的にアイクは自分の部署から出ない。


その理由はいろいろ考えられるがフランはその大部分はアイク自身がめんどくさいからだと思っている。

そのアイクが自分から現地へと行くと言い出した。


「何か不都合でも?」


「・・・いえ、体調の方は大丈夫ですか?」


「これ以上俺を惨めにしてくれるな」


それを見てフランは午前中よりはマシだと判断して、それ以上何か言うことを辞めた。

マイクとフーベルトがも特に何を感じることもなくフランについて行った。


そこにアイクの些細な感情の変化を見抜ける者はいなかった。




血盟王国 ジークフリート


古来より血統主義を採用し、国を運営するのでさえも血が重んずられる王国。


しかし、大戦後の民主主義運動の波に呑まれ、やむを得ず血に関係のない単純投票による為政のための平民会が設立された。


もちろん、そこで決定された議案は平民会の上位に存在する貴族院によって再び議論される。

当時はそれでは意味がないとの意見もあったが、貴族院は議案が提案することが許されないということもあり貴族院の廃止は見送られた。


そして問題となったのは王政の廃止である。

大戦前に存在していた王族たちは過激化する民主運動、終わらないクーデターに嫌気がさし隠居、もしくは「人間宣言」を行いその地位を捨てた。


それでも時代の流れに逆らい、心を折ることなく今の今まで生き残った猛者たちが今の王国を担っている。


大戦によって中途半端な王国は間引かれ、芯のある強国のみが生き残った。

つまり現存する王国は国王が為政をすることに文句はなく、力あるものが支配するという自然における絶対構造を心の根に張っている。



そんな国が王女をみすみステロリストごときに攫われた挙句、その奪還に時間を要している。

絶対的強者を信じる国民は王から心が離れつつあった。




そんな国がだんだんと見えてくる

大自然に囲まれ、強国という言葉が真に似合う。


「・・・はぁ・・・うっ・・」


そんな荘厳な自然を前にしてもアイクの嘔吐は止まらない。

列車に乗ってから2、3時間、彼の胃袋はとっくに空だ。


それでもボトボトと口から吐瀉物が止まらない。

一度、トレントへ帰るかどうか迷ったがここまで来た以上、戻るのは無駄だと考え進む選択をした。


おそらくアイクはそれを後悔しているだろう。

だがトレントに戻り、家にでも帰ったものならどこかに隠してあるだろう煙草に手を出すことは分かっている。


検査まであと数日。

フランは誰もいなくなった酸っぱい臭いの充満する列車の部屋で、一人アイクの背中を擦ってあげることしかできなかった。





「ようこそおいでくださいました、現存する最古の王国、ジークフリートへ」


小気味良い声のトーンてそう言ってきたのは列車から降りて、駅を出たすぐのことだった。

彼が肩に着けている国章のようなものを見て、王国の使いであることを予想する。



「あちらに専用車を用意させてあります。王城まではこの私、コルセットが恐れ多くも護衛させていただきます」


「感謝します」


それに答えたのはフランだ。

その後ろにはマイクの肩を借りたアイクがぐったりとしている。


「体調がよろしくなさそうですね。少し急ぎましょうか」


そうしてコルセットが迷わずに前へと歩き出す。

それを見ていたフーベルトがつい口を開く。


「アイクをトレントに戻すべきじゃないか?」


確かに彼の今の状態を見ればそれが最善策であることは誰もが思うだろう。

だが・・・


「・・うるさいぞクソガキ。どうせ俺が帰ってもお前らだけでは解決できない。結局俺の元に返ってくることになるんだから無駄を省くためだ」


アイクがそれを呑まない。

自分勝手にも思えるが、今回の王国からの要請は協会のアイクを呼ぶためのものだ。

その部下が行っても国王は納得しないだろう。


「ならその時はその時だろ、こんな状態のアイクを連れて行っても役に立つか怪しいところだ」


フーベルトが少しだが遠慮がちに口にする。

だがアイクはそれを汲み取る余裕はない。


「どうしても俺を外したいようだな。お前の狙いは俺に向けられてるフランの母性だろ。確かにお前に欠けているのは母親からの愛だけだったからな」


アイクの言葉に手を出しかねなかったフーベルトだったが、フランが直接止めさせる。


人の目がある上、コルセットがこちらの空気を感じてか近づいてくる。

フーベルトは仕方なく矛を収め、アイクもそれ以上何かを言うことはなかった。


こんな状態では先が思いやられるが、ここまできた以上このメンバーで行くしかないことを決めたフランは再度自分の心を焚きつけるのだった。





「ここまでの長旅ご苦労であった」


この国で、一番大きな建物である王城の中心へと案内され、そこで待っていたのは何を隠そう、ジークフリートの名君であり民衆からは賢帝と称し、謳われる第45代国王、アセンシオ・フルードルだった。


