第34回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
今年も残す所後数日という事もあって、街は独特な雰囲気になっていた。あの時は、もう一度ここの街に訪れようとは想像していなかった。そしてこの店も...。
俺は店の扉を開けると、カウンターで新聞を広げ、タバコを吸っていたおじさんが慌ててタバコの火を消し、「いらっしゃい...」と作り笑顔を俺に見せた。
「ごめんなさいねー」
店のおばさんがおじさんの態度を俺に謝った。俺は、あの時と全く一緒の2人の態度に、思わず吹き出してしまった。
全く変わってない。昼時なのに、お客が独りも居ないなんて。俺はそれが逆に嬉しかった。
「あら、確か前に一度来た事あったわよね?」
俺はそのおばさんの言葉に驚いた。あれは確か今年の4月の話で、もう8ヶ月は経つからだ。なのにおばさんは俺の事をなんとなく覚えてくれているらしい。いや、それ程お客が少ない為、覚えていられるんだろうと考え直し、またおかしくなった。
「はい、大分前に...。また、来ました。あー、肉野菜炒め定食を下さい」
俺はあえてまた同じ物を頼んだ。それは、あの時特別うまかったからではなく、なんとなくあの時と同じ物を食べたかったからだ。
少しすると、厨房から野菜を炒める音が聴こえてきた。
「そこの学生さんかい?」
野菜を炒めながら、おじさんがふいにそう聞いてきた。全くあの時と同じ質問。どうやらおじさんは俺の事を覚えてはいないらしい。俺はその質問にどう返そうか少し迷った後、こう言った。
「再来年、そうなります」
「...あー、そうかい」
俺はその答えで納得してくれるのか不安だったが、おじさんはあの時と同じように、それ以上問いただしてくる事はなかった。
俺は来年、正確には再来年、再び大学受験に望むつもりだ。親にもその意思は伝えてある。2人とも答えは同じようなニュアンスだった。「頑張れ」と。
再び大学受験に望むキッカケは、青山さんだった。青山さんはあの事件後、怪我を理由にリストラされたらしい。そして怪我が完治した今現在、再就職の為、毎日就職活動を続けているらしいというのを知ったからだ。しかしその話を聞いたのは、奥さんの方からだった...。奥さんが言うには、家族の為もそうだが、あの頃の自分を取り戻したいと青山さんは言っていたらしい。俺はその話を聞いて、事件前の自分を取り戻す為に必死に頑張っている青山さんを自分に繋げた。俺はあの事件以来、大学受験に失敗した事をあいつらだけのせいにし、復讐心に燃え、更には腐り、もう一度チャレンジしてみようと思った事は一度もなかった。俺には青山さんのように守るべきものがないというのは理由にはならない。俺はそう気付かされ、またチャレンジしてみようと思いたった。
第35回へ続く...




