第九話 第六文明人
81万年前
「第三防衛線が突破されます!ドバ艦隊、ザラル艦隊壊滅!無理です!持ちません!」
「第七コロニーより入電!“我制御不能、救援求む!”このままではあと28分で第七コロニーがグワンドローに衝突します!」
「くそっ!第七コロニーにグレンキャノンの一斉砲撃だ!なんとしてもグワンドローを守れ!死守するんだ!」
「でもギゼ!第七コロニーには200万の避難民がいるのよ!助けを求めているのよ!あの人達を見殺しにするの!?」
「すまないアンドラス。しかしグワンドローを失うわけにはいかない。グワンドローの発動まであと40分、どんな犠牲を払ってでも守り切るんだ!!」
「ルシフェル様は!?ウリエル様は!?どうして智天使様達が押されているの!おかしいわ!悪魔の力がこんなに強いなんて!」
地球人が第六文明人と呼ぶこの星の人類は、霊子力学の解明に成功していた。霊子力学によって隆盛を極めたこの星において、一人の天才魔道士が天使の召喚に成功する。
魔道士ギゼに召喚された天使アンドラスは、来るアルマゲドンで悪魔に勝利するため、ギゼと協力して霊子力炉を使った魔導兵器を多数開発した。その最終兵器がこのグワンドローだ。全幅200キロメートルにもおよぶ巨大兵器は、アルマゲドンの発生と同時に稼働を開始し、顕現した天使や悪魔から霊子力を吸収して“究極力”を発動する。そして、発動した“究極力”は特定の霊子波長を持つ幽体を単純な熱エネルギーに還元してしまうのだ。このアルマゲドンでは、悪魔の持つ波長に設定してある。グワンドローが発動すれば、周囲に存在する悪魔を完全に消滅させることができるはずだ。
「悪魔の第三次攻撃です!約200万がワープアウト!まだ増えています!あっ!悪魔達が前衛艦隊に体当たりしています!」
宇宙戦艦グランザンの艦橋で、女性士官が悲鳴のような声で報告をする。周りの宙域にいた天使達は、悪魔の第一次第二次攻撃によってちりぢりになってしまった。そして、グワンドローの直前に布陣する30万隻の前衛艦隊に対して、悪魔は体当たり攻撃を仕掛けてきた。前衛艦隊は強固な霊子バリアーを展開している。それを突破しなければグワンドローに対して悪魔は攻撃をかけることが出来ない。
悪魔達は霊子バリアーに取り憑き、その爪で、牙でバリアーを食い破っていく。悪魔の攻撃によって前衛艦隊は次々に轟沈していった。
「くっ!グワンドローはまだ臨界に達しないのか!?」
「天使達が後退したことで供給される霊子量が減少しています!このままでは臨界量に達しません!」
「くそっ!何てことだ!終わりなのか!?もう出来ることは無いのか!?」
グワンドローが発動しなければ、天使と悪魔と人類の戦いは地上で行われることになる。数百万の悪魔達が地上に降り立てば、人類は滅びかねないのだ。なんとしても、この絶対防衛圏で撃退しなければならない。
「ギゼ、私が行くわ」
「!?アンドラス、な、何を言ってるんだ?」
「グワンドローの霊子力炉で私の霊力を全て解放すれば、霊子質量は足りるはずよ。ギゼ、いままでありがとう。とっても楽しかったわ」
「あ、な、やめろ!アンドラス!そんな事をしたらキミの魂はただのエネルギーに還元されてしまう!この世の理からも解き放たれてしまって、完全に消滅するんだぞ!おれは、おれは・・・」
「勘違いしないで。私の魂は消えないわ。この宇宙と一つになるの。そういう魂に変わるだけよ。でも、あなたは現実世界で人類を導いて。私が愛した人類と、私が愛したあなたなら、もっと高次元の存在に昇華して私の魂を見つけてくれると思う。だから、しばしのお別れよ。さよならは言わないわ」
「アンドラスーーーー!!」
アンドラスはギゼから離れてグワンドローの霊子力炉を目指した。周りの宙域は戦死した人間の魂で埋め尽くされていて、アンドラスの心を酷くえぐってくる。人類を守るために犠牲になった人々だ。その殉教者達の魂がアンドラスに入ってくる。そして、何としても人類を守って欲しいと訴える。
「ごめんね、みんな。私がもっと早く決断していれば・・・・でも、もうすぐ霊子力炉・・・」
しかし、その瞬間だった。前衛艦隊の中央が突破され、悪魔達の“咆哮”がグワンドローを貫いたのだ。その“咆哮”は物理兵器と霊子兵器両方の性質を持って霊子力炉を破壊してしまった。悪魔の“咆哮”によって破壊された巨大霊子力炉は、その属性が反転し暴走を開始する。そして霊子力炉の暴走によって全てが光に呑まれてしまった。その光の中で、肉体を持ち霊力の高い知的生命体は原初の姿に還元されていく。ただの霊子エネルギーとなって宇宙に溶け込んでしまう。
「ギゼーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
――――
「アンドラス、どうしたの?泣いていたの?」
アンドラスは、地球連邦宇宙軍旗艦スキーズブラズニルの下士官室で意識を取り戻した。天使や悪魔に睡眠は必要ないのだが、昔の記憶に没入することがある。しかし、今回は没入しようとした訳ではない。無意識のうちに、人間の言う“夢”の状態に陥っていたようだ。
「メアリー、何でもないわぁ。ちょっと昔のことを思い出していただけよぉ」
「昔のこと・・・あなたが愛した男の事?私には話してくれないの?」
「つまらない話よぉ。人に話せるほどのものじゃないわ」
「そう、じゃあいいわ。それより目の前の事ね。さっきレルゲン少佐から対サタン決戦兵器の訓練を受けるように指示がきたの。アルマゲドンまであと2ヶ月と少しよ。あなたの顕現した力が必要だって言ってたわ。あなたの力で霊子力炉を全力運転して、悪魔にエネルギーをぶつけるの。そうすれば、悪魔の波長を持つ幽体をただの熱エネルギーに分解できるそうよ。まさに“究極の力”だわ」
~ 究極の力 ~
それは諸刃の剣。干渉する波長を変更すれば、悪魔でも天使でも熱エネルギーに還元できる。そして神さえも。しかし、暴走すれば知的生命体を滅ぼす可能性があるのだ。おそらく、高城蒼龍は暴走したときの結果までは知らないはず。その事をアンドラスは胸にしまっている。
「そう、それは良かった。あなたが人類の切り札になるって事ね」
ギゼと一緒に守りたかった人類。ギゼは万が一に備えて移民船を多数送り出していた。そのほとんどが事故や悪魔の追跡によって全滅していたが、唯一ノア艦長の率いた移民船“白い拠点”だけが、とある星系に到達することが出来た。14万4千人がコールドスリープしていたこの船は、その星に降下する際に減速に失敗し墜落する。そして、12歳の男の子一人と、11歳の女の子一人だけが生き残った。
第九話を読んで頂いてありがとうございます。
土日祝は休載です。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
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「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
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モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!