第2話 ステータス
イスリは暗い夜の森の中を月明かりを頼りに歩いていた。
周りはどこを見ても生い茂った草や木々しか見えない。静まり返った森の中からは木々が揺れる音と自身の足音だけが聴こえてくる。ひんやりとした風がときおり吹いたが、イスリにとってはそれが心地良かった。
大陸の中央に行くという目標はできたが、現在の位場所さえどこだか分からない。ひとまずはこの森を抜けて、近くに街か何かがあればそこへ立ち寄ろうと考えていた。
考えを巡らせながら歩いていると、前方にぼんやりとした赤い光が見えた。
「誰かが焚き火でもやっているのか?」
人がいるのならば声を掛けようかとも思ったが、向こうからしてみれば自分は夜の森でいきなり出て来た怪しい奴──つまり不審者だ。
しかもイスリは他人とのコミュニケーションが苦手だった。ような気がする。記憶が無いので定かではない。
そこでイスリは木々の影からこっそり様子を伺うことにした。
焚き火を囲んで地面に座っていたのは2人の全身が緑色の耳が尖った者だった。あれは確か人間では無い。最弱の魔物と呼ばれているゴブリンだ。
2匹のゴブリンはボロボロの衣服を纏っており、すぐそばには棍棒のような物が置かれていた。
しかし、こちらに気づいた様子は無い。どうしようかと考えていたが、そういえばイスリの戦闘力はどれくらいなのかハッキリしていない。最弱と呼ばれることだし力試しには丁度いいのではないか。
そうと決まれば、とイスリは短剣に手を伸ばした。
イスリは気配を消しながらゴブリンの背後から近づく。まずは1匹持っていくため首を狙った。短剣はほとんど抵抗も無くスラリとゴブリンの首を切断した。1匹が不意打ちでやられたことにより、もう1匹がイスリの存在に気づくが、もう遅い。
「せいっ!」
イスリはそのまま流れるようにもう1匹の胴体を半分にした。
戦闘時間でいうと10秒も経っていないだろうか。
「意外と早く終わってしまったな...。この剣も手に馴染むし...。やっぱり昔に訓練でもさせられてたのかな?」
イスリは思いのほか剣術が扱えたことに驚いた。やはり過去に扱った事があるのかと思ったが、いちいち気にしていてはキリが無い。
ひとまず目の前にある戦利品をどうしようかと頭を悩ませた。目の前には、ゴブリンの死体とゴブリン達が使ってたであろう棍棒、そして戦闘前は気が付かなかったが、赤色の光を放つ石がボロボロの鞄の中に入っていた。
「特に欲しい物は...まぁ、この綺麗な赤色の石?くらいかな。でもこの勢いだとポーチがすぐにいっぱいになってしまうな。」
そういえば、と前回紙切れを出した時に中身が真っ黒な空間のようになっていたのを思い出す。
石を入れてみると空間に吸い込まれるようにどこかへ消えていった。重さも感じない。この大きさならポーチが多少パンパンになってもいいはずだ。
どこへ行ったのだろうと手をポーチの中へ伸ばしてみると先程の石を取り出す事ができた。まさかと思い短剣を入れて試してみたが、剣もするりとポーチの中へ吸い込まれていった。
「これはもしかして、魔法の鞄というやつか!」
魔法の鞄という物はその名の通り、何でも入る魔法のような鞄のことである。しかし、この世界には数える程しか無いと言われており流通も稀だ。
「これから使用する時は周りの目を気にしないとな...。いつ盗まれてもおかしくない。」
大抵、こういう稀な物を持っているときは面倒ごとを起こしやすい。使用するときは気をつけようとイスリは自身の胸に誓うのだった。
「うーん。手を入れた時、鞄の中に何か入っていたような...。...なにこれカード?」
そう、イスリは鞄に手を伸ばしたときに石や短剣を入れる前から入っていたであろう、カードのような物を見つけていた。イスリはそのカードを取り出す。
取り出したカードは始めは真っ白だったが徐々に字が写しだされる。
【イスリ】 ヒューマン
スキル
【剣術】【???】
その下には体力やマナ、攻撃といった項目が写し出されていた。
「これは...私の能力が可視化されているのか?」
だとしたら、先程の戦闘で剣が手に馴染んだのも、この【剣術】というスキルのおかげだろう。
しかし、この【???】とは何だろうか。聞いたこともない。かなり気になるが、現状ではどうしようも無い。そのうち分かるだろうと思い、スキルの事は一旦頭の片隅にでも置いておくことにした。
「スキルの事は気になるけど...、今は取り敢えず街を目指さないとな。」
イスリは先程の周辺を見渡す。すると整備されたような道を見つけた。流石にこの道を辿って行けば街に着くだろう。イスリは街道とも呼べる道に沿って歩みを進めた。
後書き
書いてる途中に思いましたが、ステータスについて結構悩みました。攻撃力とかの数値入れても良かったんですが、数値化するとこれから書く時に大変になりそうなので濁しました...