第29回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
10月、辺りは涼しさを増し、秋を迎えるこの季節、10月の3連休を利用して、久しぶりに親父が家に帰ってきた。夕食も食べ終え、時刻は21時を廻っていた。
こうして親父と一緒に風呂に入るのもいつ以来になるのだろうか...。あえてそれは口にしなかったが、親父が座りながら頭を洗う姿を横目に、俺は湯船につかりながらそんな事を考えていた。
「背中を流してやるよ」と誘ったのは俺の方だった。親父は少し驚いていたようだったが、直ぐに誘いにのってくれた。お袋は、「母さんも混ぜてー」と冗談を言っていたが、何かとても楽しそうだった。
一つ言えるのは、親父の事を、まだ『お父さん』と読んでいた頃だという事だろう。
「親父?」
「ん!?」
親父は、シャンプーで目が開けられず、俺の声を頼りにキョロキョロと俺の存在を探していた。
「あのさー...」
「あー、ちょっと待て、今流すから...」
親父は、手探りでシャワーの蛇口を探していた。
「そのままでいいんだ!」
親父は、蛇口を手にしたまま動きを止めた。
「親父...親父が昔、俺と一緒に風呂に入りながら俺にクイズ出したの覚えてる?」
「...クイズ?え、あ、あー。そうだな、出したかもな...」
親父はわざと覚えていないフリをしているのは直ぐに分かった。態度もそうだし、何より親父は責任感が強い人だという事を知っているからだ。
「譲れなかったんだよね...譲らないんじゃなくて。その人達は足が悪かったり、腹痛だったりで、譲りたくても譲れなかったんだよね...こんな答えで...いいのかな?...」
親父は目をつぶったまま、小さく、小さく頷いてくれていた...。
第30回へ続く...




