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第27回

第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)

 もしかしたら、あの後俺は涙を流していたのかもしれない。ついさっきの事なのに、あの後の部分だけが思い出せない。俺は帰りの電車の中、吊り革に掴まりながらさっきの事を思い出していた。俺は事実を知った綾坂さんに殴られるものだと思っていた。殴られて当然だと思っていたし、殴られる覚悟も出来ていた。なのに綾坂さんは怒りもしなかった。それ所か今の自分を認めてくれさえした。何度謝っても、許されることじゃないのに。もし立場が逆だったら、俺は果たしてそいつを許す事が出来ただろうか...。俺の脳裏に、ふと、あの事件が浮かんだ。

 電車は行きとは違い、学生達の帰りの時間と重なってか、座席が埋まる程混んでいた。やがて電車は次の駅に停車し、降りる人もいれば、乗る人もいた。するとその乗る人の中に、一人のおばあさんがいた。そのおばあさんは俺の背後から座席の所まで歩いて行った。おばあさんは明らかに空いている座席を探す動作をしたが、やがてそれがない事が分かり諦めたのか、座席の一番端の手すりに掴まり、そこに落ち着いた。俺はそのおばあさんを気にしながら、誰かが席を譲るのだろうと思って様子を伺っていたが、誰一人譲ろうとしない。友人通しで雑談する者、本を読んでいる者、携帯をいじっている者、ヘッドホンで曲を聴いている者、そしてそしらぬ顔をしている者。みんなおばあさんの存在に気付かないはずはないのに...。俺はなぜかその状況にハッとした。前にも同じ事があったような。なんだろう、この感じは...


ー「結、クイズやろうか?」

「クイズ?うん、いいよ!」 

 親父と一緒に湯船につかりながら、当時、小学2年の俺に、親父はそう言った。

「電車に人がいっぱい乗っていました。いっぱい居たので、もう座る席は空いていません。そこに、杖をついたおじいさんが乗ってきました。でも、みんなそのおじいさんに席を譲ってあげませんでした。なぜでしょう?」

「えー」

 俺はなんでだろうと頭をかしげ、そのクイズを真剣に考えた。

「なんでだと思う?」

 そんな俺に、親父はもう一度聞いてきた。

「う〜ん、みんなイジワルなのかな〜」

「ブッブ〜。ハズレです」

「えっ、じゃあ、こたえはなに?」

「答えはねー、今はまだ教えない!結がねー、もっと大きくなったら分かるかもしれないな〜」

「え〜、そんなのずるいよー」

 親父はそんな俺に微笑んでいた。

「もし、その時、結が電車に乗ってたらどうした?」

「ボク?ボクだったらおじいさんにせきをゆずってあげるよ!」

「そっか、結は優しいな」

 そう言って親父は俺の頭を撫でた。

「よし、あと10数えたら出よっか?」

「うん!」ー


 そうだ!あの時、親父が出したクイズの状況と一緒だ!一体あの時、親父はなぜ小学2年の俺にあんなクイズを出したのだろう。いや、今考えれば、あれはクイズではなく、心理テストのような気がする。

第28回へ続く...

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