第18回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
車はワゴンタイプの紺色の軽自動車。女の人が運転席側に廻り、鍵を開けたのを確認すると、俺は助手席の扉を開け、そこに乗り込んだ。女の人は運転席に座るとシートベルトをし、エンジンをかけた。
「あ、シートベルトしてね」
そう言われ、俺はシートベルトを締めた。
女の人はギアを左手で動かし、車をゆっくりと前進させた。車は意外にもマニュアルだった。朝の母親との事もあって、女の人の運転操作が気になった。
「結くんは免許持ってないの?」
そう言われ、女の人の運転操作に見とれていた自分にハッとし、女の人の顔を慌てて見た。
「持ってないです...」
「そう、持ってた方がいいわよー。持ってれば何かと便利でしょ?」
「....」
その言葉に、俺の脳裏に母親の顔が浮かんだ。しかしなぜだろう。この人に言われると、そうかもしれないと思ってしまうのは。
「難しくないですか?」
そう口にしてから自分でハッとした。
「ううん、マニュアルは初めは苦戦すると思うけど、馴れればどうって事ないのよ。私はオートマがホントはいいんだけど、主人がマニュアル好きでね」
俺は、なぜあんな質問をしたのか考えながら、黙って聞いていた。
「男はやっぱりマニュアルでしょー。ね?」
「え?まー...」
車は一般道をひたすら走る。左に曲がる時は左のウィンカーを出し、こうして右に曲がる時は右のウィンカーを出す。
「あ、ちょっとガソリンスタンドに寄ってくね」
俺は黙って頷いた。
車は右に曲がった後、その先の左側にあったガソリンスタンドに入って行った。
「いらっしゃいませー!!」
ガソリンスタンドに入った途端に数人の大きな声が響いた。
女の人は馴れた感じで車を定位置に停車させ、運転席の自動の窓を半分開けると、エンジンを切った。
「いらっしゃいませ」
「レギュラー満タン現金で」
女の人は、近づいてきた若い男の店員にそう言った。
「レギュラー満タン入りまーす!!」
「おーい!!」
俺はその掛け声に圧倒された。
「みんな元気いいわね」
辺りを見渡すと、店員は男女合わせて5人程。みんな、店のキャップをかぶっている。客は、こちらの他にもう一台だけだったが、店員はそれぞれ何かしら仕事をし、動いていた。家にも親の車が一台あるが、まず同乗する事はない。ガソリンスタンドに給油しに来たのも、もしかしたら初めてなのかもしれない。
「窓をお拭きしてよろしいでしょうか?」
「あ、お願いします」
白いタオルでボンネットの窓を拭く若い男。こいつはいくつなんだろう。20?...いや、もっと若い、もしかしたら、俺と同い年なのかもしれない...。少なくとも、歳は俺と大して変わらないだろう。
「失礼します。えー、8リットルで966円になります」
「はーい」
女の人は財布を探ると、千円札といくらかの小銭を若い男の店員に渡した。
「1066円ですね。少々お待ち下さい」
そう言うと、若い男は店内の方へ掛けて行き、数秒後、再びこちらに掛けて戻って来た。
「こちら100円のお釣りになります。お帰りはどちらの方になりますか?」
「えー、左でお願いします」
女の人はそう言うと、車のエンジンをかけ、道路の方へ車を進めた。若い男は道路脇に立ち、車を誘導した。車は特に込んでいなかった為、直ぐに道路に入っていけた。
「ありがとうございましたー!!」
若い男は脱帽し、深く頭を下げた。
車は少し走った後、赤信号で停止した。
「今のガソリンスタンドね、雰囲気がいいからいつもあそこに行ってるんだー」
確かに、悪い気はしない...。あいつはバイトだろうか。もしくは大学に通いながらバイトをしてるのだろうか。どちらにしろ、なぜガソリンスタンドで働こうと思ったのだろうか...。
信号は再び青に変わると、車はゆっくりと動き出した。
あんな大変そうなバイトを選ばなくとも、他にいくらだって楽なバイトはあるはずだ。時給だってそこらのバイトとなんら変わらない、いや、むしろ安い気さえするのに...。
第19回へ続く...