彼は扉から真っすぐに続いている真っ赤な絨毯の先にある、選ばれた者しか座ることが許されない王座に堂々と座っていた。


「煩わしい定礼はよそう。君たちには早速だが事件の早期解決を図ってもらいたい」


その椅子から降りてきて、目線をフラン達と合わせる。

意外とカジュアルな王のようで安心し、予習してきた礼儀の作法を見せる必要はなくなった。


「それはもちろんですが、資料で読むよりも当事者からの情報も欲しいところなんです。つまりはこのジークフリート王国側から見た事件の経緯をお教え願います」


フランは慎重に言葉を選びながら、自分たちの責務を果たすために踏み込む。

そんなフランとは異なり、緊張とは無縁のフーベルトが遠慮なくアセンシオへと声をかける。


「王女はまだあちらに?」


フーベルトが外を指差す。

フーベルトが指した方角には世界で二番目に大きな教会がある。


テロリストはどうやってか、そこへと侵入し、礼拝中の王女を人質に取り、その開放を条件としてある事を要求してきた。


その周りにはジークフリートの護衛隊が取り囲んでおり、今現在では軍も向かってきているのだとか。


「事の詳細は余も知るところではない。しかし、娘の礼拝の時間を狙っていたのは確かである。奴らが娘との交換で要求していることは二つ。一つは王政の廃止。二つ目はそれに伴う議会の設立と余らの王族国外追放」


