第24回
第25回新風舎出版賞、最終選考落選作品(笑)
駅を一歩出ると、そこはとてものどかな場所だった。一つのジュースの自動販売機と、一つの電話ボックスがあるだけだった。聴こえてくる音といえば、大げさな話ではなく、小鳥のさえずり位だった。それはまるで、ひと昔前にタイムスリップしてしまったかのようだった。一言で言えば、『田舎』。そんな所だった。
少しその風景に見とれてしまった俺は、ここの場所に来た理由を思い出し、バックからあの小包を取り出すと、改めて名前と住所を確認した。昨日、インターネットで調べた限り、ここの駅から直ぐというのは分かっていた。名前は『綾坂 新吉』。あまり聞かない名字なだけに、探すのにはそれ程苦労しないはずだ。俺はとりあえず町を歩いてみる事にした。
町は本当に静かだった。それは人気がないのと、車が全く通らない事が、そう思える要因なのかもしれなかった。
小包に書かれてある町名と電柱に貼られてある町名書かれた看板を照らし合わせる限り、どうやらここの辺りで間違いないらしい。青山さんの家を探した時のように、家の表札の所に書かれてある住所を頼りに一軒、一軒見て廻る。しかしあの時と決定的に違うのは、民家が隣接しておらず、点々としている所だった。
すると、前方から何か動くものが視界に入った。視線をその方へ向けると、それは一人のおばさんだった。頭に手ぬぐいを巻き、手にはクワを持っている。畑仕事だろうか。その人は俺がこの町に降り、初めて見かけた人、いや、動くものと言っても間違いではなかったのかもしれない。そしてそのおばさんとの距離が縮まり、俺はこの人に聞いてみようかどうか少し迷った。
「こんにちはー」
「....」
俺は、軽い会釈をしながらのそのおばさんの意外な行動に驚いた。こんな見ず知らずの俺に挨拶をしてくれている。俺なんかに挨拶した所でなんの特にもならないのに。
おばさんとすれ違う際、おばさんは優しく微笑んでいた。
いや違う、このおばさんは損得勘定で俺に挨拶をしたんじゃない。このおばさんは道で人に会う度に、誰にでもきっと挨拶をする人なんだ。
俺はおばさんに訪ねてみる所か、挨拶さえ返す事が出来なかった。おばさんの後ろ姿を見つめながら、そんな事を思っていた。
塀の上で日向ぼっこしている猫や、町内の掲示板や、小さな公園を通り過ぎると、後ろからバイクの音が聴こえ、俺は道路の脇に寄った。バイクが俺の横を通り過ぎ、ふと見ると、それは郵便局員の赤いバイクだった。その郵便局員の男の人は、少し先の一軒の家の前で止まり、その家の郵便物を取り分けている様子だった。俺はその様子を確認すると、その郵便局員の元へ翔て行った。
「あのー」
「はい」
俺の姿を確認した郵便局員は、取り分けていた郵便物の手を止め、こちらを向いた。
「あの、ここら辺に「綾坂」さんて家知りませんか?」
「あー、綾坂さんでしたら、ほら、あそこに大きな木があるじゃないですか。あそこの家がそうです」
俺は郵便局員の指差す方向へ顔を向けた。確かに一際目立つ大きな木がある。そこの横に並ぶようにして一軒の家があった。
「あ、どうも」
そう軽く会釈すると、再び綾坂さんの家の方向に顔を向け、じっとその家を見つめた。あの家がそうなんだ...。
第25回へ続く...




