第19回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
「着いたわよ...結くん?」
その呼び掛けにハッとし、顔を上げると、フロントガラスから左前方に、わりと大きな茶色の建物が見えた。
車はその建物の前までやって来ると、左へ曲がり、建物内へと入って行った。
「じゃー、行きましょうか」
女の人は駐車場に車を止めると、俺にそう言い、外へと出た。俺もそれを見て、外へと出た。と、その瞬間、暑さと眩しい太陽が全身を覆った。目を細めながら建物の上を見上げ、大きく書いてある病院名を見ると、どうやらそこは総合病院のようだった。外観は、茶色いレンガの様な物で出来ており、わりと新しい印象を受けた。
女の人の後から付いて行くような形で手動のガラスの扉から中へ入ると、冷房の涼しさと病院特有の匂いが全身を覆った。
「ちょっとここに座って待っててね」
俺は、受付に小走りで向かう女の人の後ろ姿を目で追った。長椅子は所々空いてはいたが、俺は立って女の人を待つ事にした。
病院へと来たのはあの時以来だった。そう、あの夜、救急車で運ばれたあの日だ...チクショウ...。この匂いに再びあの時の記憶が脳裏をかすめながら、俺は辺りを見渡した。
周りの奴らはどれも弱々しい姿をした老人達ばかりだった。少しでも触れようものなら倒れて骨でも折ってしまいそうな勢いだ。いっそう倒してしまおうか。と、女の人がこちらに振り返り、歩いて来るのが視界に入り、俺は女の人に視線を戻した。
「どうかした?」
「いや...」
俺は女の人に自分の考えている事を悟られないよう、平静を装った。
「そう。じゃー、行きましょうか」
再び後を付けるように歩き出すと、エレベーターに同乗し、そして女の人は3階のボタンを押した。
「主人の部屋はね、相部屋になってて、他に5人の患者さんが居るんだー」
俺はそれに何もリアクションする事なく黙って聞いていた。
その間にもエレベーターは3階へと到着し、扉が開いた。その瞬間、ここまで来るのに何も思わなかったのに、なぜか妙な緊張感が走った。
女の人はエレベーターを降りると、右の方向へ歩き出した。そしてある部屋で立ち止まると、部屋の患者の名前が書かれている所を見つめた。
部屋は303号室。女の人の言う通り、6人の名前が白いプラスチック製の板に黒のマジックで書かれていた。順番通り名前を見ていくと...『青山拓巳』という名前が直ぐに見つかった。
「ちょっとここで待っててもらっていいかな?」
「はい」
さっきまでとは全く違った女の人の真剣な表情に、考える事なく『はい』と言わされてしまったような気がした。
女の人は部屋の扉を開け、中へと入っていた。
恐らく、俺の事を『青山拓巳』という人に予め説明するのだろう。無理もない、いきなり見ず知らずの奴が一緒に入って来ても、驚くに決まっている。
第20回へ続く...