「・・面白い」


アイクがか細い声で呟く。

事件については一応頭に入っているようだった。


「テロリストについては?」


「おそらく王国の南に拠点を置く、民主派の一派と思われる。弾圧するのは得策ではなく、放し飼いにしていたらこの有様よ」


確かにテロリストという過激派集団を野放しにしているのは愚かにも思えるが、一時期は穏健派が支配していた時期もあり、話し合いで解決することも多々あったという。

何より、民主制を唱える組織を弾圧すれば、他国からの圧力もすさまじく、大戦後に一つの命題としてきた自由の解放に反することになりかねない。


国王が今回の件について責められるとすればおそらくいる内通者についてだけだろう。


「人質は王女様だけ?」


「いや、それに付き従っていた侍女たちもよ」


フランがより詳しく今の状況を国王へと聞いていく。


「コンタクトは?」


「事件発生時から取っておるが有意義な話し合いとは言えんな」


「教会の方は?」


「強力な結界が張られており近づけない。唯一あの場との繋がりはこの連絡網だけ。娘を人質に取られている以上下手な真似はできない。・・なにか?」


アセンシオがフランの顔を見て何か感じとる。


「いえ、流石と言いますか。王女を極悪非道のテロリストに捕えられているにも関わらず国王は痛く落ち着いていられると思いまして」


少し皮肉めいた言い回しになったことに少し焦ったがアセンシオは何も気にしているそぶりはない。

これが王の器なのだろうか。


「余もこれで、この座についてから30年。弱点を握られるのは慣れたものよ」


「これが賢帝たる所以か」


堂々とした王の姿にマイクが感嘆する。

そもそも今の時代、王という身分を持つものは多くない。

そんな人間に初めて会ったのなら無理もないだろう。

王というものはただの為政者のとどまらず、一つの国の分身と言えるほどに大きな存在なのである。


「外からの物理的進入は不可、要求も飲めない。前提条件は揃った、ここから始めよう」


マイクがいつものように情報を整理し、作戦を考えようとするときに柔らかだが、棘のような声が響いた。


「ではその末席に我らも加わらせてもらうとしよう」


その声の主は見た目からはアイクと同世代のように見えた。


「半魔人のフランに、獣人のマイク、例の委員会ぶりだな。息災だったか?」


一人の国の王を前に、自分の言いたいことを優先したこの男――ガーリングは順番に目を合わせていった。


「おっと、アイクもいたのか」


そして最後に少し軽蔑の入った眼差しでアイクのことを見たのだった





「なぜおまえがここにいる?」


アイクがガーリングへと聞くが、彼はあえてそれを無視する。


「やっと帰ってきたか」


アセンシオはガーリングとの面会はすでに終えているようで、国王の頼みで何かしらとyさに行っていたであろうことが覗える。


「申し訳ございません、予想以上に結界が堅固だったもので」


彼の口ぶりから教会の結界についてのことだと発覚する。


「キールめ」


そしてアイクは自分をここに来るように差配した同僚に恨みの感情をぶつける。


「紹介遅れました聖統護国連隊所属、恐れ多くも聖人の冠位を賜りました、名をガーリング、性をクラウスと申します。以後お見知りおきを」


軍人特有の敬礼をしながら自己紹介をするガーリング。

フランは名前より、ある部分に引っかかりを覚えた。


「聖人?」


「軍人としては最高位に最も近い冠位だ。人間に限ればこの世に現命しているのはたった二人しかいない」


フーベルトは一時期、軍を志望していたこともありその辺の情報には詳しい。

答えを聞いたフランは何か思考に耽っているようだった。


「やはり冠位は人に見せびらかす時が一番快いな。飽きない」


そんなガーリングは満足そうな顔だ。


「なぜ、そんな聖人ともあろう方がこんな端っこにある国へ?」


アイクが皮肉を交えて口を開く。


「先生」


「よい、余は気にしない。事実である」


国王の前で言うことではなかったが本人がそれを認めたのでマイクはそれ以上、何も言わなかった。


「まあ、こっちはこっちで大変なのさ。クロックのおかげ上の連中は総入れ替え。だから今はスポンサーを集めている最中。・・というかそれはこっちのセリフだろ。お前のようなインドアが外に出てくるとは。相当痛みがひどいらしい」


「・・・黙れ」



ガーリングが笑いながら言う言葉にアイクが反応する。


「ふっ、お前たちも苦労するな。イカれた老人の介護をこんな遠い国に来てまで。老人が若者を食いつぶすとはあながち間違いではないのかも」


アイクの限界がすれすれなのを見てもガーリングはやめない。


「黙れ」


「先生やめましょう」


そこに先ほどまで考え事をしていたフランが仲介に入る。

だがアイクにはそれがほとんど意識できていない。


「廃人だなアイク。見るに堪えない。以前あった時とは別人のようだ。戦線から身を引き、安全圏から謎解きを楽しみ、お気に入りの部下たちに囲まれた余生。素晴らしいな。そこにいたのが俺ならすぐにでも首を落としてもらうが」


アイクがそれに口で返すことはなかった。

口より手を動かしたからだ。

それに反応するように後出しでガーリングが動く。確実にアイクに危害を加えるために。


「やめて!」


両者の間にフランが割り込む。彼女の魔法で無理やり発動した弱り切ったアイクの転移魔法は強制解除されたが、ガーリングの方には手ごたえはない。


ガーリングが発動する魔法にはフランの妨害系の魔法が効かなかった。

アイクに向けられた害が間に入ったフランへと向かう。


だがそれを許容するような神童ではない。

アイクを庇ったフランを庇う形で魔法を発動させる。



「やるな」


紙一重のタイミングでフーベルトはガーリングの魔法の防衛に成功、窮地を脱する。



「・・・ッ」


フランの防衛に成功したのはいいものフーベルト自身は無事では済まなかった。

意識を刈り取られたフーベルトがその場へと倒れ、彼の元へとフランが駆け寄る。

同じ様にアイクも体に無理やりなことをさせたせいで倒れこんでいる。


「アセンシオ国王陛下、御前でのお目汚し、お許しください。すべては私の不覚、不徳の致すところ。いかなる処罰も厳正にお受けします」


無傷で何ともないガーリングは遜りながらそう言う。


「顔を上げよ、そなたは連合の使者。余の主権が及ぶことはない」


「陛下の御器の広さ、恐れ入り奉ります」


それが当たり前かのように腰を上げ、アイクを一瞥もせずに部屋を出る。


「・・・少し場を再調整する必要があるな」


賢帝は周りを見渡してから、招集した人材は正解だったかについて頭を悩ませ始めた。




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