第26回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
部屋には木製のテーブルの座布団の他に、目立つ所では一枚の掛け軸が掛けられていた。『成せば成る、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の成さぬ成りけり』掛け軸には、独特の筆のタッチでそう書かれていた。きっと綾坂さんの好きな言葉なのだろう。そして部屋を見渡しながら、綾坂さんにどう切り出したらいいかと、試行錯誤した。
「待たせたのー。こんな物しかないが」
そう言ってグラスに入った麦茶だと思われる物をテーブルに置いた。
「ジュースの方が良かったのじゃろうが、わしはジュースは飲まんから家になくてのー」
「いえ...」
俺は飲み物を選別出来るような立場の人間ではない。それ所か飲み物を出されるような立場の人間でも決してない!
「あの!」
「はて、そういえば、わしに何かようじゃったのかのー?」
「俺は...僕は、綾坂さんに謝らなくてはならない事があるんです...」
「はてー、わしはお主の事を知っておるのかのー?」
「いえ、知りません。僕も綾坂さんに初めて会いしましたし...」
綾坂さんは、不思議そうに俺の方を見ていた。
「僕は、綾坂さんにとんでもない事をしてしまったんです」
俺はそう言ってバックからあの小包をゆっくりと出した。
「すいません!!俺は、俺は綾坂さん宛のこの小包を盗んでしまったんです!」
俺は座布団から足を外し、土下座をする格好で、何度も何度も頭を下げた。
「そうかい、そうかい、そういう事じゃったのか」
俺は綾坂さんの意外な言葉に、土下座して頭を下げた格好で動きが止まった。そしてゆっくり頭をあげてみると、綾坂さんは小包を手に取り、それをまじまじと眺めていた。
「お主は、これがほしくて盗ったんではないのじゃろ?」
「え?」
「その証拠にじゃ、開けた痕が見えない」
確かに、俺はその綾坂さんの小包を選別して取ったのではない。それは誰の物でも良かったのだ。それに綾坂さんの言う通り、一度も開ける事なくに机の引き出しにしまっていた。誰にもバレずに家に持ち帰る事が出来た事。その時の俺は、それが証明されただけで満足だった。しかし、なぜ今の今まで捨てる事なく取っておいたのだろうか。むしろ、持っている方がいつか見つかってしまいそうな気もする。その事を自問した所で、はっきりとした答えを出す自信がない。
なぜだろう...。
「お主は、この中身がなんなのかさえも分からなかったんじゃないかのー?」
「はい...綾坂さんにとって、きっと大事な物だったに違いないのに、僕は...そんな事も考えずに...」
俺は綾坂さんの顔を見る所か、視界に入る事さえ拒んだ。
「そうじゃないんじゃ、お主はこれを取ってしまった事を後悔する気持ちが何処かにあったからこそ今まで開ける事なく取っておいたんじゃないかのー?」
「自分でもよく分かりません。ただ、その時盗んでしまったのは事実です」
「届けてくれたじゃろ。今、わしの所まで届けてくれたじゃろー」
俺は顔をゆっくりとあげ、綾坂さんの顔を見た。すると綾坂さんは、俺に2回頷いた。俺はそれを見て、何も言葉が出なかった。
「わしはな、今のお主の気持ちの方が大事だと思うんじゃよ。その時どうだったではなくての、今、お主が謝りに来てくれた。それだけで充分なんじゃ」
「ごめんなさい...僕は、僕は...」
空は青かった。とても青かった。その青い空が、とても印象に残っている。
第27回へ続く...




