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第20回

第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)

 あれから、3分、いや、5分は経っただろうか。中の様子が全く分からないだけに、とても長く感じられた。そしてそこの部屋の前を看護士や患者が通る度に、中に入るのではという緊張感が走った。と、突然、ドアノブが動くのが分かり、反射的にそこを見た。

「ゴメンね、どうぞー」

 女の人は扉から半身を出し、少し抑えた声でそう言った。その表情は笑顔だったが、俺には作り笑顔に見て取れた。それだけに、何か神妙さが伝わってきた。

 半分開かれたままの扉から部屋の中へとゆっくり覗くようにして入ると、そこには左右3つづつの、計6つのベットが置かれ、それぞれ患者が横になっており、独特の空気が漂っていた。

「こっちよ」

 扉の脇には女の人が待っており、俺を誘導するように部屋の奥へと連れて行った。左隅の窓際のベットに半身の状態でこちらを見ている一人の男。頭と左足に包帯が巻かれてはいるものの、その人が『青山拓巳』本人だという事は直ぐに分かった。目の前までやって来たが、その痛々しい姿を見て、いや、そうでなくとも何か声をかけられたかどうかは分からないが、俺は下を向いたまま立ち尽くし、ジッとしていた。

「ありがとう。君が財布を拾ってくれたんだね。妻から色々聞いたよ」

 その声に反応し、俺はそこで初めて男の人の目を見た。

「あ、...」

 俺はこの人に何か言いたくてここに来たんじゃないのか!?俺は心ではそうは思っているものの、その気持ちに言葉が付いて来れないでいた。

「あ、私、お花の水換えてくるね」

 その唐突過ぎる行動に、席をはずしたというのが直ぐに分かった。いや、もしかしたら男の人が女の人に目で合図をしたのかもしれない。

 男に人は、女の人が部屋をで、扉が閉まる音を確認するかのように、こう言った。

「君の言いたい事はよく分かる。恐らく、君も私も同じ少年達にやられたんだろう妻の話を...」

「奴らはどんな格好でした!?背は!?一人は茶髪でしたよねー!もう一人の方は背が低くて...」

「結くん、落ち着きなさい」

「多分、土手の近くに住んでる奴らだとは思うんですけど、俺はあれから毎日あの土手に...」

「結くん!!」

「殺してやりたいんだ!!あいつらを探し出してこの手で殺してやりたいんだよ!!」

 部屋の中の時間が、一瞬止まったような気がした。

「分かるよ!君の気持ちは一番私がよく分かるよ。でも、こういう時だからこそ冷静にならなきゃいけないんじゃいのかー?」

『君の気持ちは一番私がよく分かる』その言葉を聞いて、俺はいくらか落ち着きを取り戻したような気がした。

「なぜ君は彼らを殺したいと思うんだい?」

 その答えの分かりきった質問に、俺は少し拍子抜けした。

「悔しいからですよ。俺が受けたものを倍にして返してやりたいからですよ」

「それで君は満足なのか?彼らに復讐した後の君に何が残る?」

「満足感と達成感ですよ。俺はその為に今まで生きてきたんだ」

 男の人は首を左右に振った。

「それは違う。君に残るのは虚しさだけだよ」

「分かりきった事を言うな!」

「分かるよ!君と同じめに合ったんだから分かるよ...俺も悔しいよ。正直、殺してやりたいって思った事もある...でもそれじゃー、解決しないんだ。君は今しか見ていない。もっと先を見なきゃダメなんだ」

 その説得力のある言葉を聞いて、この人は俺と同じ境遇だという事をもう一度思い出し、俺は何も言い返せなかった。

「チクショウ...」

 分かっている。分かっていた。その男の人に言われなくとも、そんな事は分かりきっていたのかもしれない。ただ...

「悔しい、悔しいよ...」

 気がつくと、目から涙が流れていた。あれから一度だって涙を流した事なんてなかったのに。なぜだろう...。

「私はね、あの事件に遭った際、私には失った物しかないと思っていたんだよ。でもね、最近になってそれは間違っていると気がついたんだよ。こうして今は身動き出来ないが、体を自由に動かせる事、そlして働けていた事がどれだけ幸せな事だったんだなって。それにこうして妻が私の為に病室に見舞いに来てくれるおかげで、妻の優しさを再認識させられた。それらの全てが、あの事件で得た物なんじゃないかなって...君にいたっても同じ事だよ。そうは思わないかい?」


 なぜ、なんでそんな風な考え方が出来るんだ。俺は奴らに対する復讐心だけしか考えていなかった。大学受験に失敗したという、そのただ一つの失った物しか頭になかった。得た物なんてこれっぽっちも考えていなかった...。

 もしかしたら、初めて心を許せる人に出会えたからなのかもしれない。それは決して同じ境遇にあった人という事だけではなく、うまく言えないが、その人の持っている人間の内の部分。

 ...ただ、自分の事を分かってくれる人を探していただけなのかもしれない。奴らに再び遭遇し、殺してやりたいのではなく、本当は、そう言ってくれる人をひたすら求めて...。

「頑張ろう、一緒に頑張ろう!」

第21回へ続く...

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